エキゾースト 【後編】
# misery side
『何が言いたいかっていうと、逃がしゃしないってことね』
こそりとミザリーらから逃れようとしていた鶏の姿をした悪魔に向かい
猛然と駆け出し、その距離をみるみる間に詰めていく
器用にも走りつつ、マリーゴールドへと弾丸を装填しているのは
先ほど放ったエキゾーストはその性質上、シリンダーにその一弾しか弾丸を込められないからだ
銃口にて意図的に暴発させるため、その爆発発生時シリンダーに他の弾丸があれば
誘爆する恐れがある
まさに一撃が重撃、必殺の一弾である
<ガチ…ガチ>
今回装填しているのは、デフォで使用している【touch fire】
パワーこそエキゾーストに劣るが、そつなく扱える弾丸
とは言っても、もともとが従来の銃火器よりも遥かにパワーがあるマリーゴールド
「でも、兵士たちもあんまり銃使ってる人見ないのはなんでなんでしょう?」
ふと疑問を感じたようにルべリオがベイカーに問いかける
そうルべリオが疑問を感じた通り
これまでに王都などで見かけた兵士、衛兵や番兵
それらの人員に銃を使うものなど微々たるものだった
「ああ、それは案外簡単な理由だよ…効かないからさ」
言ってしまえば非常に単純明快な理由なのだが、これまでミザリーの戦いぶりを見てきたルべリオからすると
なんだかそうは思えない
「そうなんですか?」
「うん、悪魔の外殻を破壊するほどのパワーは軍に支給されている銃火器には備えられていない。
ショットガンとかになれば話は別なんだけど、それだと接近が必要になるから柔軟な対応が難しいんだろーな」
「つまりリスクがあるってことですね」
「うん、安全圏。いわゆるロングレンジからでの射撃では有効打が見込めないからあまり使われていないんだと思う」
ふと、ミザリーに視線を向ける
ちょっと目を離した隙になぜだか悪魔はともかくミザリーまで宙を舞っている
<ドォンッ>
身を捻りながら放たれた弾丸が鶏の口の中で爆発する
<ギィヤャー>
力なく羽ばたこうともがくがその力はもはや残されてはいなかった
ドサリと地面に落ちると先ほどまでの耳障りの悪いつんざき声を出していたのが嘘だったかのように沈黙し、そして弾けて消えた
『やっと静かになったわね、あんたは一体何を連れてきてんのよ』
とことの発端を連れてきたベイカーに苦言を呈す
「いやぁ、最初は一匹だったんだよ?それをなんとか振り払ってから合流しようと思ってたら、なんか増えちゃって」
「なるほど。だからあんなに時間がかかってたんですね」
『もう少しでブレーメンの音楽隊が作れそうだったわね』
「はいはい、悪かったよ」
それぞれが荷物を担ぎなおし、また改めて進路を西へと向かい始めた
「あ、そうだそうだ。これ見てよ」
ベイカーがおもむろにカバンへと手を突っ込むと一枚の紙片を取り出した
「それは…号外ですか?」
「うんそう。弾丸買ったときに、包まれてたのをさっき気づいたんだけど。これ、最近の号外なんだよ。多分僕らが王都を出た翌日ぐらいのもんじゃないかな?」
つまりは去った後の王都の状態が詳しくわかるかもしれない
ルべリオが差し出された号外を慌てて広げる
「…これは…」
『なに、なにかわかる?』
すっかり号外に目を通すのに夢中になっているルべリオにはミザリーの問いは届いていないようだ
首を傾げるミザリーにベイカーが代わりに説明を始めた
「まとめていうと、国王の死去と皇太子の、ルべリオの行方不明が第一に記されている。といっても、内容はルべリオも悪魔の襲撃によって命を落としたとの見方が強いって
書かれ方してるけどね」
『好都合じゃない?捜索されてないってことなんでしょ?』
「それはそうともとれるんだけど」
ちらりとルべリオに目をやる
「ミザも気づいてるとは思うけど、ルべリオは賢い」
『あんた、私を馬鹿にしてんの?』
目を細めたミザリーに睨まれ慌てて言葉を次ぐ
「まぁ聞いてよ。ルべリオは歳の割に賢いし案外思い切りもいい、それは多分そのハイトエイド卿とやらも認知しているだろう」
『つまり?』
「追ってないと認識させるために、誤報を流す可能性もある。それにああやって、死んだ可能性もあるって示唆させておけば刺客によって消してしまっても後々困ることはない」
『なるほど…油断させようって魂胆ね』
随分と簡潔にしたなと思いつつベイカーがルべリオに視線を向ける
とふいにこちらをルべリオが振り向く
「大変です!…ハイトエイド卿が王座に就こうとしている」
「…そんなこと書いてた?」
「直接的に書いているわけではありません、ですが国王の逝去に伴い二ヶ月の追悼の期間を設け並びに王都の復旧に尽力し、そしてその後
両大臣のうちどちらかが、国王として公国の頂点に立つと…」
「でもどちらかってことなら、ルべリオの味方の右大臣さんが国王になるってこともあるんじゃ…」
「いえ…その場合国の重鎮による投票により選ばれます。そしてきっとすでにそれを想定して…」
『手を打たれてるってことでしょ?』
静かにルべリオが頷く
「はい、過半数の票を得られるように策を弄しているでしょう」
三人の間に沈黙が広がる
「準備は万端ってことか、厄介なやつを相手取ってるね…」
『あと二ヶ月がリミットってわけね?このままで間に合うの?ビー』
もぞもぞとまたしても鞄の中を漁ると今度は地図を取り出した
「うーん、問題なく行ければあと二週間もあれば最西の砦ベリーズに辿り着けるよ、それを抜ければものの数日でハイゼン武国に
入国できる。そっから武国の王都までどうやって行くかは、武国の地図を手に入れないと目安も計画も立てられない」
「そうですね…ちょっと考えたんですがなんとかしてイグダーツと連絡を取れないでしょうか?」
「右大臣さんと?」
「はい、せめて僕が生きているということだけでも知らせることができればと思って」
『ってーと。手紙とかしか方法はないんじゃない?』
「それも、この事態じゃすんなり届くとも思えないし」
「難しいのはわかってます…イグダーツ宛てともなれば、ハイトエイド卿側の人間に中身を見られ事態も悪くなり兼ねない」
「うーん」
ベイカーとルべリオが揃って難しそうな顔をしているのを
先行しているミザリーが不思議そうに見つめる
(なんだか兄弟みたいね)
とふと思ったとき珍しく
ミザリーの中に閃くものがあった
そして、その閃きが今後の三人にとって功を奏すことになる




