着火する魂【後編】
# misery,s side
攫われたであろうルベリオを捜索する二人は
生い茂る森林地帯へと警戒しつつ足を踏み入れようとしていた
膝まで伸び切った雑草を踏み
かき分けつつ
大木がそびえ立つ樹林帯を眺める
『でっかい木がめちゃんこ生えてるわね…』
「多分この辺は、しきりに雨が降る環境にあるからなんだろうね。土も湿気やら土壌に溜まった雨水やらでぬかるんでるし」
『やっぱ奥の方かしら、悪党といったら』
偏見ではあるが間違いではないだろうと
ベイカーも頷く
「多分ね、っと待ったミザ」
と呼び止める
『ん?』
「伏せてっ」
言われるがまま、体勢を低くすると
ベイカーが目配せした方向へと視線を向ける
〈ガラガラ〉
とぬかるみに僅かに滑らされながらも
どこからか来た馬車が奥の方へと進んでいくのが見える
『どっから来たの?あれ』
「多分、僕らと真逆の方から来たんだろ。そんでぬかるみを避けてる内にここまで迂回するはめになったか」
『なんにしろ、あれに付いていきゃ良いんでしょ?』
「そ、場所が場所だ。まっとうな馬車じゃないだろうしね」
二人は体勢を起こすと再び走り出した
ぬかるみに足をとられるため万全の速度とは言えないがそれは馬車も同じだ
むしろ、身軽なミザリーらの方が有利らしく
楽に後ろをとることができた
「多分、攫った子達を連れてく為のものだろう。割と大きな馬車ってことは…」
『ラビ一人ってわけじゃないみたいね』
ずいずいと先頭を走るミザリー
大剣(鈍器)のノルニルを担いでいる割には
安定した走行だ
どうやら肩に担いだノルニルで上手くバランスをとっているらしい
「そうだとしたら人質は大勢の子供ってことだ…無策で突っ込むべきじゃないよ?」
『分かってる、作戦は任せる…アンタに従うわ』
普段つっけんどんなミザリーだが
自分の性格を理解しているがために冷静な判断力も持ち合わせている
力ずくでは、危険が伴い
その危険の矛先は自身ではない
分かっているからこそ作戦に関しては一任するということだ
「オッケー…その前に一個考えなきゃいけないことがある。もしかしたらあんまり、良くないことだ」
ベイカーの声色が気持ち緊張感を感じさせる
ミザリーは黙って、ベイカーの次の言葉を待った
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# rubellio side
相も変わらず、ルベリオは多数の子供たち
数えてみたところ自身を除き八人の子どもがいた
そのどれもがルベリオよりも年下の幼い子らであり、中には衰弱し始めている様子の子さえいる
その子供たちと一室に閉じ込められていた
室内や扉のすぐ外に見張りはいないようだが
、階下から話し声は聞こえてくる
脱走などの不審な行動をとれば直ぐにでも勘づかれ飛んでこれる距離だろう
とはいえ弱っている子ども達の様子を見た手前何もせずにはいれない
ルベリオは足首が縄で括られてはいるもののなんとか立ち上がることに成功した
とはいえ辺りを見回してもなんの変哲もない
と言うより何も無い部屋
都合良く、人攫いが見逃した刃物など
脱出に使えそうなものは見つけられそうになかった
と諦めかけたが
木で作られた壁になにやら光るものを見た
じりじりと器用に近寄ってみると
少し壁から釘が飛び出している
目線よりわずか下の箇所であり
手の縄をそれで切るというのには無理がありそうだが
ルベリオはそれに顔を近づけると
上下にゆっくり動かした
少し顔を引っ掻き、血が滲む感覚に
怯みそうになった
それでもルベリオはなんとか猿ぐつわの布にその釘を引っ掛けると
それをずらし、なんとか言葉を発することが出来る状態にこぎつけた
しかし、声が出せても
すぐ階下に人攫いがいる状況では助けも呼べない
それはルベリオもわかっていたし
猿ぐつわを外した意図は助けを呼ぶためではなかった
「大丈夫だよ、みんな。怖かったね…」
小さな声で子どもたちに喋りかける
