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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
魔女の檻
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93/98

Necessary

# misery,s side


〈ザッザッザッ〉


暗い横穴のような隠し通路

ハイゼン武国王城 礼拝堂の隠し部屋から降り、陽の光も差し込まぬその道をミザリーは単身駆けていた


降りたばかりの時はあまりにも真っ暗な道だったがため様子を伺いながら走っていたが


それも間もなく目が慣れてきて

ごくごく単調な一本道であることがわかってきた


走る自分の足音しか響かぬその横穴

一瞬立ち止まり物音が届いてこぬかと耳を澄ましてみるが


静けさが広がるだけで、なんの物音もしない


そうなると気になるのは


『(礼拝堂の壁を壊した音が聞こえてからそこまで時間が過ぎたとは思わなかったけど、まだ追いつけない……年配のはずだけどずいぶんなご健脚ね)』


いまだ前方にハイトエイドの姿はおろか

その足音さえ届く範囲にない


すでに十数分は走り続けたミザリー

ハイゼン武国王城から件の塔まで遠巻きにみた印象よりかは遠そうだと感じた


『(…大丈夫かしら…みんな、ビーにラビ、イグダーツさん、それにリーダ)』


ふっと沸いた感覚に思わず胸を抑える


『(姉…ね…リーダも母さんに対して疑問を感じながら生きていた、でもそれは誤解だと。きっとリーダは自分なりの答えを見つけ出せた)』


リーダの涙する顔を思い出す

あの涙に嘘はない、溢れた感情に偽りはなかった


『(私も…私にも答えは出せるの…?)』



ミザリーの中に根を張る疑問

なぜ、命を捨ててまで私に二度目の生を与えたのか


その答えが理解できるのか

どうかは解らない


でもきっと、その答えを見つけ出せなければ


『(私の…悪夢は醒めない)』



グッと思わず眉間に皺が入ったそのとき


ミザリーは駆けている道が少し傾斜になってきた事を感じた


いつの間にかかすかに登り坂になっている


そして頬を静かに風が撫でた



『ふん…出口ってことかしら』


ミザリーは駆ける脚に更に力を込めた



_______________


# baker's side


〈ギィィッッ!〉


突如として加速した剣戟がぶつかり合う音


リーダとジャルセム、お互いの剣が

お互いの身を裂こうと振るわれる


だが勿論、そうやすやすと身を裂かれる両者ではない


通路内にぶつかり合う金属音が響き続ける


折れた剣を握るベイカーはそんな2人の攻防を睨みつつ

隙あらばとチャンスを伺っていた


そのとき

リーダの剣戟を躱すためにジャルセムが

大きく後退してきた


ベイカーへと背を向けたまま

距離は3mもない


「(今だっ!!)」


好機、と剣を握る手に力を込め

ジャルセムへと剣を突き立てるように構え走る


「っ!だめよ!ベイカー!」


リーダが叫ぶ


しかし剣はジャルセムの背中に突き刺さる直前


引いてはいけないと、更に脚に力を込めたそのとき


「ばぁぁ」


剣が届くより先に振り返られる

ベイカーの眼前には悪魔と化して尚そうだと分かるニヤケ面が映る


そして


〈ビュッ!〉


風を切る剣がベイカーの肩に触れる



〈ギンッッ!!〉



ベイカーの身体に沿って振り下ろされようとする剣を飛び込んだリーダの剣が弾き飛ばす


だが



「雑魚を斬って…鬼も殺すっっ!」


ジャルセムが吠え

無理やりに距離を詰め飛び込み、ベイカーを庇うために剣を振り上げたリーダの行動は


リーダ自身に隙を作った


〈ドッッ!!〉


ジャルセムが鋭い爪を持つ手をリーダの腹部に突き込む


「ぐっ…!」


即座に剣を振り下ろしその手を叩き払う


〈グシャッ!〉


とまた脆いものを砕くような音が聞こえた



「リーダッ!!」


ベイカーが駆け寄る

その肩から胸部にかけて滲む血はベイカーにひどく熱を感じさせた


浅いが出血は免れない


だがそれもリーダが即座にジャルセムの剣を弾いてくれたからだ


それがなければ致命傷

ひどければ即死も有り得ただろう


駆け寄ったリーダは腹部から

ベイカー同様血を滲ませている


リーダは持ち前の反射神経

わずかに身を捩らせたことで傷を最小限に抑えてはいる


ダメージ的に言えばベイカーと同程度かもしれない


本来のリーダから言えばかすり傷程度

しかし、すでにリーダは満身創痍である状態



「リーダ、ごめん…僕のせいで…」


ベイカーは隙を見つけた、と思わされたのだ


リーダに隙を作るための餌にされたこと、そしてまんまとそれに嵌ってしまったことに気付き悔いた



「ははは、まさかそんなキレーーーーイに嵌ってくれるとは!小僧っ、なかなか道化の才能があるぞ!?…それにしてもあのリーダ・バーンスタインがそんな姿を見せるとはなぁ」



