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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
魔女の檻
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89/98

Pandemonium

# another side


ミザリーら3人が馬を駆り、ハイゼン武国 王都 バンヘイレンへと向かった


その僅か2日後


喧騒豊かな王都の中にはすでに

どこか似つかわしくない黒い装束の人物が点々と溶け込んでいた


それは歪な染みのようにぼんやりと

だが確かに王都という絵を穢している


そんなバンヘイレンを遠巻きに眺めることができる、王都からわずか離れた丘の上にその一団の長 ハイトエイドがいた


バンヘイレンを端から端まで一瞥すると

軽く目を閉じ、何かを思うように一瞬を浪費

した


そして再びその目を開くと

手を高く掲げた


「始めよう…魔女を迎える篝火を灯せ」


それを合図とするように


〈ゴォォォンッ!!〉


轟音が王都内で鳴り響いた


「舞踏会だ、悪意を憎悪を哀切を惜別の死をもって彼女を迎え入れよう」


かすか届きはじめた

王都バンヘイレンからの悲鳴


ハイトエイドは口の端をゆっくりと歪ませた




____________


# another side


突如王都内に鳴り響いた轟音に

いち早く反応したのはハイゼン武国 国王ダラムだった


「何事だ!すぐに状況を確認せよ」


芯の通った強い声で兵士に指示を下すと

すぐさま室内にいた兵士達があわただしく扉を開け駆けていった


「早いな…」


何事とは言ったものの、つい先日にイグダーツとの会合で得た情報から


この騒ぎがハイトエイドがもたらしたものであるとの予測はついていた


とはいえ、思いがけず早々と襲撃が始まったのかとダラム王は眉間に強く皺を刻んだ



〈ドォォォン〉



再び、王城の外から音が響いてくる

そして幾つかのけたたましい足音とともに扉が再び開く


数人の兵士がなだれ込み敬礼ののち息も荒いまま報告を始めた


「王都南門より悪魔の襲撃、目視した限りは7体、現在制圧に向けて兵士が向かっております」


「同じく西門方向からも襲撃です、数は10以上はいると見られますが飛行する悪魔も含まれ正確な数は把握できません!同じく王城より制圧に向け兵を向かわせております」


緊張感が張り詰める室内だが

それさえ許さぬように外からは襲撃音や、時折の悲鳴が聞こえてくる


「引き続き状況を確認しつつ随時体勢を整えろ!王城の守りなど二の次で構わん!民を守ることを優先しろ」


ダラム王の言葉を受けると、再び兵士達は室外へと駆け出していった


次に先程より幾分軽い足音が聞こえてくるとイグダーツが室内へと飛び込んできた


「状況はどうなっておりますか?やはりこれはハイトエイドの…?」


緊迫が張り付いたような顔のイグダーツに同じく険しい顔のダラム王が告げる


「推測するに間違いはないだろう…こんなにタイミングよく複数体の悪魔の襲撃など考えられん。数は決して少なくないが…それでもハイトエイドの遊撃隊の数を思えばまだ何か出し惜しみしているという風にも捉えれる」


