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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
Dead Dreamer
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72/98

剣と銃と狼の尻尾

# misery,s side



『行くわよっ!!』


一抹の不安はあったが

無事にフェンリルの力を引き出せたミザリー


〈ジャッ〉


思い切り、地を踏み込み

凍て蜘蛛 ベイガンへと突っ込む


ところが感覚で言えば

距離を詰める ぐらいのものであったはずの

ミザリーの身体は

思いのほか距離を駆けてしまったようで

目標を通り過ぎ


むしろベイガンから距離を取ってしまった



『…ん?』



当のミザリーも自身の思わぬ挙動に

戸惑う様子を見せる



「ミザリー…どうしたんですか?」



その様子にルベリオも不安げな表情を浮かべている


「フェンリルの力を引き出すのは上手くいったはず…ちょっとピーキーな所があるのかも」


「っていうと…?」


「フェンリルの力でミザの身体は動力のリミッターが外れる。多分、そのリミッターが外れた際の動力をまだ自分の運動能力とイコールでくくれてないんだよ、どれだけ引き出せばどれだけ伸び代が出るのかが経験がないから」


「難しい、感じですね…」



そうこう言っていると


〈ゴシャァッ〉


と地面が砕ける轟音が耳を突く



【グァーッ!!すばしっこい!目障りだっ!!】


ガンガンといくつかの脚で地団駄を踏むたび

地面が振動を伝える



『ふっ…っと、なるほど…』



声の聞こえた方に目をやると

いつの間にやら、ミザリーが道脇に生えている大木の枝に腰掛けて

掌を開いたり、閉じたりしていた



「だ、大丈夫かよ。ミザ?」



『アーイェ…慣れてきたわ。それより…もっと下がってなさいよ』


パチッと微かな電気の弾ける音と共に

ミザリーが枝から飛び降りた


『ちょっと…はしゃいでみるから!』



〈トッ〉



とその重量にそぐわぬ着地音が

聞こえたか聞こえぬかのタイミングで


ミザリーはベイガンへと思い切り加速した


風を裂くその姿はまさしくの獣のように苛烈


それでも意識は、鮮明にある



『おいで!女神さまっ』


どういう原理かは分からないが

ミザリーの言葉を引き金に光る三つ編みが揺れ

いつの間にか地面に突き立てていたノルニルへと伸びる


そして、先端の毛束がポゥッと

手のように変形すると、器用にその柄を握った



「すごい…あれ、ミザリーの意思で?」


「恐らくね、ミザにとって内在するフェンリルの魔力は敵性じゃないらしい…まぁ、だからミザのエネルギーの供給源になってるわけだけど」


「?」


今ひとつベイカーの浮かない顔に疑問はあるものの



ミザリーとベイガンの戦いは

あくまで不利ではないという兆しが二人に

僅かな気持ちのゆとりを持たせた



〈ガッ〉


三つ編みが手繰り寄せたノルニルを手に

巧みな動きで隙を突いたミザリーが


ベイガンの脚に一撃を振り被った



〈ガシャァッッ〉


と重い音、有効打ともとれる響きだが


『ッッ?!』


振り切ったミザリーが眉をしかめ

素早くバックステップで距離をとる


そして


手に持ったノルニルを掲げると


〈ガチャ…パラ…〉


と細やかな破片を散らしながら

その刀身が砕け始めた


【グァッッグァッッ!なんだ?そんな脆いもので我を破壊できるか?もはや剣としての体裁もないではないかっ?】


得意気にベイガンが笑い零すように


ミザリーの持つノルニルは見る見る間に

刀身が砕けていき、手に残ったのは



『持ち手だけ…笑えるわね…』


プラプラと残った持ち手を振るうと

辛うじて繋がっていた破片も落ちゆき

もはや元の面影は残っていなかった


だが


「…なんだ?あの形?」


遠まきに見ていたベイカーが気づく



というのも

