三者
# another side
ミザリーとベイカー
のみならず国民や兵士が奔走する未曾有の事態となっている
その同刻
王都の中心である王城
更にその中心に位置する大広間では
国王 ハーディン・ウェイヤードを始めとする重鎮の面々がどれも険しい表情を浮かべ
事態の把握と打開へと知恵を振り絞っている最中だった
『して、いまの現状はどうなっている、兵の配置は進んでいるのか?』
荘厳な雰囲気はそのままに
険しさ際立つハーディン国王が尋ねると
「今現在、護警団が第四区から第二区へと展開している所で間もなく配置も完了する頃合かと。遊撃隊が第一区から王城までの配置を担当、こちらは既に配置が完了し、事態の収束に向かっております」
答えたのは軍事を担当している
ハイトエイド・ベルラインであった
この苛烈な事態にもその冷静さは損なわず、無表情とも取れる落ち着きを見せていた
「現状についての報告は来ているのか?ハイトエイド卿」
問うたのは王の隣に座している
イグダーツ・バルシュ
そのイグダーツをちらと見ると
ハイトエイドは言葉を続けた
「聞きたいかね?イグダーツ卿」
ニヤリと口角をあげ、不遜な笑いを見せる
それに対して微か苛立ちを隠しきれないイグダーツは声を荒らげる
「ふざけている場合か…報告はきているだろう?」
「では…報告しよう。遊撃隊から報告では第一区から王城までの区間で目視された悪魔は十数匹、今現在際立った被害は確認されてはおらずその悪魔達についても問題なく討伐できそうだということだ」
その報告にいくつかの面々が大きく息を吐き出した
「それは良かった」など「大した被害もでずに済みそうだ」などと迂闊な軽口を叩いている
それを見回したハイトエイドは
ふと立ち上がり、さらに続けた
「続いて第四区から第二区について護警団からの報告だが…悪魔の詳細な数については【確認できない】とのことだ」
その報告に一瞬の沈黙が、不穏な空気を室内に充満させていく
「どういうことだ?悪魔はもう居ないということか?」
上擦った声で一人の重鎮が問い正す
だが、その問いの答えを
予測したのかこの室内において
ハーディン国王、そしてイグダーツの二人の
表情は凍りつきそうなほどの強ばりを見せていた
「数が多すぎて数え切れないという事だ…陸は勿論、空を飛び回る悪魔まで縦横無尽に。強いて数をあげるとするならば…」
静かな室内に誰かが息を呑む音が聞こえる
「その数はゆうに百以上だと推測される」
沈黙を更に沈黙が包んだ
呼吸さえその沈黙の中で音を発することがめきない
もしくは皆が皆呼吸を忘れてしまっていたのかもしれない
それほどの事態
『馬鹿なっ!!百…だとっ』
声を荒らげたのハーディン国王
その唇は食いしばり閉ざすこともできないほど力が込められている
周りの面々が言葉を発することもなく
沈んだり、余りの事態に惚けたりしている中
正常な思考が叶うのは
ごく僅かな賢人だかであった
「ハイトエイド卿、確かなのか?」
つとめて冷静にイグダーツが問う
「ああ、すでに少なからずの犠牲が出始めているが…収束するには手が足りな過ぎる」
『ハイトエイド!王城の兵士並びに第一区の兵を第二区から第四区へと向かわせろ、そちらの収束を第一目標として指示をっ』
「しかし、それでは王城の守りが」
苦言を呈すのはイグダーツ
状況が状況でも、国の核となる国王の周りが手薄になるのはやはり極力避けたい事態ではある
当然の意見ではあったが
『構わん!国民を失えば私は王であることさえできないのだ、火急だハイトエイド!』
「仰せのままに…では私はここで失礼します。可能な限り、柔軟に指示を出さねばならぬので」
『…頼む。』
すっと会釈をするとハイトエイドは広間を後にした
残された面々も慌てて事態の収束へと続々と席を立つ
「王よ、せめて安全場所で。皇太子と共に居られて下さい、王城もいつ攻めいられるか…」
『ああ…だが、まずは国民だ。イグダーツ、君も行ってくれ、私は大丈夫だ』
何か言いかけたイグダーツだが
王の気持ちを、意志を汲んだのか
「どうかご無事で…」
と一礼をすると、大広間を後にした
一人大広間に残ったハーディンは
拳を握りしめ
ただ祈ることしかできぬ己に無力を感じていた
僅かそうした後
力強く立ち上がると
極力少数の兵士を引き連れ皇太子であるルベリオと避難するため王室へと向かった
