第58話 老猿と老鍼灸師
神木エルヴァーナまで、あと数時間というところで野営となった。
見張りを一人立て、そろそろ眠るかと話していた時だった。
不意に、周囲の気配が変わった。
儂は横になりかけていた身体を起こす。
そばで寝ていたグレイも、毛を逆立てて戦闘態勢を取っている。
「……何か来てますね」
サラもほぼ同時に身を起こし、こちらを見ていた。
「敵ですか」
ロイズも、先ほどまでのまったりとした雰囲気など欠片もなく、すでに武器を構えている。
「ずいぶん多そうですね」
ガイルが低い声で言った。
「囲まれておるな」
人ではない。
森の闇の中から、いくつもの気配がこちらを窺っている。
一つ、二つどころではない。
十を超え、二十、三十と増えていく。その向こうにも、まだまだいそうだ。
だが、妙だ。
これだけの数がいるというのに、動きがばらばらではない。
こちらを囲むところまで近づきながら、勝手に飛び出してくる個体が一匹もいなかった。
「どうやら、猿の魔物のようです」
サラが闇の向こうへ目を凝らしている。
木々の間に、いくつもの影が見えた。
人間ほどの大きさの猿だ。
枝の上にもいる。地面にもいる。こちらを取り囲むように、じっとこちらを見ていた。
これほど統率の取れた群れとなれば、理由は一つだろう。
「よほど強い頭がおるようじゃな」
儂がそう言った直後、森の奥で枝が大きく揺れた。
何かが近づいてくる。
猿たちが左右へ分かれた。
その中央を、巨大な影がゆっくりと進んでくる。
「なんだあいつ。やたらでかいな」
ロイズが、怯えた様子もなく呟いた。
人の倍はあろうかという巨猿だった。
長い腕。岩のような肩。分厚い胸板。
膨れ上がった筋肉が、白い毛の上からでもはっきりと分かる。
そして何より目を引くのが、全身を覆う真っ白な毛だった。
間違いない。
こいつがボスだ。
「まさか……老猿?」
サラが驚いたように呟く。
「ろうえん? ああ、年老いた猿ということか」
たしかに巨大で力強いが、同時にずいぶん年老いているようにも見える。
あの白い毛も、白髪ということか。
「本当にいたんだ……。昔から、この聖なる森は年老いた猿に守られている、という言い伝えがあるんです」
「ふむ、守られている、か。見た感じ、それほど穏やかそうな連中には見えんが……」
「あくまで言い伝えということでしょうか」
「いや、おそらくそうではない」
巨猿の圧倒的な肉体に目を奪われそうになるが、それ以上に気になるものがあった。
こやつの中に、あの異質な気がある。
蛇気。
どうやら蛇気は、力の強い者ほど大きな影響を受けやすいらしい。
それなら、森の王のような雰囲気を漂わせるこの巨猿に蛇気があっても不思議ではない。
だが――これまで見てきたものとは、少し様子が違う。
身体を蝕み、気の流れを乱しているだけではない。
この猿は、蛇気を自分の力として取り込み始めている。
「ほう……」
声が漏れた。
こういうものもおるのか。
完全ではない。龍気と蛇気の間には、まだ歪みがある。
それでも、押し潰されるどころか、力ずくで自分のものにしようとしている。
「おそらく、蛇気に侵されておる」
「なるほど……魔物の凶暴化は、森の守護者まで狂わせるのですね」
「いや、まだ断言はできん」
儂は老猿から目を離さない。
「むしろ、あやつは蛇気を克服しつつあるように見える」
アリエルの治療の過程を知るガイルには、その意味が分かったようだ。
「なっ!? 凶暴化したうえに、さらに強くなっていると?」
「可能性はある。油断するなよ。あやつ、とてつもない気を放っておるぞ」
老猿がこちらを見た。
儂と目が合う。
