Answer
# baker's side
「つぅ…」
イグダーツによって折れた腕に応急処置を施されたベイカー
とはいえ添え木によって固定されただけであり、それにもちろん鎮痛の効果はない
それでも焼けるような痛みに耐えつつ
意識は強く保っている
重症のベイカーとリーダ
戦力としてはもはやままならない
これ以上ルベリオに対しての刺客や悪魔の襲撃には備えられることは少ない
「とりあえず避難…いたしましょう、ここに留まることは得策ではありません」
イグダーツの提案はもっともだ
反対するものはいない
ベイカーがリーダに左手を差し出す
「立てるかい?肩貸すよ」
「良く言うわね…そんなボロボロで…」
なんとか、痛む身体に鞭を打ち立ち上がるリーダ
だが、満身創痍極まりないその身体がふっとぐらつく
だがその身体をルベリオが横から支える
「おっと…危ないですよ、僕が肩を貸します」
「皇太子…いけません、お召し物が…」
リーダは自身の血がルベリオの衣服に付着するからと離れようとする
だがルベリオは離れない
「国のために戦ってくれた者の血を、見て見ぬふりして王になる気はありません。それに…」
ルベリオが不意に俯き、言葉を途切れさせる
不思議そうなリーダ
ルベリオの気持ちに気付いたベイカーが代わりに続けた
「そっか!リーダがミザの姉ちゃんってことは、ラビにとっても姉ちゃんだ」
ベイカーの言葉に、照れくさそうに
「さ、行きましょう。上階に行けばここより安全ですから」
と脚を踏み出す
「そんな…私にそんな資格は…」
「それでもミザなら『ああ、確かにそうね』って言うさ」
ベイカーがミザリーを真似るように澄ました声を出すと
思わず皆が吹き出した
「あとでミザリーに言っときます、ベイカーが変な物真似してたって」
「言いそうではありますが、真似と言うには…」
「そんなっ…割といい線だと思ったのに…」
思いがけぬ反応だとでも言うようにベイカーが戸惑う
「それにしてもミザリーは…大丈夫でしょうか?なんだか嫌な感じがします…」
ルベリオの言うように
塔の方向からなんとも重苦しい気配が目に見えずとも漂ってきている
ハイトエイドが【魔女の檻】を手にしたとされることから
今ミザリーはハイトエイドと相対している
そのはずだ
「ミザなら…きっと大丈夫さ。1人じゃない」
「そうですね…力に慣れなくても僕達はミザリーと共にあります」
ラビが意気込むが
「え、ああ…確かにそれも間違いないけど。それだけじゃない」
「って言うと…?…ああ!ミザリーにはフェンリルの力がありますからね、悪魔と言えど力をミザリーに与えてくれるんですから…」
そのルベリオの返答に
ふるふるとベイカーは首を横に振った
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# misery,s side
無数の鉄の鞭がうねり、空気を裂きながら
襲いかかってきた
背中を預けた本棚越しにその気配を感じたミザリー
だがその意識は別にあった
母の、アリスのたった一文の言葉がミザリーに触れ溶け込む
〖あなたが永久を生きるなら、私はあなたを永久愛する〗
どうして私に悪魔の魂を?
どうして機械の身体を?
なぜ二度目の生を?
この身体で二度目の生を得たときから
求めざる生を得てしまったあのときから
心の中心にあり続けたその問いに
答えを与えられた気がする
迫る鉄の鞭の猛撃
そんな危機にありながら
真っ暗な意識の中に身を落とす
ミザリーは黒い空間に立ち尽くしていた
何も無い黒い空間
その中に不意にぼんやりと灯りが灯った
その灯りは徐々に大きくなると少しずつ人の姿を成し始め
その形はやがて
母、アリス・リードウェイの姿に
記憶の中にある
自身と同じ金色の髪、柔らかく優しい笑顔
優しい母の姿がそこにあった
ずっと記憶の中でしか会えなかった母
視線を離せない
何も言わず、アリスの幻影は
ただミザリーを見つめていた
その瞳は幻影でありながらどこか潤んで見えた
不意にミザリーは自身の手が
アリスに向かって伸びるのを感じた
だがその手は、グッと引き戻した
今はまだその時じゃない
スっと、名残惜しみつつも静かにミザリーは踵を返し母の幻影に背中を向けた
そして
『まだ…やらなきゃいけないことがあるの…もう少し、力を貸して………母さん』
気付いたのだ
ミザリーは自分が1人じゃなかったと、アリスはミザリーをずっと守っていてくれたことを
背を向けたミザリーに
アリスはゆっくり踏み出し近づき始めた
動くとその幻影がほのかに揺らぐ
一歩踏み出す度にその形は灯りが揺れるように形を変えていく
ミザリーの傍に辿り着くころには
その形を
金色の狼に変えていた
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# baker's side
「違うよ、ラビ。フェンリルは、悪魔だけど力を貸してくれるっていうものじゃないんだ。」
「えっ?どういうことですか?」
ルベリオの戸惑いももっともだが、3人は疑問を重ねずベイカーの発言を待った
「フェンリルが力を貸してくれるのは…母親だからさ」
それを口にしたベイカーは、思わず微笑んだ
だが三人は、その言葉をすんなりと理解できずにいるようだ
無理もないとベイカーは言葉を足し始めた
