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老鍼灸師は転生しても治さない  作者: かどやん。
第3章 神木エルヴァーナと青い龍

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第55話 老鍼灸師と、にぎやかな遠征隊

 騎士団長ガイルとの手合わせから数日後。


 儂は黒い作務衣に身を包み、ミスリルの鍉鍼を懐へ収めた。


 城門前には、すでに騎士団の精鋭たちが集まっている。


 いよいよ――神木エルヴァーナへ向かうのだ。


 アーセルが選んだのは、騎士団の中でも特に実力のある者たちだった。


 大人数ではない。


 山をいくつも越え、魔物の棲む森の奥深くまで入るのだ。人数を増やせば安全になるとは限らず、かえって移動が遅くなる。


 そこで今回は、少数精鋭となった。


 まずは騎士団長ガイル。


 まさか団長自ら同行してくれるとは思わなんだ。


 そして──跳ねっ返り騎士ロイズ。


「先生! 道中の護衛は俺にお任せください!」


 相変わらず、朝から元気すぎる。


「声が大きい」


 その直後、ロイズの後頭部に女性騎士の手が飛んだ。


「痛っ!」


「これから森に向かうんだ。魔物に居場所を教えるつもり?」


「サラ先輩! 叩くことないでしょう!」


「いいから静かにしろ」


 ギロリとひと睨みされる。


「はい……」


 ほう。ロイズが一瞬で静かになった。


 これは珍しいものを見た。


 以前から城で何度か顔を合わせていた、アリエルの護衛騎士サラだ。


 騎士ではあるが、特に索敵や斥候としての能力に優れているらしい。


 森や山での経験も豊富で、足跡や折れた枝から魔物の移動を読み、地形を見て進むべき道を判断する。


 今回のような遠征には欠かせない人材なのだそうだ。


 それだけではない。


 以前、儂が騎士団相手に稽古をした時も、この娘の動きは少し違っていた。


 真正面から力で押してくるのではなく、こちらの死角へ滑り込み、気配を薄くしたまま間合いへ入ってくる。


 相手の視線だけではない。


 意識そのものから外れるような位置取りが上手い。


 騎士というより、忍びを思わせる動きだった。


 剣の速さや力だけなら、もっと上の者もいるのだろう。


 だが、ああいう技は厄介じゃ。


 真正面から強い相手とは、また別の怖さがある。


 今回のように、何が潜んでいるか分からん森へ入るなら、実に頼もしい。


 そして、ロイズの先輩でもあるそうだ。


「ロイズよ」


「なんですか、先生」


「おぬしにも逆らえん相手がおったんじゃな」


「先生まで何言ってるんですか!」


「ロイズ」


「はい、静かにします」


 サラが一言呼んだだけである。


 便利じゃのう。


 今回、アリエルは城に残ることになった。


 本人はかなり行きたがっていた。


 だが、これは仕方がない。


 アリエルは十三歳。


 治療によって身体の状態は大きく改善したとはいえ、長い山道を歩き続けるだけの体力は、まだ十分についていない。


 ましてや、神木周辺では魔物の凶暴化が確認されている。


 遊びに行くのではないのだ。


「今回は留守番じゃな」


 儂がそう言うと、アリエルはしばらく不満そうな顔をしていた。


 だが、最後にはきちんと頷いた。


「……分かりました」


 物分かりのよい子じゃ。


 城門まで見送りに来たアリエルは、一人ずつ声をかけていった。


 まず儂へ。


「先生、どうかお気をつけて。無理はなさらないでくださいね」


「うむ。行ってくる」


 続いてグレイの前にしゃがみ、頭を撫でる。


「グレイ。先生をお願いね」


「ニャ!」


 任せて、とでも言うように元気よく鳴く。


 そしてアリエルは、ガイルの方を向いた。


「団長」


「はい、アリエル様」


「森では魔物が活性化しています。何が起こるか分かりませんから、どうか気をつけてください」


「ありがとうございます」


 ガイルは落ち着いた笑みを浮かべ、しっかりと頷いた。


「どうぞ、お任せください」


 その立ち姿には、以前のような身体の重さはもう感じられない。


 治療を受けてからというもの、ガイルはまさに絶好調といった様子だった。


 アリエルも、その姿を見て少し安心したように頷いた。


 次にサラ。


「サラ。男性陣をお願いしますね」


「お任せください」


 サラは真顔で頷いた。


「先生が迷子にならないように、目を離さないでくださいね」


「おい」


 子供なのは外見だけだ。


「ロイズの相手も大変だと思いますけど」


「大丈夫です。慣れてますから」


「アリエル様、俺たちの扱いおかしくありません?」


 ロイズが口を挟む。


 儂をおぬしと一緒にするな。


 俺たちと言うな。


 そして最後に、アリエルはそのロイズを見た。


「ロイズ」


「はい!」


 こういう時は、ちゃんと礼節を持った騎士の顔になるのだな。


「他の方々に、あまり迷惑をかけないようにするのですよ」


「俺だけ注意!?」


「心配なのです」


「アリエル様!?」


「さあ、そろそろ出発するぞ」


 ガイルが歩き出した。


「団長まで!」


 にぎやかな旅になりそうじゃ。



挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございます。


ロイズとサラの掛け合いが楽しそう。


続きを読んでみたいと思っていただけたら、星の評価やブックマークで応援していただけると大変励みになります。


一日一話、毎日20時30分頃に更新する予定です。


よろしくお願いいたします。



挿絵(By みてみん)

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