護警団
# misery side
ベイカーより仮眠を取ろうと提案され
二時間ほど経過した頃
僅かな布ズレの音だけを立て
ベイカーのほうを気にする素振りを見せながらミザリーが起き上がった
ベイカーの提案通りに仮眠を取っていたミザリーだが
思いのほか早く目覚めてしまったという訳ではなく
(ビーが起きる前に…)
そっとベイカーの方に目をやると
ぐっすりと眠っているようだ
昨晩から寝ていなかったことや
四つ脚の急襲など
気持ちを張りっぱなしだったことから解放された反動もあるだろう
机の上にあった白紙とペンを引き寄せると
【少し出てくる、夜には戻るわ misery 】
と殴り書くと
ミザリーはそっと宿屋の部屋を出た
外はもう昼の前ほど太陽は眩しい
町の人達にはまだ四つ脚のことは伝わっていないのか
もしくはあえて伝えられていないのか
普段通りの町の営みを感じさせていた
だが感じる人は感じるかもしれない
先日この四区を訪れた日より
町を行き交う兵士の数が多く、その顔はどこか険しい
(さて…中心のほうへ行けばいいのかしら)
ミザリーは四区から第一区、さらにはその中にそびえ立つ王城へと向かおうとしていた。
(強行手段だから、ビーは連れてけない)
と、ふとミザリーに視線を向ける町の人に気づく
ベイカーの言う通り金色の髪は目立つのだろう
かと言って切る訳にもいかない
ミザリーは近くの服飾屋に立ち寄ると
頭を覆い隠す頭巾のようなものを購入した
支払いを終え被ってみると
金色の髪はすっぽり黒い頭巾に覆い隠す
三つ編みは仕方なく、首に巻き付けることで目立たなくさせた
広大な王都ではあるが
直線的な距離を結べば中心とする王城までは
それほど時間はかからないはず
宿屋で聞いた話だと
第四区から第一区まで馬車で行けるとのことだ
ミザリーは辺りを見渡すと
それらしい馬車を見つけた
運転手らしき人に尋ねてみると
間違いなく第一区へと向かうらしい
近くにはその馬車に乗ろうとしている人が数人見受けられた
『何人まで乗れますか?』
と尋ねてみる
「8人までなら大丈夫だよ、今4人まで決まってるからまだ席は取れるけど乗るかい?」
(私の体重だと、二人分ぐらいの負担になるだろうけど8人までなら…大丈夫か)
ふと思慮したが
『はい、お願いします』
支払いを済ませ
既に4人が腰掛けている箱のような荷台
その中の空いてる席に腰掛ける
数分待っていると
荷台の前の席、つまり運転手の席に
先程の男性が腰掛けた
間もなく出発します、と一言告げると
手綱を振るう音が聞こえ
〈ガラガラ〉
と車輪の回る音と、馬の蹄鉄の音を響かせ
馬車は第一区のほうへと
徐々に速度をあげ走り始めた
移りゆく街の景色に目を向けると
ついぞ昨夜の四つ脚の事が夢だったかのような錯覚に捕われるほどの平穏
知らぬがいい事もあるということだろうか
(できるなら知らない内に対処してくれればいいけど)
あの存在を目の当たりにしたミザリーが
王国の兵士の戦力を当てにできないということは無理もない
だがそれでも
柄にもなく祈らずにはいれなかった
(…祈るなんてバカなことかしら…)
〈ギィーッッ〉
と音を立て
急に馬車が止まった
荷台に腰掛けていたミザリー以外の
乗客はつんのめり姿勢を崩してしまっていたが
ミザリーは咄嗟に座席の背もたれに掴まり事なきを得た
『なに?』
と荷台の座席から外
馬車の前方に目をやると
布を纏った人影が見えた
といっても不意に人が飛び込んできた
という訳ではなく
その布が揺れ、見えるその姿は
人ではない
元は人であったかもしれないが
という姿
つまりは骸骨が布だけ纏ったような悪魔だったのだ
中身がなさそうに見えるが
不思議と目は不気味に
昼間の太陽の下でも光って見える
『…こいつらは、空気が読めないのかしら』
愚痴りながら荷台から飛び降りると
誰かを傷つける前にと骸骨に歩み寄ろうとする
すると
背後の人混みを掻き分け
誰か一人ミザリーに近づいてきた
そして
「危険です、下がって下さい」
の肩を叩きミザリーを追い越していく
その際こちらに白い歯を見せて
爽やかな笑顔を向けたのは二十代半ばほどの
いわゆる好青年だった
甲冑のようなものを身につけているところを見ると街の兵士だろうか
自信に溢れた足取りで骸骨へと向かい
腰の鞘から剣を抜いた
その姿に周囲から喝采が湧く
聞こえてくる声は
どれもその青年を知っているような声援だった
〈護警団だ〉
〈護警団のアーサー様だ〉
などと聞こえてくる
その整った顔立ちに起因するのだろうか
女性の声援が際立って多い
「ありがとう!だが皆さんも下がって下さいっ」
と声を高らかにあげると
骸骨へと一気にスピードをあげ向かった
そして骸骨が手持ちの斧
布の下に隠していたそれを振りかぶるより早く
〈ギャシュッ〉
その青年の一閃が骸骨を切り裂いた
たち慣れているのだろう
正確な剣戟は若さにはそぐわぬ経験を感じさせた
だが
「…まだだっ!急いで下がって下さい!」
その青年を取り囲むように
地面に妙な赤い紋様が浮かび上がった
それを一歩引いてみていたミザリーは
先日ベイカーが言っていたことを思い出した
(悪魔は紋様を使い、出現したり姿を消したりするって話本当だったのね…)
と、驚いている場合ではない
瞬く間に先程と同じ容姿の三体の悪魔が
護警団の青年を取り囲んだ
焦りこそ、その青年には見て取れなかったが
三体も相手にすればもしや取りこぼすかもしれない
そうすれば街の人達がただでは済まない
そんな憶測が護警団の青年の顔を
真剣にさせているようだった
そしてその憶測は
現実となった
一体の悪魔が護警団の青年に
飛びかかり、
後の二体がなんと
それぞれ別の方向の
背後の人混みに向かって走り始めたのだ
「くそっ!!逃げろっ!」
向かってきた悪魔の斧を剣で弾くと
大声をあげる青年
街の人達も危険を察し
歓声から一点悲鳴をあげ散り始めた
その時
〈ドゥンッ!…ドゥンッ!〉
僅かな感覚を空け、二発の銃声が響く
そして、さらにはその刹那のすぐ後に
〈ァァーーッ!!〉
二体の悪魔の断末魔
何が起こったのか
理解しかねているらしい護警団の青年
だがハッとし、目前の骸骨目掛けて
またも剣戟を振るう
と先の二体から遅れたものの
三体目の悪魔もやはり断末魔をあげ
弾けて消えた
「…一体なにが…?」
振り返る青年
そこには
鋼の義腕で大型の銃を構えて、といっても
その銃は仕事を終え銃口を天に向け
口から極細い白煙をたちのぼらせている
つまり、二体の悪魔を倒したのは
ミザリーだった
『ご機嫌みたいね、マリーゴールド』




