End of My Nightmare
# misery,s side
先程までの静けさはもうない
塔内に鳴り続ける静電気の爆ぜる音
【魔女】を見下ろすミザリーの目に
もう諦めの色も、疑心も、恐れも迷いもない
燃えるように輝く翠色の瞳は
真っ直ぐに【魔女】を捉えている
【バカな……ナンデ…ナンデまだ動ける…?あれだけの刃を突き立てたのに…】
ミザリーの姿を見上げる【魔女】の振る舞いに初めて戸惑いが見えた
だが、それも一瞬だけ
すぐにその動揺を立ち消えさせたのは
ミザリーの身体に無数に見える傷跡
凄まじい鉄の鞭の猛撃を見舞ったのだ
まだ動ける事に驚きは禁じ得ないが
それでもまるで無傷という訳にはいかない
動ける、というだけでダメージは甚大だろうと【魔女】は測った
【マァ良いね…まだ、まだ踊ってくれるのねフェンリル…?】
手を広げ、誘うように口角をあげる
『ええ…これがアンタとのラストダンスよ……舐めてかかると今度こそ足踏むわよッ』
ザッと壁に突き立てた剣を抜くとその身体は落下を始める
〈バチッ!!〉
静電気の爆ぜる音と共に壁を蹴る
それに反射するように【魔女】は鉄の鞭を操り無数のそれでミザリーを狙う
だが
〈ガンッ!!ガン!ドシャァァァ〉
そのいずれもミザリーを捉えられない
【ナニ…?なんで?ナンデ当たらない?】
絶えずの猛攻を続ける【魔女】
しかし、その鞭は空を突き地を削るに削す
理由は明白だ
【まさか…マサカッ!!?】
『まさかもクソも!』
怒涛の鞭の攻撃を振り切ったミザリーが
眼前に飛び込んでくる
『私のほうがっ!速いってことよ!!』
振りかぶった剣が
とうとう【魔女】の顔を捉える
〈ゴッッ!!〉
その音は金属と金属がぶつかりあっただけのような手応えの薄さを感じさせるものの
初めての一撃が【魔女】に焦りを、怒りを生み出しはじめる
【なぜ!そんなにハヤイ!!…なぜ?】
視線をミザリーに注ごうとすることさえ敵わない
それほどまでにミザリーのスピードは速い
金色の静電気、金色の髪
揺れる翠色の瞳
先刻からの姿と似ても似つかぬ存在感は
【魔女】の脳裏に1つの推測を浮かべた
【そんな…?まさか、悪魔と…
フェンリルと完全に同調している…?
人間の魂と悪魔の魂が…?
アリエナイ…有り得ないっ!!】
絶叫のような怒号
次いでそれをかき消すほどにうねりをあげてミザリーに鉄の鞭が迫る
苛烈は熾烈を呼び
怒涛、轟然な攻戦を刻み出す
【魔女】も全身全霊、鞭から零れる瘴気がそれを物語りつつ広間を漂いはじめ
鞭の速度はなお加速し、その鋭さは触れるもの全てを断ち殺そうと獲物を
ミザリーを狙う
『ッッツ!』
殺意が一刃一刃に篭った鞭がミザリーを時折掠める
目にも止まらぬそのミザリーを捉える鞭の速度もなにに例え難い
〈ギャキィッッツ!〉
尖ったような金属音が轟音の中で密かに鳴った
それでもその直後次ぐのは
〈ゴシャッッ!〉
と高速ですれ違いざまにミザリーの脚が魔女の頭を蹴り、振り抜いた
100kgを超える機械の身体のミザリーが
超高速の勢いを載せた蹴りは
【魔女】の頭部を真芯に捉え、その身体を大きく揺らせた
ダメージは多少なりとも期待できそうだ
『(よし……このまま押すしかないっ)』
そのスピードを緩めず、ミザリーは再度攻撃のチャンスを探す
しかし、優勢とは言えない
