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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
魔女の檻
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88/98

Pandemonium eve

# another side


事は火急に

先手を打たれど下手な後手はうてない


今、こちら側にとっての不都合は

ルベリオを喪うこと そして【魔女の檻】がハイトエイドの手に渡ること


様々な事実が明らかになっていくことにより

事の大きさ そして巻き込まれたとは一概に言えない自身の生い立ちをひとまず胸に押し込んだミザリー


ロワールに乗りハイゼン武国王都へと向かうイグダーツを見送り


スっと息を呑むと


『やっとこ最終章ってとこね?』


「うん、僕たちも馬に乗ってけば3日4日あればハイゼン武国の王都にたどり着ける。そしたらそこで全て終わるはずだ」


「きっと、きっと終わらせて見せます。これ以上ハイトエイドの好きには…」


ルベリオの顔にも一層の緊張感と決意が見え、いまだ幼い身には余るその緊張感は張り詰めすぎているようにさえ


その時


〈コンッ〉


とミザリーが指で軽くルベリオの額を小突いた


『大丈夫、ラビはひとりじゃない…でしょ?』


緊張でうつむきかけた顔を上げ

ミザリーを、そしてベイカーを見た


「はい…はい!そうですね…きっと大丈夫です」


奮い立たせるように、鼓舞するようにルベリオは自身の胸に手を当てた


「よーし…ミザ、言うようにクライマックスは目の前だ。身体の調整をしておこう」


『そんな暇ないんじゃない?』


「こんな時だからさ、ミザにはいつも通りちょっとハードなとこを任せなきゃいけない。不安要素はないほうがいい」


「その通りです、すでに無茶もさせてしまってますし。チェックしてもらいましょう」


ルベリオにまで言われたら仕方なしと

ミザリーも渋々


上着を脱ぎながらベイカーへと歩みよった


鞄から器具を取り出し

すぐにベイカーは作業にかかった


駆動にもっとも重要な脚まわり

腕、前腕、手


つい数時間前のベイガンとの戦闘での

度重なるフェンリル化

それによる過剰駆動によりいくつかの部品には熱変形が見られたので随時交換していく


幸い今の所は

手持ちの交換部品などでまかなうことができたことにベイカーはひとまず息をつく


そして背中には胸内部をチェックするためのハッチのように開く箇所がある


そこから内部

動力の根源であるブラックボックス周りの磨耗や破損を確認する


最硬金属のウルベイル鋼で守られていることもありその辺りの異常は見られなかった


じっ、と

ベイカーはそのブラックボックスを見つめた


整然とされた機械構造の中


ブラックボックスに刻まれた文字


ベイカーは【それ】をずっと前から知っていた


初めてミザリーの体内構造を、機械構造をチェックかつ把握するために背部ハッチを開いた時から


だが【それ】をミザリーには伝えてはいない


ベイカーには【それ】をミザリーがどう捉えるか、どう受け止めるか


一抹の不安があったからだ


手を止め、気付けば呼吸さえ疎かになっていた


『ビー?まだなの?』


痺れを切らしたミザリーの声に

ハッと我にかえるベイカー


「ああ、大丈夫!異常はないし、疲労部品は全部とっかえたからバリバリ動けるよ」


もう一度だけ【それ】を一瞥し、ベイカーは点検を終えた



『ヤー、そりゃ最高ね』


傍に置いていたいつもの衣服を身につけ

襟を正すとミザリーは立ち上がった


トンットンッと軽くジャンプし

左右に軽くステップを踏む


「どう?」


『いい感じ…マリーもチェックしといて』


懐からマリーゴールドを取り出すと

逆手に持ち替えてベイカーへと手渡す


「おっけー、ミザとラビは準備しといて。終わったらすぐに出よう」


『私はいつでもいいわよ』


「そうですね、ミザリー…あの、ちょっと良いですか?」


ルベリオがおずおずと切り出した


『ん?』


ベイカーは察した

図らずもお互いに姉弟ということが分かったのだ


ルベリオの胸中にあるのは

照れくささと、きっとほんの少しの不安


立場がお互いに違うだけに

その事実はすっと吸収できうるものではない


「話してきなよ、ミザ。姉弟水入らずでさ」


ふーんと首を傾げながらもミザリーは

ルベリオを促しベイカーから数十歩ほど離れた


そして


『どうかした?』


「あの…ミザリーはどうですか?その、事実をどう受け止めてますか?」


普段は落ち着きのあるルベリオも

やはり事が事だっただけにソワソワが隠しきれていない


『正直…父親のこと母さんは詳しく教えてくれなかったから。遠いところに行ったのよって、言ってたから亡くなったんだってずっと思ってた』


「1度も会ってなかったんですから、そうだって思ってずっときたんですね」


『でも…多分会ったことあるのよ、イグダーツさんが話してくれたように。本当に幼い頃、そして…王都であったあの人、まぁだからって全部すんなり受け止めてる訳じゃないけどね』


