蛇の一言
# another side
海賊達との争いも収束し、ミザリー達の乗る貨物船にも平穏が戻ってくるとも思われた矢先
船のへりに居る船員が海の中、船の下に何かが居ると気づいた時だった
船が大きく揺れた
突然の大揺れに船上に動揺が走る
「うわっっ、と…ありがとう」
ベイカーがバランスを崩し倒れようとした。
だが腕をミザリーに取られ転倒は免れた
体幹がブレないのか、総重量が100kgを越えることに起因するのか
ミザリーは膝を軽く曲げた状態でただ1人、よろめくことも転倒することもなく立ち続けたまま状況を把握しようとしていた
『なにか…いる』
「なにかって、おおっ!?」
〈ザパァッッン〉
突如船の真横に
貨物船より遥かに巨大な水柱が立ちのぼった
同時に船はまたも大きく揺れ
船員や船客たちが悲鳴をあげながら傍らの何かにそれぞれ捕まりながら耐え忍んでいた
だが、その水柱を起こした主が
身体を流れる海水を全て海に返したとき現れたその姿に
一転
沈黙した
その姿は貨物船に匹敵するほどの径を持つ
瞳一つとっても人の知り得るそれの大きさとは比べ物になり得ないほど
巨大な蛇だった
思い思いの恐怖が
船上にいる人達の脳内を占めていく
声も出せず、ひたすらに巨大なものに対して為す術もない無力さに屈しているようだった
ミザリーとベイカー以外は。
『笑えないわね…海賊なんて前座にもなんないじゃない』
「そうか……こんな巨大な蛇が船の下を移動してたから妙な海流が生まれてたんだ、だから予期せぬ速度で海賊船が接近してきたように感じたんだ」
『何言ってんのよ…納得できて悔いなく死ねるって感じ?』
「絶対やだよ、でも襲われるならとっくに襲われてるはず」
『食べる前に食物に感謝でもしてるんじゃないの?っっ!?』
不意にミザリーがたじろいだようだった
眼前の海原に鎌首を、鎌首というには巨大すぎるその首をもたげる蛇に視線を向け何処か不思議そうな表情をしている
「…ミザ?」
その様子をさらに不思議に
思ったベイカーがミザリーの肩に触れた
その時
ベイカーの頭に声が響いてきた
【ワタシハ…ヨルムンガンド…世界に潜る蛇……狼よ…世界を駆ける狼よ……黒きタイヨウが昇る時‥‥開こうとしている………】
「っ!?」
辺りを見回す
が状況は変わっておらず皆が皆口を固く閉じ、打ち震えており声を出すものなどいなかった
(この蛇が喋ってるのか?ミザにだけ聞こえていたのが、触れた事により僕にも聞こえるようになったのか?)
【開いてはならぬ…再び世界が魔に伏すコトトナル……】
『開くって…なにがよ?』
ミザリーが問う
(そうだ、ミザに声が聞こえてるってとはミザの事何かしら知っているってことか?意志の疎通が出来るなら情報が得れるかも)
【…災害たる魔性……「魔女の檻」が開く……人の悪意によりて…】
「ねぇ!ミザの事を知ってるの!?」
突如声をあげたベイカーに
ミザリーが視線を向ける
『ちょっと、こんな知り合い居ないわよ』
「わかんないだろっ、ねぇ!知ってるの!?」
蛇がこちらを見つめ直した
そんな気がした
巨大な瞳が見据えてくる
表面を水が流れ続けているような
水の鏡面のような瞳
意思の疎通はできるようで、ベイカーの問に対して答えた
【かの者は…狼……煉獄の世を…世界を駆ける狼…フェンリル……受け継ぐ…】
「フェンリル?神話に出てくる?…それがミザと関係が?」
【醒めよ……「魔女の檻」が…開くまでに……】
だが質問に答えたの最初の一つまでだった
そしてどうやら一方的ではあるが言い分を終えたらしい
その蛇は大きな口をゆっくり開けた
巨大な洞窟が不意に姿を現したように
その口内の奥の暗闇が
妙な不気味さを醸し出している
その洞窟の入口、口には夥しい数の牙が大小不揃いに並んでいる
その内の牙の1つがぼんやりと光った
『なにあれ?』
「さ、さぁ?…」
二人が首を傾げていると
その光に包まれた牙が本体から離れ
不意にこちらに向かい飛んできた
『「っ!?」』
ミザリーが構えた
〈ガッ〉
敵意かに見えたがその牙は
ミザリーの前方2mほどの所に落ち
甲板に突き刺さった
纏っていた光が薄れていく
やがて光が消えた
そしてその後に残っていたのは
1m60cm程の大型の剣だった
『餞別のつもりかしら?』
ミザリーが歩を進め、甲板に突き刺さったそれを引き抜いた
それは鍔から柄の片側、根元までを覆うように女性の彫刻
女神だろうか、それらしく見える彫刻が刻まれていた
だが
「あれ?」
後ろから近づいてきたベイカーが
大剣をもの珍しそうに観察していたがあることに気が付いた
「これ、刃が付いてないじゃないか」
その通りだった
大剣のような形状をしているが
その刀身には刃が付いておらず、その切っ先には燭台のような装飾がなされていた
『てことはなに?剣じゃなくて?』
「鈍器だね…うん、鈍器」
思わぬところに戸惑いながらも
贈り主の方に目をやると
静かに海に沈んでいく最中だった
『ちょっと!何一つわかんないわよ!』
船のへりに駆け寄り声をかけるが
お構い無しに海の中に沈み
やがて海の底へと帰っていった
ミザリーは手に残された大剣のような鈍器を掲げ、見つめ直した
「武器にならないこともないね、でもなにか分かるかと思ったけど謎が増えただけ…」
『装飾はお洒落だから、まぁ有難く貰っとくけど……色々訳わかんないわね…』
突如の巨大な蛇の出現により
沈黙していた船上
船員、船客が戸惑いや不安など
ミザリーやベイカーは疑問や懸念などの表情を浮かべる中
大剣(鈍器)に施された彫刻の女神だけが穏やかな様相を呈していた




