エキゾースト 【前編】
# misery,s side
シューダットと呼ばれる村で買い出しを済ませ、更に西の方へと歩を進めるミザリーら三人
山道を登りはじめ、早くも五日が経とうとしていた
最初は小刻みに休憩が必要だったルベリオも
旅というものに順応しているのか
少しずつ、体力の使い方を覚え
野宿にも慣れ
段々と一日に進める距離が伸びてきた
西に向かうにつれ村や町が少なくなっていくこともあり
すれ違う旅人がたまに居るくらいで
刺客や兵士の存在はいまだに確認できていない
これは元々、そういう道のりだったので想定内ではあるが
やはり、悪魔の襲撃は避けられない
なんならば
ミザリーとベイカーが王都へと辿ってきた道のりよりも多く出現していると感じるほどだった
とは言っても代わり映えのしない悪魔しか出てこず、例の如くミザリーがいなし、それらも難なく突破してきた
そんな折り
『遅いわね…ビーのやつ、いつまで待たせんのかしら』
と零したのは大木に寄りかかり照りつける日光から身を防いでいるミザリー
そして
「まぁまぁ、直にきますよ」
となだめているのは同じく
大木に寄りかかり腰を落として足を休ませているルベリオだった
すっかり髪を後頭部辺りでまとめた姿にも馴染み、ミザリーやベイカーらとの距離感も大分親しいものになりつつあった
そんな二人が待っているのは勿論ベイカーである
用を足しに行ったはいいが
思いのほか時間がかかっている
『そんなのんびりしてていいの?』
「それはそうなんですけど…」
言葉を返すミザリーに少し困った顔を浮かべるルベリオ
単にミザリーがせっかちというだけではなく
三人の旅の目的はルベリオをハイゼン武国へと送り届けること
その第一前提としてハイトエイドが王位に就くまでがタイムリミット、急がなければならないからだ
一日の終わりの休息を必要不可欠な時間として設けているため
それ以外の無駄な時間は極力避けねばならない
つまり、お腹を壊している時間などないということだ
しかし、ベイカーが遅れている原因がそうではないとこの二人も直に知ることになった
「おーい、お待たせー!」
後ろから声がしてくる
なにやら忙しい感じがするのは待たせているという自覚があるからなのか
「噂をすれば来ましたね」
腰をあげながらルベリオが言うと
『やっとね…』
ミザリーも身体を寄りかかった大木から起こす
二人揃って声のした方へと目をやると
『ん?』
「ん?」
とやはり揃って疑問を口にした
「さぁ行こう!すぐ行こう、早く行こう!」
と駆けてくるベイカー
しかし一人ではない
その背後に
空を飛ぶ鶏のような悪魔
いかつい二つの骸骨が組み合わさったような悪魔
そして山羊のような悪魔
三匹の悪魔がベイカーの後ろからこちら目がけて迫っていた
というかベイカーを追いかけてきたのだろう
『あのバカっ!ラビ、走って』
合図すると同時にルベリオは慌ただしく駆け出した
ミザリーも走り出すと
追いついてきたベイカーに向かって問いかける
『一応聞いとくけど…』
「友だちじゃないよ!言っとくけどねっ!」
と交わす言葉の後ろで
〈ブンッ〉
と骸骨の悪魔が腕を伸ばし、振るってくる音が聞こえた
獲物を捕まえようとしているのだろう
『はっ、熱烈ね!ハグして欲しいんじゃない?』
「そうかい?そんなら代わりに頼むよ!」
『ああ、そうっ!』
ミザリーはノルニルを突き立てながら体勢を低くした
〈ギャリギャリッ〉
突き立てられたノルニルで地面を抉り慣性の勢いを殺しその場で振り返る
敵の先頭は、骸骨のような悪魔
それを確認すると
ノルニルを突き立てたまま駆け出し
思いっきり地面を蹴り跳ぶと
こちらにつんのめってくるほどの勢いの
骸骨の悪魔の顔を両足の底で迎え入れた
〈ゴシャッ〉
と妙な音を立てながら思い切り仰け反り
両腕を振るいながら悶える悪魔
〈ジャッ〉
とこともなげに着地するミザリーは再び対象に近づき
前のめりになっている悪魔に覆いかぶさると
その悪魔の腰の辺りに両腕を回し持ち上げた
いわゆる、パワーボムの体勢である
それを遠巻きに見ていたベイカーがルベリオの肩にポンっと手を置く
「いいか、ラビ。よく見とくんだ…ミザを、女の人を怒らすと…」
そこまでベイカーが言ったのを合図にするように
『これで…どうよ!!』
とそのまま悪魔を頭から地面に叩きつけた
〈ゴギャァ〉
酷い音を立てながら地面に突き立てられた
悪魔の骸骨の破片が砂埃と共に巻上がる
ピクピクとかすかに痙攣するような動きは
完全に無力化されたと見て間違いなさそうであった
『…満足した?』
これがミザリー流のハグとでも言わんばかりに両腕を広げておどけている
「…ああなる」
「…肝に銘じておきます」
その様子を見ていた男二人が
ミザリーを怒らせないようにしようと誓ったことはさて置いて
そのミザリーの背中に向かってくる
黒い影は
次いで向かって来ていた山羊の悪魔
紙一重でその角がミザリーの背中に突き当たるコンマ数秒前
『おっと…』
くるっと身を翻し
間一髪躱す