「あのっ!」


ルベリオがじっとミザリーを見つめた


「ミザリーなら、正統な王族です。血の繋がりが遠い僕よりよっぽど…」


『いーやーよっ』


おどけたようにも聞こえる口調でミザリーはルベリオの言葉を遮った


「えっ?」


『言ったでしょ、王だのなんだの興味ないわよ。正統だのなんだの言われても、その形に収まることが私にとってのプラスとは限らないの』


「でも…」


『それに…そんなもんじゃないでしょ?ラビの中にあるのは、血筋だの正統だのそんなもんをゆうに超えたものを受け取ってるはずよ。』


「ミザリー…」


ルベリオは実感した

予感でしかなかった父の面影を

ミザリーの中に確かに感じたのだ


乱暴な物言いに見えてもその芯には

ルベリオがずっと見ていた優しい背中を感じる


『王様なんてややこしい立ち位置はラビに任せるわ…そんかわし、荒事はお姉ちゃんに任しときなさい』


掌を開きながら

ニヤリとした表情でルベリオを見つめた


「…はい!頼りにしてます、ミザリーも、ベイカーも」


〈くしゅんっ〉


とタイミングよくベイカーの方から聞こえたくしゃみに


二人は微笑むと


『行くわよ、ラビ』


「はい!」


ベイカーの元へと歩き出した



そして、ほどなくマリーゴールドの整備を終えたベイカーと共々馬の元へと向かった


筋骨逞しい健馬を、付き添ってくれていた兵士から託され


ミザリーは1人で

ベイカーはルベリオと共に馬に跨った


『大丈夫?よろしくね』


気遣うミザリーに

蹄を打ち鳴らし答える馬


「だ、大丈夫かな?…よろしく頼むよ?」


こちらもこちらでおっなびっくりしながら

馬との交流を図る



そして、3人は

ハイゼン武国 王都 バンヘイレンへと向かうため手綱を引いた


何をどうあってもきっとそこで

全てが終わる 終わらせなければならない


『(思ったよりややこしいわね…私の人生)』


馬上で揺れに身を任せながらも

ミザリーは真っ直ぐに前を見る


『(全てが本当に終わる?母さんの気持ちが理解できるだけの答えが私に見つけられる?)』


自問自答


だが例えその答えが見つからないとしても

確かなことはある


『(とにかく!…そのハイトエイドが…ハンドベルを焼いた…私を殺した!少なくともその借りは返してやるわ…)』


先行するミザリーの眉間の皺に気づくはずもないベイカーだが


それでもミザリーなりの決意のようなものをその背中から感じた



_______________



イグダーツがミザリーらから先行した一日後


すでにイグダーツはハイゼン武国 王都

バンヘイレン 王城へと辿り着いていた


華美というより武骨

いかにも武国といわんばかりの王城のその一室


イグダーツはハイゼン武国 国王ダラムと

向かい合うように着席していた


予めの文よりの通達を済ませておいた為

ここまでは速やかに事を運ぶことが出来た


ここからの展開は野となれ山となれとする訳にはいかない


出来る準備 思索は可能な限り行わなければならない


イグダーツは目前のダラム国王を見た


齢50をとうに過ぎているはずだが

その姿勢や身体つきはそれを感じさせないほどに筋骨隆々かつ芯が通っている


顔にすら武勲としての苛烈な傷跡が見える


王でありながら前線にも立つという根底からの武闘派


そのダラム王

先程までイグダーツからの言葉を受け止め、そしてしばしの沈黙をもって頭の中で整理を行っていた


そしてゆっくり口を開いた


「あいわかった、もはやルグリッドだけの話では収まらぬ。…そもそも…ただでさえかような卑劣な男にハーディンの後の王座に座らせることはやぶさかではない。挙句このハイゼン武国にまで攻め入ってくるなど愚の極みよ」


眉間に手をやり、目を閉じた


それは国王同士の繋がりではなく

男と男、友としてハーディンを悔やむ仕草に見える


「御協力痛み入る…して、ダラム王…あなたは【魔女の檻】についてどこまで知っておいでですか?」


スッと閉じていた目を開けると

腕を組みふんと唸った


「このハイゼン武国の王城のわずか離れた地に塔が一つ建っている、存じているな?」


コクリとイグダーツが頷く

イグダーツも何度となくハイゼン武国には訪れたことがある


その度に何の気なしに目に映っていたその塔の事はよく覚えていた


「あの中にある…あの中に行く術は王城の礼拝堂の扉からのみ」


「いかような代物で…?」


チラとイグダーツを見やると

ため息と共に言葉を吐いた


「わからん…私も1度だけ目の前で見たことがあるがいやに巨大な鳥籠があるだけであった」


「…つまり、空であると?」


「その中には何もなかった…というよりは私の目には何も見えなかった。という方が正しいな……だが、それでもその鳥籠の中に【何かがある】という不気味な感覚だけは未だに忘れることができない」


「そんなものが…とにかく、不明確な不安要素ではあるゆえハイトエイドをそれに近づかせぬようにしなくては」


うむと頷いたダラム王が

ふと思い出したようにズイと前に身を乗り出しイグダーツに訊ねた


「それはそうと、本当なのか?ハーディンの娘が生きているというのは」


「ええ、本当ですとも…ダラム王もきっと驚かれるでしょう。あの瞳は…翠色の瞳はとても眩しくて、懐かしい」


「そうか…ハーディンはちゃんと残していったんだな。心も…魂も…」


自らが零した言葉が

再びその身に染み入るようにダラム国王は胸に手を当てた



その一室の静かな会合と

同じく静まりかえった

夜のハイゼン武国王都 バンヘイレン


そんな静かな夜の僅か2日後

このバンヘイレンが炎に包まり、黒に包まれんとすることなど渦中の幾数名しか知ることがない


悲劇となるか、英雄譚となるかもまた同じ

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