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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
王都炎上~墜ちる太陽~
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43/98

王と狼と、父と子と

# another side


『ちょっと!!揺れすぎじゃないの!?』


ミザリーが叫ぶのも無理はなかった

王城へと向かうべく馬の背に乗ったはいいが

その馬の気性がとんでもなく荒い


筋骨隆々な逞しい外見通りと言えばそれも頷けるが原因は馬の性格ということでもなく


「んなこと言われたってさ!勝手が分かんないんだよ!」


手綱を握るベイカーも身体が酷く揺さぶられ

しがみつくのもやっとという状況だった


『あんた馬に乗れるって言ったじゃない?!』


ベイカー共々揺さぶられながら

こちらもなんとかしがみついているミザリーが声を荒らげる


とは言ってもこちらは握る手綱もないため

ベイカーの襟元を掴んでいた


だからという訳では無く

もちろんのこと


「ぐえで…ミザ…ぐるしぃ…」


首元が締められる訳で


『ぁあ、うっかり…』


と慌てて手を緩める


二三度咳き込むと、


「乗れるとは言ったけど操れるとは言ってないだろっ!」



『それで自信満々に乗るんじゃないっての!』


そういうことである

馬の操り方も分からに跨がれば

そういうことも起こるかもしれない


だが

気性と体格通りの脚は持っており

尚且つ


荒ぶってこそいるが

迅速に王城へと駆け続けていた


近づくにつれ

悪魔の見える数は減ってきているようで

第三区などと比べると

その惨劇は落ち着きはじめている


しかし


『気のせい…?…なんか嫌な雰囲気ね』


ミザリーは王城へと近づく度

駆る馬がその足を一歩ずつ踏み出す度


暗い、深い、沼のような悪寒が

王城から王都へと染み出してきているように感じた


これは

先程王城へと向かった【四つ脚】から感じるものなのか


異質な空気から伝う息苦しさ


第三区でいかほどの悪魔に囲まれても

こんな空気を感じることはなかった


だが


ミザリーが気にしているのは

それとはまた異なる感覚


そしてミザリーはその感覚を知っている


知ってしまっている感覚の正体


「ミザ!?…酔っちゃった?!」


あまりに激しい疾走に

首が強ばりながらも必死に堪えるベイカーが

背後のミザリーの様子に気づき尋ねる


『…よく分かんないけど、嫌な感じよ…もっと!もっと速く!走って!』


すでに大した速度で走っている馬に

さらに速度をあげろと喝を入れるように叫ぶミザリー


それを聞いてハッしたのは

無論ベイカーただ一人


そして、その喝にまさかの呼応をし

速度をあげる馬


「なんでそこは言うこと聞くんだよっ!!」


良く走るもの同士で気が合うのかと

更に激しく揺れ出す馬の背で

ベイカーはせめて振り落とされないようにと

手綱を握る手に全身の力を込めた


予想外の馬の速度には驚かされた二人だが

すでに四つ脚を見失い十数分の時間が経過しており


まさしく


それと時を同じくした

王城の一室で一人の男が


この国にとって最も大切であり最も偉大な命の灯火が


立ち消えようとしていた



________________


# another side


皇太子であるルベリオを

王室の隠し通路から送り出した十数分後のことだった


広い王室の中

たった一人でその男は

僅かな呼吸を辛うじて繰り返しながら

壁にもたれかかっていた


ハーディン・ウェイヤード


ルグリッド公国の国王


威厳ある王の佇まいにそぐわぬ

そのか細い呼吸


満足な呼吸さえままならないその原因



手で抑えても

止血の意味をなさないほど

胸に滲む大量の血が


その血を溢れださせる刺傷が

彼の命を瀬戸際に追いやった原因だった


この傷を負ってまださほどの時間は立っていない

しかし傷が深すぎるがゆえに大量の血を失った


すでに彼の視界は物を鮮明に捉えることも叶わなかった


(ルベリオ…どうか上手く逃げ切ってくれ…お前さえ無事ならば…この国は…終わらない…私の心を受け継ぐお前さえ無事で居てくれれば…)


自身が死の間際に立っていることに気づきながらも案ずるはやはり先程送り出したルベリオのことであった


いかに聡明と言えど

まだ幼い皇太子、それを単身でこの惨劇の中に送り出さなければならなかった


願わくば、無事であってくれと

今や何の力添えもできぬ己を責め立てながら

ハーディンは祈ることを止められない



『ガッ…』


不意に口の中に血液が込み上げ

堪えることも叶わず吐血してしまう


いよいよだと、感じた

もう自身は助からない


王としては元より

一人の父親としてももう生きてはいられない


そう思った時

無意識に涙が目から溢れ出した


それはかつての記憶が呼び起こした

感情の奔流


自らの奥底に

王となる為に忍び押し込めた


王としてでなく一人の男としての

真に大切な人達の面影と記憶


十何年も前のこと


大切な物を守るために

大切な物から離れなければいけないことがあった


今ある幸せを手放してでも

王として生きる道を選ばければいけないことがあった


王として生きなければその幸せを守れない

苦渋を噛んででも

その二人を守りたかった



優しい笑みを絶やさず

温もりをくれた人、信じ支え、理解してくれた最愛の人


そして


まだ物心もつかぬ

言葉も知らぬ幼い赤子

最愛の人との間に授かった至上の誇り



別離の時

最後の別れの瞬間に


言葉も話せぬその赤子は


ハーディンへと小さな手を


精一杯に伸ばした


幼くとも、何かを察したのかもしれない

別れを惜しんだのかもしれない


赤子を抱く最愛の人も

それを察し一歩こちらに近づいた


赤子の小さな手がハーディンの頬に触れた


とても小さな手の微かな温もり


その手の温もりを守るために

生きようと魂に誓ったあの日を思い出した



そして



その記憶に重なる先日の出来事



あの時と同じように

ハーディンへと伸ばされた手


その手は記憶にあるものとは違う


鋼の腕


あの若さで義腕を持つということ

計り知れぬほど苦しい経験をしてきたかと

思えば

涙を堪えれず、背を向けてしまった


だが、それでも


会えずとも幸せでいてくれればと祈り続けていた日々を送ってきても


それでも一目だけでも

と会おうとしてしまった


会えて良かったと

思ってしまった


父親としての感情が芽生えてしまった


『…本当に…母さんに良く似ている、顔立ちも…金色の髪も…』


涙がせきを切ったかのように溢れてきた


胸の傷から溢れる血などとは違うそれを


なぜだか自身の涙を


暖かいと思った


と同時にふっと、こんな状況であるに関わらず笑ってしまった


『しかし…瞳は…目の色は…俺に似てくれたなぁ……』



もう視界は何も捉えられない

その声ももう言葉というものを型どることを叶わない


力はもう入らない

だが、魂は託した


ふっと、瞼が静かに降りた


もう周りの音も耳に入らない


今際の際の最後の瞬間


彼は最愛の人を、思い出した


『性格はどちらに似たかなぁ…あの…強気に見える目は…俺に似てるのかもしれ…ないなぁ…』


(…なぁ…きっとそうだよな…アリス…)



優しい笑みをたたえた王は

惨劇のさなか


たった一人


王室の中で眠りについた


その最期の表情は

王としてではなく父親としての顔だった



この国を照らしていた太陽が


今、墜ちた

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