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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
王都炎上~墜ちる太陽~
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39/98

悲劇への着火

# misery,s side


第四区 宿屋の一室

陽射しが窓から差し込んでくるとそれを合図にという訳では無いが


ソファに沈んでいたベイカーが

自身の思いがけぬ寝相により、床に転落し目を覚まし


そして、その物音でつられてベッドでミザリーも同じく目を覚ました


「ん…なんだ?…ぁあ落ちたのか」


寝ぼけながら現状を理解したベイカーが目を擦りながら欠伸をする


『……ん?』


こちらもこちらで

目が開き切らないミザリーがなにか引っかかるような感覚を覚えた


両手を前に突き出しながら前屈のように伸びをする


『ビー…落ちるって、なんか言わなかったっけ?』


「なんかって、僕がソファから落ちたってだけだろ?」


まだ二人とも起きたというだけで

目が覚めるとまではいかない


両の瞼が閉じればまたすぐにでも

眠れるような状態の中では


思考もままならない


が


『…リーダよ!』


はっと目を開くと同時に声をあげる


突然の覚醒に驚くベイカー


「え?…あ、そういえば去り際に何か言ってたね、えーと…」


『太陽が墜ちる、だっけ?』


「太陽って…あれが?」


両開きの窓を開き空を見上げるベイカー


そこには快晴の大空とその蒼さを誇張させるかのように

燦々と太陽が眩い光を点している


『訳わかんないわね…意味深なこと言うだけいって』


思い出せたかはいいが

だからといってどうだ、という話でもなかった


二人にはその言葉の意味することを図りかねる


「でも王都を離れろって言ったことと何か関係があるのかもしれないね。太陽が墜ちることから逃れるために王都を出ろって意味合いではあるだろうし」


『それじゃぁ、王都で何か起こるってこと?』


「うん、そしてそれを予めリーダ・バーンスタインは知っているっていうこと」


『だとしたら…それがわかんないことには素直に王都を出る訳にいかないわね』


「まぁ、気になるよね…どうする?」


『そうね、今王都にとっての問題と言えば?』


考え事がてら、なのか自分なりの集中の仕方なのか


ミザリーはたわんできた三つ編みを編み直し始めた


「悪魔はもちろん、【四つ脚】の存在だろうね」


『でもリーダは四つ脚の情報を持っていない、知ってて黙ってるってことあると思う?』


「巡国遊撃隊だけじゃなくこの国にとってのの最重要討伐目標だろ?それはないと思うけど」


『じゃぁ太陽が墜ちるってことと四つ脚に関連は?』


「太陽が墜ちるって言葉の意味がこの国の危機を表すってんならその可能性はあるだろうね、いくらあの化け物でも空に浮かんだ太陽を墜すなんてことは出来ないだろうし」


『そうよ、護警団!』


「護警団って、王都の憲兵の選りすぐり集団だろ?」


『昨日その護警団と会ったのよ、四つ脚の捜索は遊撃隊と護警団でやってるって』


「つまり…リーダが隠してても護警団なら何か情報を掴んでるかもってこと?」


『それも可能性はゼロじゃないんじゃない?』


「確かに、でも何かアテがあるの?」


『アーサーとか言う護警団員が私に借りがあるって事になってんのよ、それを返して貰いましょ』


「ミザは僕が知らないとこで何やってるんだか…」


『あら、人助けしたご褒美みたいなもんよ。それにやっぱり…』


編み直した三つ編みを背中にピンッと弾くと

スっと立ち上がった


「やっぱり…なにさ?」


『借りって返さないと気が済まないでしょ?』


開いた右の掌に握った左拳を打ち込む


〈ギィンッ〉


と金属のぶつかる音がする


(なーんか嫌な予感がするんだよなぁ)


