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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
奪還行進曲
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51/98

第一歩

# misery,s side


しばしの休息と

ベイカーとルベリオが眠りについて数時間が経った


一人、見張りのために起きていたミザリーは星空を見上げながらぼんやりと考え事をしていた


(結局、王都まで来ても母さんの意図を探ることができなかった…これ以上の手がかりは見込めそうにもないか…)


〈カチ〉


微かな金属音を立て腕を空に伸ばす


相も変わらぬ鈍色の、鋼の腕が

そこにある


(…今はひとまず考え事は置いておこう、ラビを武国へ連れてくことだけを目的にしよう)


今、自身ができることを冷静に鑑みた結果


ルベリオから聞いた話の通りだと

ハイトエイド卿が国を戦火に包みかねない、ということだけはミザリーにも分かっている


悪魔だけでも、人々は対応しきれず

こうしている間にも何処かで、誰かが、泣いているかも知れない


挙句、戦争なんてことになれば

それこそ未曾有の悲劇だ


ちらりとルベリオを見やる


幼い寝顔は歳相応のものだが

その心には計り知れぬ大きいものが寄り添いのしかかっている


心許ない小さな身体に、とても大きなものが


だが、それでも何となく

ミザリーには予感があった


(ラビならもしかしたら…そんな悪い世の中を変えてくれるかも知れない)


そう感じさせたものの正体はわからない


それでも、差し当たりの生きる理由としては

大層なものだがやってみる価値はあると思った


(それにリーダ・バーンスタイン…あの女にはまた会っておかなきゃいけない気がする)


それは【借りを返す】ということに起因するのか、はたまたそれもただの勘なのか


ミザリー自身にも分からないが

そうしなければいけないと感じている


「んー…」


かすかな音に目をやると

ベイカーが目を擦りながら身体を起こすところだった


律儀なもので、起こすまでもなく

自ら見張り番の交代のために目覚めたのだろう


「…ふぁ…もしかして寝すぎた?」


まだ醒めるところまでは来ていないものの

足取りはしっかりとミザリーへと近づいてきた


『いーえ、良い感じの頃合じゃない?』


「ならよかった。ミザも寝なよ、流石に疲れてるでしょ」


言われてみればいろいろとあった

というよりも、これからもきっと色々とあるだろうという予感も含み

途端に疲労を感じ始めた気がした


『ねぇ、ビー』


「ん?」


『結局なにも…わからなかった』


それがなにを差してのことなのか

ベイカーは勿論気づいている


「そうだね…でも逆に言えばまだどっちにも転がれるってことだよ。悪い方向に行ってしまうかも知んないけど、それでも良い方向にだって転がれる事もある」


『まだ途中ってこと?』


「そゆこと。…幾ら親しい人の事だとしてもさ。その心の底を見ようとするのは簡単じゃないってことだよ」


『でもわからないままで終わる気もする』


ほんの微かに

ミザリーの弱気を感じとった


何か得られると思い長い道のりを経て王都に辿り着いた二人


しかし、実として得られたものは

何もない


故の弱気が、その声には隠れ切れずにいた



「違うよ、〈わからない〉は答えじゃない。良くも悪くも迷ってるうちはまだ途中なんだ」


『だとしたらまだ…長い旅になりそ』


はぁ、と少し息を吐く


「…考え事もいいけど、早く寝なよ。朝になったら否応なく出発だからね?」


『了解、それじゃおやすみ。ビー』


ぷらぷらと手を振ると

傍の大木に背中を預けるようにしゃがみこみ


目を瞑る、そして静かに眠りについた



ミザリーが眠りにつくのを見守ると

ベイカーはぽそりと呟いた


「大丈夫だよミザ…きっと答えが見つかるから」





四時間後




空がぼんやりと白け始めたのを

ベイカーはぼーっと考え事をしながら眺めていた


昨日の大騒動からは想像もつかない程の静かな朝がそっと音もなく訪れている


三人の足取りは決して早いものではなかったがそれでも追っ手の気配らしいものは感じ取れない


やはり王都の騒動の後始末などで

すぐにどうこうという動きは取れていないんじゃないかと推測した


(収束するまでは派手に兵士を使えないのか、あるいはラビが王都外に出ているとは思っていないって線もあるな…だとしたらなるべく今のうちに歩を進めておきたい)



