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My Nightmare  作者: 燕尾あんす
世界を駆ける狼
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23/98

王都へ

# another side


ミザリー・ベイカーの二人を乗せた船はとある港町に到着していた。


王都の南に位置するこの町はサウス・リーム


王都から最も近い港町がこの場所になるため、貿易船や旅客船などが港にひしめき合っていた



甲板から板を伝って港に降り立つと

ベイカーは足踏みをし始めた


久しぶりの大地の感覚に

不思議と安心感を感じているのだろう


そのすぐ後ろで


瞳が半分ほどしか開いておらず

心なしかボーッとしているミザリーが首を回していた



結局、船が港に着くまでの間

ベイカーはミザリーを起こさなかった


寝すぎた怠惰感を

感じているのか


なんにしても

予期せず増えた荷物


大剣(刃がついておらず鈍器ではあるが)ノルニルを

間に合せで作った革袋に入れ

肩に担いでミザリーも久々に大地へと降り立った


船を降りる際

船長や知り合った旅客たちと握手や会話を幾許か交わすが


どの人達も最後の最後までミザリーの活躍を

賞賛する言葉を途切れさせることはなく


それを少しむず痒く感じているのか

どこか気恥しそうなミザリーを


ベイカーは自分の傷痕も痛みも忘れ

誇らしげな気持ちで眺めていた



そして騒動のあった船を一瞥した二人は王都へ向かうべく

港からサウス・リームの町中へと歩き出した



『それで?ここから王都へは?』


ようやく目も開き始め、すっかり覚めた様子のミザリーが問う


「ここから北へ80kmぐらいかな、歩いて2日3日ぐらいで着くと思うけど」


『また歩くわけ…この町も賑わってるわね』


二人はサウス・リームの町へと踏み込んでいた


流石に王都への荷受のための船舶や旅客が立ち寄る町と言うだけあり

活気のある様子が満ちているようだった


宿屋や商店、民家が立ち並んでいる様は悪魔の被害などどこ吹く風と言わんばかりに栄えている


酒場も、まだ昼前というのに多くの人で溢れ

店先に並べられているテーブルにまで大勢の客が酒や肴を楽しんでいる


その脇を通り抜けようとした二人の耳に不意に入ってきたのは

そのテーブル席で酒を酌み交わしていた二人の男の会話だった


またしばらくは王都も安全だろう

あのリーダ・バーンスタインが巡国から戻ってきて、今は王都にいるらしい


と


「巡国遊撃隊のリーダが王都に戻ってきてるって、チャンスじゃないか」


王都へと向かう目的は

ミザリーの母アリスがリーダに接触している可能性がある。


その真偽を確かめるため

普段はルグリッド公国内を巡回しているリーダ・バーンスタインに会える千載一遇のチャンスが図らずも訪れたのである


『そうね…急ぐわよビー、また巡回に出られたらお手上げよ』


肩の荷物を担ぎ直し

ミザリーが足早に町を抜けようと歩き出したそのとき


ベイカーが視界になにかを捉えた

そして慌ててミザリーを呼び止めた


「ミザっ!あれ…馬車があるよ、もしかして王都に向かうんじゃない?」


促され視線をそちらにやると

確かに馬車が数台、止まっていた


何人かの人が、それぞれ荷物を抱え馬車に乗り込んでいる様子も見えた


「ちょっと待ってて、聞いてくる」


ミザリーを制止し、小走りで馬車の運転手らしき中年の男性に駆け寄った


いくつか言葉を交わすと

ミザリーのほうへ向き直り手招いてきた


どうやら本当に王都へ向かう馬車らしい

考えてみれば王都へ一番近い港町、そこから王都へ向かう人々は大勢いるだろう

その人々の足になるべくして、馬車業という生業があって不思議はなかった


