雨
# misery side
シューダットという村に辿り着いた三人
その晩のしばしの団欒の最中
ミザリーはひと足先に眠りに落ちていた
そして、夢を見ていた
幼き頃の記憶を
# in the dream
見慣れた光景に
馴染み、落ち着く空気
最東の村 ハンドベル
群れだって建つ家々から一軒だけ
外れた場所に建った家屋
その家屋の中に
揃って美しい金髪を揺らす一組の母娘がいた
『なーんで雨は降るのかしらねー』
窓から外を眺めつつ
つまらなさそうにボヤいた少女
幼きミザリー
お転婆 じゃじゃ馬 男勝り
様々な言われようをする通りに
活発且つ好奇心に素直な少女は
朝から降り続く雨に、行動範囲を家の中と狭められ退屈な午後を過ごすはめになっていた
「雨は恵みをもたらしてくれるのよ?そんな言い方しちゃ可哀想」
ぽんぽんと
ミザリーの小さな頭に手を乗せてなだめているのは
母であるアリス・リードウェイ
普段であれば
地下に備えた作業場で機械を組み立てたり技術職に従事している彼女だが
一人娘であるミザリーが退屈そうにしているので
雨の日は揃って退屈を持て余す習慣となっていた
『降りすぎだって…もう三日目よ』
久しぶりの雨ではあり
恵みをもたらしているのは幼いミザリーにしても勿論重々と承知なのだが
それがあまりに続くと、駆け回るのが趣味となっている幼い好奇心の塊には酷となる
『ビーはなにしてんのかなー?』
ふと思い浮かぶのは
ミザリーが探検、冒険とかく外に繰り出す際にはもれなく付き添う
もとい、付き添わせる幼馴染のことだった
「ベイカーならきっと機械いじってるわよ、雨の日じゃないとゆっくり機械もいじれないってボヤいてたからねぇ」
と言う通り
ベイカーは幼いながらもアリスの仕事に興味を持ち、師事している紛れもなく技術者の卵のような存在である
ミザリーが全く興味を持たないため
興味を持ってくれるベイカーについ熱を持って指導してみると
これが案外性に合っていたのか天性のものがあったのかで
ベイカーはすっかり機械オタクになってしまっていた
『つまんないの、あんな難しいのよく分かるわねビーのやつ』
「ベイカーも良く言ってるわよ、ミザは良くあんなに走り回れるなって」
つい、子供たちのやりとりを思い出し笑みが零れてしまう
なんだかんだでミザリーとベイカーは良いコンビだと、アリスは感じていた
「ねぇ、ミザ?」
小さな頭を撫でながら
退屈そうなミザリーに問いかける
『なーに?』
「私が王都で暮らしてたって話はしたわよね?」
『うん、聞いた。私も一度ぐらい都会に行ってみたいなー』
幼いなりにも都会への憧れがあるらしく
想像上の王都に空想を働かせているようだ
頭を左右に揺らしてご機嫌になりつつある
「そうね、ミザがおっきくなったら行きましょ」
『ホント?楽しみ!…ビーも連れてってあげる?あっ、でもそれだとおばあちゃんが寂しいかな』
おばあちゃんとはベイカーの唯一の肉親である祖母のことだった
交流も深くベイカーの祖母にとって
ミザリーももう一人の孫のようだと接してくれており、とても仲が良かった
「だったらおばあちゃんも一緒に行けばいいのよ」
『…ほんとだ!』
既に予定が立ったとでも言わんばかりに
ミザリーの目が爛々と輝く
いそいそとミザリーにとっては珍しく
地図を取り出し広げて眺め始めた
「実はね…ミザに会わせたい人がいるの」
『ん?だぁれ?』
「あなたにとって、とても大事な人よ」
地図を眺めるミザリーの肩を抱き
優しい微笑みを浮かべるアリスは
その誰かのことを思って微笑んでいるようでもあった
「その人はね…あなたの…」
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# misery,s side
小鳥のさえずる音が
宿屋の外から村の目覚めを知らせる音が聞こえてくる
ベッドの上で少しずつ
ゆっくりと瞳を開くと
ミザリーは辺りを見回した
いつの間にか寝てしまっていたのだろう
ベイカーかルベリオか
どちらかが布団をかけてくれていた
そしてその二人も
それぞれがソファでいまだに寝息を立てて眠っていた
『…』
目覚めは悪くなかった
久しぶりに夢で母を見た
幼き頃の記憶をなぞることが出来たことで
ミザリーにとってほんのわずかながら気休めになったようだった
〈ギシッ〉
ベッドから降りる際
かすかな軋みが静かな部屋に響いたが
二人を起こすには至らなかった
そっと歩き窓を開く
やはり多少なりとも軋む音がなったが
それでも二人はいまだ夢から醒めない様子
ぼんやりと外を眺めると
ちょうど雨が降り出したような天気だった
すぐ側の木々には雨のせいでか
飛ぶに飛び立てぬ鳥が枝の上を跳ねつつ
小さくさえずっている
何を考えるでもなく
村の様子を眺めていると雨足がわずかに強くなってきた
〈パタパタ〉
雨粒が地に落ち弾ける音が
少しずつ大きくなっていく
そしてその音が耳に入ったのか
背後のソファでベイカーが目を覚ました
「おはよミザ…雨?」
目も開かず、身体を起こし伸びながらベイカーが尋ねる
『おはよ、ご覧の通りよ。下手したらまだ強くなりそう』
「うわぁ…マジかよ、っても」
『ええ、足を止めてる暇はないのよね』
なにぶん状況が状況であるため
不要な足止めは、今後に影響を与えかねない
できるだけ早くルベリオをハイゼン武国に連れていかねばならない二人には
雨が降ったからとて
のんびりもう一泊などとは考えられないのだ
「せめて着替えとか防水対策はしていこうね」
少し抑えつつ会話していても
やはり耳に入るのだろう
ルベリオも程なく目を覚ました
そして同じように窓の外に目をやり
降り始めている雨に表情を曇らせた




