僕が一発かましてやります
# another side
ルグリッド公国 最西の町 セントーン
町の中心に隣接する宿屋の内の一つ
更にその中のとある一室に四人
はいた
四人というのは、ミザリー・ベイカー・ルベリオの三人に
なぜか同行を決めたアーサー・ビークマンを加えた四人である
『…なんでアンタがついてくんのよ?』
二つあるベットの内の一つに腰掛けたミザリーが問う
「それは、無論皇太子のお力になるためだ。」
これまた二つあるソファの1つに腰掛けたルベリオの傍らに
真っ直ぐな姿勢で直立している
アーサーが凛と答える
「ハイトエイドの命令はルベリオを連れ戻すことなんだろ?いいのかよ」
と今度はその横のソファに座っているベイカーがぶっきらぼうに投げる
「言っとくけど俺の方が君より歳上だからな?ちゃんと敬えよ?」
「こっちこそ言っとくけどね!別にアンタを信頼してる訳じゃないんだぞ、ラビがいいっていうから仕方なくだからな?」
「そもそも君はなんなんだ?王城のものでもないし、兵隊でさえないだろ。なんで同行してる?」
どうやベイカーとアーサーの相性は良くないらしい
売り言葉に買い言葉を繰り返してばかりいる
『ビーは私の連れよ、それに』
「ベイカーは僕の兄貴分っていうやつです、それに友だちです」
見ておけず、ミザリーとルベリオが仲裁を図る
「ラビ…君ってやつは…」
なぜかベイカーが思いがけず感極まる
「しまった!!」
最中、突然アーサーが声をあげる
『なんなのよアンタ…不安定な人?』
「そういうことじゃない!君!」
『なによ?』
「名前を聞いていなかった、運命の人よ」
『はっ?』
名前を聞かれたことよりも、運命の人という言葉に引っ掛かりを感じる
「なんでミザがアンタの運命の人なんだよ?」
なにか面白くなさそうにベイカーが
アーサーに訊ねる
「そうか、ミザと言うのか!良い名前だ!」
うんうんと頷きながら、少し満足そうな表情のアーサー
『…ミザリーよ、ミザリー・リードウェイ』
とミザリーが訂正した
「OK、アーサー・ビークマンだ。改めてよろしく」
「って言うか、ハイトエイドからミザの名前ぐらい聞いてなかったのか?」
「いや?皇太子と金色の髪の女性が共に行動していると聞いただけだ。まぁ俺は、それ以前に縁があったからすぐに君のことだとは察しがついたけどね」
「…アーサー?」
ルベリオがふと、声をあげる
「何でございましょう?」
「ハイトエイドからの命令は僕を王都へ連れ戻すことだけですか?他には何か命令を?」
「いいえ、皇太子を保護し王都へとお連れするのが任務だと。他には特に何も…それより」
アーサーが、少し表情を強ばらせる
「その…本当にハイトエイド卿が…国王を?」
信じ難い事なのは間違いない
それほどまでに謀反とは起こり得ない事なのだ
「はい…実行したのは遊撃隊長のリーダですが、指示はハイトエイド卿からのものと見て間違いないと思います」
はぁ、と顔を手で覆いながらため息をつくアーサー
「リーダ・バーンスタインを動かせるのは実質ハイトエイド卿のみでしょう。それにそんな役割を果たせるのも又リーダ・バーンスタインのみ…ならば事実なのですね」
「気になるのはそこだね」
ベイカーが顎を触りながら、次の疑問を口にする
「そことは?なんだ?」
「ハイトエイド卿がリーダに国王の暗殺を命じた、次いで追っ手としてルベリオを追わせた。もちろん命を狙ってね」
『そんで何が気になるのよ?』
「つまり、詳しくは分かんないけどハイトエイドの目的は王位だ。国王と、それに次ぐ皇太子が居なくなれば今のルグリッド公国に王族の血筋は居ないんだろ?」
「はい、厳密には数名居なくはありませんが…ご高齢だったり、あまりに遠縁であったりするので」
「…いらっしゃいません」
「え?」
「その皇太子のおっしゃる遠縁の方、高齢の方たちは…先日の炎上の際、命を落とされました」
三人を不意に悪寒が包んだ
『そこまで…手を回したってこと?』
「可能性は…いえ、むしろ偶然で片付かない…」
ルベリオの顔色が少し悪くなっている
それを気にする素振りも見せたが、ベイカーには一つの懸念があった
「そこまで悪事を徹底してるなら尚更引っ掛かる」
『なにがよ?』
「なんでアーサーへの命令がラビを連れ戻すなんだ?ハイトエイドにとってラビは最後の邪魔者だろ?それならアーサーへの命令はラビを殺せってことになるんじゃないのか?」
『…確かに、ラビがいるんならハイトエイドは王にはなれない。そこまで徹底してる奴がラビに情けをかけるなんて思えないし』
チラリとアーサーへと視線を向ける
「間違いない、ハイトエイド卿は皇太子を連れ戻す命令を私に与えた。殺せ、などは言われていない」