ごそりとベイカーは自分の革の鞄を手繰り寄せた


宿屋に置いてきた荷物のことは名残惜しいが

差し当たりのものは全てこの手荷物の鞄に押し込められている


ベイカーとミザリーの財布

そして愛用の工具に、いくつかの部品


(そうだ、ミザリーの身体もチェックしとかないと…昨日は大分無茶しただろうし)


そう考えながらちらりとミザリーに目をやると


ちょうどもぞりと動き始めていた

だがそれはミザリーでなくルベリオの方だった


目をこすりながら

辺りをぼーっと見ている

そして、はっと自分の状況を思い出したのか

一気に目が開いた


自分を見ているベイカーに気づくと

傍のミザリーを起こさぬようそろりと

起き上がり近づいてきた


「ベイカー、おはようございます。ずっと見張りを?」


ヒソヒソ声で話しかけてくるのは

気遣いからだろう


「ミザリーと交代しながらね。快適とは言えないだろうけど眠れた?」


「はい。…でもすみません、僕も交代で見張りすべきでしたね」


申し訳なさそうに頭を下げるルベリオになぜだかベイカーは笑ってしまった


「そんなの気にしなくていいよ、昨日は…大変だったんだしこれからも大変なんだ。せめて休息はとらないと」


「気を使わせてしまって…」


とあくまで恐縮している


自分がこのくらいの歳のとき

こんなに人を気遣うことができてただろうかと思うとベイカーはなんだか感心してしまった


「さ、それよりミザを起こそう。早いとこ、村かなんかに着かないと食料も手に入れらんない」


と言う通り

三人は食料を持っていない


育ち盛りの年頃を思えば

それも立派な不安要素であった


ミザリーは食事こそ取らないものの

ベイカーとルベリオが空腹で動けないなんてことになれば目も当てられない


とりあえずはその確保のために

村を目指し歩を進めるべきだと

二人の空腹具合が決定させた


「昨日のドタバタの最中は空腹なんて忘れてたんだけど、少し落ち着いたらもうダメだな…ラビももう少し耐えてね」


「大丈夫です…睡眠は取れたのでまだ全然歩けますし」


「よし、じゃぁ進む元気のあるうちに…ミザ、起きて」


そっとミザリーの肩をぽんぽんっと叩く


少しの身じろぎの後

ミザリーもゆっくりと起き出した


『ん…朝…か』


微か目を開き

身体を起こすと両手を空に伸ばし首を回す


「そうだよ、出発しようミザ」


『ヤー、ラビもおはよ』


「おはようございます、今夜からは僕も見張りしますね」


『じゃぁ順番っこね。さて…行きましょ』


ひょいっと立てかけてあった

ノルニルを担ぐと


ミザリーは歩き出した


次いで二人もその後に続いた


三者三様の想いはあれど

前に進むという点では同じ


とふと羽音が耳に入る


それは徐々に大きくなり

生い茂る木々の葉の裏から聞こえてくる


「もしかして食べれる感じの鳥かな?捕まえれそうなら僕、塩持ってるから焼いて食べよう」


『なんで塩持ってんの?』


「岩塩っての?珍しいから買っといたのが手荷物の中にあったんだよ」


抱えた鞄を探り出すと

その羽音の正体が木の裏から姿を現す


それは

王都で見かけた火を吐く鳥、つまり悪魔だった



〈ギィ…ギィャッ〉


ほんの五、六mにまで接近してきたそれは

とても食べれると言える代物ではなかった


『ビー?案外奇跡的に食べれるかもよ?』


皮肉混じりにベイカーを振り返るミザリー



「そんなんならもっと別のことに奇跡を使いたいよ」


「…ですね」


少なからず空腹をしのげるかもと期待していた少年二人は期待はずれにげんなりとしている


『だって、にわとりさん。帰っていいわよ』


手をぷらぷらと振り、追い返す仕草をする


だが、当然と言えば当然に

それが悪魔のカンに触ったらしい


〈ギィャッ!ギィ!〉


と怒気を感じるような声を上げ始めた



『朝から騒がしい…オーライ…朝食には並ばせないけどとりあえず、絞めてあげるわっ』

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