準備万端
現在より時は数日遡り
# another side
ミザリーら三人が王都から抜け穴を使って王都外へと抜けた
その数刻後
悪魔の姿も見えなくなり
大きな被害を被ったものの王都は、差し当たりの脅威からなんとか逃れることができた
地下の壕などに避難していた人々も
通りに姿を現し始め
悔しさを噛み締めながらも
それでもまた元通りの王都にと
それぞれにできる復興へと勤しみ始めた
そんな中
王都四区の中にある一軒の宿屋
ミザリーとベイカーの二人が宿泊していた宿に一人の来客があった
銀色の髪を揺らし
静かな立ち振る舞いで影のように入ってきたその人物は
リーダ・バーンスタインだった
# Leada side
騒動の後
スっと入ってきたリーダに
多少の驚きを見せたものの
フロントに立っていた中年女性は
すぐにこの国の遊撃隊隊長と気づくと
微笑みを浮かべた
「これは隊長さん、ご苦労さまです。この宿は特に被害はないですけどどうかしましたか?」
笑いながら問いかけるその様子には
リーダ・バーンスタインが謀反の隊長であることなどまるで知る由もないといった雰囲気だった
勿論リーダにも
宿屋の女性などにそんなことを勘づかれている訳もないとは思っている
「ええ、実は聞きたいことがあって…」
「なんでしょう?」
「金色の髪の女の子、泊まってたでしょう?同じ年頃の少年と一緒に。もう戻ってきてる?」
「ああ…」
その問いに思い当たる節がある
しかし、どこか歯切りの悪そうに少し曇った
顔で続けた
「確かに泊まってました、でも戻ってないんですよ…あの悪魔たちの襲撃で怪我を負って戻れないか、もしかしたら…」
まだ年端も行かぬ子達の行く末を案じたのか
、その不運な結末を予想してしまったのか心配そうな表情を浮かべる
「荷物は?」
「残っています、着替えとか…一応フロントで預かってはいますけど、取りに戻ってくるかどうか」
「そう、わかった。ありがとう」
やはり静かに素早く踵を返すと
宿屋の出口の扉に手をかける
すると後ろからその背中に
宿屋の女性が声をかけてきた
「やっぱり!…悪魔にやられちゃったんでしょうかねぇ…」
「…」
〈ガチャッ〉
リーダは何も言わず宿屋を出た
そして少し歩き振り返ると
ボソリと呟いた
「…あの子がそんなタマなわけないわよ、ねぇ?」
自らに向かって剣を振りかぶってきたその姿を思い出し浮かべたのか
リーダはほんのわずか口角をあげた
(やはり…王都から姿を消している、ルベリオ・ウェイヤードの姿も依然見つからぬまま…偶然と言えばそれはそれで収まりもつく。でも引っ掛かる…)
思索をかけ巡らしながら歩を進めるリーダ
するとその後ろ姿にまたも声をかける存在があった
「リーダ・バーンスタインッ!」
「…?」
若い男性の声
振り返るとそこには護警団所属の青年が立っていた
なにやら憤っていることだけは理解できる
その理由については見当もつかないが
「あなたは…護警団ね?何か?」
「アーサー・ビークマンだ!何度も軍議や王城で会っているだろう!」
「なんの用かと聞いている、私はあなたに足をとられる時間は持ち合わせてないの」
目を細めたリーダの視線に
多少物怖じはしたもののアーサーも負けじと見つめ返す
「なぜ!貴様がついていながらみすみす国王を死なせたのか!その答えを、納得できる答えを聞かせてみろ」
激昴の理由としては正義感が強く愛国心もあ
る
更には国に仕える護警団としてはまっとうなものだろう
使命を全うしなかった同士への言及か
しかし
今のリーダにとって
その愛国心を有する彼との関わりは煩わしさしか感じ得なかった
「あれだけの数の悪魔がいては、多少腕が立つ程度では手が足りなかった。それで満足?」
おざなりに返すとリーダは
振り返り、アーサーから離れるべく歩をすすめようとした
〈キィン〉
背後で、アーサーが腰元から剣を抜く微かな金属音が聞こえた
「そんな答えで納得出来ると思うか?」
鋭い視線が再びリーダに突き刺さる
どうあってもおざなりの答えで事を済まさせる気はないようであった
(…煩わしい)
音もなくリーダの髪が揺れる
何かに呼応するかのように、何かの感情を示すかのように
そして
〈ギィィンッ〉
と甲高い金属音が鳴り響いた
しかしアーサーには
リーダが抜刀する仕草も、こちらへと剣を振りかぶる様子も何一つ見えてはいない
アーサーは自身が抜刀し
構えていたその手に凄まじい衝撃を感じた
はっと意識を集中したその目に映ったのは
眼前の空間を
自身の剣
その刀身の半分が折れて回りながら宙に舞うなまじ腕に自信があるぶん、信じられない光景だった
「失せなさい…今の私には、逆鱗しか存在しない。」
一体いつの間に
どんな速度で抜刀すればそんなことが可能なのか
そんな疑問さえ露に消すほど
その言葉には危うい鋭さがあった
アーサーは自身の手の震えに気づき