「言葉通りの意味だよ、
フェンリルはアリス先生そのものなんだ」
「え……?」
戸惑う3人の中でも一際驚き目を見開いたのはリーダ
「アリスが…ミザリーの…フェンリル…?」
コクリとベイカーが頷く
「間違いないと思う、そうすれば全部の疑問に納得はできるんだ」
「疑問って…?」
未だ信じきれてない様子の3人に
ベイカーは説明を始める
「まず、なぜフェンリルがミザに力を貸すか。それは簡単、母親だからだ。そしてミザの身体を動かすのにその意志を反映し、動力として電気を流す。これも自身が設計し、それが必要だと知っているからだ」
「なるほど…命を贄に力を貸すような粗暴な悪魔が行うには荷が重い複雑な仕事ね」
「まぁ正直それだけだと、親切な悪魔っていう可能性もある。でも決定的にそうじゃないかって思ったのはミザに起きた異変だ」
「異変って…?」
「ミザに異変が起きたのは僕が知ってるのは3回だ。みんな知らないだろうけど、ミザは王都炎上のとき突然身体が動かなくなったことがある」
「それはどういうきっかけで…?」
「確定しているわけじゃないけど、時系列的に恐らくその異変が起きたとき…国王が亡くなったんだ」
「っっ…」
思わずルベリオが息を呑む
最愛の人が亡くなったとき、狼は思わず膝を付いた
それを思うとルベリオは胸が締め付けられるのを感じた
同じ気持ちをルベリオも感じていたからこそのシンパシーを
「そして…残る2回の異変は暴走したときだ。森林帯でリーダと戦ったとき、そしてさっきリーダと相対したとき」
「リーダが…関係しているんですか?」
ルベリオがチラとリーダを見ると
涙を堪えているような表情
「うん、それもさっきリーダの話を、ミザの言葉を聞いて初めてそうじゃないかと思ったんだけど」
「それは……なぜ?」
自身が尋ねなければいけない
そう思ったのだろう
リーダは胸を抑え、かすむ声で尋ねた
「多分、悲しかったんだ…悔しかったんだ。もう1人の娘が、自分のせいで悪魔の姿に変わってしまったことが。後悔と、嘆きがアリス先生の心を乱し、ミザを暴走させてしまったんだと思う」
リーダは息を呑む
「違う…アリスのせいじゃないのに…私が…」
「でも、そっからだよ。ミザがフェンリルの力を引き出せるようになったのは…それは多分、リーダのためだ」
「え?」
「アリス先生はミザにリーダを止めて欲しかったんだ。その為に、今まで与えなかった光る尾の力を与えた。きっと、今度こそ…アリス先生自身もリーダに向き合うために」
「アリス……そうね…あの温もりは…」
リーダにはその推測を確信させる覚えがあった
ミザリーの翠色の羽根のような炎に包まれたとき、思い出したアリスとの日々の温もり
「まぁでも、肝心なとこがまだ分かんないんだけどね。「なぜアリス先生がフェンリルなのか?」ってとこがね」
とそこに、にわかに騒がしく足音が聞こえ始めた
振り返るとそこには
甲冑に身を包み、数多の兵を引き連れた屈強な男性がこちらへと歩いてくるところだった
「ダラム王!ご無事でしたか」
イグダーツが声をかけると
その男は手を挙げ応える
そしてルベリオたちに目を向けると
「ああ、貴君らは…ひと騒動あったようだな。そして…ルベリオ皇太子、久しいな」
ジっと改めてルベリオと視線を合わせるダラム王
「ふっ…幼いとはもう言えないな、王になる男の顔をしている」
バンバンと豪快にルベリオの肩を叩く
子供だからと遠慮はしない
男と認めた相手へのコミュニケーション
「あのっ!ダラム王、状況は?」
「王都内の騒乱は一通り抑えた、あとはその残りを我が兵たちが抑えてくれている。問題は、ハイトエイドだ。奴は、恐らく…」
「はい、既に塔で恐らく【魔女の檻】を手にしています」
「やはりか…嫌な気配が蔓延しておると思うたわ。すぐに兵を集めて向かわせよう」
ダラム王が控えていた兵に合図しようとした
その時
「待ってくれ!…待ってください!塔ではまだミザが戦ってるんだ!」
ベイカーのあげた声にちらと振り向くダラム王
「ミザ、というのはミザリー・リードウェイ、ハーディンの娘か?」
その、威圧感
改めて目の前の王のもつプレッシャーに気圧されそうになる
「そうです、下手に人を送ったら被害が増えかねない…だから…今はミザに任せて欲しいんです」
「しかし…大丈夫なのか…?」
グッと歯を食いしばると
ベイカーは答えた
「大丈夫です…あの母娘ならきっと。だから、僕が迎えに行ってくる」
「そういう少年も…無事ではあるまいに、それでも行くのか?」
「はい!だから…ラビたちを、みんなをよろしくお願いします」
深々と頭を下げるベイカー
決意は揺るがないと、ダラム王は感じた
「あい分かった!任せろ…そちらは任せるぞ。」
覚悟は決まっている
そんなベイカーにルベリオが声をかける
「ベイカー」
「ラビ、もうこっちは大丈夫そうだから」
「行くんですね、ミザリーのところに」
「ああ、早くとっちめちゃえよって発破かけてくるよ。ラビ、リーダを頼んだよ!」
「任せてください!ベイカーこそ、腕が折れてるんだから気をつけてくださいね」
「うん、行ってくる!」
ザッ!
その場を引き返し、礼拝堂に向けベイカーは駆け出した
痛む腕を抱え、幼馴染を迎えに行くために
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