↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
My Nightmare  作者: 燕尾あんす
魔女の檻
PR
86/98

未来の話をしましょう

# misery,s side


凍て蜘蛛ベイガンとの戦闘も終わりを迎えたと思った矢先に


どこかへ駆け出したベイカー


ルベリオの頼みの綱であるイグダーツからの

言伝があったためハイゼン武国兵士との軋轢はないと言え油断できる状況ではない


だから

ミザリーとルベリオはベイカーの後を追った


そして、木陰からその一部始終を聞いた


「ミザリー…どうすればいいんでしょう?」


思わぬ別れに微か涙ぐむルベリオ


『…そういうことね…』


「え?…」


ミザリーはかつてのアーサーとの会話を思い出していた


それは

自分の心に誰かいる気がすると零したあの日のこと


「ミザリー…?」


『ビーは…背負うって決めたのよ、アーサーのことを…だったら私らはそれを汲み取るだけよ』


「でも…そんなの辛すぎます」


ルベリオの言うように

人一人の生死を、その有様を

自らの中だけに抱え込むということは

並大抵の哀切ではない


しかし、それが何よりアーサー自身のためにとった行動ということも二人には分かる


『せめて、覚えていましょう。短い間とはいえ一緒に歩いてきた人が、一緒に戦ってくれた人がいたっていうことだけは…』


「…はい!アーサーのためにも、僕は…必ずっ!」



二人はそっとその場を離れ、元の場所にてベイカーが戻るのを待った


間もなく


ベイカーが重い足取りで戻ってくる


「…アーサーは、悪魔にやられたみたいだ…」


静かにそう告げたベイカーの目は赤く充血していた


未だ涙の跡もその名残を残す


「でも!立派に戦った…アーサーは立派に戦ったんだ」


友を讃えるベイカーの声の力強さは

空にいるアーサーにもその言葉を届けたい気持ちがあるのかもしれない


『…そう、一言くらいお礼言いたかったわね』


「はい、とても…残念です」


重い空気が流れようとする


しかし


「あと一息だ!僕らは…前に進まなきゃ」


その予感を振り払うようにベイカーが前向きな言葉を出す


そんなベイカーの勢いに

ミザリーとルベリオはどこか胸が熱くなるような感覚を覚えた


そこに


「失礼」


と声をかけたのはハイゼン武国の兵士

恐らくこの駐屯地の責任者のような立ち位置だろう


先程も火薬樽の攻撃の際に声をかけてきた男だ


「悪魔退治への助力、感謝する。もう少し手厚く労いたいが火急なのだろう?手短に要件を告げる」


「はい、なんでしょう」


ルベリオが凛とした態度で応じる


「貴国の右大臣 イグダーツ殿が王都前、次の町バンヘイレンで諸君らを待つ。そこまでは我らが馬車にて送ろう」


「イグダーツが!?こっちに出向いているんですか?」


思わぬ展開にルベリオの声量があがる


「そんなことが…いくらなんでも僕らを追い越すほど早く移動できるもんなのかい?」


『確かにね…空でも飛んできたってのかしら』


「恐らく…そうです」


『「え?」』


思わぬ返しにミザリーとベイカーが被る


「とにかく馬車の用意はできている、すぐに乗ってくれ」


兵士がクイッと指で示した方向には

まさしく馬車が準備万端といわんばかりに待機していた


「はい!ありがとうございます…その…改めて謝罪はさせて頂きます、この不可侵領域への侵入含めて」


ルベリオが申し訳なさそうに頭を下げる


がそれを制止しながら

兵士は言葉を返した


「それには及びません、こちらには危害がないどころかあの大蜘蛛から兵士を守ってくれた…退治にも尽力してくれた、それで十分敵性がないと言えましょう」


スっとミザリーに視線を向ける


「助かったよ…君のおかげでまた、王都に残している息子に、妻に会える」


その兵士は深く、頭を下げた


『…そう…ですか』


なぜかミザリーはバツが悪そうに視界を揺らした


「さぁ、今は時間が惜しいだろう。早く乗ってくれ。一番脚が早い若馬を用意した…本当にありがとう、ご武運を…」


膝をつく兵士に見送られながら


三人を乗せた馬車は不可侵領域である関門を後にした


その荷台の中で


「ミザ…なんでそんなバツが悪そうにしてんのさ?」


先程のミザリーの挙動が気になったのかベイカーが問いかける


「そうですよ、誇らしいことじゃないですか」


ルベリオも相槌を打つ


『だって…フェンリル化したしなんか火っぽいのも出したのよ…悪魔みたいなもんよ、それなのに』


「君はまたそんなこという…」


『だってそうじゃない…それなのにありがとうなんて』


