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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
炎上前夜
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28/98

黒の急襲

# another side



『……なにあれ?』


「なにって…悪魔じゃないか?」


『人じゃなかったの?』


「だと思ってたけどね…」



突然、豹変した謎の来訪者に面喰らう二人だが


どうやら向こうはのんびりと考え事させてくれそうにはない


〈グゥ……ァァァッ〉


雄叫びをあげながら

再びミザリーたちへと迫ってくる



「わっ!ミザッ!なんとかっ」


『するわよっ!』



〈ガッッ!〉


悪魔が振りかぶってきた腕を


両腕で防ぐミザリー


間近で見ると

最早その人物は、人から成ったとは思えないほど見事に悪魔と化していた


硬質化した腕に固く鋭そうな爪を備え

獣のような形相に理性はまるで見えない


『顔がっ!!近いっ!!』



〈ブンッ〉


思い切り両腕を振り上げ

弾き飛ばし距離を取る




この時、ミザリーには一つの懸念があった


『ビー…こいつ…人なの?悪魔なの?』



そう問いかけられたベイカーは

その声の質からミザリーの懸念を読み取った


(「そうか…悪魔なら単純にやっつければいいだけだけど、コイツは人から成ったんだ…もしも人間という本質があるとすれば…」)



そう

今まで幾度となく悪魔を倒してきたミザリーだが、それらには「人」を感じさせるものがなかった

あくまで「悪魔」という人に害なす存在であるがゆえ


ミザリーは「殺す」ということに踏み切れた


そんな意識の中に「人かもしれない」という疑問が

もやをかけるように漂う



だが



〈グゥ…大人しく、殺されればいいものを…〉



「喋った!」


突如として喋り始めた

その悪魔に唖然とする二人




しかしその瞬間


ミザリーには目前の悪魔からなるものではない

ある種の異様な感覚が迫っているのを感じた



(『…なに?こいつじゃない……何かがいる…』)



思わず辺りに視線を走らす



「ミザッ!余所見してる場合じゃないよっ!」


『うるさいわね…なんか嫌な気配がすんのよ』


「そりゃ目の前にガッツリ嫌な気配がいるじゃんかっ!」




〈…こんな子供始末するのに手間どっちゃ名折れなんでなぁ、悪く思うな〉



三度、こちらに襲いかかろうと

悪魔が構えた



『やっぱり目的はそういうことなの…私みたいな田舎者が都会の人に恨み買う覚えはないんだけど?』



〈グゥ、ヴフフッ〉



妙な笑い声をあげる



「なにが可笑しいんだ!笑いごっちゃないぞっ!」


ミザリーの後ろから

ベイカーが憤りの声をあげる


突然命を狙われては

憤るのも無理はないがミザリーの背後からというのがイマイチ格好がつかない



〈グヴフフ……大人しくあの辺鄙な村で死んでりゃ良かったのによぉ?〉




『はぁ?』



なんとなくムカつくぐらいの気持ちのミザリーに相反して



「ッ!!…ミザッ!!」



突然

今までにない真剣味に満ちた声をあげるベイカー



『な…なによ?』



振り向いた先、ベイカーの真剣な顔に

多少の戸惑いを感じるミザリー



「お前…!なんでミザが死んだと思ってた!なんでミザの事を知ってる!」




『…ビー?』



「考えて見てよ、ミザのことはあの村の人しか知らない。ましてミザが生きていることを知って狙ってくるなんて…」



そこまで言われて

ミザリーも察した



ミザリー達の故郷ハンドベルが悪魔に襲われたことは、随分と距離の離れた王都だろうと、多少伝聞されることももちろんあるだろう


だが、その田舎の村のたった一人の少女の生死など特別気にかけて伝わるようなことではない


まして、生きていることが

不都合であるかのように狙われるなんてことはありえないのだ



『はっ…思ったより、聞かせてもらうことが多そうね』




その時、静けさが、空気がかすか揺れ動いた




【お喋りが……過ぎる】




暗く 冷たい 鋭く 掠れた


そんな声が二人の耳に入った


と同時に



〈ドッッ〉


黒い塊が

ミザリー達の目前の悪魔の上へと舞い降りた



そして


そのまま、こともなげに押し潰した



〈ガシャッッ〉



一瞬で硬質化し、獣のような姿の悪魔に成り代わった来訪者は先程までの存在が嘘かのように砕け散った



その後に残っていた者は


突如として現れミザリー達の目前に現れた者は



歪な黒い騎士


騎士というには禍々しすぎるそれは

2mを越す身の丈

鎧騎士のような上半身

変形した山羊のような形状の下半身をしており


何より特徴的なのは両の腕の先が漆黒の剣のように変形し

少し前屈み気味のその体勢だと

地に両腕が届いてしまうほどの長さになっていた



『…っ…』



ミザリーは言葉を発することができなかった


今まで出会った全てとも違う


目の前にいる者が未だかつて無い程に異質で、かつ畏怖すべきものに見える


夜の中にあり

尚深い黒色をした〈それ〉から目を背けられない


背ければ


隙を見せれば


もうこの目は開かないかもしれない


そう思わしめた



〈ギチッ〉



かすかに黒い騎士が動いた


顔を僅かこちらに向け

視線を向けてきた



地に届く両腕が鈍く光っている


ともすれば一瞬で両断されかねない危なげな距離に


ミザリーは警戒心を目一杯引き上げた



「ミ、ミザ…こいつ…まさか…?」



ベイカーも同じように

下手すればミザリー以上に恐怖しているのかもしれない


怯えに掠れた声で

絞り出すような声量だ



『ビー……下がって…出来るだけ早く…』



「ダメだ…ミザも逃げるんだ…こいつ…」



ベイカーが何か言わんとする気配を感じた時



図らずもミザリーも同じ答えに辿りついた



それは


頼りなく照らす月明かりが


黒い騎士を背後から照らしたときだった


逆光気味の月明かりを受け


真っ黒な影を


単純にそのシルエットだけを捉えたとき


かつて噂で聞いたあの言葉を思い出した



両手の先が剣のように変形し

両腕が地に着くその歪なシルエット



『まさか……』



「た、たぶんね……」



ふぅと息を吐き出すように

呼吸を意識する


そして、自らが対峙するものを

認識し直すかのように

ミザリーは口を開いた




『こいつが…【四つ脚】ね…』


その言葉をミザリーが発した時

人とはかけ離れた形相のその【四つ脚】が


かすか笑ったような気がした


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