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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
Dead Dreamer
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81/98

ダンパ

#another side


ルグリッド公国

その中心都市ソーデラル


まだ町も起ききらぬ明け方


物々しい雰囲気に包まれていたのは

その核となる王城の広場


そこには百ほどの兵が静かに佇んでいた

身動ぎもなく、会話を交わすこともなく

百という数からは考えれぬほどの静寂の衆


それら全ては、ハイトエイド・ベルライン直属となる【遊撃隊】

国内に散らばっていたそれら全ての兵士たちだった


間もなくそこに静かに現れたのは

それらを統括するジャルセムという人物


リーダ・バーンスタインの消息が途絶えた今

、遊撃隊の実質的な隊長格である


そしてその後ろには


反逆の左大臣 ハイトエイド・ベルライン


面々が揃っていることを一瞥すると

ゆっくりと口を開いた


「諸君、ようやくだ…我が選び抜いた戦士達よ。この悪魔に怯えながらもぬるま湯に浸り、変化を躊躇い、隣人が血に染まりながらも己の無力を悔いない…この国は無様な負け犬の庭よ」


言葉にはその静かな声からは比例しがたいほどの力が宿っているようで

聞く人を暗い場所に招こうとするような妖しさが纏う


ともすれば不気味とさえ思えるようなその言葉を

規律正しく並んだ遊撃隊らは陶酔とも呼べるような面持ちでただただ耳で受け入れていた


「だが諸君らは違う、変化を恐れず望み、受け入れ…そして人を超えた。ならば次に為すことはなんだ?無論、均衡のためなどという綺麗事の為にみすみす手放したハイゼン武国に在る力を手中に収めることだ。」


一つ息を吸い更にハイトエイドは続ける


「均衡などというものが必要ならば、力を持つ我らが治めれば良い。人を超えた力をもって人である事に固執した愚者共を導いてやればよい、前国王の綺麗事で人を救えたか?否、何も変わっておらぬ。力ないもの達は従うことこそ最善の生き方と知っている、示すのだ。我らこそ導き行く器だということを!そして、全てを…手に入れる」


語り終えるとハイトエイドは百の遊撃隊を見回。

すると遊撃隊らは、賛同の意を示すかのように跪いた


コクリと頷きながら側近のジャルセムに視線をやる


それを合図にジャルセムが号令をあげた


「行くぞ!ハイゼン武国へと!目指すはただ一つ!【魔女の檻】を我らが王へと!」


応えるようにオオーッと百からなる遊撃隊が怒号をあげる


そして、順に順にと

遊撃隊の面々らは広場から王都の外へと。ハイゼン武国へと向かって行進を始めた


続くようにジャルセムとハイトエイドも馬に跨る


遊撃隊らが出陣しきるのを見守る最中

ジャルセムがハイトエイドへと報告する


「ハイトエイド卿、右大臣のことですが…」


「なんだ?別にあのような老いぼれ一人構うようなこともあるまい、無力であろう」


と吐き捨てるが


「いえ、それが昨晩の内に出立されたようなのです。行先は告げずに出かけたようですが、方角的に恐らく…ハイゼン武国へと向かったのではと推測されます」


ピクリとハイトエイドが微かに反応する


「ハイゼン武国へイグダーツが?…確かにこの緊急時を鑑みて、ハイゼン武国へと停戦の念押しに行くという話はあったが…秘密裏にすべきことではない…」


顎に手をやり思索すれど


「ふん、まぁいい。結局何もできんさ…老いぼれ一人に止められるものなどない。」


「気になるのは…定時連絡を寄越さぬアーサー・ビークマンでしょうか?」


ジャルセムが言う通り、ここ直近の定時連絡をアーサーは寄越しておらず足取りも恐らくセントーンを抜けた頃合ということぐらいしか把握していない


「アーサーは問題ない、奴に仕込んだ黒箱は…王殺しの性を心根に抱く者だ。飲み込まれれば意志など路傍の草のように踏みしだかれ、必ずや王の血を枯らすことだろう。それより」


