一触即発
# another side
「どこ行ってたんだよミザっ」
馬車にて移動中、危うく行き違いになりかけたベイカーは焦って自分の乗っている馬車から降り
ミザリーの乗っている馬車を走って追いかけた
幸いにも通りに人が集まり混雑していたおかげで追いつき相席することに成功した訳だが
それでも大分走るはめになった為ベイカーの息切れは中々収まらなかった
『ちょっと王城にね、ちゃんと書き置きしてったでしょ?』
「肝心の内容には触れてなかっただろ?…それで?リーダ・バーンスタインには会えたの?」
『なんでわかったの?』
僅かに目を見開き驚きを顕にする
「はぁ…やっぱそうだったのか、そんなことだろうとは思ったけど。なにか収穫は?」
『それが行き違いよ、今四区に悪魔が現れてるらしくてそっちに向かったんだって。あんたは…気づいてないみたいね?』
「悪魔っ!?僕が四区から出た時はそんな騒ぎは感じなかったのに…僕が出た後なのか」
『運が良かったってことね、対処出来てたらいいけど…』
ミザリーは落ち着いた風を装っているものの
進行方向に目をやったり
手を握ったり開いたりを繰り返している
「大丈夫だって、兵士だって沢山いるし。それにもうすぐ二区を抜ける、後少しだよ」
落ち着かせるようにかける言葉にも
力が入りすぎているように聞こえる
ミザリーも、ベイカーも、
どうやっても人が襲われ命が危ぶまれているという出来事には慣れることが出来ないのだ
だがそれでも
ベイカーの言った通り二人を乗せた馬車は
第一区へと辿り着こうとしていた
________________
# another side
〈ザンッッ!!〉
またも一匹の山犬の悪魔が
リーダの手によって、首を撥ねられ
絶命し弾けていた
すでに7匹の悪魔を単独で
狩っているリーダだが
その顔には疲労は勿論、息切れのひとつも無い
まるでただの作業であると言わんばかりに
淡々と悪魔を倒す
目視できる範囲に悪魔を捉えれなくなると
一瞬目を閉じる
人々の悲鳴や叫びの中から
目当ての悪魔の気配を探す
一際悲哀の濃い悲鳴
より分けて推測し
目を開きその場所へと走る
〈キンッ…キンッ〉
走る度に引き摺る剣が撥ね
金属音を響かせる
なぜだか、この音が心地良い
僅か後、推測の場所へと差し掛かると
丁度山犬の悪魔が向かいからリーダ目掛けて走ってきていた
「飛んで火に入ってくれるのね、助かるわ…」
グワッと口を開き
リーダに向かって喰らいつこうとする
大小の牙が無数に並んだその様を
無機質な目で捉えると
すれ違う瞬間身を捩らせ
寸前のところで躱した
だけではなく剣も振るっていたのだろう
走るため低姿勢だったリーダが
身体を起こし歩を緩めると
山犬の悪魔は地面へと滑り込み
伏せて弾けた
その頃、その数m上空にて
撥ねられた山犬の首は胴体が弾けるのを見届けた後同じく弾けて消えた
「これで八…それにしても、四区にいるなら手伝ってくれても良さそうなものだけど…ねぇ?」
リーダが意味深な言葉を呟いた
それに合わせるかのように裏路地から
またも一匹の悪魔が姿を現し
警戒するようにゆっくりと近づいてくる
グルル
と威嚇なのか虚勢なのか
牙を剥き出しでタイミングを見計らっているようだ
そして
〈ジャッッ!!〉
と踏み切るような足音が響いた
だがそれは
リーダでも山犬の悪魔のものでも無かった
離れた通りから
屋根の上を登り、駆け
そして路地の悪魔に向かって踏み切ったのは
〈ドシャッ!〉
突然の強襲に
突然その背に飛び乗られ
為す術もなく地に伏せる悪魔
その後頭部に突き付けられた大型の拳銃
〈ドゥンッ!〉
発砲音と共に
悪魔の弾ける音を合図にするように立ち上がったのは
ミザリー
はるか後方から、こちらはなにやら