「先陣、ないしは先遣隊…まずはこちらのハイゼン武国の出方を伺っているのやもしれませんな。用心深いハイトエイドのことです」


「うむ…狙いは塔にある【魔女の檻】、ならばこれは陽動である可能性もある」


「しかし…」


「そうだ、陽動と分かっていても民をないがしろにする決断など出来ぬ。それをやつも理解しての陽動だろう…だがハイゼン武国の兵は強い、侮るなよハイトエイド」



イグダーツは自国の兵士への自信を滾らせるダラム王に、かすかに不安が拭われた


残る不安の行先はやはり


「殿下…ご無事だろうか…」


そのとき


〈バンッッ〉


と再び王室の扉が開かれると


息の乱れた兵士が青い顔で駆け込んできた


「緊急です!東門より…身の丈8mほどの…巨大な悪魔が一体襲撃してきました!…すでに兵を向かわせ対処しようとしておりますが……止まりません!」


思わず固唾を飲む2人になどお構いなく


刻一刻、秒針の進みとともに

ハイゼン武国王都が黒に染まりつつあった



____________


# another side


ハイゼン武国 王都 バンヘイレン

その東門


ハイゼン武国はルグリッド公国のように

幾重にも外壁を施したような造りではなく


シンプルに外周を分厚く堅固な壁で囲んでいる造り

その中心に外壁を持つ王城を設け

東西南北の4つの、これもやはり堅固な門にてその出入りを管理している


つまり、その堅固な門を突破さえすればあとは王城へは苦もなく行ける


しかし、そのあまりにもシンプルな守りも、王城の守護たらしめるものは王都内を常に巡回・警護している屈強な兵士達の存在


それがなによりの守備要因としてあるからだ


有象無象な悪魔達なら、いかに門を破れたと言えと王都には近づくことも叶うまい


しかしそれは


有象無象の悪魔であった場合だ


今現在、その東門付近で暴れ回り轟音を響かせているのは


先の報告であったように大型の

身の丈8mもある骸骨ような悪魔だった


遠巻きに見ればその骨ばった外見は

細細と目に映るかも知れない


だが目前でその姿を仰ぐ兵士には

あまりにも凝縮されたような、身が詰まっているような


見た目以上の恐怖に覆いかぶさられようとしていた


〈ブアッッ〉


その腕の一振が風を起こす

一振の軌道上にあった兵士達は一瞬の摩擦さえ起こせず軽々と宙を舞った


〈ガシャンッ…ガシャンッ〉


兵士達が地に打ち付けられると甲冑の金属音が不安を加速させるように鳴る


「ぅ…ぐぅぅ」


無論打ち付けられた兵士達へのダメージは甚大である


起き上がれぬもの、辛うじて途切れそうな意識を保つもの


力の差は歴然であることは骨身に染みている


だが、それでも


その兵士達は


「避難しろ!…ここから離れろっ」


周囲に呼びかける声を止めない


王都内を脅かすその存在に折れず

背を向けようとはしていなかった



【ァァ…ババ…ハハ】


そんな姿をその悪魔は

うめき声のような笑い声を零しながら見下ろしていた


周囲を見渡す


兵士達がその悪魔を取り囲むように十数人並んでおり

その背後からも続々と応援が駆けつけている


だからといってその悪魔は足を止めようとはしない


王城へとゆっくり歩を進める

進行方向にある兵士を薙ぎ払うように手を振るいながら


〈ドンッ!…ドンッ!〉


銃撃音とともに悪魔の身体にいくつか銃弾がぶつかり爆ぜる、が


ピクリともせず煤を払うように身体を撫でる


わずかな時間さえ静止させられず

南門からも悪魔の襲撃は進んでいる


巨大な悪魔を睨みつける兵士の目に焦りが潜みきれず滲み出した、そのとき


〈バチッ!!〉


静電気が強く爆ぜる音が響いた


その直後


〈ドゥオンッ!〉


とその悪魔の顔で小爆発が起き大きく仰け反り

先程までの銃撃では身動ぎ一つ起こさなかった悪魔の体が後ろに一歩大きくさがった


思わず目を見開いた兵士

すぐにその銃弾の射線を辿ると


傍の家屋の屋根

細い煙の立つ拳銃を掲げその悪魔を強い目で睨む


金色の髪の少女

三つ編みを揺らすミザリー・リードウェイがいた


『また馬鹿でかいわね…育ち盛り?』