先に乗り込んだベイカーが話をつけ、支払いもミザリーが馬車に乗り込む前に済ませたらしい


出発までもう少し待ってくれと

乗り込もうとするとき運転手の男性が気さくに話しかけてきた


『ええ、よろしくお願いします』


すでに屋根付きの荷台に乗り込んでいるベイカーの隣に座る


詰めれば8人ほど座れそうな

荷台の席だが、今は二人しかいなかった


「…大丈夫かな?」


不意にぼそりベイカーが呟いた


なにを心配してるのだろうか


『なにがよ?馬車酔い?』


軽い様子で問うミザリーとは裏腹にやけに真剣な顔つきでこちらを向いた


「いや……ミザ…重いし」


『あんたねぇ…』


目を細めベイカーを睨んだ


だがその心配も無理がない

ミザリーは身体の全てが鋼で出来ており、見た目の華奢なスタイルから想像もできないが総重量は100kgを超える


オマケに


「そのノルニルだって20kg以上あるし、僕らだけで結構な負担だよ」



『私たちだけならきっと大丈夫よ』


とは言いつつ

ちらりと荷台を引く馬に目をやる


サバサバしたように見えるが

ミザリーは元々が優しい、多少は荷を引く馬が気になってしまうのだろう


だがそんな心配も杞憂だったらしい


数分後


結局、乗客はミザリーたちのみで出発となった


見れば、他の馬車たちも動き始めていた


なんでも並んでいた8台、全ての馬車が王都へと向かうらしい


ガラガラと車輪を回し

多少の揺れを伴いながら馬車は速度をあげていった


「さて、問題はどうやってリーダ・バーンスタインにお目通り叶うかだよ」


と眉間に皺を寄せながらベイカーがこぼす


『どうやってって、普通に会えないの?』


「それが通じるのかなあって話だよ、相手は公国のちょっとした有名人なんだし……」


『お城にいるんでしょ?』


「たぶんね、王都にいる間は王城にいるのが一番妥当なとこだと思うよ」


『だったら…』


「なんか案があるの?」


不意にミザリーが目を細め悪戯っぽく笑う


『潜入するしかないわね』


「はぁ………」


思わずついて出たため息が

車輪の音にかき消されながらも馬車は着実に王都へと近づいていった。



揺れる馬車の中

ミザリーが何の気なしに移り変わる風景を眺めていると


「そうだ!ミザ、これ使ってよ」


と唐突にベイカーが差し出してきたのは


『それ…直したのね』


視線の先、ベイカーの手に握られていたのは大型の拳銃だった


船のなかで露天商から買った

壊れていた拳銃


それを買い取って、船の中で少しずつ修理を進めていたものだった


だが


『そんな物騒なものいらないわよ』


片手をひらひらと振りながら拒んだ


「ええっ!これミザ用に作ったのに」


『な、何が私用なのよ。…はぁ』


あからさまに驚くベイカーに少したじろぐミザリー


仕方なしに受け取り、眺め回すと


グリップの腹に歪だが花の模様が彫られていた

どうやらベイカーが彫ったらしい


その花は


『…マリーゴールド?』


「そうそう!ミザっぽいでしょ?」


そう言われては悪い気がしないのだろう

改めてその拳銃を眺め回す


「なんせかなりパワーをあげたから、暴発防止のために引鉄が凄く固くてね、ミザの握力じゃなきゃ引けないようにしちゃったんだよ」


悪びれもなくにこやかな顔で告げる


裏腹に説明を聞いたミザリーは顔をしかめている


『あんたねぇ…こんなもんどうする気よ』


「対悪魔用だよ、この前みたいに飛ばれたら厄介な場面もあるだろうしね」



『パワーあげるのは結構だけど、これって貫通したりしたら危険じゃない?』


「もちろん考えてるよ」


したり顔で得意げにつらつらと語り始める


「弾も改造してあるんだ、弾丸が撃ち出されたとき対敵に接触する先端はギリギリの強度で薄くなってるんだ。それにより貫通どころか、対敵に接触した時点で火薬量分の爆発を起こす。だから貫通はしないから安全だってこと」