大丈夫、という声の響きに
不思議な安堵感を感じたのか
目が潤み、ぐずりだす子もいた
「みんな、ベリーズの子かい?」
階下の見張りに気づかれないように
ルベリオは少しでも状況を探ることにした
その問いに子どもたちは頷く
やはり、ベリーズの子どもは人為的に攫われ
ここに集められていたのだ
なぜ兵士もおり捜索も間違いなくされるはずのこのベリーズ近辺での誘拐が
ここまで成功してしまっているのか
その答えは恐らくさっきの人攫いにあった
先程、攫われた時に薬品か何かを嗅がされたのかで
朦朧とした意識が醒めたとき、人攫いのうちの一人の服装を目視したとき
ルベリオは悪寒と憤りを同時に感じた
髭面の男と共にいた男の服装は
軍人の、兵士のものであった
それも腕章をつけていることから
近辺の地区を任されているであろう上官の立場だと推測される
つまり、軍人による人攫いであった
思い出すだけでも頭の中から熱が生まれそうになる
なぜ、そういうことになったのかの経緯など想像だにできない
だが、今は
ルベリオは一つ息をつくと子供たちを見渡す
「大丈夫、もう少しの辛抱だよ…もうすぐ、金色の狼が助けに来てくれるよ」
それは叶う当てのない望みではなく
確信的な希望
そして、その狼の足音は刻一刻と
この国の未来を担う子らの元へと近づいていた
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# misery,s side
『じゃぁなに?軍人が人攫いに絡んでるっての?』
ベイカーの告げた言葉に思わず声を荒らげるミザリー
「たぶん、信じたくはないけどあの馬車、軍の紋章付きだった。上から傷をつけて、かき消そうとしてはいたけど角度的にはバッチリ見えちゃってたよ」
『ムカつくけど、それなら合点がいくんでしょ?』
「うん、多分ベリーズでも兵士が先導しての捜索が行われはするんだろう。そして、捜索する範囲なんてそれを指示する立場の人間のさじ加減一つだ…さっきの立て看板と合わせりゃ丸っきり手付かずの範囲が出来上がるってことだね」
『でもなんで軍人がそんなことを?』
「そんなヤツの気持ちが僕らに分かると思う?」
ベイカーも冷静に話しているようで
実は珍しく頭に来ているようだ
馬車が向かった方向に
視線を向け拳を握っている
『…直接聞いてみましょ。多少ラフな感じでも今回は従ってあげる、そんかわし』
「ああ、絶対に助けるよ。」
そうして二人は憤りを抱えたまま
更に奥に足を進めると
50m程先で立ち止まっている馬車を大木の下で見つけた
その大木の上の方に目をやると
「あれ、キャンプツリーだ」
と気づいた通り
その木々の上には小屋が乗っかったような
キャンプツリーがあった
『キャンプツリーって確か、旅人の為の簡易宿泊所みたいなやつよね?』
「そうそう、平地に直接野宿するよりは獣や悪魔に襲われるリスクが減るってんで、国が設備した小屋オンザツリー。なんだけど」
『まさか、そんなものまで利用してんの?見下げたヤツらね』
「全くだね、んー…見た感じ馬車に乗ってた二人と、キャンプツリーへの梯子の下に一人、かな?どう?ミザ」
目を細め、敵の位置や人数を探る
『たぶん、そう。でもキャンプツリーの小屋の中にもいるかもじゃない?』
「いるとしても一人か二人かな?まぁ、あんまり長引かせるのも得策じゃない。作戦を話すから、聞いて」
『はいはい』
マリーゴールドの銃弾をチェックしながら
ベイカーの作戦に耳を傾けるミザリー
そして
『従うって言ったから従うけどね…ビー、気をつけなさいよ?』
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# rubellio side
ミザリーにベイカーが作戦を指示した
ほんの僅か後
ルベリオや小屋の中の子供たちには緊張が走っていた
小屋の中に男が一人戻ってきたのだ
軍人の、軍服を来た男が
そして、猿ぐつわを外したルベリオに気づいた
