↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死兵だった俺、ホワイト企業で働き方がわからない ~元敵軍の治癒術師が人事担当でした~  作者: sakumaaa
第二部 教わった人が、選ぶ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/30

二人分の映画の席

待ち合わせの改札には、十分前に二人とも着いた。


「これ、待ったことになりますか」と俺が聞くと、白峰さんは腕時計を見て首を傾げた。


「まだ約束の時間ではありませんから、同時到着ですね」


「そういうことにしましょう」


小さな映画館は商店街の奥にあった。前に来たときは、上映予定の紙が入口のガラスへ何枚も貼られているのを、通りすがりに眺めただけだった。今日は券売機の画面で俺が二枚を選びかけると、白峰さんも財布を開いた。


「一枚ずつ買いませんか。次に何を見るかは、あとで相談しましょう」


俺は選ぶ枚数を一枚へ戻した。次の機会の話が何でもない顔で出てきて、自分の券を受け取るまで一拍遅れた。


上映作は、古い街を舞台にした喜劇だった。白峰さんが選んだ作品だ。俺は劇場で眠らない方法を調べたりはしていない。ただ、飲み物だけは二人分買った。眠気に効くかどうかは別として、喉が渇けば飲める。


「今日は起こす役でしたね」と俺が言うと、彼女は紙コップを見た。


「映画が終わるまでは、でしたよね」


「はい」


「もし私が寝てしまっても、久世さんは映画を見ていてくださいね。私のまぶたを監視しないで」


そんなつもりはなかった――と言い切れないのが厄介だ。


場内が暗くなると、俺はまず非常口の緑の灯りを見つけた。次に、隣の席との間隔を確かめた。戦場の癖のせいにするには、すぐ横にある白峰さんの肘を気にしすぎている。


スクリーンの中では、主人公が大事な封筒を届けようと必死に走っていた。道を聞くたび、親切な街の人たちがそれぞれ別の近道を教えてしまい、かえって遠回りになっていく。客席に笑いが起きた。俺もつられて笑い、しばらくしてから白峰さんの横顔を見た。


彼女は目を開けたまま、まっすぐスクリーンを見つめていた。こちらの視線に気づいたのか、小さく指先で前を示す。


――前を見て、と声にせず言われた気がした。


俺は視線を画面へ戻す。散々走り回った末、封筒の届け先は出発した建物のすぐ裏手だった。そんな結末を見て笑うのはひどいかもしれないが、主人公自身も最後には笑っていた。


終映後、ロビーへ出ると外の光が目にまぶしかった。白峰さんは劇場の壁に貼られた過去作品のチラシを眺め、俺は飲み終えた紙コップをゴミ箱へ捨てる。彼女が一枚のチラシにそっと指を添えた。


「あの人、途中で気づいていましたよね。届け先がすぐそこだって」


「気づいていたなら、なぜ走り続けたんでしょう」


「手伝ってくれた人たちに、もう大丈夫だと言いづらかったのかもしれません」


俺は封筒を握りしめていた主人公の顔を思い出した。笑ってはいたが、途中は確かに困っていた。誰かの好意を断り切れず、長い道を走り続ける。妙に身に覚えのある姿だった。


「白峰さんは、ああいう映画が好きなんですね」


「ええ。間違えてしまっても、あとで笑い話にできるところが」


俺は必死に走っていた主人公よりも、途中で道端の店に立ち寄って菓子を食べていた友人のほうが気に入っていた。白峰さんにそう伝えると、「あの人、肝心なときにはちゃんと戻ってきましたね」と微笑む。目を向けていた場所は違うのに、同じ映画についての会話が自然と続いていく。


劇場を出ると、商店街に少し冷たい風が通った。俺は上着の襟元を直し、隣を歩く彼女へ尋ねた。


「次は、俺が選んでもいいですか」


「もちろん。何が見たいですか」


すぐには具体的な題名が浮かんでこない。だが、何でもいいと答えてしまうのは違う気がした。俺は映画館の入口の上映スケジュールへ戻り、食べ物の出てくる短い作品を指さした。


「これです。見たあと、たぶん腹が減ります」


「それは困りますね」


そう言いながら、白峰さんは隣の洋菓子屋の看板へ視線を向けた。


「先に、入るお店を決めておきましょうか」


「映画で眠らないための対策ですか」


「食べたいものを、後回しにしないための対策です」


映画のどんな感想よりも、その言葉を長く覚えていそうだった。俺は頷き、二人で店先のメニューを覗き込みに行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。