スっと目を閉じ口をとんがらせているミザリーがベイカーとルベリオには何だか微笑ましかった


「僕らはミザをただの一度も悪魔だなんて思ったことないよ」


ベイカーの言葉に次ぐように

ルベリオも縦に頷く


『ふん…そう言えば、ラビの頼りの右大臣さんが飛んできたっていうのは…どゆこと?』


「確かに、多分そうですって言ってたね」


「ああ、あれは…僕も話に聞いたことがあるだけなのでホントにそうかはわかりませんけど」


ルベリオが記憶を辿るように顎に手をやる


「公国には特別な移動手段があるらしいんです、ただそれを使えるのは父さん…国王だけっていう話だったと思うんですが、もしかしたらイグダーツにも使えるんじゃないかと」


『結局どんな方法なの?』


「それが…空を飛ぶらしいんです」


一瞬の沈黙


「…どうやって?」


「ごめんなさい、そこまでは…でもそれも会ってみれば分かります」



そんな疑問と

頼りの存在への期待を抱えたまま


馬車はその健脚を大いに生かし


小一時間ほとでバンヘイレンへと辿り着いた

殺風景とも言えてしまうほど


町としての最低限の色しか持たぬ

武の国の町としてはまさしくな様相の町


ハイゼン武国の兵士に促されるまま

比べれば他の家屋よりかは華美な1つの家屋へと3人は案内された


扉を幾つかくぐり

恐らく最奥の部屋にたどり着く


そこには

白髪の老人、しかし髪の白さから思うような

老いは感じぬほど身体には芯が通っていた


彼こそがイグダーツ・バルシュ

公国においてルベリオの唯一の味方


入室してきた3人に

もといその中のひとり ルベリオに気づくと

その目はらんとかがやいた


だがそれはこちらも、

ルベリオも同じだった


仕える身として片膝をつこうとする

イグダーツより早くルベリオはその身体に抱きついていた


「イグダーツ…良かった、良かった…」


その声は安堵からくる涙を帯び震えていた


そしてそんなルベリオを受け止め

肩を抱くイグダーツの目にも薄い涙の膜が見えた


一歩後ろで見ていたミザリーとベイカーは

その様子に

信頼に足る人物だと胸を撫で下ろした


イグダーツが我に返ったように

一歩引き片膝をついた


「殿下もよくぞご無事で…そして」


スっと立ち上がると


ミザリーへとその視線を向けた


「あなたがミザリー・リードウェイですね」



『ええ…ちょっとご縁があって御一緒させてもらってます』


ジッとイグダーツの視線がミザリーの翠色の瞳を見つめる


「ちょっと、などという訳ではないのです。あなたと殿下が共にある。これはきっと成るべくしてなった事でしょう」


意味ありげな発言に3人が目を合わせ合う


「時間がありません…大事なことだけをお教え致しましょう」


手近な椅子に座るよう促すイグダーツ


ベイカーはルベリオを座らせその後ろについた


ミザリーは壁にもたれイグダーツの発言を待った


軽く目を閉じ息を吐くと

イグダーツはミザリーを見つめ言った



「まずミザリー・リードウェイ…あなたはハーディン・ウェイヤードとアリシアス・リードウェイの間に授かった子なのです」


世界から音が消えたかのような沈黙


ベイカーは空いた口の塞ぎ方が分からないように固まった


が


「やっぱりそうだったんですね」


既知であるというようなトーンでルベリオが言った


「ラビ…知ってたの?っていうか、ハーディン・ウェイヤードって国王の…だよね?」


ベイカーがなんとも複雑な表情でミザリーを振り返ると


ミザリーは腕を組み

目を閉じ眉間に皺を寄せ口を固く閉ざしていた


「ミ、ミザリー?」


ラビが驚きミザリーに近寄る


「ああ…ミザは難しい情報が頭に入るとこうなっちゃうんだっても無理もない…でもホントなの?」


今度はイグダーツに振り返りベイカーが問う


「…事実です。殿下がご存知とは思いませんでしたが…」


「ただの勘ですよ…なぜかミザリーに父さんの姿が被る、その訳の理由としてはそれが一番しっくりきますから」


『ビー…私って…そうなの?』


珍しくミザリーに戸惑う様子が見て取れる


「確かに…あんまりアリス先生からミザの父親の話は聞いた事なかったけど、でも…」


と言い戸惑いつつも否定し切れないのは

ベイカーから見たミザリーの立ち振る舞いに時折誇りめいたものを感じているからかもしれない


「大事なことではありますが、時間がないゆえ端折って申し上げると彼は…


ハーディンは元々王族の血筋ではありました。ですが彼の母親は側室であった為に当時、跡継ぎを授かれずにいた王女に疎まれ城を追放されました。城を後にしたものの親子は王都の片隅でひっそりと暮らし、ハーディンが青年になる頃に母親は、王族の血筋であると明らかにせぬまま病に伏しこの世を去りました。