「なんだ?猿ぐつわを外したのに助けも呼ばずに…なんのつもりだ?」
静かな声だが意図的に凄んでいるような口調で男がルベリオを睨む
「それは…こちらのセリフです、あなたは軍人じゃないんですか?これは、許されざる行いです!」
恐怖よりも、憤りにかられ
ルベリオが目も逸らさず噛み付く
「軍人が全員善人だと?そう思ってるのか?はっ、子供だな」
その言葉で、この男の本質が見えた
軍人にあって軍人にあらず
「人を、国民を守るのが軍人の務めではないのですか!」
〈ドッッ!〉
座ったままのルベリオの肩に衝撃が走った
男がルベリオを蹴りつけたのだ
大の男の蹴りが
まだ少年である華奢な体に向けられる
普通であれば泣いてしまう
怯えて声も上げられなくなってしまうが
その少年はルベリオは違った
「っ…なんの目的で子供たちを…攫うんですか?」
痛みを堪えつつまだ言葉を発するルベリオに
軍人の男は苛立ちを感じ始めたように
眉間に皺を寄せた
その時、階下から声が聞こえた
「なんだ!誰かいるぞ!捕まえろっ!」
と突然慌ただしさを階下から感じ始める
軍人の男も気にかける素振りを見せたが
他の仲間に任せることにしたのか
視線をルベリオに戻すと
「そうさなぁ、攫う理由ってなるとそういう命令でなぁ。金が手に入る、まぁそんなとこだ」
「ふ、ふざけるなっ!子供たちを怖がらせて!…」
〈ガンッ〉
と鈍い音が鳴る
今度は側頭部、頭を蹴りつけられたルベリオが地に伏せる
「っっ、ぅ…」
さすがに頭部を揺らされては
すぐに気を持ち直すことができない
周りの子供たちも恐怖に竦む
見るのも辛いのだろう、だがそんな中
「あ、なんだ?ガキ?」
周りの子供たちが
ルベリオと軍人の男に割って入るように
ルベリオを守るように囲んだのだ
声も出せずにある子は震えを止められず
ある子は涙が止められない
それでもなぜか子どもらはルベリオを庇っている
「…だ、だめだ…さがってて…」
歯を食いしばりながらルベリオがか細い声を出す
だが子供らは動かない
何を感じ、なぜ動いたのか
理解し難い状況に軍人の男が吹っ切れた
「ああ!もういい、全員おとなしくさせてやる!」
腰に携えていた警棒を引き抜くと
子供らの元へと歩み寄ろうとする
「はやくっ!…さがって…」
ルベリオがなんとか子どもらを遠ざけようと声を絞った
その時
〈コンコンッ〉
扉を叩く音が軽やかに響いた
状況が状況だけにやけにその音が
この場面にそぐわないような異質な雰囲気を感じさせる
「今度はなんだ!ったく、どうかしたか?!」
恐らく仲間内の誰かだと思ったのだろう
すたすたと扉へと向かい
ドアノブを握り、もとい
握ろうと手を伸ばした
〈バッキャァァッ〉
男が開けようとした扉が外側からぶち破られ
何かが飛び込んできた
その飛び込んできた何かは
勢いよく男の胸元へともろにぶつかり
そのまま、壁際までぶっ飛ばした
それを部屋の反対側で見ていた子供たちは
目を見開きポカンとしている
なにが起こったのか
いまだに理解できないのだろう
さっきまで自分らを恐怖に陥れていた悪い男が目の前で吹っ飛んだ
そして壁際で気絶しているのだろうか
手をぴくぴくと痙攣させながら泡を吹いている
不意に巻き起こった埃の中
『ああ、ごめんなさい…』
と静かに声が聞こえてきた
男にぶち当たってぶっ飛ばした
豪快な何かの正体が子供たちにも理解できた
当然の事ながらそれを誰より早く理解していたのはルベリオだった
来ると思っていたのだから来ても不思議ではない
子供らの前に立っていたのは
金髪を揺らしながらこちらを見つめるミザリーの姿だった
『田舎者だからノックもまともにできなくてね…待った?ラビ』
不意に
ここまで堪えていた、恐怖の中でも
蹴られた痛みの中でさえ出さなかった涙が
滲むのを感じた
「待ったかいはありましたよ…スッキリしました」
『そう、じゃぁみんな解放してあげましょ』
ちらりと目をやると何かを見つけたのか