「恐らく…アーサーには自身の企みを悟らせたくないのでしょう、正義感からの反発が目に見える性格ですから」
「じゃぁ…手近に連れて来させて自分の腹心なり何なりにラビを殺させる気か?」
険しい顔をしながらアーサーも意見を述べ始める
「いえ、私が皇太子を王都にお連れすればそれはもちろんイグダーツ卿や、他の者にも多く広まります。その後に皇太子にもしもがあればハイトエイド卿の思惑に気付く懸念もあるのでは」
『つまり、なんでハイトエイドは企みを知らない所か反発しうるコイツを追っ手にしたのかってこと?』
「ミザにしちゃ鋭いね、その通りだよ。」
『あームカつく』
「まだ何か裏がある、という事になりそうですね。それはそうと…遊撃隊長は?リーダ・バーンスタインはどうしたのですか?運良く遭遇しなかったとか?」
ぶすっとした顔のミザリーの顔がかすか曇る そして
『来たわよ…今は分からない』
豪雨の中、濁流に流れていった
リーダバーンスタイン
その行方はもちろんミザリーたちの知る所ではない
「ミザリーが撃退したっていう所だね、あれから追ってきてはいないってことは…重傷なのかもね」
「リーダ・バーンスタインを…君が?」
驚きを隠せない顔のアーサーの支線がミザリーを捉える
『まぁね… 川に落とす気はなかったけど』
「君は…そんなに腕が立つのか、いや恐れ入った。さっき一合合わせた時もやるものだと思ったがまさかリーダを倒すほどとは…」
純粋な感心のようだ
深く息を吸いミザリーから視線を外そうとしない
「ってことは…だけど、君はリーダ・バーンスタインが四つ脚だってことも知らなかった訳だ?」
ベイカーがアーサーに尋ねる
「彼女が…四つ脚?」
目を見開きベイカーへと向き直る
「そうさ、彼女だけじゃない。ハイトエイドの部下らしき兵が悪魔になるのを僕ら三人とも見てる」
俯き頭を抱える
耳に入る情報とこれまでに起こった出来事を振り返り示し合わせているように
「ということは…王都の炎上は悪魔の襲撃にかこつけてではなく、そもそも全てがハイトエイド卿が仕組んだ事…しかし人が悪魔になるなんて…」
信じ難い、しかし信じずを得ない事も確かだとアーサーの顔は曇りながらも冷静さを取り戻しているようだ
「それについてですがアーサー、〈魔女の檻〉について何か知っていますか?」
ルベリオが問うたのは、ミザリー達が出会った巨大な蛇
〈世界に潜る蛇 ヨルムンガンド〉
がミザリーへと投げた言葉
〈世界を駆ける狼〉 つまりミザリーへと
忠言したというその言葉が
もしかしたらこの事態とも何か繋がりがあるのではないかとルベリオは予感したのだ
「ハイゼン武国が所有する国と国との均衡を左右しかねないものである、ぐらいの認識しか…それもおとぎ話のようなもので真偽も分からない代物です」
「アーサー、ハイトエイドに他に動きはありませんか?」
「遊撃隊を…王都に集めています。この状況ですから王都を第一にとのことですが、お話を聞く限りそれだけとも捉えかねます」
『まだ何か企んでるってこと?』
「まだ何ともだね、何と何が繋がってるのか、どこに何の意思があるのか。正直まだ僕らには図りかねる」
「今はとにかくハイゼン武国のダラム王に会いましょう…こちら側が不利すぎます、というか…」
『私らだけじゃ流石に手に余る大事だからね』
「違います、ミザリーとベイカーは友達だから…本当は僕が理由で危ない目にあって欲しくないんです、同行を頼んだのは僕なのに勝手ですけど」
何とも優しい言葉にミザリーとベイカーは
少し顔を見合わせて笑った
「僕らはラビに王様になって欲しいんだよ、友達が王様だなんて誇らしいったらないからね」
『そーね、幸い多少の無茶は通せる身体よ。たった二人の味方じゃ心細いだろうけど』
自身の鋼の腕を見回すミザリーをチラと見るとルベリオは言った
「何ででしょうね、たった二人なんですけど、それでもミザリーとベイカーが居てくれたら大丈夫だって思えてるんです」
ルベリオも笑った
真に信じられる友人を得た喜びが
その表情からは感じられた
「ま、こっちの事情ももしかしたら絡んでるかも知れないからね」
照れくさそうな顔でベイカーが
『私らができるのはラビを武国に連れて行くってとこまでよ、政治やら何やらには何も出来ないから…そっからはラビ、あんたの出番よ?』
真っ直ぐにルベリオを見つめるミザリーの視線
それに目を逸らすこと無くルベリオは言った
「はい、そこまで手を貸して貰えたならあとは…」
スっと息を吸う
「僕が、一発かましてやります!」
思わず、笑みが零れるベイカー
「なんだよそれ、君ら姉弟だったの?」
『意気込みや良しってヤツよ』