それはミザリー自身がそう感じている
スピードを緩めれば、鉄の鞭にて
今度こそ致命的なダメージを負うのは明白だ
そしてその鉄の鞭を避けるため
もう数分にも及ぶフェンリル化による過剰駆動
最硬金属と呼ばれるウルベイル鋼で造られているミザリーの身体だが
ウルベイル鋼の希少性もあってか
その全てをその金属で造られている訳では無く、硬度はあれど汎用的な金属で賄われている部分も多い
本来の限界を超える過剰駆動による負担は、間違いなくその汎用金属で賄われた部品を消耗させ、いずれは
『(この身体が壊れる前にっ!!)』
〈ガキィッ!〉
その懸念が突如現実に、という訳では無い
右肩に違和感
先程の攻勢の中、その付け根の部分に被弾していたのだ
消耗ではなく攻撃によるダメージ
汎用金属である部分であり、消耗以外にも外的ダメージに対する防御力も低い
それでなくても
【魔女】の鉄の鞭はウルベイル鋼にさえ傷を付けるほどの凶悪な威力を持っている
フェンリル化による負担以外は負うべきではない
つまり、被弾はおろか防御もできない
〈ザッ!ザッ!〉
駆けながらも右肩を案じる
まだ動く、がこの右腕では攻撃はできない
勢いを載せれば載せるだけリスクが大きい
【ナゼッ!ナゼ…抗うっ!このままの世界にっ…ナニヲ期待できると言う】
その感情は怒りなのか
取り込まれたハイトエイドの思考が溢れだしているようだ
『アンタも!人間でしょう…どういう立場から物言ってんのよ!勝手に上から眺めて愚かだのどうだの言うなら、なんで横から人として同じ目線で手を取り合おうとしないのよ!』
【それをしようとした王という存在でさえ成就させること敵わないっ!もはや人の姿に甘んじてイテハ届かぬ理想なのだ!】
『だから人であることを諦めて悪魔になって…必要な犠牲だって人を傷つけるの!
人を守りたかったって思いがあったなら、それは人だったからでしょう!』
〈ギュオォンッ〉
ミザリーの身体から、駆動音が漏れ聞こえ出す
どう考えてもオーバーワークだ
【そうであったとしても!誰かがやらねば世界は変わらないッッ…】
叫ぶように吠える【魔女】
いや、これはハイトエイドの言葉か
『なんで!そんなに歪んでんの…よっ!』
迫る鞭を剣で払い、再び魔女の頭部を
蹴り付ける
だが、
〈ギャギィンッ!!〉
幾ら高速で撹乱したとしても攻撃に転じる
、そのヒットの瞬間
どうしてもその速度は落ちる
そこを狙われた
それもミザリーの高速戦闘を支える部分
『(脚をっ…やられたっ!)』
〈ズザッ!!〉
振り返り、やむなく制止するミザリー
左脚大腿部に大きな裂傷が確認できる
やはり【魔女】の鉄の鞭はウルベイル鋼さえ裂く
ここに来てこのダメージは悪状況
制止したミザリーへと間髪入れずに
鉄の鞭が迫る
『アンタの言い分が絶対間違ってるって私は否定できない!そんなに世界を知らないし、人を知らないから』
〈ブワァ〉
金色に光る三つ編みが巨大な手の形を成し迫る鉄の鞭全てを抑え込む
〈ギャチッ!ガチィッ!!〉
抑え込まれた鉄の鞭は全てが生き物のように抗い、尚ミザリーへと迫ろうとする
【だから…ダカラ私はっ…歪んででも曲がってでも間違っていてでも!世界を均衡に導かなければいけない!】
『そりゃクズな奴だっていたし、最低な悪党だっている!でもだからって人を見捨てたり見放したりしたくない!
