後ろ髪引く街
# another side
「ここから西っていうと…ベリーズがあるよね」
井戸から這い出た三人は西へと進路を取りながら歩を進めていた
「はい、先日【四つ脚】に襲撃を受け、戦力はさほど残されてはいないはずです。それでも相当数の兵士はいると思われますけど…」
「ホントに飛んで火に入るつもりじゃないか…」
『避けて通ればいいんじゃないの?』
「そうしたいのは山々なんですけど…公国から武国へと渡るには西のベリーズを通るのが一番安全策なんです…これでも」
「これでもって…えっ?」
一番後ろを歩いていたベイカーがあげた声につられミザリーとルベリオが振り返った
そこから見えた景色は
燃え上がる、王都だった
「そんな……」
ルベリオが力なく膝をつく
ミザリーも、ベイカーも先程までいた王都のその様に言葉を失っていた
『…あらかた片付いてたと思ったけど…』
静かにミザリーが零した
その通りだった
ミザリーら三人が追っ手をいなし
第二区の井戸に潜る前
少なくとも第一区や第二区に火種になりかねない悪魔などはいなかった
だが、目に映ったその光景は
王都の中心にほど近い場所から火が上がっているように見える
「これも…リーダ・バーンスタインの仕業かな?」
「…分かりません。今はまだなにも…」
ルベリオの両の手が固く、固く握られている
自らの不甲斐なさを無力さを噛み締めるように
『ラビの頼りの人は無事かしら…』
「イグダーツは聡明な人ですから、頭の回転も早いし今の僕の現状も理解してくれているはずです。自身の保身が必要なこともきっと…」
「狙われたりしてないかな?」
「国王が逝去したとなれば、国民の混乱は避けられません。万が一の際は一先ずは両大臣がそろって国を支えるというのが習わしですから…そう矢継ぎ早にイグダーツにまでは手を出せないと思います。」
「なんにせよ、急いだ方がいいってことは確かだね。…今は無事を信じて行こう、ラビ」
ベイカーが佇むルベリオの肩を叩く
『(たまに…小難しい話するわね)』
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移り変わり
時は少し遡る
# another side
「なぜだ!なぜ火が上がっている!」
声を荒げながら目前の兵士に問いかけているのは
第四区にて、騒動の収束に務めていた
護警団のアーサー・ビークマンだった
彼の目にも
いや、王都にいるどの国民の目にも
王都の中心が燃え上がっているという事実は避けられない悲劇の結末としては
最悪ともいえる幕
「わっ、わかりません。ですが先程から火の玉をはなつ悪魔が目撃されておりますので…おそらくは…」
「ならば、なぜ早急に対処しなかった!!」
「勿論全力を尽くしております!おりますが…それでも手が足りないのです…」
「くっ…!…至急消火にあたれ!急げっ!」
無論言うまでもないことはアーサーにも分かっていた
しかし、それでも声を荒げずに居られないのはこの国を守る役目の護警団としてだけでなく、一個人の正義感から募る焦燥の現れだった
更には目前の惨状は勿論
その意識が毎秒のように気にかけさせられるのは
王城の様子だった
四区からでは王城の様子は分からない
だがこの状況では、王城が無事などという保守的な想像には到底及びそうもない
「王城が無事ならば応援が来ても良さそうなものだが……言ってもしかたないか…」
アーサーは王城へと向けていた視線を
火災のほうへと向けると
意気込みを追い風に消火へと向かった
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更に移り変わり
同刻
一大渦中にある王城の中の一室
国王の死去が密やかな事実から
王城の中に伝播しつつある状況
ここは礼拝堂のような一室
そこに外の騒動などどこ吹く風とでもいうふうにたった一本灯った燭台のロウソクに照らされ
静かに佇んでいるのは
ハイトエイド・ベルライン
この騒動の元となった反逆の左大臣であった
そして、もう一人
ロウソクの灯りからさえ逃れているように
立っている
リーダ・バーンスタイン
この国の王を殺めたとされる反逆の二人
「外は…まだ騒がしいな?リーダ」
ゆっくりと喋るその言葉は
外の騒ぎとは相反するような静けさ
それが嫌に不気味な雰囲気を漂わせた
「無理もありません、公国の一大事でありますから。しかし、間もなく…落ち着くでしょう。そして…」
リーダの言いかけた言葉を
ハイトエイドが継ぐ
「ああ、始まりだ…理想への道を歩む時が来た。それより注視すべきは…ルベリオ・ウェイヤードだ、見つかったか?」
「いえ…まだ確認はできておりません、生死もその安否も」
「遊撃隊に捜索させろ…王族の血は絶やしておかねばならん。差し当たりひとまずは王都の混乱を沈静させる、その後お前も捜索に加わってもらう…いいな」
「はっ…」
そしてこの二人の会合から
数時間後
王都の火は遂に赤いゆらめきを消し
この騒動に、おざなりにその幕を下ろした
