王城へと
#another side
「今のは…君か?」
構えていた剣を鞘に納め
ゆっくりもミザリーに向かってくる護警団の青年
ミザリーは他に気配はないか
周囲に注意を払う
どうやら他にはいなさそうだ
『ええ…余計だったかもね』
青年に倣いという訳ではないが
腹当てにマリーゴールドを納める
大剣(鈍器)であるノルニルを置いてきた為
唯一の武器
「とんでもない!助かったよ、ありがとう…」
と語尾が不意に霞んでいく
その理由は
被っていた頭巾がずれ
先程まで隠していた顔が露になったことが原因だった
「…美しい…」
『…は?』
初対面の人に向けるには不躾な表情ともとれる顔をミザリーは青年に向けたが
これはミザリーが無愛想という訳ではなく
単純に言われ慣れないことを言われたからである
「その顔立ちも…その金色の髪も…美しい」
どこか芝居じみた感じで一歩、二歩と
近づいてくる
『ああ…それはどうも、それじゃぁ私急ぐから』
この手のタイプはどうも苦手らしい
困った様子で頭巾を被り直すと
踵を返してミザリーは乗っていた馬車へ戻ろうとした
「待ってくれ!礼を、助けて貰った礼をさせてくれ!」
しかし追いすがる青年
『そんなの良いから、先を急ぐの…』
「そう言わずに、なんなら送ろう!馬車も手配する」
(はぁ…)
ミザリーはすでにこの人物にウンザリしてしまっていた
が
この青年が護警団所属ということを思い出すと
『それなら…リーダ・バーンスタインに会いたいんだけど、どうにかできない?』
「リーダ?遊撃隊のか?」
『ええ、同じ兵士なら知らない仲じゃないんじゃない?』
ふむ、と
少し考える様子の青年
「同じ兵士とは言っても俺は王城並びに王都の守りを主軸とする護警団、彼女は各地を巡り悪魔を狩る遊撃隊。大元の目的が同じでも仕事がまるで違うんだ」
『つまり…無理なのね?』
「という訳でもないっ…ん?だがそうだな…」
勢いが徐々に薄れていく
「いや、すまない…今は遊撃隊も護警団も多少込み入っていて…」
ふいに険しくなり始める表情に
ミザリーは顔を近づけた
周囲の人々にその発言を聞かれないためだ
『…四つ脚のことね?』
「知っているのか?!」
驚きを隠せないようだ
それにしてもとかく表情豊かな人だなと
ミザリーは思った
『ええ…昨晩ちょっとね』
「…ということは憲兵に情報を伝えてくれたのが君か。四つ脚に会ってよくぞ無事で…」
『おかげさまでね…それで?今リーダ・バーンスタインはどこにいるの?』
鋼の手を軽く上げてぷらぷらと左右に振りながら尋ねる
「遊撃隊は君が目撃したっていう森林地帯だな、その後王都周りを調査して回っているはずだ。だが、リーダは王城で王や重鎮の警護を担っている。ちなみに護警団は王都内の見廻りをしている、今もその途中だった」
どうにも名残惜しそうに
言葉を続ける
「本当にすまない、まだ王都内の見廻りを続けないと、四つ脚の亡骸を見届けるまでは…」
意外とと言っては失礼だが
やはり正義感は強いらしい
その目にも強い意思が見て取れる
『気にしないで、リーダが王城にいるって情報だけで助かったわ』
再び踵を返すと
ミザリーは馬車に向かって歩き出す
その後ろ姿に向かって
「俺は、アーサー。アーサー・ビークマンだ!必ずまた逢おう!」
振り向かぬまま
ミザリーは手を軽く上げた
「きっと!きっと君は俺の運命の人だっ!」
『は?…』
思わず振り向こうとしたが、なんとか堪えると首を傾げながら馬車に乗り込んだ
『なんか…苦手だわ、あの人…』
ふぅとため息をつくと
席の荷台から空を眺めた
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# baker side