そしてそのままの勢いで二、三歩下がる
『あー…あんたはちょっと…』
躱された山羊の悪魔も振り返り
再びミザリーに視線を合わすと、蹄を地に打ち付け鳴らし始める
『ハグしづらそうなフォルムね?』
「ハグにこだわんなくてもいいんだよ!?」
思わずベイカーが叫ぶ、もとい突っ込む
『まぁ、そうね…よく考えたら別にタイプでもなかったわ』
「君はタイプの異性にいきなしドロップキックからのパワーボムぶちかますのかぃ?」
ベイカーの苦言を聞き流しつつ、
山羊の悪魔の出方を伺うミザリー
あっ、と
ベイカーが手荷物の鞄をごそりと漁り出す
そしてその鞄の中から何やら取り出すと
ミザリーに向かって、振りかぶり、投げた
「ミザッ!忘れてた!整備終わってたんだった!」
〈ヒュンッ〉
と無遠慮に投げ飛ばされてきたのは
ミザリー専用の大型拳銃 マリーゴールド
〈ギンッ〉
ミザリーはその手も鋼で造られているために、
ものを受け取るのにもいちいち金属音が響く
受け取ったそれを、引き金に指をかけクルクルと回すと
『そりゃどうもっ…弾は?』
「新作だよ!昨日話したろ!【exhaust】!」
『ああ…オーライ、そんならジビエと洒落こもうかしらっ!』
言い切るや否や
山羊の悪魔に向かって駆け出すミザリー
それを見守っていたルベリオが不思議そうにベイカーに訊ねる
「銃を持ってるのに。近づいていくんですね」
「ああ、銃火器は遠距離武器だし普通なら近づく必要はないんだけど」
「弾が違うんですか?」
「そうなんだよ、僕が考えた新作!まぁ見てな」
何やら得意げなベイカーに促されるまま、
視線をミザリーの方へとやると
いつの間にやら
ミザリーと山羊の悪魔が並んで並走している
四足で走る獣のような悪魔と並んで走れるということが、彼女が持つその俊敏性を明らかにしている
そして
おもむろに、ミザリーは右手を伸ばすと
山羊の頭から伸びる二本の角の内の一本に手をかけ、掴んだ
そのまま体勢を低くすると
脚で地面を削りながら
ミザリーもろともその山羊は見る間に失速していく
自らの意図したものではない失速に脚がもつれ、悪魔と言えどその振る舞いに動揺が見えると思った矢先
その両者の脚が止まりきるまえに
ミザリーの左手がマリーゴールドを握り、引き金に指をかけたまま
殴り掛かるように突き出された
〈ボォゥンッッ〉
轟音が響き、その銃口付近で爆発が起きる
その爆発にまるまる顔を包まれるような様になってしまった山羊の悪魔が
顔を火に焼かれながら糸の切れた人形のように立ち尽くす
やがて顔から火が立ち消え
一陣の煙をあげながら固まり、砕けた
『上手に焼けました…って…』
マリーゴールドを握ったままの手をプラプラと振りながら勝鬨をあげるかと思いきや
『ちょっと…服が焦げてんだけど?』
銃口付近、つまりミザリーにとっても目前で爆発が起こったのだ
無論、衣服にも然るべきリスクが存在するということらしい
袖を捲っているため、微々たるものだが
それでもやや焦げてしまっていた
「もうちょい調整が必要みたいだね」
苦情を聞き入れつつも
ベイカーとしては満足のいく出来栄えだったらしい
どこか機嫌が良さそうに見える
「あれがエキゾースト…ですか?」
「そう、銃を近接武器として使う為の弾丸でね。従来のものは発射、着弾がデフォなんだけど、あれは発射と爆撃をほぼ同タイミングで行うんだ」
「銃口から火が出てるように見えましたね、火というか爆発でしたけど」
「うむ、エキゾーストの弾丸はバレルとほぼ同一、ホントにギリギリのサイズで造ってある。そしてマリーゴールドの銃口付近の内部にちょっとしたエッジを設置してあるんだ。従来の弾丸ならば干渉しないんだけど、エキゾーストだけはそのエッジに引っかかってしまう。そして射出の威力が馬鹿げたマリーゴールドがその条件下で弾を発射すると、当然発射された弾丸はそのエッジに干渉しそこで爆発する。ぶっちゃけると、意図的に暴発させてるようなもんだね」
「とんでもない発想ですね…」
ルベリオの言う通り、本来ならば考え得ることさえないようなアイディアである
当然に爆発の反動や影響が使い手には
多大に発生する
意図的に暴発させるなど、自殺行為とさえとれるが
「普通の人ならまず不可能だけど、ウルベイル鋼で造られた腕のミザなら耐えれちゃうんだよなぁ」
「仮に僕やベイカーが撃ったらどうなりますか?」
「一発撃ったら片腕が使い物にならなくなるね、生涯に二発しか撃てない」
「うわぁ…」
想像し、ゾッとしてしまったが
ミザリーの方へと目を向けると
涼しい顔で未だに焦げた袖口を気にしている
「…あれ?」
ルベリオが向けた視線の先
ミザリーの後方の茂みをコソコソと逃げ去ろうとしている鶏の悪魔を捉えた
そりゃ逃げたくもなるか
と同情めいた気持ちもあるが
「ミザリー!鶏が逃げようとしてますっ」
ミザリーもルベリオに促され
視線を向ける
『んー?逃がしても良い気がするけど、あんたもビーを追っかけて来てたんだから人を襲うってことよね』




