暗中
# another side
ミザリーらがリーダとの
邂逅を果たした夜
その幾日か前の出来事
ルグリッド公国内
その中心となる王都のさらなる中心である王城の一室
礼拝堂のような室内に
一人の老人が座っていた
ハイトエイド・ベルライン
反逆の左大臣
とは言え、それを知るのは
ルベリオ率いるミザリー達と
そうではないかという憶測を持つ
イグダーツ・バルシュ右大臣のみ
それらの人物以外にとっては
この公国を安定させるためには必要な傑物だという認識を長い時間をかけ植え付けている
そして、その傑物の皮を被り
反逆の左大臣はまた一つ策をこうじようとしていた
それは
〈コンコン〉
扉を叩く音が聞こえた
視線もやらず静かに
「入りたまえ」
と告げると
その音の主が真っ直ぐにハイトエイドの目前に歩いてくる
蝋燭に照らされたその人物は
若く端正でありながらも
兵士としての自信にも溢れたような青年
護警団のアーサー・ビークマンだった
「遅れて申し訳ありません、火急と聞きましたが何の御用でしょうか?」
どうやら、ハイトエイドからの呼び立てであったらしい
火急と聞いてそれなりに急いで駆けつけたのだろうか
その肌にはかすかに汗が滲んでいた
「構わん…折り入って君に話があってな…アーサー・ビークマン?」
「はっ」
「今のこの王都、のみならず公国は深刻な状況下にある」
「把握しております、国王は崩御され皇太子の行方も知れず…あまつさえ、未だに四つ脚は討伐の報告もない」
「四つ脚は…リーダに任せておる、だが彼女一人に任せておくというのも効率が悪い」
「といいますと?」
「アーサー・ビークマン、君は国に全てを捧げる気概が…覚悟があるかね?」
アーサーはスっと雰囲気が重苦しくなったような部屋の中の空気が薄れていくような感覚にたじろぐ
いや、微かにたじろいだが
すぐにその視線を真っ直ぐハイトエイドに向けた
「無論です、そのための体と剣であります」
「では…君に任を与えよう、リーダ同様遊撃隊となり、ある人物を探し追って欲しい」
「ある人物とは?」
「西の、ベリーズにて皇太子らしい人物の目撃情報が入った」
「皇太子が!ご健在でしたか…」
思わず声が弾んだのは
彼の実直な性格からなのか
つい、素の部分が出たように感じられる
「確実ではない…あくまでもしかしたらという話だ。本人ならば、王都に連れ戻さねばなるまい?」
「しかし、何故皇太子はベリーズに…」
「人違いという線もあるが、単独ではないということに注目せねばなるまい」
「おひとりではない?…確かに、一人で歩き回るには今の世は危なっかしすぎます。ではもしや?」
「同行者になんらかの訳を持たせられたのかも知れん」
「拉致や誘拐と言った線も考慮するべきでしょうか?」
「無論だ、皇太子不在という点が今の公国の不安定な現状を作り出しているのは間違いない」
「確かに、敵性の者が同行していると見て動かなければ」
「何でも、その同行者は金色の髪の女らしい」
「なっ、金色の!?」
先程よりも露骨な感情の表れは
先日会った同じく金色の髪の女性を思い出したからであろう
明らかなる動揺が顔に浮かんだ
「そのようだ…知っているのかね?」
「先日…王都内で見かけました。しかし、彼女は私達の手助けを…とても皇太子を誘拐などするような人では…」
「事実だ…知っているのなら話は早い。その金色の髪の女性を目印に皇太子を探してくれ。全ては…己で確認するのだ」
一つ息をつくと
動揺をなんとか押し込め再びハイトエイドに真っ直ぐ視線を向けた
「了解しました、アーサー・ビークマン。直ちに任に移ります」
「ああ、任せたぞ。それと…これを持って行きなさい」
ハイトエイドはスっと、懐から何か取り出すと
それをアーサーへと差し出した
「これは?」
受け取った物を軽く掲げて眺めると
それは掌に収まるほどの大きさの
黒く四角い箱
のようなものだった
特に模様や装飾がある訳でもないが
何やら不思議な
異質とも言えるような気配を感じる
「なぁに…お守りのようなものだ。持っていればきっと君に加護を、力を与えてくれるだろう」
「お守り…ですか…確かになにやら雰囲気はありますね。では、ありがたく」
「ああ、迅速に任にかかってくれ。武運を祈る」
カッ と靴を鳴らし
一礼すると
アーサーは礼拝堂を出て、廊下を歩き始めた
(…あの女性が…皇太子を…?まさか…)
懸念が頭に浮かぶ
なにやら胸騒ぎさえ感じる宵の中
アーサーは無意識の内に
ハイトエイドから贈られた黒い四角い箱を
握り締めていた
「確かめなければ…早馬を手配しなければ」
誰に宛てるでもなく一人ごちると
早足で廊下を歩き始めた
彼もまた、知らずが内に
淀んだ空気纏う運命に飲まれていく
その様の始まりを欠けた月が無言で見送っていた
シンと静まりかえる礼拝堂
一人もなったハイトエイドは目を瞑った
リーダからの報告を受け
金色の髪の少女がこの王都にいたことを
