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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
炎上前夜
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26/98

夜の訪問者

# another side


その女性、リーダ・バーンスタインとミザリーが対峙した


異様な雰囲気


ミザリーの後ろに位置し

二人を視界に収めるベイカーは妙な緊張感さえ感じていた


(「持ってる空気感が…そこらの兵士とはまるで違う…これが公国最強の剣士なのか…」)



銀色の長い髪

前髪の中央部分を逆さに撫で上げピンで留めている


ピンで留めきれない前髪を指ですっと

耳にかけながら、静かに呟いた



「少し…試させてちょうだい……」



呟いた言葉の意味を

探りかねミザリーが僅かに戸惑った


瞬間


多少距離のあるベイカーにさえ

まるで初動が見えなかった


気づけば視界にいるリーダ・バーンスタインは剣を振るっていた


その切っ先はミザリーを狙って



「っ!ミザっ!!」



ギィンッ


言うが早いか響くが早いか

振付けられた切っ先


だが


ミザリーは左腕を掲げ

その一振を受けていた



『ッ!…どういうつもりよっ!…』


ブゥワッ


と風を殴るような音が聞こえたのは


ミザリーが受けるとほぼ同時に

振るったノルニルの一撃が空を殴った音だった


ミザリーの反射神経は並ではない

重量20kgを振るうその膂力も

とても並と言えるものではない


だがそれを持ってもその一撃は掠ることさえなかった


背後への一度の跳躍で躱しきられてしまった


「どういうつもりですか!ただ、話を聞きたいだけです!」


つい声を荒らげたのはベイカーだ


だが、そんな怒気をお構い無しに

フッと微笑むと


リーダ・バーンスタインは剣を下ろした


「驚かせてごめんなさい、さっきあなたがこの黒い鳥を倒すのを見てたわ…直前に聞こえた発砲音もあなた?」


『だったら…なに?』


ミザリーからはまだ警戒の空気が離れず

リーダへの視線を緩めている様子はなかった


「そう…大した手際ね。悪魔を倒し慣れているのかしら?それに……その両腕…」



リーダの視線は機械の腕に注がれていた



「僕らは三年前故郷を襲われて、ミザの腕もその時に…」



「そう…アリスが造った腕ね?彼女は優秀な技術者だったから」


『やっぱり母を知ってるのね?三年ほど前にも…あなたに会いに来たはず…』


母の、アリスの名が出たことで

少し警戒も薄れたようだ


ミザリーも担いでいたノルニルを下ろした


「そうね…場所を変えましょう。後始末を任せたわよ」


気づくとリーダの背後には部下らしい兵士がいた


そして、周りの騒動もいつの間にやら収まっているらしかった


恐らく、ここに来るまでにリーダが片してしまったのだろう


(「それにしても…あの皮膚の固いマカラドレイクを一閃で斬っちゃうなんて…」)


二人はリーダに先導されながら第三区の中頃にある兵士の駐屯地に導かれた


その中の一部屋に案内され、人払いをし

リーダとミザリー、ベイカーの三人が手狭な部屋でおざかりの小さな椅子にそれぞれ腰掛けた



「まず、アリスが私を訪ねてきたかどうかと言えば…イエスよ。用件は、特にこれといって無かったけど」



「え…?用件がなかった?」


思いがけない答えにある種の戸惑いを隠せないのだろう

間の抜けた声をベイカーは出していた



『そもそも…母とはどういう…?』


「彼女がかつて王都に居たという話は?」


『聞いています…私を身篭ったときにハンドベルに移ったと』


「私は孤児だったの、物心ついた頃には両親はなく王都の戦災孤児たちが集まる孤児院のような場所で育ったわ」



ここで、少し深呼吸のような

一呼吸置く間があった


彼女自身の過去にあった出来事を思い出して思うところがあるのだろう


「そこで出会ったのが、当時技術者として働きながらも孤児院の手伝いをしていたアリスよ。彼女は、髪の色で他の子ども達から差別的な扱いを受けていた私を気にかけて、可愛がってくれたわ」