向こうも儂に関心があるようじゃな。
意外なほど静かな目をしている。
しかし、次の瞬間。
「グオオオオオオオオオオッ!」
耳を覆いたくなるほどの咆哮が、森を震わせた。
ただの鳴き声ではない。
聞く者の身を竦ませ、配下の者たちを死に物狂いで戦わせる――そんな魔力が練り込まれた咆哮だ。
木々の葉が激しく揺れ、鳥たちが一斉に飛び立つ。
そして、その声を合図にしたように――猿の群れが動いた。
「来るぞ!」
ガイルの声が飛ぶ。
四方から、一斉に襲いかかってくる。
グレイが低く唸った。
灰色の身体が地面を蹴る。
一匹の猿の顔へ飛びつき、鋭い爪で目元を裂いた。そのまま首筋へ爪を走らせる。
ロイズも剣を抜いた。
「数、多すぎだろ!」
そう言いながらも、臆することなく猿の集団へ突っ込んでいく。
一匹の攻撃を身体をひねってかわし、すれ違いざまに剣を叩き込む。
振り向きざまに魔法を放つと、吹き飛ばされた猿が、その後ろにいた一匹まで巻き込んだ。
「ロイズ! 前に出すぎ!」
「分かってますって、サラ先輩!」
この状況で、へらへら笑える胆力は大したものだ。
ら
サラは左右の剣を器用に操っていた。
片方で爪を受け流し、もう片方で喉元を切り裂く。
動きが速い。余計な力もない。
こちらも随分と腕を上げている。
そして――腰の痛みから回復したばかりのガイル。
やはり、この男は強い。
一匹が正面から飛びかかった。
大剣が横へ走る。
それだけだった。
猿の身体が、その勢いのまま二つに分かれて地面へ落ちる。
左右から、さらに二匹。
ガイルは一歩踏み込み、大剣を返した。
一匹目の胸を斬り裂き、その勢いのまま二匹目の胴を薙ぐ。
二匹とも、その場に崩れ落ちた。
「……やはり見事じゃな」
つい先日まで腰に問題を抱えていたとは、とても思えん。
あのゴブリンとの戦いの時とは、比べものにならない剣の冴えだ。
もう少し身体を鍛え直す時間があれば、おそらくまだ上がる。
実に楽しみだ。
「先生!」
ガイルが叫ぶ。
「こちらはお任せを!」
「ああ、分かっとる。こやつは儂が相手をしよう」
儂の前には、白い巨猿が立っていた。
他の猿たちは、こちらへ来ない。
来るなと命じられているのだろう。
老猿の目は、儂だけを見ている。
「儂をご指名か」
老猿が笑ったように見えた。
次の瞬間――視界いっぱいに、巨大な拳が迫っていた。
わずかに顔を傾けると、拳が頬すれすれを通り過ぎていく。
風圧だけで、髪が引きちぎられそうだ。
一発でもまともに当たれば、人間の頭など簡単に潰れるだろう。
だが、驚く暇はない。
拳を振り抜いた勢いのまま、もう片方の拳が飛んでくる。
それをかわすと、今度は蹴り。さらに肘、裏拳。
あれだけの巨体から繰り出されるとは思えぬほど、攻撃が途切れない。
でたらめに振り回しているわけではない。
こちらの反応を見ながら、攻撃を変えている。
凄まじい連撃だ。
地球でも、この異世界でも、これほど速い連続攻撃を受けたことはない。
見たことすらなかった。
儂が一歩、外へずれる。
老猿も、次の瞬間にはこちらの足運びを真似るように角度を変えた。
「……なんじゃと」
もう一度、今度はわざと大きく身をかわす。
老猿の目が、楽しそうに細められた。
次の攻撃では、儂が使ったのとよく似た身体のひねりを使ってきた。
「まさか、儂から盗んでおるのか」
学習している。儂の動きを見て、その場で自分の身体へ取り込んでいるのだ。
人間を遥かに超える身体能力。
鉄すら引き裂きそうな膂力。
蛇気を取り込み、異様なほど膨れ上がった魔力。
そして、その膨大な魔力が強靭な肉体をさらに強化している。
そこへ、この学習能力。
こやつは強い。
