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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
狼の覚醒
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66/98

Over


# misery,s side


雨は降りやまず

その心にはまだ戸惑いが消えず


それでも雨に打たれ続けるわけにもいかないと

ひとまずキャンプツリーに戻ることにしたミザリーら三人は


誰がなにを喋りかける訳でもなく

静かに静かにその歩を進めた


沈黙を添わせ

キャンプツリーへと戻り着いたが

見上げた小屋にチラと視線をやると

ミザリーは梯子も登らず近くの大木に背を預けた


「…ミザ?」


『…少し…一人にして』


思うところはあるだろう

整理をつけたい気持ちも理解できる二人ではある


「ミザリー…でも」


ルベリオが気遣い声をかけようとするがベイカーがそれを制止した


「いいんだ、ラビは上で休んでな。僕もちょっと雨に打たれてるよ」


と言うやいなやベイカーも手近な木に背を預けた


「…わかりました、じゃぁ…先に休んでますね」


何か言いたそうにしたものの、やはり察しがいいルベリオは大人しく単身小屋へと梯子を登り始めた


残されたミザリーとベイカーは

それでも言葉を交わす訳では無い


幸いキャンプツリーの小屋が頭上にあるため

二人に降りかかる雨粒は時折横風に煽られてくる程度のもの


それでも勿論小屋の中のほうが居心地は良い


『…あんたも入ってなさいよ、悪いけどお話するような気分じゃないの』


ぶっきらぼうに言い放つミザリー

投げたよう言葉ではあるが、ベイカーはその真意を見抜けないような浅い繋がりでもない


「別にいいだろ?たまに独り言零したい時もあるのさ」


こちらもこちらで何かを含めたような意味深な言葉である


そして


わずかな沈黙を介し



『…独り言だから…返事なんてなくていいんだけど…』



ポツリとミザリーが小さく囁くように紡いだ



『…私を…恨んでる…?』



その言葉にベイカーは

チラリとミザリーへ視線をやると


少しの間を置いた


つい先程の出来事の中で

リーダ・バーンスタインが話した


ハンドベルが襲われたのは

ミザリーの命を狙ってのこと


それに連なり、その襲撃の中ベイカーの祖母が亡くなったことに負い目を感じてしまった


ミザリーの苦悩を、心中を思うと

息が詰まりそうになる


それでもベイカーは

やはり静かに独り言を零した


「ミザは婆ちゃんを愛してくれてた、そして婆ちゃんもミザを愛してた…誰よりそれを知ってるのは…婆ちゃんだ」



ベイカーの独り言が耳に入る度

ミザリーの瞳が揺らぐ


独り言に返事はいらない

そうではなく、返事を聞くことが怖かった


それもベイカーは気づいている


「だから、ミザの気持ちも婆ちゃんの気持ちも知ってる僕が、恨むなんてありえない…そんなことしたら…婆ちゃんにどやされちゃうよ」



ベイカーもグッと目頭が熱くなる

祖母を失ったことに対しての涙ではない


そんなものはとうに流し終えた


今込み上げようとしているのは

ミザリーの気持ちを思えばこその涙



「恨むとしたら…ミザを狙った奴だ。リーダが言ったことが本当だとしたらなんのためにミザを…まだ欠片が、情報が足りないんだ」



『でも本当だったら…私は耐えられない』



力ない言葉

歳相応の女の子の一面が脆さになって

ミザリーの心を弱らせている


「耐えなくていい!」


強い気持ちがそのまま声に、言葉になった

そんな台詞


「ミザは、強くて誇り高くて何したって様になる格好いい女の子だけどさ…それでも女の子なんだ」


突然のことに

ミザリーが虚をつかれたような顔をベイカーに向ける


「優しくて、優しい分人の痛みに鋭いくせに自分の痛みに鈍いふりをして隠れて涙を堪える女の子なんだ。でも、一人で耐えなくていい!」


『ビー…』


「僕はミザが死んだ時、なにもできなかった。守ることも庇うことも…なにも。だからミザが辛い時は、苦しい時は傍にいる。なにも出来なくたって知らない間に失うなんてもう嫌なんだ」


ベイカーが知らずに抱え込んでいた

あの日の後悔

そして、危険と知りつつも旅路を共にしてきた理由がその言葉に如実に表れていた


「だから…辛いなら…苦しいなら言葉で教えてくれ。僕は…あんまり察しが良くないからさ」


不意に自分の発言が気恥ずかしくなったのか

頬を指でかき始める


『…ずいぶん長い独り言だったわね…』


気づけばまた俯いているミザリーが

ツンと返すが


その言葉にはほんの少しの柔らかさが

普段の調子が戻り始める兆候を感じた


「独り言なんてそもそも無理な話しさ…僕らは一人じゃないからね」


なぜか得意げな顔で返すベイカーだが

俯いているミザリーの口元が微か綻んでいることにはついぞ気づいていない


理解者


お互いがお互いのそれである

ということを知ってか知らずかの二人だが


きっとそれでいいのだろう



『ビー…私はもう大丈夫だから、先に休んでて』


「そうかい?そんなら先に寝させてもらうけど、ミザも夜更かしすんなよ?」


『わかってるわよ、うっさいわね』


いつものぶっきらぼうな声の調子に


もう大丈夫だと感じたベイカーは

キャンプツリーへと梯子を登り始めた


そして梯子を登りきり、小屋の扉を開け

締める直前


微かに下から聞こえた ありがとう という

言葉にふっと笑みが零れた


「…ベイカー?なにニヤニヤしてるんですか?」


ひと足先に小屋の中で休んでいたルベリオが

ニヤニヤしながら入ってきたベイカーへと怪訝な顔を向ける


「えっ!ニヤニヤしてた?…まぁ一安心したってとこだよ…ほら寝るぞ」


「でも…ミザリーは?」


チラと扉に目を向ける

未だにミザリーが小屋の中に入ってくる気配は感じられない


「自分なりに整理をつけたいんだよ、ミザは強いけど弱くて…でも強いから大丈夫さ」


なんだかおかしなことを言っているが

ミザリーと道中を共にしてきたルベリオには

ベイカーが伝えようとすることは解る


「そうですか?…わかりました。とりあえずは寝ましょう、明日また3人で」


「そうだね、3人で情報を整理してまた頑張って行こう。」


と言うやいなや

ベイカーは濡れた体を拭き


そして綺麗な布を

先日買っておいたミザリーの新しい衣服と共に鞄から取り出して畳んで置いた


そして、サッと横になると

緊張状態だった数時間前からの緩和からか

直ぐに寝息を立て始めた


次いでルベリオも直ぐにあとを追い、眠りについた




その頃、未だに降りやまぬ雨を木々の隙間から眺め上げていたミザリーは


自分なりに一つの指針を決めた


『(三年前の悪魔の襲撃が私を狙ったこと……じゃぁあれは)』


不意に三年前

母を庇い、悪魔に胸を突かれ殺された時のことを思い浮かべる


確かに


確かに聞いた


薄れゆく意識の中で

ミザリーの胸を突いた悪魔が零した言葉


『(…これでいい。って聞こえたあの言葉は…そういうことね)』


自分の中で

自身が狙われたということに朧気ながら確証が持ててしまった


だが、悔やんでも意味は無い

ミザリーは掌を広げ、視線をそこに落とした



『誰かが仕組んだって言うんなら、理由を、訳を、問い詰めて』


大好きだったベイカーの祖母の仇を


『一発かましてやるわ…』


決意が宿った目には揺らぎはない

確固たる輝きが雨降る夜の中

星のように翠色の光を灯した

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