私は…正直全ての人を守れるなんて言うつもりはないわ!』
どうなるかは分かっている
それでもミザリーは鉄の鞭を抑える三つ編を引き戻した
そして鉄の鞭はやはり想定通りにミザリーへと突き進む
〈ガギィッ〉
ミザリーが脚に力を込めると
不安を増長させるように大きく軋む
構わず踏み込み駆ける
巨大な蛇のように連なる鉄の鞭がそれを凄まじい勢いで追う
『(横だと…多分距離が足りない…なら、縦しかない!)』
グアっと壁に迫るとそのままスピードを緩めず、壁を走り出す
大きく吹き抜けた塔の内部
天井までは50mほど
その天井目掛けスピードをあげる
1歩を踏み出す度に脚は軋み
その身体は限界を超えようとしている
〈ズガッズガッ!!〉
と鉄の鞭がミザリーへの狙いを定めきれず
壁をひたすらに突き込む
その威力は壁を揺らすに留まらず
塔さえもかすかに揺らすほどの猛撃
だがミザリーはそれを振り切りとうとう天井へと到達した
『ラスト一発…っ!』
〈ガギィッ〉
ミザリーが剣を突き出したその相手は
【魔女】ではなく天井だ
そして、ミザリーはその後
自然の摂理に従い落下を始めた
ミザリーを削り、突き、殺そうと待ち構える鉄の鞭の唸るほうへ
『私は結局何も出来ないかもしれない!全ての人を守るなんて出来ない事も分かってる…それでもっ!』
〈ザシッ!ガキィィッ〉
避け切れない
鉄の鞭の刃は
ミザリーの身体を掠める、捉える
落下するミザリーにとっての回避行動は身体を捻る程度のことしかできない
それでもミザリーは懸命に、死にものぐるいで鞭を捌く
〈ブワァッ〉
途端にミザリーの身体から翠色の羽毛のような炎が溢れる
『これは…』
ミザリーの意図したものではない
その翠色の炎を鉄の鞭を包んだ
すると一瞬、鉄の鞭の動きが止まった
『…っ!今しかない!』
翠色の炎が鉄の鞭を制止させたことによって
ミザリーから【魔女】までは残り数メートルにまで迫った
『私は…せめてこの手が届く人達を守りたいっ!』
〈バチィイィィィッッ!〉
ミザリーの決意に呼応するかのように電気が爆ぜた
【ナッ…!?】
眼前にまでミザリーが迫った時
【魔女】は気づいた
一本の光が見える
その光はミザリーの背後から
真っ直ぐに天井に突き刺さった剣まで伸びている
強烈な電気を帯びたその光は
はち切れそうに震えている
いや震えていた
〈ガギッ!〉
その剣が天井から抜けた
〈バチッ!!〉
するとその剣は強烈な電気を帯びた光る三つ編みに引かれ
目にも止まらぬ速度で落下してくる
【バカなっ!?…そんな…】
真っ直ぐに苛烈
その通り道を阻もうとした鉄の鞭さえ容易く弾きながら
【魔女】へ迫る
『人が人を思うことを知ってるから、知ることが出来たから!私に…悪魔の魂で生きる私にだって光を感じることが出来るから!
人が作る未来にだってきっと光があるはず!』
【ナイ…ナイから私はっ…私は!】
背後から追いついてきた鉄の鞭が
ミザリーを襲う
『あんたは人を信じることから逃げたのよ!』
構わずミザリーが腕を振りかぶる
〈ドガシャァァンッ!!!!〉
塔を揺らしながら
落雷のような一撃が【魔女】へと落ちた
〈バチッ…パチ…〉
轟音の余韻のように静かに静電気が鳴り
ぱらぱらと壁から石の破片が
少しずつ舞い落ちはじめる
【魔女】はその華奢に見えていた身体に風穴を開け、グラグラと揺れながら辛うじて立っていた
鉄の鞭をもはや動かす力は残っていないようだ
ボロボロの両腕を振るってみても
鉄の鞭は微動だにせず、その形を崩し始めている
【ナゼ…私が…死ぬ…シヌ?母たる魔女の私が?…ナゼ元は人間のお前が…フェンリルと同調できる…デキタ?】
『…はっ…悪魔とか人間とかそんなんじゃない…母娘だからよ…』
こちらもこちらでなんとかの思いで
立ち上がったミザリーが応えた
【母娘…母娘…母、私は…私の…母は…】
ぱらぱらと魔女の形が崩れていく
何を語ろうとしたかは分からない
【魔女】は、いやハイトエイドは
自身でその言葉を断ち、ミザリーを見た
