繋がる糸
# another side
夜を迎え月明かり微かな山道に
その一団はあった
100名ほどの黒き一団
夜だからというわけではない
黒い装束に身を包みその表情は作り物であるかのように強ばり、話し声のひとつも聞こえない
様相からさえも黒を連想させる一団
それらは反逆の左大臣 ハイトエイド率いる遊撃隊の面々だった
その中程に位置する一団の長ハイトエイドがピクリと眉を動かした
「どうやら…蜘蛛が仕留められたな…」
ようやくの言葉に
すぐ後ろのジャルセムが問う
「まさか…一体何者に…?」
スゥと鼻から息を吸うと
眉間に皺を寄せハイトエイドは応えた
「なぜ…私が王の血を継いでいるとはいえ、たかがの小娘に刺客を送ったか分かるか?」
「ハーディンを苦しめるため…では?」
「それもまた良い趣向ではある…だが違う。この国の王族は…ある悪魔を呼び寄せる」
「…御伽噺では?」
「確かにその域は出ない、王しか閲覧できぬ文献にもそれを匂わせはするものの確固たる描写があるわけではなかった」
「大事の前であります…神経質になっておいででは?」
「神経質にもなろうぞ…私の描いた絵図を、唯一、唯一だ…脅かす恐れがある微かな存在が徐々に形を成してきたのだ」
「それが…」
「ああ…金色の狼の御伽噺【神さえ喰らう魔狼 フェンリル】」
その仰々しい言葉にジャルセムが息を呑む
「それをその小娘とやらが…?」
「可能性だ…金色の髪の語り手と呼ばれる存在がそのフェンリルを引き継いでいるということまでは文献から察することはできた。ならば遺伝的な要素でその娘に引き継いでいる可能性がある。ただでさえ王族の血を引いている小娘にそんな懸念まで乗れば、杞憂だろうが始末しておかねばなるまい」
「では…なぜ親子もろとも始末せよと命じなかったので?」
「十数年前にはすでに世には悪魔の被害があった、もし母の中にフェンリルがあればそれを放っておくわけもあるまい。しかし母は動かず、御伽噺は御伽噺のままだ」
「もしそのフェンリルという存在があるのならば娘にすでに…ということですか」
「有事の際には人質にするという保険的な意味で、お前には母までは殺させずにおいた。
だが仕留めたと思っていた娘が生きている…そしてこの渦中に関わって来ているというのであれば、その内在する何かが私の絵図をかき回していると見ても考えすぎとは言うまい」
「リーダ隊長、そして今回の蜘蛛…左大臣はつまり…そうお考えですか」
「…ああ、金色の狼が…フェンリルが我に噛み付こうとしている」
「ならば今度こそ私めに…ああ昂りますな…」
「やれるか…?リーダさえ退けたのやも知れんぞ…?」
「もちろん…同じ少女を二度もこの手で殺せるなどと、これ以上の愉悦快楽がありましょうか…」
恍惚めいた表情を浮かべたその笑みは不気味かつ残忍めいた光を目に宿す
「かまわん、急ぐぞ……魔女の檻が私を待っている…あの檻さえ開けてしまえば」
「それほどのものなのですか?…魔女の檻というものは」
ゴソリ、と懐に手をやると
ハイトエイドは小さな黒い箱を取り出した
「ああ…全ての魔の母たる存在と言っても過言ではない。直にわかる、ジャルセム…お前だけではなく全ての人々がその存在のなんたるかを」
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# misery,s side
『それで?こっから私たちはどうするべき?』
先刻までの他ならぬ自身の出自についてのことさえさておきミザリーが問う
とは言ってもそれらを投げた訳ではなく
今、理解に割く時間を惜しんだというだけであり
ミザリーはそれらをひとまずは飲み込んだ
自分なりに整理をつけるのは後だと考えたのだ
「でもとりあえず頼りの右大臣さんに会えたんだから、ハイトエイドの動きは抑えれるんじゃないのかな?」
ベイカーがチラリとイグダーツを見ると
イグダーツは返事替わりに首を横に振った
「恐らく止まりますまい…ハイトエイドは遊撃隊をまとめあげハイゼン武国へと進軍しているのです」
『…なんでハイゼン武国なの?狙いは公国の王位だった訳でしょ?』
「まさか…それって」
ベイカーが何かに気づいたようにハッとする
「ご存知でしたか…恐らくはハイゼン武国が所有する【魔女の檻】を狙っているのでしょう、故に公国は今現在ハイトエイド並びにその配下の手にはかかるまいという判断もできます」
「知ってるんですか?イグダーツ、魔女の檻を」
「以前国王から聞いたことがあります。なんでも〔一体の悪魔を封じ込めたもの〕という…名から察することかできる程度の話です。ただ、妙にハイトエイドが固執していたことを国王は気がかりとしていました」
「それって例えば手にしたら、人を悪魔にするとかってものだったりはしませんか?」
ベイカーが直近の出来事を振り返りながら尋ねた
初めて目にしたのは四つ脚と出会った日のこと
ミザリーを尾行してきた男を追い詰めた際に変貌した姿
次に王都炎上の日にルベリオを確保しようとした兵士
そして、リーダ・バーンスタイン
アーサー・ビークマン
ハイトエイド側の兵士たちが変貌したことと、そちら側ではないもののハイトエイドと接触の際にきっかけを渡され変貌【させられた】アーサー
何らかの関連性
あるいは直結する理由が【魔女の檻】にあるのではないかとベイカーは考えており
とはいえ、未だハイトエイドは【魔女の檻】
を手にしてはいない
手にしていない状態で配下を悪魔にするということができるのか?
