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不死兵だった俺、ホワイト企業で働き方がわからない ~元敵軍の治癒術師が人事担当でした~  作者: sakumaaa
第一部 初めての有給

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歓迎会は任意参加です

歓迎会の案内には、太字で「任意参加」とあった。


出欠の回答欄も二つだけ。「行く」と「行かない」。理由を書く場所はない。


俺は十分ほど画面を見つめた後、瀬尾に尋ねた。


「これ、行かないを選んでもいいのか」


「そのための欄じゃない?」


「形式だけでなく?」


瀬尾は店への返信を打つ手を止めた。


「久世、先週の昼に『弁当は一つで足りる』って言いながら二つ食べたよね」


「足りないと分かったからだ」


「じゃあ今回も自分で決めて。私に正解を聞かないで」


突き放されたわけではない。瀬尾は俺の画面を覗き込みもせず、自分の仕事へ戻った。選ぶ余地をそのまま委ねられると、妙に手持ち無沙汰になる。


いまの会社で、参加しない人が後で何かを失うとは思えない。実際、別の同僚は「子どもを迎えに行くので欠席します」と口頭で告げ、岸本さんは「了解。明日、写真を見せるよ」と答えていた。理由を書く欄がなくても、言いたい人は言えるのだ。


俺は「行かない」を押した。


画面には「回答を受け付けました」とだけ表示された。誰からも呼び出されないし、仕事の内容も変わらない。試験としては申し分のない結果だ。


なのに夕方、瀬尾が会場の店について楽しそうに話していると、俺は自然と聞き耳を立てていた。


「焼きプリンがあるらしいよ。昔ながらの固いやつ」


「歓迎会でプリン?」


「歓迎される側が食べたいものを頼んだの。私がね」


瀬尾は当然のように言った。俺は焼きプリンが好きだ。好きだと誰かに言う機会はほとんどなかったが、大学の帰りによく買っていた。


聞かなかったことにして画面へ戻る。十分後、また案内を開いた。出欠はまだ変更できる。指を動かしかけて止めた。


プリンのために参加するのは、変だろうか。


前世の記憶を巡っても、この問いに役立つ知識はなかった。そもそもあの頃は、食べたいものが用意されている席に招かれたことがない。


「岸本さん。回答を変えてもいいですか」


「締め切り前ならいいよ。店に人数を伝えるのは明日だからね」


「行かないから、行くへ」


「うん。久世が来たいなら歓迎するよ」


来たいなら。理由はそれだけで足りるらしい。


翌日、出欠一覧を見た瀬尾がすぐに俺を指差した。


「昨日と変わってる」


「変えられるうちに変えた」


「言ったとおり自分で決めたね」


「……プリンの話は関係ない」


「私、まだ何も聞いてないよ?」


追及を避けるように水を飲んだ。瀬尾の笑い声が背中に当たった。


歓迎会の会場は、会社から歩いて十分ほどの洋食屋だった。開始時刻に全員が揃うわけではない。残った仕事を交代で引き受けた人は後から合流し、用事のある人は先に帰る。岸本さんが席を立つ人に「お疲れさま」と声をかけるたび、俺の中で出入口の意味が少しずつ変わっていった。


乾杯の後、瀬尾は隣の席の先輩と店から届いたお礼の話で盛り上がっていた。俺はそれを聞くうちに、名前だけ知っていた人が毎朝自転車で通勤していることや、休日にパンを焼いていることまで知った。仕事に必要な情報ではない。だからこそ、頭の中に空いた場所へ入ってくる。


「久世さんは何か頼みますか」


向かいの席に白峰さんが座っていた。仕事中の落ち着いた服装のままだが、今日は手元に資料がない。


「主催なのに休めているんですか」


「主催は私だけじゃありません。会計も別の方が見てくれています」


「それはよかった」


「この前のお昼から、少し練習しました」


白峰さんは料理のメニューを俺のほうへ滑らせた。指先が紙の端を押さえている。もっと手元へ引き寄せれば見やすいと分かっているのに、動かすまでに少し時間がかかった。


「焼きプリン」


「まだ食事が来たばかりですよ」


「後で忘れないように」


「楽しみなんですね」


からかうような響きではなかった。俺はメニューを閉じずに、頷いた。


「はい。これを食べたくて、出席に変えました」


「正直でいいと思います」


「笑わないんですか」


「私も、あなたが来ると知って楽しみでしたから」


返す言葉を探す前に、瀬尾が横から「注文は今だよ」と店員を呼んだ。俺たちは同時にメニューへ視線を落とした。白峰さんが選んだのは温かいスープで、俺はプリンを一つ頼んだ。


食事が終わる頃、先に帰る人たちが手を振って席を立った。俺も明日の仕事に備えて帰ろうかと考えたが、誰かの許可を待っているわけではない。瀬尾の話の続きが聞きたくて、もう少し座った。


焼きプリンはしっかり固く、思っていたとおりの味だった。俺が一口目を口に運んだ瞬間、瀬尾が露骨に笑う。


「来てよかった?」


「プリンだけでも」


「だけ?」


左右にいる二人の顔を見た。店員が新しい水を持ってくる。隣では、同僚が明日の休みの相談をしている。


「訂正する。来てよかった」


瀬尾は勝ち誇ることもなく、ただ「うん」と言って自分のプリンへスプーンを入れた。


帰り道、俺は案内にあった「任意参加」の文字を思い出す。断ってもよかった。だから、行ってよかったと言える。

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