「く…」


悔い収まらぬベイカー


〈キンッ〉


リーダが剣の切っ先を地面にぶつけ

ベイカーの注意を引く


「…聞かなくていいわ、あんな戯言。」


「でも僕のせいで、そんな…」


「聞きなさいベイカー、あなたは戦うって決めたのよ覚悟もある、だからこそあなたはあなたの出来る事をやりなさい」


ベイカーは胸が熱くなった

身を裂いた傷が原因ではない


リーダが、自分の「戦う」という意志を汲み取ってくれたことに胸が熱くなった


そして


「僕に…できること」



ベイカーは思い出した



_______________


それは十数日前


ベイカーは旅の道すがら

火急の度でありながらも、僅かな休息の時間や


見張りの時間などを利用して

機械いじりをしていた


その日も同様に


『またアンタそんなもん作ってんの?』


見張りの交代に来たミザリーがベイカーの手元を見下ろしながら言った


ベイカーが改修していたのは大型拳銃だった


ミザリーのマリーゴールドの素体になったものと同型でこそないがサイズは遜色なく大型拳銃


ベリーズを出る時に露天商から購入しておいた故障品だ


『マリー1本で十分よ、アクセサリーにでもするつもり?』


傍らに腰を下ろしながら尋ねる


「そういう訳じゃないけどさ、まぁ予備だよ予備。ミザの使い方荒っぽいから、万が一のためにね」


『そういう荒い使い方をしろって言われたりもするけどね』


ミザリーが言うのはすでに渡されている

マリーゴールド用の弾丸


【エキゾースト】のことだろう


発射と共に銃口付近で爆発を起こすため

銃で殴るという


ミザリーのいうように荒い使い方をするべくして作られた弾丸だ


「あれは_確かに。…いざとなれば僕が使ってもいいしさ」


『アンタに?使えるの?』


「まぁ僕がコイツをマリーゴールドと同じように作ったら、僕は弾丸1発打つ度に反動で腕が壊れちゃうけど」


『今んとこは?どう作ってるの?』


「ほぼ同じだね!」


はぁ、とミザリーが息をはく



『ビー、アンタまでそんな無茶しなくていいのよ?』


「ミザはやっぱ自分が無茶してる自覚あったんだね」


ベイカーが変なところに驚く


『女は無茶してなんぼよ、そういう歳頃歳頃』


「初耳だよ、そんな風潮」


『私にはそれしか出来ないから…でもビーは違うでしょ、私の機械の身体を…助けてくれてる。それだけで十分よ、できることはもうやってくれてる』


ベイカーはふっと手が止まった


やっぱりそうだな、と感じたのだ


ミザリーはベイカーに危険が及ぶことを良しとしていない


ツンツンとしていても

心根の優しさがすぐにそれとなく見える


「できることを、やる…か」


『…ん?』


「いいや、そうだなって思っただけさ」



_____________



そして


「僕には…僕のできることがあるっ、リーダッ!!」


目が覚めたようにベイカーの瞳に光が灯る

自分の出来うること、為すべきことが明確に見えた


そんな気がした


「なにかしら?」


リーダもそれに気づいた


「少しだけ!そいつを任せてもいい?僕には、まだやれることがあった!」


先程までとはまるで違う

自身が怪我を負っていることさえ気にも留めていない


戦闘経験など皆無

だが、そんなベイカーの姿にかすか頼りがいを感じた


「ええ、いいわよ…ちょうど、ハイトエイドへの鬱憤をこいつで晴らそうと思ってたとこ…」


「よし!お願いするよ」


〈ザッ〉と踵を返すと

ルベリオやイグダーツの所まで戻る


抱えていた鞄から取り出したのは改修していた大型拳銃だ


とはいっても、実はもう完成はしている

ミザリーのマリーゴールドと遜色ないほどに


だが遜色ない、というのは勿論その威力もだ

対 悪魔用にその威力を大幅に強化しているマリーゴールドと遜色ない


その引き金は固く、ミザリーにしか引けない


引き金は引けるものという認識を持ち、意識せずともフェンリルによって引き金を引く力を出し、地上最硬の金属の身体を持つミザリーではないとその反動に耐えきれないからだ


ベイカーがしようとしていることは

使い手に反動がないように威力を下げ、引き金を生身の人間でも引けるようにすることではない


正確にはそこまではしない

タスクが増えればそれだけ時間がかかる


そして時間がかかればそれだけリーダへの負担も比例してかかるからだ


よって、ベイカーのタスクは


その大型拳銃の引き金を生身で引けるようにする、それだけだ


〈バッ〉


手早くカバンから工具と

改修用に大型拳銃を取り出すと


集中する


「落ち着け…よし、やるぞ!」


ベイカーの、ベイカーにしか出来ない戦いが始まった



「はっはっはっはっ…なんとまあえらく呑気なお仲間ですねぇ、リーダ隊長?」


そんなベイカーを嘲笑うようにリーダへと歩みよるジャルセム


「今となるとあなた達とつるむより…余程心穏やかにいれるわ」


