二人から三人へ
# another side
しばしの時間が経ち
ミザリー、ベイカー、ルベリオの三名はようやく陽の光がかすか届く
抜け穴の出口へと差し掛かっていた
例のごとく、壁面に埋め込まれた鉄の梯子
そして見上げた先には丸く切り取られた青空
『久しぶりのお日様よ…レディファースト?』
いつの間にやら先頭に切り替わっていたミザリーが振り返る
「そう言われちゃなぁ…僕が行くよ」
とベイカーがミザリーを追い越し
梯子に手をかける
そしてゆっくりと
一歩ずつ空に向かって梯子を登り始めた
『そういやラビはいくつなの?10歳くらい?』
「あっ、はい…僕は11歳になります。ミザリーさんは?ベイカーさんと同じくらいですか?」
『さんはいらないわよ。ベイカーは18歳、私は…』
「ミザも僕と同い年だよ、世間話なら混ぜろよな…全く」
気づけば井戸のへりに手をかけていたベイカーが上から声をかける
『はいはい…寂しがり屋ね全く…』
続いてミザリーも梯子に手をかける
ひと足先に登りきり
地上に降り立ったベイカーが辺りを見回す
それは王都を外れた森林地帯のようだった
ちょうど、ミザリーとベイカーがはじめて【四つ脚】と対峙した場所によく似ていた
『ああ…緑が見えるって良いわね』
続いて井戸からよじ登ってきたミザリーが目を細める
そして井戸の中に手を差し出した
「あっありがとうございます」
その手を掴み、ルベリオも井戸の中からの脱出を終えた
『ここは王都の外?』
「はい、王都からほんの少しですが離れた森林地帯です」
「二区から王都の外ってことは、随分長い抜け穴だったんだね」
『ほんと、目がシバシバする…』
ミザリーが空を見上げ瞬きを繰り返すと
それを見つめるルベリオの視線に気づいた
『なに?』
視線に気づかれたルベリオが慌てる
「いっ、いえ!瞳が翠色なんですね…父と…同じ色だと思って…」
「父って、国王も瞳が翠色だったの?」
「はい、なんでも王族の血統の証だそうです。父も色々あって、国民として生きていたそうですが、その瞳の色で王族として認められたとか」
『…私、王族なの?』
ミザリーはベイカーに向き直る
「そんな振る舞いしたことある?」
二人揃って浮かんだ絵は
ハンドベルの森林を草をかきわけながら
服の汚れも厭わずひた走る幼い二人だった
『…ないわね』
「…ないよね」
「ま、まぁ、珍しい瞳の色であるというこですね。髪色も珍しいですし」
『なんなら身体もね』
スっと右腕を翳すと
その鈍色の腕を眺める
ルベリオもおずおずと
どこか遠慮がちにその腕を見回す
「ミザリーは…その…」
やはり遠慮がちに言葉を選んでいる
「ミザは…」
ベイカーが代わりに説明しようとするのをミザリーが手で制する
『私が…話すわ』
スっと息を吸い込むと
ミザリーはポツリと
その事の経緯をルベリオへと語り出した
そしてその全てが語り終えるのに
少しの時間を費やした
『まぁだいたいそんな感じよ…それでも私を頼る?』
「…はい、お願いします。」
その言葉は強く意志に溢れていた
『…物好きねラビ、怯えて逃げられたって仕方の無い存在よ?』
「またそんなこと言う…」
『悪魔の魂よ?あんたもわかってるでしょ』
「まぁそうは言うけどミザは無害だよ…ぶっきらぼうだけどね」
「いえ、僕は信じています。きっとミザリーは僕を導いてくれると」
『それは光栄ね…手放しで信じていいのかはさておき』
「いいことじゃないか、信じられてるんだよ?」
無垢に信じているように見えて
ルベリオの頭の中にあるのは
目の前のミザリーの姿に重なるおとぎ話
金色の狼 その姿だった
父の愛したおとぎ話
ルベリオを導くといったあのおとぎ話
それを、信じているからだ
その純に信じている瞳を
二人も見て感じた
『そんで、次は?どうすんの?』
「…西へと、向かいましょう。ハイゼン武国へと最も近いのは西です…でも」
「…でも?」
「西方面には今、遊撃隊が派遣されています」
幼いなりの真剣な表情が二人を見据えた
『飛んで火に入る夏の虫ってやつね…』
担いでいたノルニルを地面に突き立て
一つ息をついた
「あっ…!」
ベイカーが不意に素っ頓狂な声をあげる
『なによいきなり?』
「宿に荷物…置きっぱなしだ」
『ああ…戻る余裕なんてないでしょ。やむ無しよ。それに必要な物は持ってるでしょ?』
とベイカーが担いでいる革の鞄を指さす
「僕とミザの財布と、工具と、換えの部品が幾つかってだけだよ?着替えもないし」
『それを言うならラビだって、でしょ?』
状況が状況だったため、着の身着のままで脱出してきたルベリオだ
勿論、旅の準備などできているはずもない
持っているものと言えば
「父に渡された紙片と、この鍵だけです…すみません…」
申し訳なさそうにルベリオが項垂れる
『気にしなくていいわよ…幸い私は食費かかんないし、ねぇ?』
フォローのつもりかミザリーがルベリオの肩に手を置く
「そんかわしミザはマリーゴールドの銃弾とか部品に費用がかかるんだけどねっ!」
和やかな空気にしたかったベイカーだが
今いち空気を読み切れず、どことなく静かな雰囲気になってしまった
『王様になるんでしょ?ラビ』
「は、はい!父の跡を継ぐのは…僕ですから」
自らを奮い立たせるようなルベリオが意気込む
『だったら出世払いね、貸しにしときましょ。ビー』
「も、勿論!無事に父の跡を継げたなら、精一杯のお礼をさせて貰います」
「おっ!一躍、時期王を救った英雄になれるかもね」
『それじゃ、向かいましょ。ビー!』
突き立てたノルニルを担ぎ直す
「よし、で、何?」
『…どっちが西?』
「…大丈夫かよホントに」
ベイカーが不安げな表情を浮かべ
西と思う方向を指さした
二人から三人へ
三人の旅が人知れず、ここから始まった