空の明るさが室内に染み渡り
少しずつ宿屋の一室の気温を穏やかにあげていく
そして陽射しがソファに
横になっていたベイカーの顔にかかる
「ん…んん」
もぞもぞと毛布を被り直すと
ウトウトし直そうとする
(…ミザに起こされるまでは寝てよ………)
「…ん?」
不意に毛布を翻すと身体を起こしてベッドに目をやる
あまりに物音がしなさすぎて気になって見たものの
その一室にはベイカーの他に誰もおらず
それも当たり前のことだった
「あれ?ミザ?」
傍のテーブルにはノルニルが立てかけられており、荷物も同じくその足元に残されている
と、ふとテーブルに紙が一枚置かれていることに気づく
そこには〈夜には戻る〉とミザリーの字で書かれていた
『ええ!…どこ行ったんだ』
と考えると同時に先日のミザリーの発言が頭に浮かんできた
それは
リーダ・バーンスタインにどう会うかを
二人で考えていたとき
ミザリーは『考えがある』と言っており、
その時にベイカーは不安な気持ちになったこと
ベイカーの知るミザリーは
余り策を弄したり、とかく頭を使ったりするタイプではなく
ひたすらに猪突猛進、とりあえずは行動してみるタイプだ
つまり
「まさか、王城に?」
はぁとため息をつくと
「とりあえず突っ込むのどこが、考えがあるっていうんだよ」
ボヤきながら
自身も王城に向かうための準備をはじめた
差し当たり必要な荷物だけを持ち
宿屋の店主に話を聞くと
やはりミザリーは数時間前に宿屋を出たらしい
その際、これまたやはり
王城への行き方を店主に尋ねていたそうだ
「にしてもなんで僕に内緒で…」
と疑問に思ったが
すぐにひとつの推測に思い当たった
(まぁ…なにかしら無茶をする気なんだろうな)
ベイカーは宿屋を出ると
ミザリーに倣い
近くに居た馬車へと向かい、乗り込んだ
そして間もなく第一区に向けて馬車が走り出すと
目を閉じる
そして、ベイカーなりに考えをまとめ始めた
(とりあえずの大きな疑問は三つ
一つは悪魔になる人間、昨夜の襲撃者だ
アイツは一体何者で、悪魔なのか、人なのか?
二つ目はその理由、ミザを狙う動機
あの口ぶりからしてハンドベルにミザが住んでいた事・そこで死んだ事を知っていた
だがミザが生きていたことを知り命を狙ったとなると、あいつにとってミザが不都合な存在ってことだ…
でもミザには勿論心当たりがない
そして最後に四つ脚
何故あの場に現れた?偶然か?
偶然だとしても
あの悪魔になった人を殺す理由は?)
ふぅ…
少し考えるだけでもなにか摩耗していくような感に囚われる
突然色んな疑問が押し寄せてきた
この数日は
未だ、十八そこらの
ベイカーには手に負えるものではなかった
それは勿論ミザリーにとってもだが
それでも考えることを辞めることはできない
その中でも積み重なる謎の中にあって
ベイカーが一番懸念していることがらあった
(四つ脚には…意思がある…)
昨夜の急襲の際、
ベイカーは突然現れた四つ脚に驚愕させられ
それを些末な出来事であるかのように忘れさられようとしたが
間違いなく耳にしたのだ
【お喋りが過ぎる】 と
(ミザリーは気づいてるのか分からないけど、まずいんだよ…)
ベイカーは今傍に居ないミザリーのことを
ただただ心配していた
四つ脚に意思がある、という事実
そしてそこから導き出された推測は
ベイカーの背筋に冷たいものを這わせ続ける
(…あの悪魔と四つ脚がもし繋がっているとしたら…)
膝の上で両の手を固く握り締め
ベイカー以外誰もいない荷馬車の荷台で
思わず言葉を絞り出した
「ミザは四つ脚に狙われるかも知れないんだよ…」




