とかげ
# rubellio side
ふと、感じた
いや、正確に言えば何度となく感じている
さり気ない仕草や言動
その裏と言うべきか、影と言うべきか
とは言っても、裏や影という言葉から連想されるようなマイナスなものではない
(やっぱり…似てる…纏う雰囲気というか、根っこというか…何より、あの瞳が…)
「どしたんだよ、ラビ。ミザがどうかした?」
# misery,s side
やや後ろを追走していたベイカーに不意に声をかけられ、ラビは思わず呼吸が止まった
「わっ…いや、別に大したことじゃ…」
慌てて呼吸を再開しつつ両手を胸の前で振る
先頭を歩いていたミザリーも
何事かと振り返った
『なんか前にもラビから熱い視線送られてた気がするんだけど?』
「流石に鋼の腕にも金髪にも見慣れてきただろー?」
「だから…誤解ですよ。前にも言ったでしょ?ミザリーが父上に似てるって」
歩みを止めることもなく
ルベリオが弁明?を始める
「大それた話だよね、ってもラビが言うんだから多少は似通った部分があるのは否めないってことだ」
『似てても趣味じゃないわね、王様なんて』
「趣味って君ね、娯楽感覚で言うもんじゃないよ」
「…最初は瞳の色が似ているからそう感じるのだと思ってましたけど、共に過ごしていると不思議と同じ空気を感じる気がするんです」
二人の軽口をさておいてルベリオが何やら神妙に紡ぐ
『ラビ…どうしたの?』
「…わかりません、ただミザリーに父上と似た雰囲気を感じる度…少し焦りを感じてしまって」
「なるほど、皇太子の責任と重圧か…」
『なんでアンタはわかんのよ…』
「まぁ言ってしまえば、国王が逝去してしまったとなれば必然的にラビはその後を継がなければ行けない。でもラビの頭の中には常に国王の姿がある、焼き付いてるんだよ。」
ベイカーの話す言葉を聞き
コクリとルベリオが頷く
「言わば目標と理想なんだけど、なまじ近くで王の姿を見てきただけに自分の進む道の険しさも明確に見えてしまう。」
『つまり…私が王様に雰囲気似てるからフラッシュバックして重圧で焦りを?感じる?』
「そゆこと、まぁこれは男の子特有の心境かも知んないね」
ウンウンと不思議と知ったかぶりでベイカーが頷く
『私は王様じゃないし、ラビはラビでしょ?気負ってまでアンタのお父さんに沿っていくことないんじゃない?』
「ラビにはラビなりの王の形があるって言いたいんだね、ミザは」
『それよ』
今度はミザリーがウンウンと頷く
「ありがとうございます…でもやっぱり、憧れてる部分もあるんです。実は…僕は国王の実子ではないんです」
不意に聞こえてきた言葉が
耳に入ってきた言葉が棘でも持っていたかのように
ミザリーとベイカーはハッとルベリオを見やる
「え…?そうなの?」
「はい、実をいうとそうなんです」
『訳ありってこと?』
「端的に言えばその通りです、女王のことはご存じですか?」
「何年も前に…確か病気で亡くなったんじゃなかったかな?」
「10年前です。元々が病弱だったことに加え、流行病にまで侵されたことが原因で亡くなりました」
『でもそれだと、ラビは11歳だから』
「女王の実子でさえありません。僕の母は女王の妹に当たる人物なんです」
「女王の甥っ子ってことか…でも王族の血筋であることは確かなんじゃないか?」
「そうなんですが、やはり実子でないということが気にかかる重鎮達も少なくありません」
キンッ
と軽やかな金属音が響く
ミザリーが閃いたとばかりに指を鳴らした音だ
なにせ、鋼の指を弾くのだからそれはそれは小気味良い金属音が響く
『分かった、それが一番気に入らないのがハイトエイドとかってやつね?』
「正解です…正直、ハイトエイド卿は単純に僕のことが嫌いだって気もするんですけど、表向きは「跡継ぎに相応しくない存在」としてのヘイトだと思います」
『結局、表も裏も嫌われてるんじゃない。頭の硬そうなお爺さんね』
「まぁ結局はこの国を乗っとるのにラビが目の上のタンコブなだけだろ…」
『だからってこんな子供まで手にかけようとする?…待った』
不意に言葉を切り、制止を促すミザリー
ミザリーの視線の先を見ると
〈ゾゾゾ〉
と妙な紋様が地面に浮き上がっている
そして
〈ギィィ〉
霞んだ金切り声を上げながら
3mはありそうな体躯のトカゲが現れる
「うへぇ…トカゲ?…デカすぎるなぁ」
異様なサイズ感につい表情を強ばらせながらベイカーが後ずさる
『ぁあ…そういやビーはなぜかトカゲが苦手だっけ?』
「そうなんですか?でも、僕でもあの大きさになったら苦手になりそうだけど」
「なぜかってことないだろー!?ミザがイタズラした日からトカゲが嫌になったんだよ」
「ってベイカーは言ってますけど…?」
ルベリオはベイカーとミザリーを交互に見やる
やはり幼い頃から二人の関係性は変わらないらしい
『…忘れた、下がってなさいよ。ッッツ!?』
突如、数メートル離れていた
まだ間合いではないだろうとたかを括っていたミザリーの腕になにかが巻き付く
舌だ
長い舌を素早く伸ばし、ミザリーの腕に巻き付けた
不快な粘液がまとわりついているのが
目に見える紫がかった黒く長い舌
『…………』
「あっ」
「あっ」
『……汚いわね…』
静かな声
だがその声は間違いなく怒気を孕んでいる
「キレたな」
「キレましたね」
ミザリーはガッと
素早くその舌を、空いた手で掴むと
思いっきり引っ張った
〈ギャッ!!〉
突如の反撃にトカゲの悪魔が妙な声をあげるがお構い無しに
ミザリーはその舌をぶん回し
ぶん回し
ぶん回し
手近な大木の幹目掛けて、全力で
『Fuu〇〇ck ……YoU!!』
振りかぶった
〈ゴシャャァッッツ〉
幹が割れる音と、それに重なり何とも言えない嫌な鈍い音が鳴り響く
舌が伸びきり
地に伏せたトカゲの悪魔は痙攣したようにビクンビクンと身体を震わせている
そこに
〈ジャキッ〉
撃鉄を起こしたマリーゴールドで
ミザリーが頭部に狙いを付け
いざ引き金を引こうとするが
その前に〈ガシャッ〉
と固まり、弾けて消えた
止めをさし損ねた不満を表情に出しかけるが
思い留まり
『マリーの弾もタダじゃないし…まぁ儲けね』
クルクルと用事を無くした大型拳銃を回し遊ぶとスっと元の懐へと差し戻す
舌に巻かれた腕を眺めながら
渋い表情こそまだ消えないものの
「…で、結局ベイカーはミザリーに何されたんですか?」
差し当たりの危機?を回避したルベリオが
疑問を問いかける
「ん、ああ…僕がぐっすり寝てるところにさ…服の中にトカゲを入れてきたんだよ。驚いてベッドから落ちちゃうし、最悪の目覚めだったよ」
『アンタが寝坊するからでしょ?…それに入れたのはヤモリよ』
「しっかり覚えてんじゃないか」
「ってことはさっきのは大きいヤモリの悪魔ですか?」
「いや…」
『トカゲでしょ』
「ふむ…」
何とも呑気な空気になり始めてはいるが
未だ年端もいかぬ三人の会話としてはそれなりなのかもしれない
次に立ち寄る村まであとわずか
歯車の動きが加速する気配をまだ感じれないままに歩は着実に進んでいった