間違いなく、これまでこの世界で相手にしてきた人間たちとは違う。
老猿は楽しそうだった。
一撃をかわすたびに、口元が大きく歪む。
こちらが受け流せば、さらに強い一撃を放ってくる。
強い相手に出会えたことが、嬉しくて仕方がないらしい。
「そうか」
儂も笑った。
「おぬしも、こういうのが好きなのか」
老猿が地面を蹴った。
一瞬で間合いが消える。
右の拳が顔面へ飛んでくる。
儂は半身になって外へ流し、その腕の内側へ踏み込みながら喉元へ掌を伸ばした。
だが、届かない。これほどリーチが違うと、かなり踏み込まねばならんな。
老猿は首を反らして掌をかわすと、踏み込んだ勢いを殺さぬまま身体を回し、左脚を横薙ぎに振ってきた。
速い。
儂は片足を軸に身体を沈める。
頭上を太い脚が唸りを上げて通り過ぎた。
そのまま立ち上がりざまに、肋へ肘を入れる――はずだった。
老猿の掌が落ちてきた。
「なんと」
先ほど、儂が見せた動きだ。
肘を打つために懐へ入ったところを、上から腕を被せて潰しにきた。
儂は踏み込みを止めず、身体を捻って腕の下を抜けて、背後へ回る。
そこへ、待っていたように裏拳が飛んできた。
読まれたか。
頭を引く。拳が鼻先を掠めた。
老猿は、すでにこちらを向いている。
速いだけではない。
こちらの動きを見て、次から次へと覚えておる。
凄まじい学習速度に加えて、野生で生き抜いてきた者ならではの戦闘センスだ。
儂が右へ動けば、老猿も右へ。
左へ切れば、先回りする。
こちらが一歩で間合いへ入れば、次には同じ歩法を使って自分から入ってくる。
拳を流せば、次は流されにくい角度から打つ。
蹴りをかわすと、次はかわした先へ爪が来る。
こちらが技を一つ見せるたびに、こいつの攻撃が変わっていく。
気がつけば、最初とはまるで別の戦いになっていた。
老猿の拳を掌で逸らす。
同時に肩を打つ。かわされる。
返ってきた爪を手首で受け流し、そのまま足を払う。
老猿は跳んだ。
空中で身体を捻り、踵を落としてくる。
儂は横へ抜ける。
ズズンッ!
地面が砕けた。
土が舞い上がるより早く、老猿がそこから飛び出してくる。
拳をかわし、掌を打つ。
受けられれば、今度は肘が返ってくる。
それを流し、続く膝を腰を引いてかわすと、すぐにこちらから入り直した。
互いの位置が、目まぐるしく変わっていく。
木のそばで拳を交わしたと思えば、次の瞬間には十歩先にいる。
そこで二合、三合と打ち合ったかと思えば、また別の木の枝にぶら下がっている。
人間には不可能な速さだ。
いや、地球上のどの生物にも、このような動きはできまい。
「な、なんだあの動き。全く見えねえ!」
ロイズがこちらを見ながら叫んでいる。
よそ見をするな。
おそらく、ガイルたちから見れば、儂らが何をしているのかほとんど分からんじゃろう。
だが、儂には見えている。
老猿にも、儂が見えている。
だから――楽しくなってしまう。
これほどの速度で動きながら、互いに考え、読み、相手のさらに先へ行こうとしている。
老猿の口元が、大きく吊り上がった。
随分と楽しそうじゃな。
儂も、いつの間にか笑っていた。
「おぬし、本当に賢いのう」
返事の代わりに、巨岩のような拳が飛んできた。
先ほどより、さらに速い。
だが――儂はその拳を、ほんの少し首を傾けるだけでかわした。
老猿の目が見開かれる。
次の拳も、その次の蹴りも、もう大きく動く必要はなかった。
何度も攻防を重ねたことで、こいつの身体の使い方が分かってきた。
拳の前には肩が沈む。
蹴りの前には、軸足へわずかに体重が集まる。
爪を使う時は、視線が先に動く。
確かに、学習は速い。
だが――学習しているのは、おぬしだけではないのだ。
