落ちた砦 ベリーズ
# another side
王都
未だに先日の国王逝去
そして炎上により被った建築被害 精神被害からの立ち直りには時間がかかりそうな昨今だが
それでも国として
早急に立ち直らなければいけない
立ち直らなければ、崩壊してしまう
退くことのできない渦中の中
国王逝去の舞台となった王城
その通路を一人の男が歩いていた
ハイトエイド・ベルライン
この国の軍事を司る左大臣であるも同時に
この悲劇の絵を描いた謀反の大臣である
静かな表情
だが窪んだ瞳の奥に宿る光は
怪しく、強く揺らめいている
〈カツカツ…〉
と後ろからの足音に気づきハイトエイドが振り返るとそこには
もう一人の大臣
イグダーツ・バルシュがこちらに歩いてきているところだった
「ハイトエイド卿、本気なのか?」
食ってかからんばかりの勢いで尋ねた
のは
先日号外にて発表された内容について
つまり
「無論だ…二ヶ月の追悼の期間の後、重鎮投票によって選ばれた私か、君か、どちらかが王座に就く」
「まだルベリオが!…皇太子が生きているやも知れんのだぞ!」
「あれほどの数の悪魔の襲撃、あまつさえ大火事にまで苛まれて未だにその姿も確認できん…希望的観測は辞めにして、我々は現実を見据え先を歩かねばならんのだ」
「それは生きている可能性を!望みを捨てろということか!」
「それを飲み込んででも、国民の為の選択をせねばならない。」
「…そもそもがおかしいと思わんのか?」
「なにがだ?」
ほんの僅か両者が睨み合う
双方とも年輩と言って差し支えない年齢ではあるのだが、それを疑わしいと思うほどの眼光
視線のぶつかる空間が熱を持っているような錯覚さえ感じさせる
「私が国王の遺体を確認したとき、二つの刺傷…刀傷のようなものがあったと記憶している、だがその後私が医者を呼びにその場を離れた直後、王室に火が上がった」
「つまり?国王は人為的に死亡し、挙句それを誰かが隠蔽しようと亡骸を燃やしたと?」
「そう悪いほうに思ってしまうのは年寄りの悲観的な悪い癖かな?」
「いや…私も年寄りだ、君の疑問は最も。だが…」
「…」
「情報に寄れば武器のようなものを所持する悪魔も多くいるらしい、奴だってそうだ。我らの王都を脅かし今回の騒動の中にも目撃はれたと報告がある【四つ脚】もな」
「その悪魔たちが…四つ脚がたまたま、偶然この国にとっての再重要人物を殺めたというのか?」
「事実は奇なり…ということだ。」
「それで納得しろ、と?」
「そうは言わんさ、君にとって良き友人でもあった。そうだろう?人はそうやって、疑念 懸念に意識を割き自らの心を誤魔化そうとする。そうやって己の心を守るのだよ」
ハイトエイドが雄弁に語るたびに
イグダーツの心にモヤが広がる
その言葉にどれだけの真実があるのか探り兼ねる
言葉にすら影を感じる
やはりこの男は危険だ、と
再認識させられる
「君が…ルベリオ・ウェイヤードに一縷の望みを残すぶんには大いに構わんよ。だが、時は待ってはくれぬ」
一つ息を吐くと
イグダーツに向かいより一層の妖しさを瞳の内部にて燃やしながら告げた
「この国には新たな王が必要だ…太陽ではない、王がな」
スっと音もなく踵を返すと
静かな通路を微かな足音さえ響かさず
ハイトエイドは闇に溶け込もうとするように歩いていった
残されたイグダーツは
暗い通路の中 遠くからかすか差し込む光に向かって、一縷の望みへと祈りを込めた
「皇太子…どうか、無事であってくれ…」
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数日後
# misery,s side
代わり映えのしない景色に
代わり映えのしない一日を繰り返しなぞりながら
三人はいよいよ
ルグリッド公国 再西の砦 ベリーズに足を踏み入れていた
遥か昔 元々は町であった場所を
砦として再建築したというベリーズ
数ヶ月前 四つ脚によって甚大な被害を受け
砦としての姿は力なく薄れ霞んでいた
それも、時の経過と共に
多少の救援などが随所から寄せられ
差し当たり
小さな町 としての体裁はなんとか
保てるようにはなっているらしかった
小さいながらも賑わいが見え
人の抗う力 生きようとする力を表しているかのような空気
三人はどこか安心感を感じていた
かすか、陰りが見えるようにもとれるのは
やはり四つ脚に襲撃された悲劇の残滓が残っているからだろう
だがそれでも
『思ったより…普通に町ね』
キョロキョロと辺りを見回しながら
ミザリーが町の中央へと進んでいく
「イメージと違うけど、これは良い傾向ってことだよね。立ち直ろうとしてるって感じ」