ふと、俯くと

懐から一冊の本を取り出した


先日、王の文献の中から見つけ出したものだ


「気になるとすれば…ルベリオと共にあるという金色の髪の娘」


眉間に皺がより、一層厳かな顔つきに変わる


「いや…杞憂だろう。もしそうだとしても、魔女の檻さえ手にしてしまえば取るに足らん小娘だ」


遊撃隊が全て出陣するのを見送ると

カッと馬の蹄を打ち鳴らす


そして、ハイトエイドとジャルセムもゆっくりと後を追うように王城の広場から歩を進め始めた


一歩一歩、暗い望みに近づいていくように




# misery,s side


こちらも行軍というには心細い人数だが

ミザリーら4人はうだる暑さにも負けじと順調に歩を進めていた


夜間、休息をとった小屋を出てはや数時間がたった。


小高い山を登りつめようとする頃


「やっとだよ、地図上はもう…ここはハイゼン武国だ」


少し乱れた息を整えつつベイカーが告げた


『なんか…国との境って関門とか?そういうのがあるイメージだけどそういうわけじゃないのね?』


「いや、あるはずだ。山を登りきれば見えてくるだろう」


アーサーの言うように

登りきってない今、茂る木々に視界を取られ

向かう先の全貌は見えていなかった


「この先は確か谷になってるんですよね?地図だと最短距離でハイゼン武国へ行ける道…」


思いがけずルベリオの言葉が止まった


それは丁度小さな山を登り

向かう先の谷が見えた頃、見えたものから受けた印象に言葉を途切れさせられた


山と山と隙間

渓谷といったようなその入口を塞ぐように

巨大な門が設けられている


門前にはいくらかの兵士が見られる

恐らくは門の内側には比にならないほどの兵が大挙してあるだろう

それを感じさせる静かな圧があった



『まさしくな関門って感じね』


「そんな気楽にいうもんじゃ…」


覚悟していたミザリーとベイカーだが

そんな覚悟していた二人よりも


アーサーとルベリオの表情は険しかった


『どうしたの?関門ぐらいなら想定してたでしょ?』


呼吸さえ忘れていたかのような面持ちのアーサーが一つ息を吸いミザリーらを振り返る


「関門が問題じゃないんだ、その関門に掲げられた旗が見えるか?」


言われて

再び2人は関門に視線をやる


確かにアーサーの言うとおり関門には

何本かハイゼン武国の国旗らしき旗が見えた


「でもあれがどうしたんだ?」


ベイカーが問うとルベリオが静かに答えた


「あの旗は【不可侵領土】の証明です」


『なにそれ?』


「ハイゼン武国とルグリッド公国、そもそも四大国は今や停戦協定により争う事をしていません。ですが、それでも国としての要所に関しては国の許可なく立ち入ることを禁止された地域があります」


「それがあの不可侵領土?」


「はい、そしてその不可侵領土に立ち入ったものには誰であれ絶対的な粛清が行われます…」


「それって…」


いち早く理解したベイカーの表情が曇り出す


「あの関門をくぐろうとすれば、無論許可などない俺たちはあの関門にいる全ての兵から命を狙われるってことだ」


追って理解したミザリーが

三度関門に目をやる


山と山の隙間に設けられた関門

その中の兵が奥に控えているように見えた


「ルグリッド公国から最短の距離でハイゼン武国への中心へと進める道だ…無理もない、迂回するしかない」


ベイカーが鞄から地図を取り出すと

広げた地図を覗き込む3人


「今からこの山を迂回するってなると…引き返さなきゃいけないこともあるし…大分時間がかかる」


ただただ最短でと進んできた結果

思わぬ遠回りが必要となってしまった


『あそこ…登れそうじゃない?』


関門のほうを眺めていたミザリーが関門から少し離れた所を指差す


見ると

登るのが困難に見えた山肌の一部

険しくこそはあるものの登り抜けれそうな箇所が確かにあった


だがその登れそうな道は関門の内側に伸びているように思えた


「確かに登れそうではあるが…大分険しいな、それに。そこをのんびり登るのを関門の兵たちが見て見ぬふりしてくれるっていう大前提が必要になってくる」


「そうですね…登ってる最中に狙われでもしたら逃げることもできなさそうですし。ここは…引き返して別の道を探しましょう」


ルベリオもひどく悔しそうに来た道を振り返

る


『そんな暇ないんじゃない…ビー?』


ミザリーが関門の、ミザリーの言った登れそうな山肌を見つめるベイカーに言葉をかけた



ベイカーは深く息を吸った

そして、ゆっくりと吐いた


「ああ、ミザ……頼む、ラビの道を切り開いてくれ」


「なっ!!?」


ベイカーの発言を、聞こえた言葉を疑うようにベイカーにアーサーが向く


「ミザが関門で兵の気を引いて…囮になってる間にあの山肌を登る」


「お前っ!!何を言っているか分かってるのか!?話を聞いてなかったのか!」


真っ直ぐベイカーに向かうと

アーサーはベイカーの胸倉を掴む


「分かってる…不可侵領土に立ち入ろうとしたミザは関門の兵士達に一斉に狙われる…」


「分かってて!何故そんな提案ができる!腕が立つだけでどうにかできる問題じゃないんだぞ!向こうは殺す気でやってくるのに、こちらは相手を殺せない…それが戦いにおいてどれだけの差を生み出すかわからないのか!?」