その音を聞きながらベイカーは今日という一日に波乱の予感を感じつつも、逃れられないだろうなと


一つため息をついた



そんなベイカーの心配をよそに

ミザリーはさっさと部屋を出ようとする


慌ててベイカーも手荷物だけを持ち

後を追う


「それでその貸しがある護警団にはどこで会えるのさ?」


『第三区で昨日会ったからとりあえずの目標は三区ね、後は聞いて回ればなんとかなるでしょ』


「相変わらずプランがあるんだかないんだか…」


『若いうちは多少無鉄砲でいいって、おばあちゃん言ってたじゃない』


ミザリーのいうおばあちゃんとは

ベイカーの祖母のことだ


三年前、ハンドベルが襲撃された際に

ミザリー同様命を落とした


幼い頃からミザリーをいたく可愛がってくれた為ミザリーにとっても祖母のような人物であった


「まぁ…そういやそんなことも言ってたけど」


『ヤー、実行しましょ』


宿屋を出ると第三区へと向かうであろう

馬車へと猛然と歩き始める


そんな後ろ姿をやれやれと言った気持ちで追いかけると同時に


ミザリーの中に祖母が生きてくれていることを嬉しく感じた



『ビー!急いで!』


祖母を思い出しふと足を緩めた隙に

ミザリーはさっさと馬車に乗り込み

ベイカーを急かしている


慌ててベイカーも馬車に乗り込むと

僅かな時間の後、馬車は第三区へと走り出した


「ミザはばあちゃんの事、覚えてるんだよね?」


馬車の荷台の中

そっとベイカーが問いかける


『当たり前じゃない、なにいってんのよ…』


「いや、考えてみたらミザの身体はアリス先生に造られたものだけどさ。その記憶とか経験則とかは間違いなく今までミザが積み重ねてきたものなんだよね」


『そういうことでしょ…なんだってのよ?』


ベイカーの発言の意図を探るかのように

その顔を覗き込む


「多分、これからもそうなんだよ。ミザは色んな経験をして更にまた積み重ねていく」


『…』


「だったら僕はやっぱりミザは生きているんだと思う、もがきながらでも迷いながらでも意味を探して歩いているんなら、同じなんだよ」


『ビー…』


「…ば、ばあちゃんならそう言うよ。」


なぜか、急に照れくさくなったのか

ベイカーはソワソワし始めた


『そうね…おばあちゃんなら…』


「…辛気臭い顔してたらどやされちゃうね、悪魔なんて小馬鹿にしてやるくらいでいいんだよって言うぐらいの人だから」


『言ってたわね、ほんとに強い心を持った人だったし』



しんとしてしまった空気が

徐々に解されていく


ミザリーは、ベイカーの祖母のことを

思い出すと同時に


その祖母の命を奪った悪魔という存在に


その存在に負けてたまるかという気概を

受け継ごうと心に決めた


(命を失った私だから…この身体がある私だからこそ出来ることがある)


