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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
王都炎上~墜ちる太陽~
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38/98

前夜

# another side


『気分悪いわね…』


宿屋への道を進みながら、ふっと不機嫌そうに零した


先程のリーダとの騒動から間もなく

二人は、兵士や住人達の慌ただしさの隙間を抜けるように歩いていた


「そりゃぁ…二日も続けてコテンパンだもんね、気も滅入るよ」


あまりに直接的なセリフに

またも眉間に皺が寄りそうになる


それを察してか、ベイカーは町中に視線を泳がせた


「でも、あんまり大きな被害とかは出てなさそうだね…流石は最強の剣士ってところかな?」


『…』


「それにしたって、生身の人間がミザに勝つなんて」


『はいはい、どうせ負けたわよ…敗因はなんだとお思い?』


気持ち早足なミザリーが

手をプラプラさせながら問いかける


「なに拗ねてんだよ…」


『別に?』


とは言いつつも明らかに機嫌は悪い

澄ました顔に見えるがこう見えてミザリーは


「負けん気が強いからなぁ…まぁ敗因っていうんなら、経験としか言い様がないよ」


軽く振り返ったミザリーは

やや目を細めている


納得のいく、というよりは

今の感情をなだめられる言葉が欲しいらしい


「いくら強いってもミザはまだ十八歳なんだよ、それも二年と半年の空白を考えたら実質15年程度の経験しかない。」


『そんで?』


「さらには悪魔と戦いだしたのはほんの最近、実戦経験なんて微々たるもんさ」


(とは言っても密度がかなり濃い経験を送ってはいるだけど)


「それを実戦経験ばりばりの公国最強とまで言われるリーダ・バーンスタインと比べたら遅れを取って当たり前だよ」


『ふむ…』


どうやら後一押しらしい


「ミザなら、仮に同じだけの実戦経験を積み重ねればその時は…負けやしないって」


『…』


ふっと

ミザリーの頭が左右に軽く揺れる


(やっぱこういうとこも変わんないのか)


ミザリーは幼い頃から

時折拗ねると、ベイカーに慰めの言葉を求める


と言ってもそういう雰囲気を醸し出すだけで自覚はないのかもしれないが


そしてベイカーがその慰めや励ましに

成功すると


ご機嫌よろしく、頭を左右に軽く

揺らす癖があるのだ


時が経っても

姿が変わっても本質は変わらないんだなと


ベイカーは少し嬉しくなった



だが


一つの騒動が収まった町並みを


その雰囲気を焼き付くさんとする空気が


澱みが足音もなく

王都に近づいている


先程、去り際にリーダ・バーンスタインの残した言葉も

ささやかな会話にぼやかしてしまった

二人は気づかずに歩き続けていた



_________________


# another side


王都 第四区にて

複数の悪魔が住人を脅かし


それが収束してからしばしの時間が経った


時刻はすでに真夜中の頂きに迫ろうとしている


ここは王都の中心

王城の中ひっそりと静まる礼拝堂のような一室


王城の中も静けさに包まれ

時折警邏している兵士の足音が響くのみとなっている


そんな礼拝堂の中に

蝋燭がテーブルの上にポツンと置かれ

かすか揺れる暖色が心許なく室内を照らしている


その小さな火を

眺める鷲鼻の老人


ハイトエイド・ベルライン

公国の軍事を司る王の片腕


そしてその傍ら


礼拝堂の扉を背にするように立っているのは

彼の指揮下にある巡国遊撃隊 隊長

昼間の騒動を収めたリーダ・バーンスタイン


「いよいよだ…始めるぞ」


深い、喉から発したとは思えないような

深くから響く声でハイトエイドが告げる


「…はい、準備はできております。いつでも」


「あの太陽が墜つる、新しき太陽さえ昇る暇を与えん…暗き月がこの国を照らす、私がこの国を手にする」


「…」


老人らしい、皺のよった手を蝋燭の火に向かって伸ばす

だがその手には老人らしからぬ力が、込められているかのように力強さを感じさせた


「リーダ・バーンスタイン…」


「はっ」


振り向き、リーダへと視線を向ける


「正午だ…あの太陽が最も輝く時に墜す…この王城に【四つ脚】が現れる、そしてこの王都の全てを焼き付くしその一切を一に戻すのだ」


揺るがぬ、野心の光が

その瞳の中にあった


「そして私は【魔女の檻】の力を手に入れる道へと近づく」


〈ガタンッ〉


思い切り立ち上がった

椅子が鈍い音を立てて倒れる


そして

スっと息を吸うと


ハイトエイドは礼拝堂の扉へ向かった


扉を開き、王城の廊下へと歩き始める


それを見送ったリーダは

一人礼拝堂のテーブルに近づき


「私の憎悪も全て…ゼロに」


〈シュッ〉


鋭い音を立てて鞘から剣を抜き振るった


そして振り返って同じように廊下へと向かったリーダの背後で


火の導線を僅か切られ、真っ暗な室内に溶け込んだ蝋燭がほんの僅かな白煙を

何かを暗示するかのように漂わせていた



___________________


# another side


ハイトエイドとリーダが会合していたのとほぼ同刻


場所は離れど王城の一室にて

一人の少年が明かりを落とした部屋の中


ベッドに横たわり天井を眺めていた


この少年はルベリオ・ウェイヤード


ルグリッド公国の皇太子である

齢は十を超えようやく十一に届いたばかりであった


その幼さには似つかわしくない落ち着きを持つ彼だが、今頭に浮かぶ考え事は皇太子としては相応のものだ


(この国は…いまだ悪魔に蝕まれ続けて国民は傷つくばかり、僕にはまだなにも無くてなにも出来ないけれど)


「大人になって物事を知れば、父上のような王に…なれるだろうか?」


思考がついぞ口に出る


世間を知らない、言葉が足りない

力を持っていない


皇太子としての自覚がなまじ強いために

自身の未熟さを常に浮き彫りのように見据え続けている


(駄目だ…なんか今日はやけにマイナスな考え事ばかりしちゃうな)


ふっと目を閉じ

昼間に聞かせて貰ったおとぎ話


ハーディン国王が語ってくれたおとぎ話を頭の中で反芻する


それは嘘か本当か定かではない


かつて何百年も前にこの国を

未曾有の脅威から救った


金色の狼のおとぎ話


(本当にそんな狼のが居るのならば、僕も会ってみたい…)


反芻している最中

不意に語ってくれているハーディンの顔も

共に思い出していた


それはなぜだかわからないけども

今まで幾多のおとぎ話を語ってくれたことのある父だが


(金色の狼のおとぎ話をしてる時、一番優しい顔で…でも少し寂しそうな顔をしてたなぁ…)



ルベリオは浮かんだ父の顔をぼんやりと思い出していると

ふっと寄り添ってきた睡魔に容易く夢に落とされた

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