一言一言を吐き出す度に

怒りの表情が濃くなるアーサー


『必要なんでしょ?ビー』


「ああ…最短で行かないとそもそもが頓挫する。全部無駄になるかも知れない」


『…分かった』


ミザリーは静かに頷いた


「待て、なら俺が行く!ミザリーをみすみす行かせることはないだろう!」


「ダメだ…ミザの俊敏性と体力がなかったら時間を稼ぐどころじゃない」


「ベイカーッ!!ミザリーが死ぬかも知れないんだぞ…失うかもしれないんだぞ!なんでわからないんだっ」


グッと歯を食いしばるとベイカーは絞り出すように言った


「知ってるよ、僕は…ミザを失う辛さなんて

…とっくに知ってるんだよっ!」


思わず声が荒ぶるのはかつての無力を思い出した為か


そのベイカーの言葉に戸惑う


「な…どういうことだ…」


胸倉から手を離した


だが、それでも

アーサーは、ベイカーが嘘偽りを並べた訳ではないと、瞳から悟った


「ミザリー…いいんですか?」


心配そうに、申し訳なさそうにルベリオがミザリーへと近づく


『全部無駄になるよりよっぽどマシでしょ?心配だってんならさっさと登ってね』


「ミザリー…君はなんで、そこまで」


『別に犠牲になるつもりないわよ、アンタらはしっかりラビを守ってちょうだい』


「…休憩しよう…ミザ、ちょっと」


ベイカーがミザリーを手招く

アーサーとルベリオから距離を取ると


うつむき、ふぅと息を吐いた


「分かってると思うけど今回はかなりシビアだ、相手は殺す気でくるとはいえ人間だしハイゼン武国と争うって事もあっちゃいけない」


『そもそもシビアなストーリーよ…ま、いなして躱して峰打ちって事でしょ?』


「うん…それに大勢の敵意がミザに向くことになる。気分の良いもんじゃないことは分かってる、それでも」


『ビー…アンタが言ったんでしょ?』


言葉を断つようにミザリーが言う


『私は自分で切り開いていく、なにもラビのためだけじゃない。それが必要だったから私はそうする』


「ああ、そうだね…うん、そうだ」


緊張の中

それでも2人の間には幼馴染の空気が漂う



そして



「ベイカーはなんであんな案を、出せたのでしょう」


どこか納得行かないように

座り込むルベリオの周りを歩き回るアーサー


「アーサー、落ち着いてください。あれは…あの提案はベイカーが一番辛いんです」


「ベイカーが…?しかし…」


「ミザリーは、結構無茶をします…たぶんベイカーより先に自身を囮にするって考えがあったんだと思います。でも、その決断に確信を持てなかった…だからミザリーはベイカーの後押しが欲しかったんです」


アーサーはグッと歯を噛み締めた

気付いたからだ


「それを分かっててベイカーは、あの提案を…ミザリーの後押しをしたと言うんですか…」



「はい、ミザリーが危険な目にあうことを承知で…ベイカーはこう言ってたことがあります。「本当はミザに戦ってほしくなんてない、ミザは普通の女の子なんだ」って。だから戦場に後押しするようなこと、本当はベイカー辛いんです」


アーサーはつい顔を背けてしまった

ミザリーの戦闘能力を知っているアーサーはついミザリーを戦力として見ている部分があった

女性としての魅力を感じているのも確かだが、それでもミザリーを年相応の女子として見えていなかったのかもしれない


「アーサーの見方が悪いって訳じゃありませんよ、僕もついミザリーの強さに憧れちゃったりしてますから」


小さな手を固く握るルベリオ


「僕はミザリーやベイカーに報いるために必ず公国に戻り父上の意志を継ぎます。僕は僕のやれることで恩を返すつもりなので…アーサーも手を貸してください」


ルベリオの声がけにアーサーは力強く頷く


「勿論です、必ず…送り届けます。」



と一つの、いや二つの決意を新たにした所に

ミザリーらが近づいてくる


『行くわよ、準備はいい?』


ミザリーはベイカーに自身の荷物を預け、その持ち物はマリーゴールドにマッドローズと身軽なものとなっていた


「ああ、殿下は俺が必ずお守りする。ベイカー…ついてこいよ?」


不意な声がけに思わずハッとするベイカーだが、すぐに力強く頷いた


「ミザの無事はいかに僕らが素早く山肌を登って関門の向こう側、ハイゼンの兵士らの目の届かない所へ行けるかにかかってる。」


『抜けたら指笛鳴らしなさいよ、さすがに撒く必要があるから指笛聞こえたら…使うわよ?』


使うとは、アーサーの手前直接的な言い方をしないが無論フェンリルの力の事だ


「ああ、タイミングは任せるけどあくまで自衛の時は指笛待たずに使ってくれよ?もしも脚が壊れでもしたら流石のミザでもまずいだろうから」


『ヤー、そんじゃスタンバイしてちょうだい。』


首を軽く左右に振るとミザリーは関門を見据えた


『ダンパのお誘いでもしてくるわ』


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