着火する魂 【前編】
# misery`s side
「そういや、妙な噂を聞いたよ」
ミザリー、次いでルべリオ、その後ろを歩くベイカーが
思い出したかのように声をあげる
ベリーズを出たばかりの道
あとはハイゼン武国へと入国するまで
特にこれといった町や村もない
退屈しのぎの噂を仕入れられるのもしばらくはお預けだろう
それを分かってか
珍しくミザリーも興味ありといった顔で振り返る
『なに?謎々とかじゃなかったら暇つぶしにはなるけど』
「それが物騒な話でさ、ベリーズにいた子供が何人も行方不明になってるらしいよ」
話す声も気持ち心苦しそうな噂話
耳にしたミザリーもルべリオも
思わず立ち止まり、ベイカーに目を向ける
「その子たちは?見つかってないんですか?」
「大人や兵士たちが、ありったけの人員を割いてベリーズ内や近辺を探し回ってる
んだけど、それでもまだ影も形もないって」
『悪魔の被害?』
「いや、その子たちはまとまって行方不明になったわけじゃなくて、一人ずつ一人ずつ消えていったって話さ」
「悪魔による被害なら、それなりの痕跡がありそうなもんですけど」
「つまり、人為的な悪行。人攫いじゃないかって大人たちは話してたよ。ルべリオに注意が向かないことももしかしたらそういう背景が影響しているのかもしれない」
「そうだとしたら、素直に喜ぶわけにはいきませんね…」
俯き、暗い表情を浮かべる
『確かにね…?』
不意にミザリーが周囲を見回す
「どうしました?」
『…気のせいか…なんか視線を感じた気がした』
「ミザセンサーが反応するってんだからなんかあるのかな?」
「なんですか?それ?」
「ミザは野性的な勘を持ってるから、気配に敏感なのさ。それがミザセンサー」
『変なもん搭載させないでくれる?』
「じゃぁなんて言えばいいんだよ」
なにかしら名称がなければいけないのか
食い下がるベイカーだったが
『そんなのアレよ…女の勘よ』
「なるほど…噂に聞くやつか」
妙なとこで着地したところでその噂話は打ち切られた
とは言っても三人の頭の中には
薄い膜が張り付いたままのような、何とも言えない
感覚が消えずにいた
そしてそれから半日ほど
三人は歩き続けた
向こうの空に見え続けている
分厚い雨雲はゆるやかにこちらに向かってきており
その雨雲の下で雨にさらされることは遠くない未来であるだろうと予測される
今はまだかろうじて太陽が
差し込んでおり
日の光の下で昼食休憩をとることができた
わずかな休息ではあるものの
こんな束の間の時間でさえ
ベイカーはパンを齧りながら
機械を
さきほどのベリーズで購入した拳銃を修理していた
そしてそれを興味深そうに
同じく食事しながら
ルべリオが見つめていいる
食事さえとらないものの
ミザリーも花香パイプをくゆらし、花の香りを楽しみ安らいでいる
『のんびり食事することも諦めたのね…興味あんの?ラビ』
「僕は…ミザリーみたいに銃を使って戦うとかはまだ難しいかもしれないけど。覚えておけば今後役に立つかも知れませんし」
とは言うものの建前であり、本当はしっかり興味があるんだろう
その瞳は爛々と輝いている
「僕も最初はアリス先生の仕事を眺めることから始まったんだ…ラビももしかしたら…僕のようになれるかもよ?」
なぜか自信満々な顔でルべリオに、視線を向けるが
『危なっかしいもんばっか作るやつが増えたら困んだけど』
「いやほら、技術者って弟子ができたら嬉しいんだよ。アリス先生も僕が機械に興味持ったときは嬉しそうに色々教えてくれたもんだよ」
昔を思い出し懐かしそうな顔を浮かべるベイカーだが
同時に少し寂しそうな、悲しそうな雰囲気を感じる
「僕を弟子にしてくれるんですか?」
唐突な発言に、きょとんとしたベイカーだったが
そんなルべリオの無垢な笑顔にあてられたのか
つられて笑ってしまい
「もちろん、ベイカー二世に仕立てあげてみせるよ!」
『それって…意味が違ってくるんじゃない?』
そうしたのどかな休息時間を終え
三人は再び西へと長い道のりに向かい足を動かし始めた
その数刻後
ルべリオが用を足しに二人から少し離れた
木陰へと向かい
ミザリーとベイカーが
言葉を交わしあっていた
『ビーはラビをどう思う?』
「どうって?いい子だと思うよ」
『王様になるってところよ、幼いなりに賢いのは分かるけどそれだけでなんとかなるもん?』
「どうかな?ただ僕から見るとミザはラビを気に入ってるように見える」
『それが?』
「ミザはガッツのあるやつを気に入る傾向にある」
ふむと
宙を見上げるミザリー
「ラビならって思っちゃうよね」
『それはわかる…っていうか…遅くない?』
ミザリーの言う通り
二人が会話をし始めてから数分が経過していたが未だに
戻ってくる気配はない
「お腹でも壊したのかな?」
『ビーと同じもの食べてたのにラビだけ?』
「それもそうだ、ちょっと見てくるよ」
すっと立ち上がると
ルべリオが向かった方向にベイカーは走り出した
ふうと息をつこうとした時
ベイカーの声が聞こえてきた
「ミザ!いない!ラビが消えてる」
焦りの表情を浮かべたまま
ベイカーがこちらに向かってくる
『その辺には?』
「見当たらないし、呼びかけに答えないなんておかしいよ」
ミザリーもともに見失った地点にてあたりを見回すが
やはりルべリオを見つけることは出来ない
動揺を隠しきれず見回す二人の頭の中に
同じ事柄が浮上してくる
「まさか?」
