出会い
# another side
このルグリッド公国の太陽が堕ちる
ほんの僅か前
ミザリーとベイカーの二人は
荒ぶる馬の猛進の恩恵にあやかり
第一区 王城正門前に到達していた
しかし
「閉まってるっ!?…ああでもそりゃそうかっ」
そう、正門は固く閉ざされていた
事態が事態ゆえにおかしなことではないが
「それにしたって兵士が見当たらないなぁ、みんな王様の警護のために城の中にいるのかなぁ」
チラリとミザリーに目をやるベイカー
だがなぜだかミザリーは心ここにあらず
といった表情を浮かべていた
先程までの緊迫感ある表情からの
移り変わりに戸惑うベイカー
「ミザ?どうしたんだよボーッとして」
『えっ?…そうね…どうしたのかしら…』
「んー?…とりあえず中の様子が知りたいね。もう四つ脚は城の中に紛れ込んでるかもしれない」
『って言ってもさすがに正門ぶち壊すのは無理そうよ』
固く閉ざされた正門は閉じたさまでも
その分厚く堅固なことが見て取れる
「いや何で壊そうとするんだよ…侵入出来そうなとこ探そうよ」
『それは昨日探したけどみっかんなかったの』
「君ねぇ…何やってんだよ」
八方塞がりかとも思ったが
ミザリーはふと思い出した
『そう言えば!』
「ん?なに?」
『話したでしょ?ローブ被った人に会ったって』
「ああ、言ってたね。それがどうかした?」
『そのおじさんが言ったのよ、王城にリーダはいない、悪魔が出た四区に向かったって』
「てことは…王城の関係者?」
『かもしれないでしょ?そんでその人はこの先にある井戸から出てきたの』
「井戸から?まさか第四区にあったのと同じように隠し通路があるのか?」
『可能性はあるんじゃない?』
「内部事情を知っている人が使った隠し通路か…確かにそれが王都内部に通じてるって可能性はあるね」
『行ってみましょ!』
再び二人は走り出した
先日ミザリーが迷い込んだ場所ではあるが
特に入り組んだ場所でもないため
数分も走ると見た覚えのある光景へと辿り着いた
『この先よ…ほら、あの井戸』
「王城との距離はそんな離れてないな…通じてると良いんだけど」
この二人が会話している
まさにこの瞬間、ルグリッド公国の太陽が墜ちた
もちろんこの二人がその事に気付いているわけではない
わけではないが
『手ぐすね引いてるよりマシでっ…』
〈ぷつんっ〉
とまるで操り人形の糸が切れるように
ミザリーが突然膝から崩れ落ちた
両膝を地につき
両腕は動くという行動を忘れたかのように
微動だにしない
「ミザッ!?どうした?」
先導するミザリーの突然の事態に慌てるベイカー
『ビー…私、どうなってんのこれ…』
「どうなってるって…まさか故障…?」
『分かんない…身体が動かないし頭の中に変な感情が混ざってる感じ…』
「急にこんなに…動かなくなるなんて…」
とは言うものの
これはベイカーが常に懸念している事でもあった
機械で造られた身体
機能的には可能でもそれを生きている人間の
領域に近づける為には必要な要素が二つある
それは身体の各部に命令を出す電気信号
人で言う脳に相当し、全身の可動を可能とするにはそれを機械の身体に
発信するものが必要であり
そして、もう一つが電力である
機械の身体が常に人としての生体活動を行うためには
莫大な電力を必要とする
ミザリーの身体において
その二つの要素を成立させているのが
母アリスが自身の命を犠牲に
機械の身体に定着させたとされる
【悪魔の魂】
である
だが、その悪魔の魂というものが
人間の知る域のものではなく
何一つとして知識として語れるような事がない
だからこそミザリーの身体の可動を始めとするいくつかの疑問は
その悪魔の魂という不明瞭なものによって
成立しているということであった
(いつこんな事になってもおかしくはなかったんだけど…)
しかし今は
冷静に考え事ができるような時間もない
「とにかく…移動して、状態を確認しよう」
と、とりあえず移動せねばと思い
ミザリーに肩を貸そうとベイカーがかがみ込んだ時
ミザリーの掌が動いた
『っ!…動く…』
腕を持ち上げ、掌を握り開きを繰り返す
脚も、動く
立ち上がり足踏みをしてみるが
やはり問題なく動いているようだ
「えっ…なんだったんだ?」