改造した拳銃のなにが安全なのかと顔をしかめっぱなしのミザリーだったが


「それにミザなら使い所を間違えたりしないよ」


これもある種の信頼の形なのだろう


ミザリーも表情をほぐし

再びそのマリーゴールドと名付けられた拳銃を眺める


『まぁマリーゴールドは嫌いじゃないし貰っとくわ』


渋々と懐の腹当てのベルト部分に差し込むミザリーを

ニコニコしながらベイカーは眺めていた


『また荷物が増えたわ…』


小さく呟くと再び移り変わる景色に目を向けた




____________________


同刻


ルグリッド公国 王都 ソーデラル


中心に位置する王城 内


その一室



大きな広間 中央に大きなテーブル

最も奥の席 特に豪奢な椅子に座していたのは


ルグリッド公国 国王 ハーディン


その両側に位置し、同じく座しているのは


右大臣 イグダーツ・バルシュ


左大臣 ハイトエイド・ベルライン


並びにその他の臣下の面々だった



そして面々が並ぶテーブルの前に

凛と立っているのは


銀色の髪を僅か揺らし

両手を後ろ手に組んでいる

スラリとした女性


巡国遊撃隊 隊長


リーダ・バーンスタインだった


すっと身体を落とし

片膝をつくと



「巡国遊撃隊 隊長 リーダ・バーンスタイン、報告のために一時帰還致しました。」


静かに声を発した。


淡々としたその口調は軍人らしいと言えば軍人らしいが、その出で立ちは国を巡る遊撃隊隊長とは思えぬほど優美な佇まいだった。


それに応えるように


王 ハーディンが声をかける


「ご苦労だった、健在のままの帰還喜ばしく思う」


重々しくも、どこか柔らかいその言葉には威厳が漂う


「ありがたき…先だっての報告の通り砦を有するベリーズは四つ脚に陥落され、それに伴い付近の村や集落にまで被害を被ってしまったことは不遜の極みでございます」


被せるように傍らの軍事を担う左大臣 ハイトエイドが口を挟む


「それについては、地理的にも四つ脚を目視したと情報が入ってからの最短ルートを持ってしても間に合う距離ではなかったと把握しております」


「無論わかっている、四つ脚にのみ戦力を割くわけにいけない中遊撃隊にはかなりの無理を強いている……とにかくリーダ・バーンスタイン。ひとまずしばしの休養としてくれ」


「はっ、数日王都にて休養した後再び巡回に出立致します」


一礼したのち、リーダ・バーンスタインは部屋を後にした。



「ハイトエイド卿、リーダ・バーンスタインを王都の護りに固定することはできないのかね?」


意見したのは右大臣イグダーツだった。


「今現在王都には護警団を含み十分な戦力を保持している、さらに悪魔による特殊災害の被害は王都外の地域の方が深刻である。国全体、ひいては国民を守るという事を鑑みると最大戦力であるリーダを被害の大きい王都外へと巡国させることが最大の防衛であると考えるが、違うかね?イグダーツ?」


ハイトエイドが口早にイグダーツへと意見する


「しかし……」

意見を返そうとするイグダーツを


ハーディン国王が手で制す


「構わぬ、現体制が最も国を守るのに最適だとハイトエイドが判断したのだ。ならばそれに委ねよう」


王の言葉にいまだ何かを申し立てようとしたがイグダーツは言葉を飲み込んだ


話が一区切りついたところで

ハイトエイドが腰を上げた


そして、去り際ふと振り返ると


「しかし近頃はどうにも雲行きが怪しいですなぁ……よもや、月が墜ちる訳でもありますまいに…」


意味深な言葉を室内の空気に孕ませ


ガチャリ


とハイトエイド卿が室内を後にした



「ハーディン国王…よろしいのですか?」


憶測を走らせるようなハイトエイド卿の置き言葉に眉間を皺を寄せるイグダーツ


「致し方ない、軍事を担っているのはハイトエイドだ。彼の言うことにも一理ある、まずは国民を少しでも広域に渡って護ってもらわねばなるぬ……それに…月は堕ちぬさ、無論太陽もだ……墜ちる訳にはいかぬ……」


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