『一発…かましてやるわ』


不意に零したミザリーのその言葉


一発かましてやんな、と拳を握りながらよく口にしていた強い祖母


その姿の面影を感じたベイカーは

思わず笑ってしまった


「それにしたって、物騒な口癖だよなぁ」



言いつつ視線を町中に向けると

その風景は第三区へと移り変わるところだった


ふっと、なんとなく

ちらりと見えた兵士が進行方向の空を見上げ、声を上げている気がして


ベイカーは荷台から身を乗り出し

前方へと視線をやった


『ビー、あぶ…』


「ミザッ!危ないっ!!」


注意をうながそうとする言葉に被るように突然ベイカーが叫んだ


が、どうやら時すでに遅し


〈ガシャンッッ!!〉


馬車が大きく揺れる


そしてどうやら片側の車輪が外れたようだ


〈ギィィーッ〉


地面と荷台が接触し擦れている音が鳴る


『ビー!飛び降りてっ!』


「えっ!正気かよ!?」


辛うじてしがみついていたベイカーが

苦言を呈すが


『アンタがそこにいちゃ私も出れないのよ!』


そう、この荷台には乗り口が片側しかなく

その片側こそがベイカーがしがみついて道を塞いでいるほうなのである


〈ガクッ!!〉


と一瞬宙に浮く感覚


〈ギャリギャリィッ〉


とさらに擦過音が大きく響く


よりにもよって

馬と乗り手が乗っていた先導と、

荷台との連結部分が壊れ外れたらしい


いまや慣性だけで前進している状態であるが

このままでは勢いよく転倒し惨事になりかねない


「いっ、言ってる場合じゃないね!ぉおっ!!」


思い切り跳躍し路地に身を投げる


と勢いをつけ飛び出したように見えたが

その実、体勢を崩し半ば飛び落ちたような状態だ


ミザリーも続き

飛び降りようと荷台の降り口に手をかけるが

ハッと前方に目をやる


その目に映ったのは

真っ赤に燃える2mほどの径の火の玉が

慣性のみで地を削りながら前進する

荷台のわずか数センチ手前に着弾した瞬間だった



同じくその状況を、辛うじて運良く怪我を負うことなく着地していたベイカーも見ていた


「み!ミザッ!?」


〈ゴシャァッー〉


火が燃え移りながら、荷台が前につんのめるように後輪を浮かし


激しい音をけたたましく上げながら

前転する


もっとも前転という軽やかな表現が似合うような様ではなかった


十メートルほどを住民の悲鳴をかき分けながら前進した荷台はようやくその動きを止めた


だが、ミザリーの姿は未だに確認できず

ベイカーは急いで駆け寄ろうとする


目の前の事に、全ての感覚をとられていたベイカーはそこであることに気づく


周りが、ひどい悪夢の前触れのような

あるいは悪夢の真っ只中にあるのではないかという状況


悪魔だ


しかも一匹や二匹じゃない


ベイカーの視界に入る中でさえ


見える逃げ惑う、悲鳴を上げ叫ぶ

傷を負いそれを庇うように走る人々


その人々の数と競るほどの大量の悪魔


これほどまでの群れは未だ見た記憶がない

だが、それが引き起こすであろうマイナスのイメージは容易に最悪の結末を頭に刻み始める



はっと妙な熱を感じ視線をあげると

赤い巨大な鳥


その細目な身体に対して

頭部が異様に、というよりはくちばしらしき箇所が異様に大きい赤い鳥型の悪魔だ


なにやらカンカンとくちばしの中で弾ける音がしている


と思った瞬間


そのくちばしの中から石が

なぜか火を纏いながら飛び出してきた


(さっき、馬車を襲ったやつか!)


避けなければと

横跳びすべく脚に力を込めた


〈ドゥォンッ!〉


ベイカーの耳に飛びこんできたのは聞き慣れた発砲音だった


〈ボガンっ!〉


赤い鳥が放った石に当たった銃弾は

弾け、その石を打ち砕いた


そして


もちろんその発砲音の元となったのは


燃え上がる馬車の荷台、砕けた壁の間から手を伸ばし狙い撃ったミザリーからだった


『やってくれたわね、バカ鳥…』


〈バキャっ!〉


と壁の隙間を蹴りで割り広げながらミザリーが路地へと出てくると


ミザリーも現状に気づき

その眉間に力が入る


『Fu○k…一発じゃ済まないわね…』


「ミザ、用心しろよ!僕は住民の避難を手伝ってみる…」


背負った手荷物の中から、小さな皮袋を取り出すとミザリーに投げ渡すベイカー


受け取った感触からして、中にはマリーゴールドの銃弾が入っているようだ


「その銃弾の名前!覚えてるだろ?」


それはついぞ先日

夜の宿屋で寝る前に語られた事


ベイカーが改造した拳銃に、専用の弾丸

その第一号として造られた


触れた途端に小爆発を起こす

繊細かつ大胆な代物


『ええ、【touch fire】でしょ?』


ここ数日の戦闘で

残弾が二発となっていた六連装のシリンダーに四発を足しながら答える


「そうさ!奴らに火をつけてやれ!」


〈ガチッ!〉


弾を込め直したシリンダーを戻す


『オーライ、ビー!あんたも無茶すんじゃないわよ!』



ミザリーは崩れた馬車の荷台から

ノルニルを引っ張りだすと


担ぎ、騒ぎの中へと猛然と駆け出した


そしてベイカーも

怪我をするなどして避難の足が鈍い人達の元へと走り出した


方向は違えど

二人の目的はただ、誰一人に何も失わせないという奇跡じみた結末

その一点だけであった


しかし、結論から言うと


この二人 のみならず

人々の奔走や努力を見て見ぬふりするかの

ように無情に


この国はかけがえのないものを失う事となる

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