ウンザリするように吐き捨てるとその家屋の下で身を隠すようにしていたベイカーとルベリオを少し身を乗り出し、その悪魔を眺める


「ミザッ!油断しないで、効いてはいるみたいだけど倒すには足りないみたいだ」


「もうこんな悪魔まで…ハイトエイドももう辿り着いてるんでしょうか?」


周囲の兵士がその3人を

どこか不思議そうにポカンと眺めていたが


すぐにハッとし

兵士の1人が声をあげた


「伝え聞いております!ルグリッド公国皇太子ルベリオ・ウェイヤード様ですね?」


その兵士に振り向くとルベリオは力強く頷いた


どうやら先行したイグダーツからの情報伝達はつつがなく済んでいるようだ


「状況を教えてください!今どうなっていますか!」


次いでルベリオが問うと


別の兵士が口早に応えた


「現在、王都内に複数体の悪魔が点在しております。東門から10数体の悪魔、北門、西門にも僅かずつですが視認され始めております。それらは兵士が暫時対処に向かっておりますが、緊急はここ南門!目前のこの悪魔です」


「ハイトエイドは?確認できましたか?」


「現在確認されておりません!またダラム王と貴国の右大臣イグダーツ様は王城にて指示を出しておられます!」


聞こえてきた声を情報として頭に入れる

それはルベリオとベイカーが


そして目前の敵は


『アーイェ、まずはこのデカブツでいいんでしょ?ビー』



「ああ、頼むミザ!」



ベイカーの返事を合図とするように


〈ドゥォンッッ!!〉


マリーゴールドが再び吠えた


〈キンッ〉


次いでミザリーが指を鳴らす


その翠色の瞳がなお輝き

ぼんやり光る三つ編みが顕現すると


〈ギュンッッ〉


一瞬で光る三つ編みがうねり

巨大な悪魔の顔を目掛けて伸びる


その先端が手のように広がり悪魔の顔を掴む


〈グゥゥッ!?〉


突如視界を奪われた悪魔が仰け反る


慌てその手を振りほどこうと顔に手を伸ばすより先に


三つ編みに引き寄せられるようにミザリーが飛んでくる


そして勢いそのまま、悪魔の顔を掴んだ三つ編みの手ごと


〈ゴシャッッ!!〉


蹴り飛ばした


10数mの距離を一瞬で詰めるほどのスピードで100kgを超えるミザリーが飛びかかり蹴りつける


いかに巨大な悪魔と言えど

脆い部分があり、それが砕かれた顔であった


その巨大な体躯は力なく崩れ落ち

一瞬で黒ずみ、そして弾けた


見ていたハイゼン武国の兵士たちが目を疑うように瞬きを繰り返す


だがすぐに


〈オオオオオッ〉


と歓喜の声をあげる



『デカいだけでカスッカスね…』


何となく歓声にむず痒い思いをしながらも

次に向かわんとした



そのとき



〈トクン…〉



ミザリーは感じた



『…なに?』



自らのものではない


なにかの鼓動を


そう遠くない場所で


なにかが目覚めたような


眠りから覚めた拍動のような


一瞬の悪寒


その悪寒のした方へと振り向くと

いや振り向かされると


ハイゼン武国の中心 その王城


さらにその向こうに城と同等の高さをもつ塔が見える


遠巻きに見ても、感覚的に不気味な食う気を感じ取る


そこだ


『あの塔にあんのね…』



同じくして


その塔を同様に遠巻きに見ている男がいた


無論、ハイトエイド・ペルライン


目を細く、口角があがり

不気味な笑いを浮かべながら空を仰いでいる


「素晴らしい…私を歓迎してくれているのか?ああ、きっとそうだ…一人では舞踏会は開けないのだから。…今その手を取りに向かうよ」



場所は違えと


ミザリーとハイトエイド


一拍ついた次の言葉は図らずも同じものだった



『【魔女の檻】』

「【魔女の檻】」


それぞれがなにを図るわけでなく舞台に役者が揃った


そこにもう1人

ハイゼン武国王都に入り込んだ者がいた


騒乱の中にあり人気のない道を歩き、呼吸一つ聞こえてこない


聞こえてくるのは唯一



〈キンッ…キンッ〉


地を打つ金属音だけだった

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