「さて」
儂は老猿に告げる。
「死ぬ気でやらねば、すぐに終わるぞ」
その言葉に反応したのかどうか。
老猿が吠えながら襲ってきた。
人間の反射速度など、とうに超えている。
実に有意義だった。
ここまで力を出したのは、異世界へ来てから初めてかもしれん。
おかげで、多くの学びを得られた。
こちらの動きを見て学び、さらにその先を返してくる相手というのはそれほど貴重なのだ。
だが――これは稽古ではない。
こいつは、儂らを殺しに来ている。
そして、こちらが死ぬまでやめる気もないようだ。
老猿だけではない。
周囲の猿たちにも、儂ら人間を恐れる様子がまるでない。
このまま野放しにしておくのは危険じゃな。
ならば。
儂は腰を落とした。
形意拳の三才式に似た構えを取る。
人間相手には、ほとんど向けたことのない冷たいものが、静かに胸の底から浮かび上がってきた。
「少し、教えてやるか」
老猿が警戒するように低く唸った。
「人間というものの恐ろしさを」
巨猿が一瞬、気圧されたように後ずさる。
さすがだ。こちらの変化に、すぐに気づくとは。
しかし、老猿はそのプレッシャーを跳ね除けるように吠え、拳を打ち出してきた。
儂は強烈な拳をさばき、こちらも突きを返す。
老猿はそれを受け流し、そのまま蹴りを繰り出した。
肘や膝、噛みつきまで巧みに使ってくる。
互いに位置を変えながら、目にも止まらぬ速さで技を交わしていく。
ほれ、どうした。
焦りが見えるぞ。
まだいけるじゃろう?
もっと速く。もっと強く。
まだまだ速度を上げるぞ。
しっかりついてこいよ。
老猿の拳が届く直前。
身体をわずかに沈め、懐へ入る。
「胸ががら空きじゃぞ」
掌を軽く胸へ添える。
ドパッ!!
その瞬間、老猿の巨体が数歩後ろへ吹き飛んだ。
「グウォォッ……!?」
老猿が、痛みに呻きながら自分の胸を見る。
何をされたか分からんか。
発勁を受けたのは初めてじゃろう。
得意の学習はどうした。
「まだじゃ」
今度はこちらから、老猿の懐へ入る。
慌てたように腕を振るが、そこには残像しかない。
「ギャッ!?」
肩、肋、腹と、次々と触れていく。
どれも、傍から見れば優しく撫でている程度にしか見えんだろう。
だが、触れるたびに老猿の身体が弾けるように大きく揺れた。
身体の奥まで突き刺さるような痛みがあるはずだ。
老猿の表情が、少しずつ歪んでいく。
「どうした」
苦しまぎれの拳を受け流し、顎へ掌を返す。
老猿の顔が跳ね上がった。
「まだやれるじゃろう」
巨木のような蹴りを一歩下がってかわし、すぐに戻って脇腹へ一撃。
「グギャアッ!」
老猿が苦しそうな声を漏らした。
「さあ来い」
儂は冷たく笑った。
「こんなものか?」
老猿の目が変わった。
先ほどまであった無邪気な喜びが消えている。
代わりに、別のものが生まれていた。
戸惑い。苛立ち。そして――恐れ。
老猿は混乱しているようだ。
なぜ恐れない。
なぜ倒れない。
なぜ自分の攻撃が当たらない。
なぜ、この小さな人間は笑っている。
そんな声が聞こえてくるようだった。
それでいい。
群れを率いるということは、その感情もまた群れへ伝わる。
老猿の動揺に呼応するように、周囲の猿たちにも迷いが生まれ始めた。
ガイルたちへ襲いかかっていた猿が、時折こちらを見る。
群全体の動きが鈍ってきた。
「団長!」
ロイズが叫ぶ。
「こいつら、怯えてます!」
「気を抜くな!」
ガイルの大剣が、また一匹を斬り伏せる。
老猿が大きく後ろへ下がった。
そして、もう一度咆哮を上げる。
だが、最初とは違う。
勇ましさよりも、焦りが混じっていた。
勝負あったな。
