子煩悩
# misery side
不思議な人物との出会いから
少し後
ミザリーはまたも馬車に揺られ
第一区から第四区に戻ろうとしていた
馬車のほうがミザリーより駆ける足が早い
であるから荷台の上で焦っても
早く一区に戻るには揺られる他ない
それでももどかしく思ってしまうのは
性格だろう
ふと、先程の出来事を思い出す
初対面、それもなんだか不思議な人物に
向かって無自覚に手を伸ばした
軽く右腕を先程のように伸ばしてみるが
やはりそれはミザリーの意図した行動であって無自覚のものではない
『まさか…故障とか?…』
だがつい数刻前に
ベイカーに点検してもらったばかりで
あるゆえ、それはないだろう
『まぁ…今はいいか』
ミザリーは考えを放棄した
優先するべきことは今
再びリーダ・バーンスタインと会うことだ
流行る気持ちを抑え
移り変わる景色に思考を散らした
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# another side
ここはミザリーやベイカーがいる王都
その中心に位置する王城の一室
白髭の老人がある一室にて
机上の数多の紙を、資料だろうか
それに向かい代わる代わる視線を移り変えていた
イグダーツ・バルシュ
ルグリッド公国において国政などを任される人物だ
無論日々公務に追われる彼だが
やはり気にかけているのは
王都内での目撃が報告された【四つ脚】
そしてあと一つ
「無事だろうか…?」
手を止め、誰に向けるでもなく
零した心配事だが
それはノックもなしに部屋に入ってきた
当人によって解消された
その人物は
ローブを深々と被っている男
「ああ…ご無事でしたか、それにしてもお早いお戻りで?」
立ち上がり会釈をしながら
その人物に近付く
少し抑え目な声量は
気が沈んでるように見える彼を慮っての配慮だった
「どうかされましたか?王よ」
再び声をかけられた
人物はローブを下ろしイグダーツを見つめ返す
つまり、その人物は
先程ミザリーと出会ったこの人物は
ルグリッド公国の国王 ハーディン・ウェイヤードであった
『ぁあ、思いがけずに…イグダーツ…』
「いかがなさいました?」
『私は…何も言えなかった、何も』
悔いを表すかのように震える言葉が
イグダーツに全てを悟らせたようだった
「そうでしたか、しかしこれが最期ではありますまい。どうか気をお落としなさることのないように」
『そうか、そうだな…すまない、気を使わせてしまったな』
小さく息を吐き、イグダーツに向かい
頭を下げる
それを恐れ多いとばかりにイグダーツは両手を体の前で振る
「お顔をあげてください、それよりも…」
『ああ、そうだな。ルベリオは自室か?』
「ええ、皇子ならば自室で読書をなされてますが」
『そうか、なら少し話でもしてこよう。たまにはおとぎ話でも聞かせてやらなくてはな』
「おや、珍しい。王が自ら語らいになるとは」
『私の好きなおとぎ話があるんだ。こんなときだからこそ聞かせたいものさ』
「きっと、お喜びになる。ごゆっくりと、雑務は私の方で処理を進めておきまするゆえ」
『助かるよイグダーツ、では』
またも頭を下げると踵を返し
ハーディンは皇子であるルベリオの自室へと向かっていった
「まったく…子煩悩が疼きましたかな?」
ふっと少し微笑むとイグダーツは
椅子に座り直し書類へと再び眼を運び始めた。
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# another side
唐突にも
ベイカー、ミザリーの両人が不在となった
第四区は騒動の真っ只中となっていた
その理由は
町中に突如現れた悪魔
両人の宿泊している宿屋から目と鼻の先
路地に四足歩行の
強いて言うならば山犬のような姿をした悪魔が数匹現れたのだ
数匹という表現を用いた訳は
その俊敏性にあった
まさに山犬のような速度で路地や裏道を縦横無尽に駆け回り
合計で何匹現れたのかが正確に把握出来ないのだ
あちこちにてあがる悲鳴の数だけ出現していることに違いはない
爪や牙を振るうそれらは
無差別に人々を襲い続けている最中
兵士達が躍起になって
住民の避難や悪魔の討伐に駆けずり回っているが
悪魔のそれより素早いはずもなかった
「ダメだ!室内に隠れろ!」
一人の兵士が叫ぶ
だがそれと同時と言っていいほどのタイミングでガラスの割れる音が響く
「侵入してきやがった!地下の壕に隠れろ」
屋内とて安全ではないが
王都内だけの話ではないが
悪魔の襲撃に備え避難壕として
多くの家屋は地下室を設けていた
そこまで避難できれば差し当たりの危機は免れることができる
しかし、皆が皆そういう訳には行かない
タイミング悪く屋外に居たもの
タイミング悪く悪魔の出現場所の近くに居たものは
ただ逃げ惑うしかない
そんな中、せめてのもの希望は
兵士達であり今王都内にいるとされる
かの存在であった
〈キンッ…キィンッ…〉
不規則に金属が地にぶつかるような音が
そして耳を澄ませば聞こえないような静かな走る足音
裏道を我が物顔で走っている
山犬のような悪魔は歪な耳を動かし
その不気味とも取れるような音に対して
警戒心を抱いたようだ
だが遅かった
〈チャッ!〉
踏み切ったような音が聞こえたと
感じたのと同時に
一つの影が山犬の上に飛びかかっていた
正確に言えば
飛びかかり首元を踏みつけると共にその脳天に
剣を突き刺していた
飛び着いた勢いと剣の鋭さ
それにその人物の自重をもって
剣は易々と山犬の悪魔の頭を突き抜け
その先端は地面さえ突きさそうとするほどであり
勿論、その後幾ばくかの時間も与えず
悪魔は爆ぜ消えた
軽く剣を振り
辺りを見回すとその人物
リーダ・バーンスタインは
再び騒動の音の方へと駆けて行った
それと同刻
第二区から三区にさしかかる
通りの真ん中では
何となく外を眺めていたベイカーが
向こうから走ってくる馬車に視線を向けたとき
その荷台に
見慣れた顔を見つけ
慌てて荷台から首を出し
叫んでいた頃だった