「どれだけ…足掻こうが…いずれ君も知ることになる…人の本性、エゴを…許しきれなくなる。」
『それでも…それでも私は守る。手の届く人達を、届かないなら…手を伸ばしてでも…』
ミザリーの言葉を聞いたハイトエイドは
ふっと口角をあげた
「悪意は…尽きないぞ。それでも足掻くというなら…駆けてみよ、「金色の狼」…」
〈ガシャンッ…〉
静かに、静かにその魔女は砕けた
そして消えた
その跡には僅かに、極々僅かに黒い霧が漂う
『金色の狼じゃないわ…私は
ミザリー・リードウェイよ』
ふっと霧の残滓が消えた
〈ガキッ!!〉
人形の糸が切れたようにミザリーが倒れた
限界はとうに超えているのだ
〈ガシャンッ〉
右肩から、腕が外れ落ちた
のみならずその左脚も身体を支えきれずに壊れた
勝者の姿とはかけ離れながら
ミザリーは何とか手近な壁に背中を預けた
限界を超えたのはミザリーだけではない
この塔そのものもだ
魔女の鉄の鞭での攻撃を壁面に受け、ミザリーの一撃の衝撃さえ受け止めたゆえに
塔としての体裁を保つにももう
そうミザリーが懸念したのをきっかけとするかのように
塔が揺れ、その天井から石片が少しずつ落ちて来はじめる
『…流石に…もう終わりかしら…でも…』
ミザリーの心は不思議と穏やかだった
求め続けた答えを得た
母の思い、その意図
いや意図と呼ぶほどの難解なものではなかった
アリスはミザリーを愛していたから
その生の終わりを惜しんだ
きっとハーディン・ウェイヤードにとっての娘
きっとリーダ・バーンスタインにとっての妹
2人を愛していたから、その愛する者にとっての家族が死ぬことを恐れてしまった
それが正解だったかどうかは誰も分からない
だが、ミザリーはそれを受け止められた
愛する者を守るために命を投げ出す
『結局、私もそうだった…』
そう、形は違えどミザリーもアリスも同じように愛する者のために命を投げたのだ
『そういえば似た者母娘だったっけ…』
少しずつ、地に落ちる石片に大きい物も混じって来始めた
塔の崩壊が始まる
『ここで終わり…まぁ…贅沢言える身じゃ…ないわね』
身体は動かない
外的損傷が見えない右脚も、どうやら内部が損傷しているらしく言うことをきかない
脱出など、叶わない
ミザリーは自身の終わりを感じた
元々失った命でここまで足掻いてきた
良くやったものだろう
国を救うなどの大役、そもそも役不足だった田舎の村娘だ
これ以上何を望めるのか
ぼんやりと目を閉じた
そのとき、声が脳裏に届いた気がした
「諦めんのかよ、ミザ?」
幻聴か、かつての思い出か
ミザリーはベイカーの声を思い出した
そんなセリフを言われたことかあったかは定かではない
だが、もしもベイカーが今のミザリーの姿を見ればそう言うだろう
グッ、とミザリーは歯を食いしばった
そして
〈ドシャッ!〉
と身体を地に放った
脚で歩くことは叶わない
ならば這っていくしかない
這ってでも生きるしかない
『諦めんのは…性にあわない…それに…』
ズリ、ズリと懸命に身体を引き摺るミザリー
動くのは腕一本のみ
その進みは情けないほどに遅い
だが、
『生きようとするのが…人間…よね、ビー…』
決めたのだ
ここでは終わらないと足掻くと
生きる、と
しかし石片は無慈悲に降り注ぎ、
その落下音は次第に激しさを増していく
それでも前を向いて這う
進む
砂埃に視界がぼやける
〈ゴシャァッ!!〉
衝撃が脚から伝わってくる
石片が脚に落下したのだ
損壊には至らないがそれが逆にまずい
『(…っ!動けない…)』
満身創痍の限界まで超えたミザリー
フェンリルの力はおろか、今は満足に動くこともできないのだ
腕一本で、石に敷かれた脚を引きずり出すことはひどく困難
ズシャ、ズシャ
と懸命に腕を動かせど
その身体は前に進めない
それでもミザリーは足掻くのをやめない
辞める訳にはいかない
『ここで…終わりたくないっ……』
そこに
「 ミザーーーッッ!!」
聞こえてきた
声が
幻聴ではない、崩壊やまぬ塔の中でも聞き間違えなどではない