ここで殺すこともできる。
まだ、こやつは蛇気を完全に自分のものにはしていない。
今ここで追い詰めれば、仕留めることは難しくないだろう。
群れごと皆殺しにすることさえできる。
だが――その必要はない。
儂らの目的は、この猿たちと戦うことではない。
神木エルヴァーナへ向かうことだ。
それに――ここまで恐怖を刻み込めば、しばらくは近づいてこんじゃろう。
儂ら人間を襲えば、どうなるか。それを群れ全体で覚えておくがいい。
儂は老猿をまっすぐ見た。
「今日はここまでにしておけ」
老猿にだけ届くほどの小声で話しかけた。
これくらいなら、サラにも聞き取れまい。
言葉が通じたかどうかは分からない。
だが、意図は伝わったらしい。
老猿は歯を剥きながらも、一歩下がった。
そして、大きく吠える。
声こそ大きいが、もう先ほどまでの王の風格はない。
それでも敗軍の将として、最後まで群れを統率しようとしていた。
その声を合図に、他の猿たちが一斉に森へ退いていく。
枝が揺れる。
気配が遠ざかっていく。
やがて、森に静けさが戻った。
「……逃げた?」
サラが呟く。
「そのようじゃな」
儂は息を吐いた。
グレイがこちらへ戻ってきて、足元で低く鳴く。
「ニャ」
「大丈夫じゃよ。おぬしもよく頑張ったな」
そう言って、頭を撫でる。
少し離れたところでは、ロイズが肩で息をしていた。
「いや……多すぎだろ、あれ」
「だから前に出すぎだって言ったでしょ」
「サラ先輩だって相当斬ってたじゃないっすか」
「あたしはちゃんと周りを見てるんだよ」
パンッ、と軽くロイズの頭をはたく。
「なんで!?」
二人は元気そうだ。
ガイルは黙って、剣についた血を払っていた。
足元には、何匹もの猿が倒れている。
どれも一太刀か。
二の太刀いらずじゃな。
「ガイル殿、お見事でしたな」
ガイルは少し困ったように笑った。
「マコト殿に言われても、素直に喜んでいいものか迷います」
「カッカッカッ!」
儂は笑った。
それから、猿たちが消えていった森の奥へ目を向ける。
あの老猿。
蛇気にただ蝕まれていたわけではない。
自分の力で、克服しようとしていた。
しかも、まだ途中だ。
あれがさらに蛇気へ適応した時、どうなるのか。
不完全な状態で、あの強さだ。
そんな魔物が増えてきた時、今の人間たちに対応できるのだろうか。
そして――人間にも、自力で蛇気を克服できる可能性はあるのか。
グレイやアリエルは、儂の真気を取り入れることで、力が大きく増したように思える。
だが、もし誰の助けも借りず、自ら蛇気を取り込み、克服できる者がいるとしたら。
いったい、どれほどの力を得るのだろう。
それと、もう一つ。戦いながら気づいたことがある。
老猿の龍気と蛇気。
その中に、ほんのわずかだが――真気が混じっていたような気がする。
どういうことだ?
真気は、地球の気。
この世界のものが、自力で真気にたどり着くことなどあるのか?
人でなくてもいい。
動物でも、虫でも、魔物でも、植物でも。
あるいは、水や大地そのものでも。
儂以外に、この世界へ真気をもたらす何かが存在するのか?
生かしておいて、正解だったかもしれんな。
「……カカッ」
「どうかされましたか、先生?」
「いや、なんでもない」
ガイルに軽く首を振ってみせる。
「今夜は、もう襲ってくることもあるまい。明日に備えて休むことにしようか」
今は追う必要はない。
こちらには、こちらの目的がある。
だが――今度はこちらから、あやつに会いに行く必要がありそうだ。
その時は、儂とグレイだけの方がいいかもしれん。
猿たちが逃げた方角へ目を向ける。
あの白い巨猿を、心ゆくまで調べるためには。




