お知らせの届く先
体験会を翌週末に控えた出勤日、商店街の担当者から「会場を屋内の交流室へ変更する」と連絡が入った。
雨が降り出してからでは紙の案内を張り替えきれないため、主催者側が早めに判断を下したのだという。岸本さんは各店舗への連絡が済んでいるかを確かめ、瀬尾は花屋とパン屋の担当者へ電話を回した。俺と高瀬さんは予約画面に表示される場所と、変更のお知らせが届く範囲を確認する。
「これで、全員に届きますか」
高瀬さんが尋ねてきた。
「予約した人の画面には出ます」
そう答えながら、昨日の掲示板の光景を思い出した。俺は言葉を続ける。
「でも、店頭の紙だけを見て来る人には、まだ届きません」
高瀬さんは静かに頷き、机に置いたちらしを指先で押さえた。紙に印刷された矢印は、今も広場を指したままだ。システムの文字をいくら直したところで、この紙の上の道順まで勝手に曲がってはくれない。
昼休みに商店街を通りかかると、掲示板の前で店の人が脚立を抱えて立っていた。透明なカバーを外すのに手間取っているらしい。俺は反射的に駆け寄ろうとしたが、その人の隣には新しい案内用紙を手にした商店街の担当者がすでに控えていた。
「手伝いましょうか」
声をかけると、担当者はにこやかに笑った。
「大丈夫ですよ、こっちで張り替えますから。予約画面のほうは変更できましたか?」
「はい。各店舗への通知状況も確認中です」
「じゃあ、お互い分担どおりですね」
俺の手は、脚立に触れずに済んだ。代わりに高瀬さんが、新しい掲示用紙を見せてもらう。そこには大きな文字で「屋内交流室」と書かれ、その下には広場からの曲がり角が分かりやすく描き直されていた。
「以前のちらしを持って来られる方もいらっしゃると思います」と高瀬さんが言った。「広場に着いてしまったとき、ここへ誘導する案内はありますか」
担当者は少し考え込み、店の人と顔を見合わせた。
「当日は広場にも案内板を立てておきますよ。念のため、最初の一時間は案内係を一人立たせるようにします」
誰を配置するかを決めるのは商店街側の仕事だ。俺がその場で人員表を作る必要はない。高瀬さんは担当者から新しい案内の文面だけを聞き取り、手元にメモした。
会社へ戻ると、瀬尾が花屋からの伝言を預かっていた。店の人は、花束を作るための作業机の数が屋内でも同じように確保できるのかを心配しているという。これは予約画面の問題ではなく、商店街と店の間で確かめる話だ。
「もし受け入れ人数を減らすことになったら、すでに予約された方へどう連絡するか相談しましょう」と岸本さんが言った。
「いまはまだ、お店からの返答待ちですね」と高瀬さんが確認する。
「そう。場所だけは確定している」
俺は画面に表示された「屋内交流室」の文字をもう一度見つめた。確定した事実だけを先に届ける。そのうえで、残された確認事項を丁寧に追っていく。全部そろうまで何も言わないのも、分からないまま全部言うのも、相手を迷わせる。
夕方、店舗側から作業机の数は変わらず確保できると連絡が入った。瀬尾が高瀬さんの作成した案内文の下書きを店側と突き合わせ、岸本さんが送信担当者と配信時刻を決定する。俺は新旧の開催場所を照合し、予約画面から「広場」の二文字が正しく消えたことを見届けた。
ただ、高瀬さんが持ち帰ってきた古いちらしは、今も机の端に残されていた。そこには、依然として広場を指し示す矢印が描かれている。彼女はその紙を処分せず、赤い付箋を一枚貼り付けた。
「当日までは、これも手元で見ておきたいんです」
画面より遅く変わるものが、紙の上に残っていた。