そのまま為す術も、これ以上かける言葉もなく歩き出すリーダの後ろ姿をただ見送った
「ミザリー・リードウェイ…いいわ。私は、あなたが運命の渦中に身を投じていることに賭けて動く…すぐに…会えるわ」
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# misery,s side
そして時は再び現在に戻り
シューダットの市場の中
雨から身をかばいつつ
三人は揃って買い物をしている最中だった
差し当たりの食料を第一に考え
いくつも点在する店を物色しつつ回っている
「干し肉に干物、日持ちするパンに穀物。水も補充したし、あとは何がいる?」
ベイカーが抱えた紙袋には向こう何日か分、もといそれ以上の備えの食料
他に必要なものはないかと
後続する二人を振り返りベイカーが声をかける
「僕は食料さえあれば差し当たり問題ないと思いますけど」
とルベリオが言うが
その背後で
『ねぇ?思ったんだけど…ラビって良い服着てるわよね』
「へ?」
突然何を言い出すのか、とでも言うように
ベイカーがミザリーを見るが
ふと言うようにルベリオの衣服に目をやると
確かに、質の良さそうな上等な衣服に身を包んでいる
「ああ、なるほど。」
「なにか変ですかね?」
ルベリオが改めるように自分の衣服を眺める
「いかにも王族というか、良いとこの身なりってことだよ」
『でしょ、これじゃ皇太子ですって宣伝してるようなもんじゃない?』
「えっ!…それはまずいですね…」
はっと、困ったようにミザリーとベイカーの二人を見回す
ベイカーらの言うように
ルベリオをハイゼン武国へと無事連れていくためには極力目立たない方がいい。
さながら王族のような出で立ちのままでは、いつ兵士の目に止まるかも知れないという懸念が生まれるのだ
『買い替えましょ、質がどうとか贅沢は言わないでね?』
「僕が選んであげるよ」
『なんでそうなんのよ』
「ミザリーに男の子の好みなんて分かんないだろ?」
『センスの善し悪しに男女は関係ないわよ』
「…」
好意は嬉しいのだけど、なぜこの二人は言い争っているんだろうとルベリオは思った
結局
一着ずつ選ぶという謎の折衷案にて
そのささやかな争いは幕を閉じる
幸い、ルベリオの元々着ていた衣服も買い取って貰え
生地の質や仕立てが良かったこともあり
良い値がつき、ルベリオにも多少なりとも所持金ができた
ついでと言うわけでもないが
『はい、ラビ』
道すがら不意にミザリーが
ルベリオになにか投げ渡した
「おっと…これは?」
それは20センチほどの
ささやかながら伸縮性がある青い紐だった
『髪、括ったら?邪魔なんでしょ?』
ミザリーが自分の左側の前髪をぴんっと弾きながら示す
確かにルベリオの前髪は長く目にかかっていた
出会ったころは、王城の誰かが世話をしていた名残で綺麗にまとまっていたが
今ではそれも見込めず
時折邪魔そうに耳にかけたりしている様をミザリーが見ていたのだ
「ああ、さっき買ってたのラビ用だったのか」
納得したようにベイカーもルベリオに視線をやる
「僕みたいに短くすりゃいいのに」
「ラビは綺麗な直毛だから伸ばしたってカッコつくわよ…あんたと違ってね」
ミザリーの言う通り
ベイカーは実はくせっ毛だった
短くしていればさほど気にはならないためベイカーは幼少のころより今の短めの髪型で過ごしている
「ありがとうございます…ええと、こうかな」
少し照れくさそうにルベリオは
髪を逆撫でにし後頭部辺りで貰った髪紐で括った
短い前髪はやはり前に垂れるが
目にかかっていた髪は綺麗にまとめられていた
「お、いいじゃん。なんか男らしくなった気がするね」
「そ、そうですかね…なんか服も変わったし、別人になった気分です」
『丁度いいわね、それくらいラフな感じなら兵士の目にも触れにくいでしょ』
「よし、じゃぁ準備万端だね。と、はいミザ」
忘れてたというように
今度はベイカーがミザリーに何かを手渡した
どうやら上着のようだ
『私に?なんで?』
受け取るがままに広げて見ると
色合いやテイストは今着ている軍服に似ているがフードがついている
「なるほど」
それを見てルベリオも納得
「ミザも金髪が目立つからね、人が多いとこではフードで隠して。注目は浴びないに越したことないよ」
『…まぁ、確かに擦れてきてたから丁度良いけど』
「丈も足りてなかったしね」
『そういうデザインよバカ』
ルベリオに衣服を指摘した手前
反抗するのにもバツが悪いらしく
大人しくベイカーから手渡された上着に着替えた
「似合ってますよ、ミザリー」
袖を通してみるとサイズ感は丁度いい
質もなかなかに頑丈そうな革でできている
「僕のセンスも悪かないだろ?」
得意げな顔でこちらを見てくるベイカーに
なんだか悔しい気がしながらもミザリーはポツリと呟いた
『まぁ…悪くないんじゃない?それなりにね』