ミザリーが動きだしたことは嬉しいが
それでもやはり先程の、停止したという事実が気にかかる
それに、もうひとつ
停止したときにミザリーが見せた表情
ベイカーだからこそ気づいた事ではあるが
今は深く追求するべきでないと
ベイカーは胸に押し込めた
『…気のせい?とか?』
「冗談やってる場合かよ、全く…心配したのに」
『まぁ動くんだから良いじゃない…っ?』
ミザリーの視線が井戸へと向く
同時にベイカーも気付いた
「誰かくる?」
〈カツ、カツ〉
と梯子を登る足音が井戸の中から聞こえてくる
『こういうのなんていうんだっけ?』
「デジャブ?」
『ああ、それね…またあの人かしら?』
二人の間にかすかに緊張の糸が張る
状況が状況な為、警戒すべきにことはない
だが、そんな二人の
警戒心は肩透かしとなった
と言うのも
間もなく、ゆっくりと井戸から現れたのは
まだ齢が十歳程度の子どもだったのだ
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# rubellio side
ひたすらに
ただひたすらに抜け道を走り
ルベリオはようやくその抜け道の先に明かりを感じた
王城の王室の抜け穴を長い時間掛けて下り
そこから地に降りて
またしばし走った先の行き止まり
壁面に梯子がかかっており
それを登る
どうやら井戸のようで見上げた先には空も見えた
だが、今のルベリオの心境とは裏腹の快晴に
彼は少し憤りを感じさえした
「負けるな…ルベリオ、父上の気持ちに応えるんだ…」
自らを鼓舞するように口に出すと
更に勢いよく梯子を登り始めた
空の明るさがどんどんと近くなり
井戸を登り切った
するとそこには
こちらを見つめる視線があった
それは
金色の髪をした整った顔立ちの女性と
そのすぐ後ろ、赤茶色の短髪の
女性と同い年ほどの、しかしやや童顔の男性
二人とも大人という歳ではないが
それでもルベリオと比べると歳上であることに変わりはない
(軍人じゃ…兵士じゃなさそうだけど)
と思索するのも後回しに
ハッとする
「金色の髪…?」
ルベリオの頭に浮かんだのは
父から聞かされたおとぎ話
そして、別れの直前に告げられた
金色の狼が導いてくれるという言葉
(まさか…この人が…?)
この公国は赤系茶系、黒系の髪色が大多数を占めており金色の髪などゼロに等しい
その中で金色の髪の女性にあったのは
偶然なのだろうか?
それとも?
と疑問をかけ巡らせていると
その女性が話しかけてきた
『ねぇ?そんなとこで何してるの?』
落ち着いた声で尋ねてくると
それに付随するように
赤茶髪の少年も質問を重ねた
「君っ、その井戸どこに通じてるの?」
『ちょっと…ビー、ひとつずつでいいでしょ?』
「あ、そうだね。ごめんごめん…それで君はなにしてるの?」
ベイカーが謝りながら
再び質問を繰り返す
「ぼ、僕は…その…」
なんと答えていいものか考え込んでしまう
悪い人たちではなさそうだが
それでも、正直に身の内を話していいものかと返事に躊躇っていると
「こんなところで何をしておいでですか?」
その二人の背後から、野太い声が聞こえた
声のする方に目をやると
軍服と最低限の甲冑に身を包んだ
兵士の姿がそこにあった
ルベリオの緊張が一気に高まる
というのも
その兵士には見覚えがあり
所属が巡国遊撃隊ということも
ハイトエイド卿の指揮下ということも
その記憶が裏付けているからだった
「まさか、こんなところに単身でおいでと は…さぁ、参りましょうハイトエイド様もお待ちでしょう」
その男はどこか嫌らしい含み笑いを浮かべつつルベリオの方へと歩を進め始めた
ルベリオは顔が引きつるのを感じた
早速の危機にどう対処すべきかと
考えをまとめようにも余りに急な事に
パニックになりそうになる
「まっ…待って下さい…来ないで…」
掠れそうな声を絞り出すのがやっとだった
足は震え、上手く動いてくれそうになく
勿論、その兵士をやり過ごしたり
ましてや倒したりするなど
今のルベリオに叶うはずもなかった
しかし
『ヘイ…残念だけど私らが質問してる最中よ。順番守ってくれる?』
ルベリオへと向かうその兵士の前に立ちはだかったのは
金色の髪の女性だった