〈チャッ〉


迎え撃つように剣を再び構える

とは言えリーダに蓄積されたダメージは甚大


それはリーダが一番よく分かっている


「いやぁ…鈍い鈍い、お気づきでしょう?リーダ隊長?隠せていませんよ、そのダメージ」


嫌に目が効く

どうやらすでにジャルセムの中で優劣は決まっているような驕り


「言ったでしょう、私は次の使命があります…金色の髪の少女を殺す、というねぇ!」


〈グァッ〉


と急激に迫るジャルセム


リーダは冷静に迎え撃ちながらもその言葉に

歯を食いしばる


そしてその声は無論ベイカーにも届き

ピクリとさせるが

すぐに切り替え、作業を続けようとする


しかし、次いで出たジャルセムの言葉に思わず目を見開く


「なんせ、同じ少女を2度も殺せるなんて…ぁあ!早く殺したいっ」


「…今、なんて言った…」


ベイカーがスっと立ち上がりジャルセムを睨む


その目にはあらん限りの怒気が見える



「…まさか…」


同様に気づいたルベリオも眉間に皺を寄せる




「ぁあ?言ったままだ、俺は…!!同じ少女を2度も殺せるんだよ!」


昂りが見えるそのジャルセムへと

その場にいる皆の視線が刺さる


「確かに仕留めたはずなんだがなぁ…はは、今でも思い出すよ、母を庇うために飛び込んできた美しい少女っ…健気なその柔らかな肉体を突き刺すあの感触っ…温もりを持つあの清らかな血っ、全てが芸術と言える瞬間だった…」


「黙れっ!!」


ベイカーの怒号が厭らしい台詞を阻む


「お前か…お前がミザを殺した悪魔かっ!」


三年前の悲劇を思い出す、自身から幼馴染を奪ったものが目の前にいる


荒ぶる感情はベイカー自身にも

止められないほどに溢れだしている



「ベイカー!」


抑えるようにリーダが言葉をかける


「聞いちゃダメ、不快になるだけよ」


静かな言葉だが

今のリーダにとってもミザリーは特別な存在


「冷静になりなさい…冷静に、こいつを殺すわよ」


リーダが自身同様に怒気を孕んでいることが

その言葉に力を持たせた


ベイカーは長く強く息を吐くと

再び作業を始めた



_______________



# another side


同刻


暗く静かな塔の内部


王城の礼拝堂から続く地下通路の終点

そこに備えられた螺旋階段を、登り着いた先にある扉の中の大広間


吹き抜けのように筒抜けた天井


整列と言うように規則正しく並ぶ

数多くの頑丈な作りの本棚


壁面には多くの武器や甲冑が埃を被りつつ陳列されている


人の立ち入らぬことを証明するように積もった埃は歩むハイトエイドの足跡を如実に残していく


開かずの間というだけでない異質な空気

共存を拒むかのような悪意が立ち込めているような雰囲気


それは悪意の塊と言えるハイトエイドには苦ではない


そして、この空間を異質たらしめているのは

広間中央に壁面から伸びた無数の鎖で宙に吊られている巨大な鉄の鳥籠


両手をゆっくりと広げながら

その鳥籠を仰ぐハイトエイド


「やっと…会えたな。【魔女の檻】…感じるか?今この王都は無数の悪魔が踊る伏魔殿、人を薙ぎ、人を殺め、悲鳴が、絶叫が、全てがお前を迎えるための祭儀だ」



〈キィィィィン…〉


ハイトエイドの言葉に反応するように

薄く鋭い耳鳴りが響く


すると


黒い霧がどこからかその広間に流れ込んでくる


それは、数十秒にも及び

黒い霧は吊るされた鳥籠の中へと誘われるように吸い込まれていった



そして



【私の…私の名を…呼んで…】


ハイトエイドにだけ届いたその声

掠れたような、妖しい吐息を帯びたようなその声にハイトエイドは応えた



「ああ…共に踊ろう


【ナラ・ガーベラ】ッッ!!」



〈ブワァッッ〉



鳥籠の中から黒い光が飛び出しハイトエイドの前に迫る


そして染み入るように

ハイトエイドの中へと入っていった



「グゥ…ッ…」


痛みが走るのか胸を抑え

堪える表情を浮かべるハイトエイド


きつく歯を食いしばり

額には汗が浮かび、目の端からはかすか血が滲みだしている


幾数分にも及ぶ激痛


「グゥァアッ…ゥゥ…」


ガクッと膝を着き

絶えぬ痛みをひたすらに耐えようとしている



そのとき



〈ガァァアンッッ!!〉



と強烈な音が響いた


ハイトエイドが振り返ると

この大広間への扉が、その形を歪めながら開いていた


舞った埃を煩わしそうに手で払いながら何者かが踏み込んでくる


だが、無論何者かではない


ハイトエイドは予感していた


その会合を、目の前にその少女が立つ時を


「ずいぶんと…けたたましい登場だな…」


静かに、先に声を発したハイトエイド

それに返すのは


『ああ、ごめんなさい。ちょっとノックが大きすぎたかしら?』


金色の髪の少女


ミザリー・リードウェイだった

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