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# misery,s side
「結局…【魔女の檻】ってなんなんだろうね?」
辺りはすっかり夜になった
人気のない森林地帯
その一角のほんの僅かな開けた空き地の
ような場所で三人は腰を落ち着けていた
その矢先にベイカーがふと声に出した疑問
『…檻は檻じゃないの?』
切り株に腰掛けていたミザリーが
空を仰ぎながら返すが
「そんな単純なものじゃないだろ…多分」
そもそもミザリーやベイカーにとって
初見な代物だ。記憶を探り知恵を絞ろうとて断片たりとも答えが見つかるものでは無い
『学がなくて悪かったわね…ラビはなにも知らないの?』
「僕が知ってることと言えば…この大陸には四つの大国があります。」
ルベリオが話し出すと
ベイカーとミザリーは揃ってルベリオに視線を向け、大人しく聞く姿勢をとった
「ルグリッド公国・ハイゼン武国・ドライセン護国・バリオール奏国の四つです。その中でもこのルグリッド公国とハイゼン武国は規模や人口や戦力が均等と言われています、ドライセン護国とバリオール奏国もかなり大きな国ではありますが、この二国と比べれば少し小さいです」
「そこまではなんとなく分かってるよ、ねミザ?」
『なんとなくね』
「何でもその均衡を崩すほどの代物だそうです、人口・規模・戦力などなんの意味を持たず。【魔女の檻】を有する国がこの大陸を制するというほどのもの…らしいです」
「…そんなものが本当にあるの?」
「古来より伝わっているものだそうですが、ハイゼン武国が所有しているという事以外どんなものであるかでさえ分からない。いわば、御伽話のような存在です」
「ハイゼン武国はそれを利用するつもりなの?」
「いえ、ダラム王にそのつもりはありません。だけど野放しにする訳にもいかない代物なので、ハイゼン武国が所有し封印しているんだとか」
『じゃぁ、気にする必要ないんじゃないの?』
「それが、ハイトエイド卿が言うにはその管理をハイゼン武国にだけ任せるのでは真の均衡とは言えないのだと」
「なるほど…」
『なにがなるほどなの?』
どうにも理解しがたいらしいミザリーが
身体を揺らし始める
「その【魔女の檻】を使う使わないに関わらず、所有するだけで均衡を崩す恐れがあるってことだよ」
『…ふーん?』
理解してないと察したのか
ルベリオが助け舟を出す
「ミザリー、例えば三人の人がいるとします。同じ身長・体重・筋力その他諸々がほぼ同一の三人です」
『うん?』
「この三人をそれぞれA・B・Cとします。誰が一番強いと思いますか?」
『互角じゃないの?』
「ではその内の一人、Aに拳銃を渡したとしたらどうです?ただし、その拳銃は使わないものとします。」
「ああ、なるほど」
言わんとすることを察したベイカーがひと足先に納得する
「その場合、三人の中で一番強そうなのは誰ですか?」
『…拳銃持ったやつでしょ?…ああ、なるほど。そういうことね』
納得したらしいミザリーが
関心したようにルベリオを見据える
「使う使わざるを差し置いても、力を持つということは周りに対しての脅威ということです」
『なんか…ややこしいわね…国って』
「そうです…ややこしいんです」
二人揃って息をつく様をベイカーは
(何か姉弟みたいだな)
とのんびり眺めていた
『それより、今日はどうする?まだ進む?』
「さすがに夜動き回るのは避けたいけど、追っ手みたいなものが来ないとは限らないし」
『っても、今はまだ王都のほうにかかりきりじゃないの?』
「いえ、混乱の収束には恐らく護警団が務めるので遊撃隊のほうがこちらに来るかもという危険はあります…できれば進みたいんですが」
とは言うものの
ミザリーやベイカーから見てルベリオの疲労は数分の休憩で誤魔化せる程度のものではなかった
無理もない、いまだ11歳になったという少年が
父を失い王都を焼かれ、追われる
挙句その背には到底余り兼ねる責任や重圧がのしかかっているのだ
『いーえ、最初が肝心よ。今はしっかり休みましょ…朝が来るまでは休憩』
そう言い放つとミザリーは
その場でくるんと横になった
「ミザの言う通りだね、寝ようラビ。心配ないって…ミザが変な気配感じたら飛び起きて教えてくれるから」
「そ…そうですね。分かりました、寝ましょう。」
焦りはあっても疲労には正直なもので
横になったルベリオからは間もなく
静かな寝息が聞こえてきた
『ビー…あんたも寝なさい』
静かにミザリーが声をかける
「ミザは?」
『見張りは必要でしょ?』
「つってもミザも寝なきゃ、気持ちが持たないよ」
『平気よ、早く寝なさい』
「分かった…日が昇るまで八時間ってとこかな?四時間経ったら起こしてよ、変わるからさ。じゃぁお先におやすみっ」
言うだけ言って
ベイカーは横になると、これまたあっという間に眠りについた
残されたミザリーはぼんやりと空を仰ぎながら
『時計もないのにどうやって四時間を計んのよ…』
と、誰に向けるでもなくぼやいた