そして、恐らく皇太子と行動を共にしているということを知った
「他国からの漂流者か…取るに足らぬ存在だとは思うが、芽は摘まねばならぬ。」
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# misery,s side
『そんで…まとめると?』
西へとひた向かう旅
木陰にて休憩中
ミザリーが険しい顔をしてべイカーに問う
「ざっくり言うとだね、鍵はそのハイトエイド卿が握ってるんだよ」
コクリとベイカーに賛同するようにルベリオも頷く
「国王を暗殺するようにリーダを仕向けたのも、三年前にミザリーを。理由はまだ不明だけど狙ったのも、恐らくハイトエイド卿が詳細を知っている…なんなら仕向けたのもハイトエイド卿かも知れない」
「リーダを四つ脚として、各地に送り込んで自国の戦力を割くようなことをしていたのは恐らく。他国との戦力の不均衡を演出しておき、有事の際に国民に他国へのヘイトを高めておく意味もあったのかも知れません。…それに四つ脚が襲ったのは同立ち位置にいるイグダーツの管理下の領土が多かったのでそれも下準備だったのかと」
「陥れるとこは陥れておこうってことか…一つ気になるのはその二つに、ミザリーの件とこの国の現状。それに関わりがあるかってことだね」
「ミザリーはどう思いま…」
不意にミザリーへと問いかけようとしたルベリオがミザリーの顔を見て言葉を止めた
というのも
ミザリーは
眉間に皺がより、下唇に力が込められ
目を閉じ、なんとも険しい表情をしていたからだった
「べ、ベイカー?」
困ったルベリオは
今度はベイカーを振り向き助けを求めた
「ん?ああ…怒ってるわけじゃないよ、ミザは考え事に気を取られるとああいう感じになるんだ。苦手なんだよ、身体じゃなく脳を動かすのが」
『人を馬鹿みたいに言ってんじゃないわよ…なんとか整理しようとしてんの』
目を閉じ、腕を組んだまま
なぜか微妙に揺れているミザリー
「でも…良い傾向だよ、最近見れてなかったけどミザが昔良くやってた癖みたいなもんでさ…」
ベイカーはなんとも懐かしそうな顔で険しいミザリーを見ている
「なんだか…先日あったことが逆にミザリーに良い変化を齎した気さえしますね」
そう、先日リーダとの邂逅により
ミザリーには何かと苦痛な情報を押し付けられた結果となったはずだった
だが、言うなれば
ベイカーのアフターケアが功を奏したのか
ミザリーは少し表情や仕草が柔らかくなったように二人は感じていた
ベイカー曰く、昔のミザリーに
戻ってきているという事らしい
「ミザ、シンプルで良いんだよ。ラビをハイゼン武国に送り届けたら、ハイトエイドをとっちめるって、そうすれば」
『真実が分かるって訳ね…最初からそう言いなさいよ。』
スっと、木にもたせかけていた
大剣(鈍器)ノルニルを担ぎ、出発の準備をしようとするミザリーが気付く
『ん?』
「なんだよ、知恵熱?」
『殴るわよ…見てよこれ、ノルニルにヒビが入ってる』
ヒョイと軽々と20kg相当のノルニルを掲げた
ベイカーとルベリオが揃って見てみると
成程、先端から刀身、鍔にかけてうっすらとヒビが入っていた
「まぁなんていうか…」
ルベリオがベイカーにまたも視線を送る
「…だよね?」
ベイカーもなんとも言えない顔になる
『何よ』
「ミザの使い方にしては良く頑張ってくれた方だと思うよ、バイオレンスが過ぎたってことかな」
『…剣は振るってなんぼじゃないの?』
と言いつつも多少の自覚はあるのか
かすかにバツが悪そうにしている
「頼もしくて良いけど、事が収束するまで折れずにいてくれると助かるけどね」
ベイカーとルベリオが揃って
再び進路へと歩き始めると
ミザリーも後を追って歩き始めた
気持ちやんわりとノルニルを背負って
「後気になるのは、ミザのフェンリル化だね」
『なにそれ?』
「あのぼんやり光ってた状態のことですか?光る三つ編みが出てた」
『そんなの出てた?』
「無自覚だったのかよ…ともかく、あの光を纏ってからのミザの挙動は普通じゃなかった」
「目で追えない速さでしたよね」
『ふーん…』
当人は無自覚なのか無意識だったのか
イマイチぴんと来てはいない
「多分あれが、ミザの核になってる悪魔の魂の力だ。だからひとまずあの状態をフェンリル化と呼ぶよ」
「暴走のようにも見えましたけど…大丈夫なんでしょうか」
ルベリオは心配そうにミザリーを振り返る
『取って食いやしないわよ、多分』
「最初は怪しかったけど最後を自我を取り戻してたように見えるから」
『平気、どうせもうあの力は使うなって言いたいんでしょ?』
「極力ね?」
『極力?』
「とかく、関わってる話が大きすぎる。あの力に頼らざるを得ない場面も出てくるかもしんないから、極力僕の指示なしでは使わないようにね」
『…なんでアンタの指示なのよ』
どことなく不満そうな顔のミザリーの
視線を感じながらも
それでも三人は西へと
歩を緩めることはなかった