確かに聞こえたのだ
そして、それを確信だとするように
ミザリーの目に
こちらに真剣な顔で駆けてくるベイカーが映った
その姿は、ボロボロで
なんとも頼りないように見えるかもしれない
けれどミザリーにとっては、ミザリーにだけはその姿が光に見えた
状況は理解している
ベイカーは直ぐにミザリーの傍に膝をつき、肩を抱くと全力で引っ張った
〈ズシャァ〉
と脚に乗った石を振り落とすと、なんとかミザリーの肩を支え身体を立たせた
「良かったミザ…無事で…」
微笑みながらミザリーに視線を向けるベイカー
『どこが…無事に見えんのよ、アンタこそ元気そうね…』
「生きてて良かったってことさ…わかるだろ」
ミザリーの軽口が心地いいのかベイカーは尚微笑んだ
チラリと添え木の施されたベイカーの腕に目を落とすミザリー
ベイカーには、ベイカーの戦いがあった
そして、それに勝ったのだろう
ミザリーはそう感じた、誇らしくも
「ダメだミザ、このままじゃ間に合わない…背負うよ!」
『え?』
ミザリーの返事も聞かずにベイカーはミザリーを背負った
とは言え、ミザリーは身体が機械でできておりそれを背負うのは至難の業
それに加え
『無茶よ!アンタ…腕が…』
歯を食いしばり、折れた腕で決死の思いで、ミザリーを背負う
その顔には汗が滲みだし、激痛に耐えていることは明らかだ
「任せといてよ…このくらい」
『置いていって!…私ならもしかしたら助かるかもしれないから』
ベイカーを案じての提案
しかし
「あー!もううるさいなぁ!…僕に、任せといてよ…女の子の一人ぐらい背負えないなんて…カッコ悪いだろ…!」
ゆっくり、ゆっくりと脚を踏み出し出口へと前に歩くベイカー
足取りは強く不思議な頼もしさをミザリーに感じさせた
それでも心配だったミザリーだが
ふと見たベイカーの横顔は譲らない、置いて行かない、そんな強い意志を感じさせた
何度も見てきた
機械ばかりいじって頼りない、臆病な幼なじみの横顔
頑固で、ガッツがある、そしてとても優しい幼なじみの横顔
スっと目を閉じると
ミザリーは大人しく、その背中に身を預けた
〈ドシャッ!ゴシャ〉
と石片が降りしきる塔内
やっとの思いで、2人は出口へと辿り着いた
地下通路にまでくると
崩壊の影響は及んでいないようで、背後から聞こえる騒々しい音が1歩1歩足を進める毎に遠くなっていく
「ミザ…そう言えばハイトエイドは…?」
そう言えばではなく本来なら本命の人物
しかし、ベイカーはミザリーの救出に必死で頭から抜けていたのだ
『とっちめたわよ…【魔女の檻】も消えたはず』
「そっか…じゃぁ終わったんだね…その…手紙は…」
『…うん、読んだ。助かった…ありがとう』
ミザリーの素直な返答に
ベイカーはホッと息をついた
「いや…でももっと早く伝えるべきだったかも知れない」
『良いタイミングだったわよ…今だから、真っ直ぐに受け止められたんだと思う』
満身創痍ではありながら、その声の調子から
ベイカーはミザリーの中でも何かが変わった
霧が晴れたのだと感じた
「良かった…うん、良かった。それにしても、ボロボロになっちゃったね」
『…ねぇ、ビー。』
改まったようなミザリーの言葉
「ん?なに?」
思わず立ち止まり続きを促す
『…身体直してくれる?私…まだ生きるって決めたから』
ベイカーの瞳が潤んだ
生に対して投げやりだったミザリーの、生に向けての前向きな言葉
嬉しかったのだ
「任せとけ…絶対直して見せるからさ!」
『…任せるわ。』
急にベイカーは首元がくすぐったくなったような気がした
気づけばミザリーの三つ編みがベイカーの肩を超え前に流れてきている
歩いているうちに前に流れてきたのか
それとも
ふん?と首を傾げつつも
ベイカーはミザリーに声をかけた
「帰ろう、ミザ。みんなの所へ、そして…ハンドベルへ」
背後からの塔の崩壊の音が止んだ
2人の目に、地下通路の先から光が見えた
それは2人を呼ぶように道標のように優しい光だった




