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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
Dead Dreamer
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71/98

凍て蜘蛛 ベイガン

# another side


ルグリッド公国


王都ソーデラル その中心にそびえ立つ王城


その内の一室 礼拝堂にハイトエイド・ベルラインはいた


すでに皇太子奪還の任をアーサー・ビークマンに与え早十数日が経過していた


報告が未だ届かぬことに対しての焦りや

ハーディン国王逝去ののち今後の公国への憂いなど


あるべく立場の者としての感情は彼には見えない


深い皺が刻まれた顔は厳格ではあるものの

どこか未来に対しての期待、確固たる発展の展望が見えているような光をその瞳の奥にたたえていた


そんな彼の背後に

一人きりで居たはずの室内に


スっと影が立つように一人の人物が佇んでいた


そして


「こちらの準備は八割方整いました、あと十日もあれば不備なく万全の準備を完遂できるかと」


そっとハイトエイドに言葉をかけた


「…そうか、整い次第報告しろ。ジャルセム…」


「なんなりと」


「リーダ・バーンスタインからの報告は…ないな?」


「いまだに、届いておりません…恐れ多くも、隊長の身に何か起こったのではないかと」


隊長、とリーダを呼んだ通り

ハイトエイドと言葉を交わした男は

巡国遊撃隊 副隊長を任されたジャルセム・ジャンバール


淡々と話す彼の言葉には所属する隊の隊長であるリーダを案じている様子は、見られない


「恐らくな…ほんの僅かな…か細い光を持ってちらちらと駆け回る邪魔な獣がいるらしい」


「ご命令賜れば、私がその獣を退治してご覧にいれます。」


「その必要はない、すでに手駒が差し迫っている」


その言葉にほんの少しの間を開け

ジャルセムが返す


「それはあの護警団の若造のことでは…リーダ隊長が敗れたのであればいささか荷が重いかと…」


「心配ない…【黒箱】を渡した。何でも…彼は大層な正義漢らしい…その純な感情を餌に、きっといいモノが生まれるだろう」


何を想像してか、ハイトエイド卿の顔が

愉快そうに歪む


「アーサー・ビークマン……人を捨ててこそ、この人の世には得るものがある。…」


クックッと堪えきれずこぼれる笑い声が

暗い礼拝堂の中静かに響いていく




# misery,s side



『ねぇ?もうすぐハイゼン武国の領土内に入るんでしょ?軍の人見っけてかけあったりした方が楽じゃない』


もうすっかり歩きながらの会話にも慣れ

疲労は重なりつつも徐々にその足取りは目的地であるハイゼン武国へと近づいていた三人


道すがらふと思いついたようにミザリーが問う


が


「正直…ハイゼン武国内で僕のことを認知して貰えてるとは思えません。仮にそうしてみたところで信頼性も信憑性も薄いし、信じて貰えないと思います」


ミザリーの問いに残念そうにルベリオが返す


「やっぱり面識のあるハイゼン武国の王様に会うしかないってことか…いきなり訪ねていって国王に謁見するって大分ハードル高いよ」


ベイカーも薄々感じていた不安要素だ


直接国王に謁見することしか方法がなくとも

その方法が非常に難しい


『…侵入とかする?』


「ミザはすぐ強硬手段に走ろうとする」


「武国と言うだけあってハイゼン武国の兵士は屈強で、おまけに城内の守りに関しても四大国随一って言われてるんですよ?さすがのミザリーだって難しいと思いますよ」


『やってみなきゃ分かんないわよ』


「…張り合おうとするんじゃないよって、おお…また登り坂か」


ベイカーが苦虫を噛み潰したような顔をする


三人の目の前には何とも長い登り坂が顔を見せていた


おまけに


「この暑い時に登り坂は勘弁して欲しかったなぁ」


うだるような暑さにベイカーもルベリオも顔に汗を浮かべている状況


相まってついつい二の足を踏みそうになる


『日が陰るまで待つ訳にも行かないでしょ…行くわよ』