「そうか、リーダさんが知り合いっていうのはそういう繋がりがあったんだ」


「ええ、なんとなく顔を見に来たぐらいの感覚だったんじゃないかしら…故郷を焼かれ傷心だっただろうし」



確かに、昔からの知り合いに

折を見て訪問していたと考えてもおかしな事はない


『そうですか…なにか、母に変わったこととかありませんでしたか?』


リーダはふっと首を横に振った


「流石に少しやつれてはいたけれど、故郷を焼かれていたことを考えれば変わった事ではないと思うわ。」



「……もしかして、アリスは…?」



少し曇ったような、けれどどこか冷たいようなそんな視線を放ちながらリーダが問う


『たぶん……亡くなっています。消息が分からなくて…』



まさかミザリーの魂を呼び戻すために贄となったとは言えまい


遺体も見当たらなかった以上

間違ったことは言っていない


「そう…だったの……ごめんなさい、なにも知らなくて」


リーダにとっても知人以上の関わりがあるのだろう


その表情からは明らかな哀しみが見て取れた



「ミザ、これ以上はなにも聞けそうにないね」


そっと耳打ちしてきたベイカーの言う通りだと感じた


『お忙しい中、ありがとうございました。』


切り上げるべく一礼するミザリー


「これからどうするの?」


『少し王都で休んでからハンドベルに戻ります』


「そう、また何かあったら訪ねてちょうだい。折り合いを見て会いましょう」


『ええ、それじゃぁ失礼します』


「ありがとうございました」


揃ってまた一礼した後、二人は駐屯地を後にして第四区の宿へ戻るべく

歩き始めた



「しかし、あまり収穫はなかったね…ってミザ、早くない?」


同じ歩幅で歩いていたと思っていたが

いつの間にかミザリーがペースを上げていた


やや駆け足でミザリーに追いつくベイカー


「そんな急がなくても、火急の用はもうないんだし…?」


それから少しミザリーの挙動は不思議だった


不必要に早い歩み

と思えば時折立ち止まり

商店に並ぶ品物を物色したり


また早足で歩き出したりと


「ミザ?」


とベイカーが疑問文で

呼びかけたときミザリーがやっと声を出した


『ビー…そのまま、先の果物屋で立ち止まってさりげなく後ろ見て』


「後ろ?」


『さりげなくよ?紺のローブの奴がいるの』


「んー?」


とりあえず言われた通りに

路地に並ぶ商店の一つ

果物屋の前で立ち止まると

店先の果物を見るふりで視線を後に走らす


「あ…」


なるほど、確かに二人の位置から10mほどの距離に半ば身を隠しているかのように紺のローブを羽織った人影が見えた


「あの人がどうかしたの?」


『駐屯地出てすぐから尾行してきてんのよ』


と店先に並んだ林檎を一つ手に取ると


『これ一つください』


と


革の財布からお金を出し一つ買った


そして再び歩き出す


『はい、あげるわ』


さっき買った林檎をベイカー目掛けて放る


「っと、でもなんの為に僕らを?」

林檎を受け取りながら問う


『さぁ…本人に聞いてみましょ?もしかしたら収穫はこれからかもよ?』


と言いながらも


そのまま二人は第四区の宿屋へとおとなしく戻っていった





それからしばしの時が過ぎ

夜はとっくに更けていた


ミザリーたちの宿泊する第四区の宿屋周りもすっかり人の気配なく

路地には風が通るだけの寂しさを醸し出していた



ふっと

そんな夜の中


黒いものがすっと影を縫うように移動していた


建物の陰から陰へ

足音もなくただ黒い布の塊が風に吹かれているだけのように


時折、月の照らす光にあてられ

それが人間だということがかろうじて判別できた


その人物はすっと

とある宿屋に滑り込むと


ある一室に向けて真っ直ぐと向かっていった


そうミザリーたちの眠る一室に


その部屋の扉の前に立ち止まると

扉に耳を当て

中の様子を伺った


しばしの間、静止し

部屋の中から活動音が聞こえないことを確認したその人物は


すっと扉を押し開けた


わずかたりとも軋まないその手入れの行き届いた扉は

その人物にとっては幸いだったろう


低姿勢のまま部屋の中心まですすむと


ベッドとソファにそれぞれ

毛布に身をくるんだ二人がいた


大きな革の鞄がベッドに持たれかけている所をみると


ベッドにベイカー

ソファにミザリーが

それぞれ眠っているのだろう


そして恐らくその人物も

そう当たりを付けたのだろうか


ソファの方へと向き直ると背中に隠し持っていた剣を構えた


そして


一呼吸の間を置き


それを一気にソファの上

毛布にくるまったミザリーへと突き立てた


〈ズァッ〉


と布を裂き、切っ先がソファの革の部分に突き立ったものの


その人物は手応えの無さに一瞬、戸惑った


その時



〈バンッ〉


と奥のクローゼットが蹴り開かれ

中から飛び出してきたのは


ミザリーだった


その傍らにはベイカーの姿もある


『っふっ!』


と踏み込んだと同時に右脚を蹴り出した


一瞬で距離を詰められ

戸惑いの隙をつかれたことも相まって


その脚はもろに腹に入ったようだ


「グゥェ…ッ」


腹部に手を当てながら思わず後ろに後ずさる


「うぇ…いったいぞ、あれ」

傍らにいたベイカーが同情のような眼差しを向ける


『女子の寝床にいきなり剣突き立てるような奴に手加減なんてしないわよ…』


目をしかめて今尚闇に包まれた部屋の中

招かれざる客に向かって吐き捨てる



『さて…あんたは何者で、何用なのかしら?』



三つ編みをぴんっと弾きながらミザリーが睨みつけた


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