普段よりも遅い足取りで道を走ってくるベイカーの姿も見えた
『こんにちわ隊長さん…呼ばれた気がしたけど?』
その言葉を受け
不意に口の端が持ち上がるリーダ
「ええ、手伝ってほしくて…ね?」
『手伝うも何も、多分さっきので終わりじゃない?』
辺りを探るように視線を巡らすミザリー
「…」
同じく、周囲の気配を探ってみるリーダだが
確かにミザリーの言うように
先程の悪魔で打ち止めだったようだ
ひとまずの襲撃は収まっており、兵士たちが皆に声をかけ、回っている声が聞いてとれた
〈まだしばし避難していてくださいっ!周囲の確認を致します、怪我をされた方はお近くの兵士にお声掛けください!〉
「まだ何匹かいたと思ったけど、処理してくれたのね?」
『道すがらにね、邪魔な石蹴飛ばしてきただけよ。それより聞きたいことがあって探してたのよ』
「私を…?アリスの事だったら、言ったように特に話せるようなことはもうないわよ?」
『違う…四つ脚のことよ、あいつは今どこにいるの?』
思いがけず、と言ったように
多少の驚きがリーダに浮かんだ
それはそうだろう
いまや公国にとって、筆頭すべき畏怖の対象であるはずの【四つ脚】
兵士ともなれば話は別だが一般の国民の中にそれを
隠れ、逃げ、避けるものは居ても
探すものなどいない
「四つ脚?どうしてあなたがあいつを探してるの?」
『聞きたいことがあるの、それに…借りも返さなきゃいけないし』
借りとは、昨夜散々打ち転がされたことを言っているのだろう
忌々しいという代わりに眉間に皺が浮かぶ
「ふ…ふっ、面白いこというわね。四つ脚とお喋りしたいの?あの、悪魔と?」
『あいつには意思がある、世間話くらいはできるんじゃない?』
「意思が?」
『ええ、多分ね…』
言ってはみたもののミザリーにも確証がある訳ではない
それにこれもミザリーの考えの一つであり、ベイカーにはまだ話してはいない
話せば、危険だと長々説かれるだけだ
ミザリーは背後を振り返り
ベイカーの位置を確かめる
足取りが何故か重そうだが
あと数十mにまで近づいてきていた
『早く教えて、あいつは今どこにいるの?』
リーダは一瞬、ミザリーの目を見据えた
そして口を開いた
「残念だけど私も、周囲を捜索している護警団の面々も発見に至ってないわ。そもそもが神出鬼没な奴のことだから、もう王都から離れている可能性が高いって意見も出てる」
『そうだとしたら、追わないの?』
「勿論、放っておく訳はないわ。王都内の警邏を終えて、この騒動に始末をつけたら私もまた王都を発つ予定よ。」
『…そう、なら私は私で探すしかないわね…』
「……」
当てが外れた、そんな風に俯いたミザリー
その様をリーダはぼんやりと眺め、思い出していた
(やはり…似ている…あの人に、あの人に……)
そして
「残念だけど、それは許容できないわ」
『え…?』
「あなたが四つ脚を追う、危険よ。大人しく田舎に帰ったほうが身のため…」
『…そんなの私の勝手でしょ?』
「多少腕が立つって言ってもあなた程度じゃ、四つ脚に歯が立たない。分かってるでしょ?」
徐々に、徐々に
両者の瞳の中に熱が灯り始める
『あんたなら歯が立つって?』
売り言葉に買い言葉
ただでさえ負けん気の強いミザリーは
ここ数日の細やかな怒りが積もっていたこともあり
リーダの挑発ともとれる言葉に
いとも容易く乗ってしまった
手を開き、獣が爪を構えるような
ポーズを取る
「少なくとも、あなたよりはマシじゃない?」
こちらもこちらで
感情の、その発言の意図は読めないが
その気であると言わんばかりに
剣を、構えた
それを見て驚いたのは
やっとの思いで十mほどまでに近づいてきていたベイカーだった
「えっ?ちょっと!どういう状況だよ、ミザッ!?」