衛兵を生業として、やはり細々と生きていく中で彼はアリスと…アリシアス・リードウェイと出会った。


お互いに惹かれ元々がそうであるように結ばれた彼等でしたが


その時当時の王が倒れました


いまだ跡継ぎを授かれずに去った王の跡目を探すために重臣達が躍起になっているときに


内の1人がかつての側室とその子供を思い出したのです


王族の証の翠色の目が彼には深く受け継がれ、また王都に留まっていたこともありすぐに国はハーディンを見つけ王へと祭りあげようとしました


彼は最初は断りました、王になれば、相応しい・血筋などという理由で妃と政略的に結ばれることになる


だが当時は悪魔の被害も稀であり停戦協定もなく

四大国同士は隙あらば喰らい合うという摩擦状態


王不在の国などあっというまに他国からの攻撃を受ける標的になりかねない


そうなれば

彼の…ハーディンの愛したアリスにも危険が及ぶやもしれない


苦渋の葛藤のすえ彼は


愛するものを守るために愛するものから離れる


という決断をしたのです」



ひと息つくかのように言葉を切り

ミザリーらを見つめるイグダーツ


ミザリーは思わず目を伏せた


「そして…彼は王へとなる事を決意した訳ですがその際アリスとの事は秘密として、またその関係が明らかになれば何らかの影響があるとしてアリスを離れたハンドベルへと見送ることにしたのです


王族だと重臣に見つけられたとき

アリスのお腹には既にミザリーが


そして惜別の別れの時には

赤子としてあなたが産まれていた


いざ離れようとした時


赤子であったあなたが…ミザリーが手を伸ばしてきたことを何度も何度も嬉しそうに話していましたよ」



ハッとミザリーの頭に浮かんだ光景は

そんな赤子の頃のような記憶ではなかった


思い出したのは

王都炎上前


井戸の隠し通路から出てきた

ローブの人物


その人物に向かって

自分の意識かさえ分からずに手を伸ばしたことを


そしてその人物の翠色の瞳を


『じゃぁ…もしかしてあの人が私の…』


ふと自分の掌に視線を落とす

なにか自分の胸の奥が


いや、もっと奥のなにかが熱くなる感覚を覚えた


「待ってくれ…じゃぁもしかしてハンドベルが…ミザリーが狙われたっていうのもそういう関わりからなんですか?」


ベイカーがハッとしてイグダーツへ投げかける


「恐らく…そうです、悪魔による被害だったことから当時はたまたまハンドベルが犠牲になってしまったのだと思っていたのですが


その後の王都炎上 悪魔の襲撃に紛れてのハーディン国王の暗殺


そしてルベリオ皇太子への刺客


それらから考えると何らかの情報からミザリー・リードウェイの存在を知り


また、その存在がハイトエイドの思惑の邪魔になり得るとして襲撃したのでしょう


王族でないハイトエイドが王になるためには王族の血筋が存在しないという大前提が必要であるために…」


「そんなっ!そんな都合でミザをっ…」


ベイカーが歯を食いしばる



「しかし…ご無事だったとは、それも皇太子に助力してくださっていることも驚きました」


『残念ながら無事じゃなくて』


鋼の手をプラプラさせた


「話しておこう…ミザ、この人は信頼できる。そうだろラビ」


ベイカーがルベリオを振り返る


「はい、イグダーツは僕のおじいちゃんみたいなものですから」


「おじいちゃんとは…なんだかむず痒いですな」


やや照れくさそうに頬をかく


『私じゃ上手く話せないから頼むわビー』


ミザリーはミザリーで整理したいのだろう

壁にもたれ直し目を閉じた


「…ミザはハンドベルを襲撃されたときにアリス先生を庇って死んだんです」


その時点でイグダーツは驚きを隠せない

だが、聞くべきだとベイカーの次の言葉を待つ姿勢にはやはり知性が感じられる


「でも…ミザを取り戻したい気持ちからかアリス先生は機械の身体を作り、そして自分の命を贄に悪魔の魂をミザの魂として定着させた」


「つまり…彼女の身体は全てが機械…そんなことが」


それでもミザリーに視線を移さず

顎に手をやり自身の中で整理しようとする気遣いにベイカーは


イグダーツがミザリーをちゃんと理解してくれようとしていると感じた


「…ということはやっぱりアリスは…亡くなったのですね。いや…忍んでよく彼から話を聞いていたもので、面識こそなくともどこか物悲しくなってしまいます」



『…あんまり昔話してる暇はないんじゃない?』


目を瞑ったままミザリーが声をあげる


「ああ、そうだね。ミザは…もういいのか?」


それはイグダーツからの話を

自身の、両親の身の上を聞いて

整理できたのか?という問い


『ぶっちゃけ、まだ実感とか受け止めるとかは難しいから…あとでゆっくりするわ』


「よし、それじゃイグダーツさん!次はどうしたらいいのか教えてよ、ラビのために」


『そーね、今は振り返る時じゃない胸の奥に大事にしまっといて


次は未来の話をしましょう』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。