機械の身体ゆえ、汗をかくことのないミザリーだが

それでも何となく煩わしそうに坂道へと足を踏み出し始めた


そして


その僅か数分後のこと



「…ねぇ?なんか…聞こえない?」


ふっとベイカーが立ち止まる


『なんかって?』


先頭のミザリーが振り返り

ルベリオも立ち止まり辺りを見回す


「なにか聞こえましたか?」


「なんか地鳴りって言うか…それに…寒くない?」


『あんた自分がさっき暑いってボヤいてたの忘れたわけ?』


眉をひそめるミザリーだが


「言われて見れば…確かに肌寒くなってきましたね」


ルベリオも同様に寒さを感じているようだ



『別に曇ってきたわけでもないし、何ならお天道様はてっぺんにいるわよ……』


「そうなんだけど、なんか急に汗も引いてきたし」


『…??』


機械の身体ゆえに気温の変化に反応が鈍いミザリー

だが生身の二人とは違うミザリーだからこそ

感じ取れるものもある


『何かくる』


「え?」


今度はベイカーとルベリオが謎めく番である

二人には感じれないものをミザリーが感じている


「でもそういうのって…大体ろくでもないものだよね」


ベイカーが嫌な予感に顔をひくつかせたその時


地響きのようなものが足元を揺らした


「うわっ?じ、地震?」


思わず足を取られるルベリオ

慌てて手を貸そうとするベイカー


そして、同様に駆け寄ろうとするミザリーら三人は


それが地震ではなく一存在を起因とする

現象だと気づいた


何故なら


三人が登ってきた坂道に目を向けると


猛然と地面を踏み鳴らしながら

全長20mはあろうかという


巨大な蜘蛛が迫って来ているのを視認したからだ



「なっ!!?なんだあれ!?」



日常的に目にする蜘蛛とは

比べようもないほどの巨大な体躯


蜘蛛だとは信じ難いが

その形は蜘蛛と形容する他なく


急ぎ結論づけるとすれば


とんでもなく巨大な蜘蛛の悪魔であった



『とにかく走るわよ!あんなの相手にしてらんないわ!』


ベイカーとルベリオを促すと

相手にしないと言いつつも懐から大型拳銃 マリーゴールドを抜く


「頑張れ、ラビ!後ろは見なくていいからとにかく前に走れ!」


「は、はいっ!!」


二人はミザリーへと

追いつくとそのまま走り続けた


ベイカーとルベリオが先行しつつ、ミザリーが殿を務める態勢をとる


そこに


【グァハハハ、逃げるのか!?狼!!】


地鳴りを踏み鳴らしながら

地鳴りのような歪んだ声で大蜘蛛が言葉を投げてきた


それも台詞からするに、ミザリーへと向けて



『は!?私に言ってるわけ?』



「その可能性は一番ミザが高いよね!」



ベイカーも走りながら妙な相槌をうった


と思えば


「って、喋った!!?」


と驚き振り向く



【我は〈世界を這う大蜘蛛〉ベイガンッッ!!何十年も!何百年も前から!我が物顔で世界は駆ける貴様が気に入らなかった!!】



「世界を這う…それって」


ベイカーはふと思い出した


かつて船旅の最中にであった巨大な蛇

敵性のものではなかったが


その蛇も名乗っていたのだ

〈世界に潜る蛇〉と


そしてミザリーのことを

〈世界を駆ける狼〉と呼んだ


「なんか関係があるのか?」


『知ったこっちゃないわよ!そんなシリーズ!大体私は、何百年も生きちゃいないっての!』


どうやらミザリーも同じことを思い出したようだが例によって考え事はしない主義らしく


ジャッッと

砂を踏み滑りつつ振り返ると


とにかく

追ってくる大蜘蛛へ


マリーゴールドを構え

そして発射した


〈ドゥオンッッ!〉


放たれた弾丸は一直線に

ベイガンと名乗った蜘蛛の顔へと風を割き飛んでいった


しかし


いざ、狙いの的となった顔に到達する数十センチ


急に失速し始め


その弾丸が顔に当たる頃には、まるでその威力を失ってしまっていた


〈コンッ〉


軽い音と共にマリーゴールドの弾丸は地に落ちた


【グァッ、グァッ…なんだそれは?】



立ち止まったミザリーに倣うように

その足を緩め静かに歩き出す大蜘蛛


『どうなって…』


ミザリーが思わずマリーゴールドに視線をやった時


