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不死兵だった俺、ホワイト企業で働き方がわからない ~元敵軍の治癒術師が人事担当でした~  作者: sakumaaa
第二部 教わった人が、選ぶ

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行き先を決める人

土曜の朝、窓を叩く雨の音で目が覚めた。


体験会の予約画面には、正しく「屋内交流室」と表示されている。紙のちらしも商店街の手で張り替えが完了した。広場には案内板が立ち、誘導担当者も配置されている。確認してきた手順を頭の中で一つずつ反芻してから、俺は上着に袖を通した。今日は岸本さんが割り振ってくれた時間帯だけ、問い合わせ対応の当番に入る。


オフィスのフロアには、すでに瀬尾と高瀬さんの姿があった。高瀬さんは今週二日目の短時間勤務で、入口の傘立てに自分の傘を丁寧に畳んで収めているところだった。俺が雨に濡れた鞄を机の上に載せようとすると、彼女は足元に敷いていた新聞紙を半分こちらへ寄せてくれた。


「ここ、空いてますよ」


「……ありがとうございます」


最初の日、俺は上着を掛ける場所すら案内し損ねたというのに。今では逆に、鞄の置き場所を教わっている始末だ。


開場時刻が迫ったころ、商店街の担当者から一本の電話が入った。古いちらしを手にした客が一人、広場に到着したのだという。花束作りの予約客で、屋内に変更されたことはまだ知らなかったらしい。誘導担当がすぐそばについているものの、事前に店から聞いた開始時刻と、本人の記憶とで食い違いが生じているとのことだった。


俺は咄嗟に立ち上がった。広場までなら、走れば十分もかからない。


「久世さん、予約の時刻を確認してもらえますか」


高瀬さんの落ち着いた声に、踏み出しかけた足が止まった。彼女は昨日の担当表を広げ、商店街の誘導担当の連絡先に指を置いている。


「場所を案内する方は、もう現地にいらっしゃいます。私からその方へ連絡を入れますので」


「……分かりました。俺は花屋の控えを確認します」


画面を開くと客の予約データが残り、花束作りの開始まではまだ十分に余裕があった。瀬尾が花屋へ一本電話を入れ、店側の控えとも時間が一致していることを確かめる。高瀬さんは商店街の担当者へ、確認の取れた正確な時刻を伝達した。客本人への新しい会場への道案内は、現地の誘導担当が引き受けてくれる。


もし俺が外へ飛び出していれば、その間の三つの連絡はばらばらになっただろう。走る速さが求められる場面などではなかったのだ。


「広場から交流室へ向かわれたそうです」


高瀬さんが受話器を置いて報告してくれた。


俺は静かに頷いた。だが、無事に到着したという報せはまだ届いていない。その確認が取れるまで、席へ戻るのをためらう言い訳を探してしまいそうになる。そんな俺の様子を察したのか、高瀬さんは画面に届いた次の問い合わせを指し示した。


「こちら、パン屋さんの開始時刻についての質問です。久世さん、一緒に確認してください」


「……はい」


今度は俺のほうから、彼女の隣の席へと腰を下ろした。


しばらくして、花屋から連絡が入った。広場へ向かってしまった客も無事に交流室へ到着し、花を選び始めているという。窓際の作業机も予定通りに確保され、パン作りの成形台も屋内に問題なく並んだ。客を迎え入れる順番は、店と商店街で調整している。


「よかったぁ」


瀬尾が肩の力を抜き、深く息を吐き出した。


岸本さんは店からの問い合わせステータスを一件ずつ完了へ切り替え、予定されていた交代の時刻に目を留めた。


「高瀬さん、今日のシフトはここまでだ。ありがとう」


「あの……もう少し、最後まで結果を見届けてもいいでしょうか」


「結果はあとでちゃんと共有するよ。今日は、自分で決めた分を十分にやった」


高瀬さんは手元の記録用紙を次の担当者へ手渡し、ゆっくりと席を立った。名残惜しそうではあったが、傘を手に取る仕草には何の迷いもなかった。


俺もまた、自分の担当分の画面を閉じた。外の雨はまだ降り続いている。けれど交流室では今、誰かが自分で選んだ花を大事そうに束ねているはずだ。俺がその人の道を代わりに走らなくても、ちゃんと会場へ着いた。


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