次いでベイカーもその後を追う
「…でも、少し兵士がいますね」
更にその後をルベリオが
フードを被り俯きつつ付いてくる
幾ら号外にて、死亡したと匂わされていても
油断はできない
逆に怪しいかもしれないが
それなりの用心はしておかなければいけない
ということらしい
『じゃぁ、目的を済ましてさっさと次に向かいましょう。それが一番の良策よ』
「そうですね…そうしましょう」
「必須は地図なんだけど…ハイゼン武国の地図なんてあんのかなぁ?」
『なかったらどうなんの?』
「広大な武国の領土の中を、勘を頼りに王都を目指す」
『すごいバカみたいな挑戦になるのね』
「おまけに時間もかかってしまいますから、あって欲しいですね」
祈りながら
商店や出店のある場所を探すと
直ぐに見つけることができた
大きな通りに
いくつもの出店がずらりと並んでいる
町に居着きの店もあれば
露天商のように風呂敷を広げ、商いをしている旅人なども多く見られる
「おっ、これなら期待できるんじゃない?」
「手分けして探しますか?」
『私は一人で良いけど…ラビはビーと一緒に探して。ビーが無駄遣いしないように見張ってて』
とだけ言うと手をぷらぷらと振り
さっさと行ってしまった
「なんだよ、それ。…ま、いっか!行こうラビ」
口を尖らせようとしたベイカーが
それをすぐ収めたのは
ラビにもしものことがないように、一人にしないためだと気付いたからだ
気を取り直し、ラビを引き連れ
店を巡ることにした
そして
数十分の時間を経て三人は合流した
が
『で?なにそれ?』
と目を細めつつベイカーの手荷物に視線を向けるミザリーの手には
しっかりと目当ての地図が握られていた
旅の露天商から買い受けたのだという
で
ミザリーが視線を向けたベイカーの手荷物はと言うと
大型拳銃だった
やはり、ミザリーのマリーゴールドと同様
故障しているということもあり破格で手に入れたということなのだが
『なんでまた、そんなもんが必要なのよ。ラビ?』
無駄遣いしないようにと見張りをやんわり命じたルベリオに視線をやるが
「ごめんなさい…僕もちょっと物珍しくて並んでるものを夢中で見てしまってて」
と気恥しそうに頭を垂れる
「まぁ聞いてよミザ、確かにミザには既にマリーゴールドがあるしノルニルもある」
『そーね、腕も二本だからこれ以上は必要ないわよ?』
「そうじゃないんだよ、ミザ」
なにか勿体つけたような口ぶりだが
『機械オタクの虫が疼き始めたんでしょ?』
と、半分正解をつきつけられ
少し焦りを見せる
「いやいや!これは護身用!つまり、僕が使うためだよ」
『ビーが?私にしか撃てないんじゃないの?』
「ミザのマリーゴールドはそうだよ。でもこれは僕でもリスク無しに発射可能にしつつ、悪魔に有効打が見込める程度のものにしようと思ってるんだ」
『へぇ…まぁ、そんなら良いんだけど誤射して私に当てるとかはナシよ?』
「当たったって効きゃしないだろうけど」
『はん?』
「そ、それより気になりますね!」
口を滑らしたベイカーがミザリーに睨まれるのを誤魔化すように慌てて口を挟むルベリオ
『気になるって?兵士のこと?』
「いえ、兵士の方は僕にはまるで気にも留めてないようでした。なにか他のことに気を取られてるのか…まぁ恐らく、末端の兵士とかだと号外の通り、僕が死んだという認識なんでしょう」
「じゃぁ、なにが気になるのさ?」
「空ですよ、ほら向こうの空。分厚い雨雲が広がってる」
ルベリオが指さした方向、その空を見上げると
確かに言う通り
黒い雨雲がかなりの範囲で広がっている様子が見て取れる
それもこちらの空へと向かって来ているようだった
「うわぁ、ありゃ相当降るぞ…雨合羽とか売ってたかな?」
『あっちで見たわよ…買っときましょ』
とミザリーが先導し、再び露天商や出店のある通りに向かう
その後を追うベイカーが
ふと、振り返り雨雲を見つめると
「…なんだか、嫌な空気を感じるな。あの雲…」
この予感はなんなのか、自身でも分からない
が
それでも悪い予兆めいた気配を感じる
ぶんぶんと
頭を振りそんな予感を振り払う
「うん?…そう言えば…あんまり子どもがいないんだな。さっき聞いた話のせいか?」
ふと気になり辺りを見回す
大人の姿ばかりで、子どもが見受けられない
『なにやってんのよ、遅いわよ。遅ビーなの?あんた』
なんですか、それ?とルベリオが問うのが少し先で見える
「なんか…久々に聞いたよそれ。全く、あだ名のセンスがイマイチなんだよな」
ふっと頬が緩むのを自覚しながらベイカーは
二人の後を追って走り出した