ミザリーの鋼の腕

その表面が霜が降ったようになっている事に気づいた


「ミザッ!冷気だ、あの蜘蛛とんでもない冷気をまとってんだよ。空気中の水分を凍結させるほどの」


背後からのベイカーの言うように


身体がかじかむ、という訳ではないが

どうやらミザリーの身体の挙動にも多少影響を及ぼしているらしい


〈ギチ…〉


『それでマリーの弾も届かないって?馬鹿厄介ね…』



「馬鹿厄介どころじゃないよ!とにかく逃げることに専念しないと、みんな凍っちゃう!」



【グァッ、我は凍て蜘蛛!この冷気こそが我の獲物を捕らえるための蜘蛛の糸よ、逃げられると思うなっ!?】



『誰が逃げるっつったのよ!』


どうにもその蜘蛛が気に入らないらしく

ミザリーが荒ぶる


「ミザこそ、相手にしてらんないって言ったの忘れたのかよ!?逃げようよ!」


走るのにも突っ込むのにも大忙しのベイカー

大蜘蛛の発言に気にかかるものはあるが


悠長にお話できるような相手ではない


というよりしたくない


だが


チラリと先行するルベリオとベイカーを一瞥する


疲労はもちろんのこと

大蜘蛛の放つ冷気が二人の体力を過剰に消費させている


このままのペースだと追いつかれるのは

時間の問題だとミザリーは感じた



『ビー!!ラビを任せるわよ』


「おう!ってミザはどうすんだよ?」


『決まってんでしょ』



キンッ


マリーゴールドのシリンダーの音が響き

手早く弾丸を入れ替える


『害虫駆除よ』


ノルニルを、マリーゴールドを構え

とうとう臨戦態勢をとるミザリー



【グッグッ…しかし何とも小さな姿よなぁ?】


複眼の目がミザリーを眺め下ろす


『アンタみたいに無様にデカいより良いでしょ?』


売り言葉に買い言葉


それが火蓋を切ったように

大蜘蛛が前足を振り上げると即座に勢いよく振りおろす


〈ドシャァッッ!!〉


さすがに巨大なだけある

振り下ろした足は地面を割り土煙を巻き上げた


砕いたのは地面のみ


寸前で跳び躱したミザリーが

土煙に紛れ大蜘蛛ベイガンの懐に踏み出す



『一本ずつへし折りゃおとなしくなるでしょ!!』


〈ブンッッ〉


振るった大剣(鈍器)ノルニルが

躱され無防備な前足に振付けられる


しかし


〈ガキィンッッ〉


その一撃は苦もなく弾かれる


どうやら外殻の硬さはもちろんのこと

表面を冷気で覆われているようだ



【グァッ…確かにそうだろう、へし折ることが出来たらの話だがな?】


悪魔の顔立ちというか

表情など見て取れるものではないだろうが


それでもニヤついているということは

察することができる


「ノルニルじゃ歯が立たないのか…ダメだミザ!!やっぱ逃げるよ!」


『…ビー…やるわよ』


「やるって……仕方ない、狙ってなれるのか?」


ベイカーがどことなく心配そうな表情を浮かべるが


そんな表情つゆ知らず

前側になだれていた三つ編みを後ろに弾きながらミザリーは答えた



『はん…やれるのか?じゃないわよ』



スっとミザリーは自らの深層に意識を


イメージを


暗闇の中にある 光を掴むイメージを


手繰り寄せる


掴む


引き抜く




『やんのよ!!』




〈キィィンッッ〉



張り詰めたピアノ線が耐えきれず切れたように空気が弾けた



ミザリーの三つ編みの先にぼんやりと光が集まり、編み込まれ光がさらに三つ編みを象っていく



『ああ…ほんとに光る三つ編みが出んのね…』


初めて認識したらしい


そしてその様子を見ていたベイカーは


「良かった、今回は意識がはっきりしてるみたいだ」


と安堵した



だがそんなベイカーとは裏腹に


【グァーッ…目障りなっ!まだ我の前でその不愉快な尾を揺らすかっ!!】



〈ドンッッドンッッ〉


地団駄を踏むように地面を脚で突く



何かを思い出させたのか妙にベイガンが憤っている



『アンタの都合なんて知ったこっちゃないわ、ほら…行くわよ!!』



パチッとかすか静電気が爆ぜたような音が響いた

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