鉱石めいたもので持ち手や刀身が覆われていたノルニルが砕けた後に残った持ち手は

元の姿とは打って変わった様相だった


なにやら意味深なまるで銃の様な引き金めいた装飾が施された鍔

そして長い持ち手の真ん中には繋ぎ目のようなものがあり


その持ち手には


『…蛇?にしても…』


蛇が刻まれているのだがその中ほどにある繋ぎ目の部分がズレて刻まれている



「蛇は…まぁあのデカい蛇がくれたから?ってことなのか?でもたまたま中にあんなものが埋め込まれているって訳ないだろうし」


「じゃぁもしかして、あれが本当の形態?ってことですか?」


「でも…なぁ?」



疑問が次から次へと浮かんでくるものだから

ベイカーの険しい顔は一向に収まらない


【刃のない剣ならいざ知らず!グァッッ!刀身そのものがない剣など、杖にもならん!】


ある意味ここまで感情豊かな悪魔を見るのも初めてだが、

そんなことに感心をもつなどということもなく



『悪魔に笑われるなんて…なかなかない経験だけど、ないに越したことないわね』


〈ピキッッピキッッ!〉


一通り笑い終えたベイガンが再び攻め出す

大気中の水分が凍結し


氷の牙の形を成し、ミザリーへと襲いくる


〈ヒュンッッ〉


硬そうな氷ではあるが、今のミザリーにとって見切れぬ速度では無い


左右へのステップでなんなく躱す


『ん?』


ふと気づいたミザリーが

残った持ち手をベイガンへと向けて構え

、鍔にあしらわれた引き金を引く


しかし、何も起きない


〈ガチリ〉


と小気味いい金属音が鳴るだけであった



『…粗大ゴミかしら…』


〈ブォンッッ〉


再びベイガンの前脚が強襲してくる


『ッッ』


ポゥッ


再び光る三つ編みに意識を送ると

今度は迫る前脚へとぶつけてみる



〈グォォンッッ〉


なんとも言えない衝突音を響かせはしたものの

弾くことができた


ミザリーへの衝撃も思った程でもないのは

光る三つ編みとミザリーが物理的に繋がっていないからだろう


『お利口ねっ!!…にしても』


のんびり考え事もできないのかと

ミザリーはベイガンから再び距離を取ると


残った持ち手を三度観察する



「ミザッ、あんまりそれに期待しない方が良いのかも知んないよっ?」


ベイカーが声を上げた



『違うって、粗大ゴミならそれでいいんだけど…気になんのよ、この模様がズレてんんのが…』


と眺めているうちにモヤモヤが溜まったらしい


持ち手を握り、さらに左手で下の方を握ると

ズレた蛇の模様が正しく重なるように力を加えた



「それは無茶な…」


傍から見ていたルベリオが零すが



〈ガキッッ!!〉


と持ち手が中央の繋ぎ目からくの字型に曲がり蛇の模様が正しく重なった


「マジかよ!」


と同時にミザリーはその持ち手から何かを感じた



『オーライ…今なのね?』



ミザリーは鍔を真下に構えると

引き金を引いた



すると



〈キィン〉


と鳴り


〈ザザザザザ〉


鍔から鱗の様な刀が次々に押し出されてきた


〈ジャッ〉



その鱗の様な刃が地面に到達するとミザリーは引き金から指を離した



そしてそれを担ぎあげると


正しくそれは剣のような姿となっていた



『ふぅん…粗大ゴミなんて言ってごめんね。』



「刃が、飛び出してきた?」


「…なるほど、蛇の模様が正しい位置に収まって初めて力を発揮する、と。あの蛇は、ミザにこれを渡したかったのか?」



【魔器だとっ!!?しかもあの老いぼれ蛇の…ますます気に食わん!】



〈ガンッガンッ〉


何度目かもわからぬが。苛立ち混じりに脚で地を叩くベイガン



『別にアンタに気に入って貰いたくなんてないけど?魔器?でもなんでもいいわ』


元からそうであったかのように

なぜだか今の自分にしっくり来たミザリー


剣、銃、尾


きっと揃ったのだろう、意志を貫き通すのに必要なものが


『やっと喧嘩できそうね!!』

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