倒れ伸びている男へと近づき
腰元からナイフを見つけ出した
そして、まずはルベリオを
続けざまに子供たちの縄や猿ぐつわを全て外した
「みんな、大丈夫ですか?」
ルベリオが声をかけると
どの子も、涙混じりではあるが「大丈夫」と笑顔を見せ始めた
一人一人にルベリオが声をかける
それは先程庇ってくれたことに対してのお礼だった
それを横目に見つつ
ミザリーはとりあえず伸びてはいるものの
念のために男を縛ってみた
『解けるもんなら解いてみなさいっと』
憂さ晴らしなのか無駄に力いっぱい縛ったところでルベリオを振り返ると
『ラビ!ここでもう少し待っててくれる?』
「えっ、どうかしたんですか?…というかベイカーは?」
ここでふとミザリーが単独なのに気づく
『あいつは囮よ、こいつらが何人いるのか分かんなかったから。見張りだけの最小人数残させてあとはビーが引き付けてんの…つまり、絶賛ピンチ中って訳』
「わ、わかりました!行ってあげてください!」
慌てて促すと
『すぐ戻るわ、その子らよろしくね』
と足早にミザリーは駆け出した
数分後
話し声が小屋の中のルベリオに聞こえてきた
それはすっかり聞き馴染んた二人の声
そして扉を開けて入ってきたのは
ミザリーとベイカーの二人だった
「あー良かったラビ無事で」
ルベリオの無事はミザリーから聞いていただろうに
それでも実際に顔を見て安心したのか
ベイカーは思わずルベリオの頭を撫でてくる
恥ずかしいながらもルベリオはなんだか嬉しく感じていた
「ベイカーも無事で良かった、囮なんて僕のせいで無茶をさせてしまって」
つい謝ろうとするルベリオをベイカーが言葉で制する
「ラビのせいだなんて誰も言いやしないよ、結果的に子どもらも救えたんだ。良い結果だよ、気にすんな。ねえミザ」
『まぁ無茶したのは確かね、森林を悪党らと鬼ごっこなんて危険な遊びよ』
「その人らはどうなったんですか?」
恐る恐るルベリオが訊ねる
「みーんな、ミザがのしちゃったよ。僕を追っかける足音が少しずつ減ってくんだよ?ホラーだよ、ホラー」
『うっかりアンタものしときゃ良かったわね、いいオチがついたのに』
「笑えない…でも、思ったより早く助けに来てくれて助かったよミザ」
思い出したようにお礼を言うベイカー
『どーいたしまして。さて、この子らをベリーズに送り届けなきゃね』
「ちょっと衰弱してる子もいるんです、ペースを合わせなきゃ」
と子供らを気にかけるルベリオに
「だいじょーぶ!」
と笑顔を向けるベイカー
その笑顔の意味はというと
その数刻後
ミザリーらと子供たちは馬車に揺られながらベリーズへと向かっていた
そう、この馬車は当初人攫いらが
乗ってきたものであり
それをそのまま拝借したのだ
馬の扱いに関しては
「おっと…良かった、この子らは意外と優しい」
と前で馬の手綱を握るベイカーが安堵を浮かべる
様子を見つつ発進し、恐る恐るやっていたがどうやら気性の荒らさなどもなく
すぐにコツを掴めたらしい
馬車なりの速度を出しながら
順調にベリーズへと戻っていく
『しっかり頼むわよ?子供らもいるんだから』
とどこか不安そうに声をかけるミザリー
「なんとかなりそうだよ、道も整った所に出てきたしさ。この子らも悪行より善行の為にってほうが走りやすいんだろうね!」
と馬車を操れることが嬉しいのかご機嫌なベイカー
その荷台には八人の子らが眠りについていた
揺れる荷台の寝心地は決して良いものではない
それでもこの子らにとっては十分安息を取れる場所として信頼を得ているのかもしれない
緊張状態が続いていたことも
親元を予期せず離れたことも
経験しなくていいことを経験したことも
辛い思い出ではあるだろうが
それでも無事で良かったとルベリオは思った
そして緊張の糸が切れたのはルベリオも
同じであったようで
ふっと体を荷台の壁に預け、
スっと眠りに着いてしまった
ルベリオを含む子供らは
その数刻後、ベリーズに着くまでのあいだ
夢から覚めることはなかった