求める理由は?
思考するに足る判断材料をとにかく集めなければともベイカーは考えていた
「そこまでは…ですが10年ほど前でしょうか、調停の再確認のためハイトエイドはハイゼン武国へと出向いたことがあります。もしやその際に何か画策し始めるきっかけがあったやも知れません」
「なんでそう思うんですか?」
ルベリオが思考を止めイグダーツを見た
「その直後に遊撃隊を立ち上げたのです、国の防衛の為ならばそういう役割を兵士たちにあてがえばすむもの。それをハイトエイドは一から自らが人員を選び新たに組織し始めた
、専任という名目でしたがそれも今思えばそこからすでに個人的な戦力を確立させようとしていたのかも知れません」
「なるほど…巡国遊撃隊、国を巡るって言えば広く守れるような意味合いだけど実質はリーダのように隠密行動を取りやすい立場における」
イグダーツ、ベイカー、ルベリオが熟考するのを眺めていたミザリーがため息をつきながら立ち上がった
『じゃぁ結局その【魔女の檻】とやらに先回りしときゃ向こうから来てくれるってんでしょ?』
「ああ、ゴメンそうだね…ラビ、イグダーツさん行こう」
どれだけ熟考が必要でも足を止める暇はない
「そうですね、そう言えばイグダーツはどうやってこんなに早くここに?」
ふと思い出した疑問だけでもとルベリオが尋ねる
「ええ、外に出ましょう。皆さまにも紹介しておかないと」
イグダーツが外へと促すと
3人は足早に家屋を出た
外はもう暗い、どうあっても時は経ち
リミットが迫りつつあるのだと焦りを生む
そのとき
〈バサッ…バサッ〉
と羽ばたく音が黒い空から聞こえてきたかと思うと
「…えっ!?」
思わず声を上げたベイカー
視線の先にいたの体高3mほど
翼の端から端 体長10mはありそうな
黒く巨大な鳥だった
『なんか…もう何が出てきても驚かないと思ってたけど、随分でかい鳥ね…』
「こ、これって…烏?鷹?」
『種類よりサイズでしょ、どこに疑問もってんのよ』
「これは鷲です」
飛来し、傍に着地したその大鷲の畳まれた翼を撫でるイグダーツ
黒い羽毛は不思議な艶があり水晶のような瞳は静かに周囲を見渡していた
『サイズに関しての補足はないのかしら…』
「すごい…でもこれって」
「ええ、悪魔です。名をロワールと言います」
フッとそのロワールの視線がミザリーに止まる
すると
静かに歩み始め
そのままミザリーのそばに座り込んだ
「やはり」
それを見ていたイグダーツが思わず微笑む
「ど、どういうこと?」
「ロワールは王に仕える悪魔です、このルグリッド公国の王に。とは言っても仕える王すら選ぶ気まぐれではありますが」
「それが…ミザに懐いたってこと?」
『これ懐いてんの?』
「というよりは…」
チラリとイグダーツがルベリオを見る
「な、なんですか?」
ふと微笑み
イグダーツは続けた
「ロワールはハーディンをとても慕っていました。王に仕えると言っても、仕える王を選び何年も姿を現さなかった。それがハーディンの即位と共に現れ、陰ながら仕えた。
つまり、ハーディンの面影を持つミザリーに感じる想いがあるのでしょう。皇太子と同じように」
「な、なるほど…」
どこか照れくさそうにルベリオはロワールに近づくとその翼を撫でた
「ロワールは秘密裏な存在でありました、王であるハーディンと私のみが知っており彼もまた民を守ってくれというハーディンの望みを受け国を巡っては民に危害を加える悪魔を狩ってくれていました。ですがそれ故にハーディンに有事の際、王都におらず守ることができなかった。」
「それは…悔しい思いをしただろうな」
なにか通ずる想いを感じベイカーもロワールの目を見た
初めて会ったはずのミザリーを
懐かしむようにじっと見つめるその目はかすか潤んで見えた
『…そう、なら手を貸してロワール。正直王だのなんだの興味はないけど、とっちめたい奴がいんのよ』
佇むロワールに鋼の手を伸ばした
スっとその手に視線を落とすと
ロワールは掌に
〈コツン〉
と嘴を当てた
『ヤー、んで?この子に乗って移動するの?』
とは言ったものの
「いや、さすがに4人はキツイだろ…実質5人分はある訳だし」
チラとミザリーを見やった
ベイカーの脇腹をすぐさまミザリーが小突いた
『まぁ確かに大勢は可哀想よね』
「ならば殿下が先だって王都へ向かい警護して頂くのが良いのでは」
イグダーツの提言に
ルベリオは少し考え首を横に振った
「いえ、それならイグダーツに向かってもらったほうがいいです。事の状況を伝達し、これからの策をハイゼン武国と共に考えるのならそれが最善だと思います。それに…」
『ん?』
ミザリーへと視線をうつす
「今僕はミザリーの傍が1番安全だと思うので」
「…なるほど、ごもっともですな」
思わずイグダーツが微笑む
「あっ!!」
突然ベイカーがなにかに気づいたような声をあげる
『なによ…?』
「ってことはだよ!」
「なんですか?」
「ミザとラビは姉弟ってことだ!」
ベイカーを見ていたルベリオの視線はミザリーへと移る
「確かにそうですな、同じくハーディンを父とする姉弟と言えましょう」
綻びつつイグダーツも相槌をうつ
『…そう…そうね。お互いに…兄弟なんていたのね、私ら』
珍しく
本当に珍しく
ミザリーが少し照れくさそうに笑った