『そのまさかって…』
コクリとベイカーが頷く
「さらわれた…のかも」
『だとしたら!急いで探すわよ!』
「もちろんだ!僕とミザが居た場所、そして視線を向けていた方向では特に動きは見えなかったよね?」
そんな時でも、そんな時だからこそ冷静に頭を使うべきだと
ベイカーが分析を始める
『ええ、瞑想してたわけでもないから確かよ』
「僕もさ、ってことはその人さらいは僕たちの視界外からラビに近づき、またその視界外へと去っていった」
『ってことはあっちの…森のほうね。』
「そういうこと!でも一個気になることがある」
その森へと足を向けながらも、ベイカーは疑問を感じていた
『なにがよ?』
「ここはベリーズから半日ほどで辿り着いた場所だね」
『そうね、足があればもっと早いかも』
「そう、つまりベリーズの人たちも当然捜索に取り掛かれるぐらいの距離ではあるってことだよ」
『子供が歩いて移動できる距離内って範囲で探してるんじゃないの?』
ベイカーが抱いている疑問がいまいち読み取れないミザリーが首を傾げる
「神隠しや行方不明ってことならそうかもしれない。でも人さらいって線で捜索するならこのぐらいの距離は範囲内であってもおかしくないってことだよ」
『確かにね…じゃぁどういうこと?』
「わからない、でもとりあえずは行ってみよう」
目を合わせると二人は駆け出した
# rubellio side
ルべリオは困っていた
両腕を縄で縛られ、猿轡をかまされた
まさしく困ったという状態であると言って差し支えない
ほんのわずかな時間である
ミザリーやベイカーから離れて、用を足し終わったその直後
背後から迫った何者かに布袋を被せられ
その布袋の中で緊張により息を大きく吸い込んだ途端
意識がすっと途絶えて
今に至る
布袋を外されこそしているが
身の自由は、ごくわずかに身じろぎできる程度しかない
ぐるりと視界を右から左へと動かすと
同じように自由を奪われた子供たち
そのどれもがルべリオと同じかもしくはほとんどが年下
一緒くたにすると幼い子らばかりだった
どの子もすっかり泣き疲れ、表情は暗く
沈んだように項垂れている
(ベイカーが言っていた…ひとさらい?一体いつからこの子たちは…)
目の前の光景にただ胸が苦しく締め付けられる
こんな目に合わなければいけない理由なんてない、その目から光を奪っていい理由なんてない
その感情は刻一刻と怒りへと変換されていく
後ろ手に縛られた両手を動かすが縄はびくりともせず
ただ手首が擦れ焼けるような痛みを感じさせるだけだった
<カツ…カツ…>
と複数人の足音が聞こえてくる
ただ不思議なことにその足音は階下から聞こえてくるようだった
(ここは二階なのか?)
一見すると小屋のような内見であることから
てっきり、どこかの使われてない小屋か家屋かと思っていたがために不思議な違和感を感じた
<ガチャリ>
話し声とともに木製の扉が開かれ、ひげ面の男と妙に畏まった身なりのきちんとした男の二人が部屋に入ってきた
階下からまだ話し声がすることから四人は確実にいるとルべリオは判断した
「なんだ、新入り君も目を覚ましたか。どうだ気分は?んん?」
酒焼けでもしているようなかすれた声でひげ面の男が声をかけてきた
とは言っても
「ああ。つってもしゃべれねえか、悪い悪いもう直の辛抱だからよ」
なにがそんなにおかしいのかニヤニヤしながらルべリオを含む子供たちを見回す
他の子供たちはその男たちが入ってきた時から委縮してしまっている
やはりこの男たちが実行犯ということなのだろうか?
先ほど目覚めてから、意識が今一つ鮮明になり切れていなかった
だがふっと、ひげ面の男といるもう一人の男に今一度目を向けたとき
気づいた
自分の姿が見えずとも己の目が見開くのを感じる
(まさか…そんな…)
しかしそんなルべリオの様子には気付きもせず二人の男は
再び扉を抜け階下へと降りて行った
(誰か…この子たちに…救いを。ミザリー!ベイカー!)
ルべリオはただ祈ることしかできなかった
#misery`s side
「ミザ!ストップ!」
揃って走っている最中、先頭を走っているミザリーをベイカーが声で制止する
ジャジャッと砂利を削り立ち止まると
ミザリーが振り返る
『なに?』
「これ見て、この草むら最近踏まれたようなあとがある」
促され視線をやると
確かに瑞々しい葉が踏まれ擦れたような痕跡を表している
「整理された道があるってのにこんなとこを通るってことはもしかしたらもしかするよ」
痕跡の行き先を目視してみる
踏みしだかれた跡はずいぶんと長く続いていた
その先はやけに茂った森林帯がぼんやりとその姿を見せている
「もしかしたらこの辺はあまり捜索の手が届いてないのかも。見なよ」
ベイカーが指さしたほうに目をやると
【夜間、悪魔の危険アリ】と書かれた立て看板が
少しずつ間隔をあけながら配置されていた
『…これって、本当なの?』
とミザリーが問う
「ミザにしちゃ鋭い、そうさ。これももしかしたら人さらいの小細工かもしれないってことだよ」
『攫った子たち、ラビがいる場所に捜索の手を伸ばさせないようにってことね?』
「そういうこと、賢い大人たちなら悪魔を恐れて近づかない。もしくは捜索したって、恐怖心に焦らされてしっかりは調べ切れてない」
『お生憎だけど』
<ギィンッ>
握りこんだ右拳を左の手のひらに打ち込む
「ウチの狼はそんなのにひるんだりしないんだな!これが!」