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# misery side
〈ゴシャァッ〉
振りかぶったノルニルが
骸骨のような出で立ちの頭部にめり込む音が響いた
あれから少しの時間を経て
ミザリーはいまだ喧騒というには阿鼻叫喚すぎる騒動の中にあった
一体を倒しても間髪入れずに次がくる
休む間もなくミザリーは剣(鈍器)を振るい続けた
『これで!!…ぁあ!何匹目よっ』
〈ドゥォン〉
一瞬の息継ぎさえ邪魔しようとする悪魔にマリーゴールドが火を吹く
いかにミザリーが悪魔を倒せると言っても
余りに数が多すぎる
せめて人を襲うなと
やきもきしながら悪魔を倒し続けた
そんな騒ぎの中でも時折聞こえる口笛
これはベイカーが自身の無事を知らせる合図であり、幼きころのルールである
幼い二人が探検の最中
万が一はぐれた時の為に〈定期的に口笛を吹いて安否確認〉というものだ
これでだいたいの位置も分かるが
先程聞こえてきた口笛は少し遠くから聞こえてきた
『無事ならなんでもいいけど!っと!』
足元に火球が落ちてきた
反射的に飛び退いたものの飛び火ですこし膝が焦げる
出処を見上げると、先程の赤い鳥型の悪魔が
歪な羽を広げこちらを睨んでいた
『は…そういえば…あんたに借りを返してなかったわね』
ズボンの、焦げてしまった膝を
手で払うと
マリーゴールドで狙いを定めた
『二つまとめて返すわファッ○ンバードッ!』
指に力を込めると
二発の銃声が喧騒の中に響いた
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# baker side
逃げ惑う人を避けながら
もちろん襲いくる悪魔から逃げながら
ベイカーはひたすら走っていた
悪魔の襲撃が始まってどのくらいの時間が経ったかはもはや分からないが
息切れが絶えることないほどに動き続けている
「あっ!大丈夫ですか!?」
見ると家屋の影に隠れるように
うずくまっている人影を見つけた
どうやら足を怪我しているらしい
「足を、やられちゃって…」
腿から血を流し顔から血の気が引いている中年男性
脂汗と冷や汗が混じったような
表情には悲愴な雰囲気が漂っている
「肩を貸します、避難できる場所はありますか?」
自らの肩に男性の腕を回し
腰を軸に支え起こす
「すみません…向かいの通りの橙の家が私の家で、地下に避難壕が…」
指差したのは百m程度先の家
怪我さえなければなんてことのない距離だが
大分傷は深そうだ
おまけに
道には悪魔が無数にうろついている
「よし…行きましょう…」
極力隙を見計らって歩を進める
歩みは遅いが少しずつ目的の家へと近づく
だが目当ての家へとやっと辿り着けるかと思った時
こちらへと悪魔が向かってくることに気づいた
「もう少しなのにっ!」
焦るベイカー
このままではすぐに追いつかれる
もう体力はほとんど残ってない
でも、それでも目の前のものを取り零すのは嫌だと
ベイカーは男性を背に乗せるように担いだ
そして思い切り、力の限りで走り出した
目当ての家の扉を押し開けた
「そこです!テーブルの下の隠し戸を引き上げたところに避難壕が」
急いでテーブルを押しのけると
隠し戸を引き上げる
地下へと梯子がかかり、ある程度の広さがある避難壕が目に入る
男性を背から下ろすとそこに降りるように促した
「降りたらすぐ閉めてくださいね、それとこれ!止血だけでもしておいて下さい」
梯子を降りている最中の男性に
早口に言葉をかけ手近にあった綺麗そうな布をその肩にかける
「君は!?ここで避難していけばいい」
梯子を降りようとしないベイカーに男性が問いかける
「僕は…まだやんなきゃ行けないことがあるんで、騒ぎが収まるまで出ないでくださいね!」
「あ、ありがとう!君は…恩人だ、ありがとう…」
そんな言葉を背にベイカーはすぐその家を出た
留まれば、悪魔が寄り付くかもしれない
しかし
足が重い
ベイカーはミザリーと別れてから
こんなふうに避難を補助してばかりいた
この状況下でのその人助けの疲労
ベイカーの体力は歩くのがやっとという程度しかの残っていない
それでも
「身体は…気持ちで動くんだって、ばあちゃん言ってたっけ」
震える膝を叩き、ベイカーは再び周囲へと注意を払い始めた
〈無事でいろよ、ミザ…〉




