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老鍼灸師は転生しても治さない  作者: かどやん。
第3章 神木エルヴァーナと青い龍

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第52話 騎士団長の復活、そして抑えきれない剣士の心

「まずは、ゆっくり立ってみてくだされ」


 ガイルは寝台から身体を起こし、両足を床につけて立ち上がった。


「どうですかな?」


「……立っているだけで違いが分かります」


「では、少し動かしてくだされ。無理はせんようにな」


「はい」


  ガイルはまず、上体を前へ倒し、ゆっくりと前屈する。


 そのまま起き上がると、今度は腰へ手を当て、慎重に身体を後ろへ反らす。


 続いて足を肩幅ほどに開き、腰を左右へ捻った。


 動かすたびに、自分の身体の感覚を確かめるようにしている。


 動くたび、その表情が変わっていく。


「……痛くない」


 まずは、いい方向に進んだようだ。


 今度は一歩、大きく踏み込む。


 腰を捻り、戻る。


 もう一度、今度は反対側へ。


 さらに腰を回し、剣を振る時のように肩と腕を連動させる。


「それに……軽い!」


 顔に、ゆっくりと笑みが広がった。


「……何年ぶりでしょうか。こんなに身体が軽いのは」


 実に嬉しそうだ。


 無理もあるまい。


 長い間、当たり前になっていた痛みや重さが、急に薄れたのだ。


 ガイルはしばらく、自分の身体を確かめるように動いていた。


 やがて儂へ向き直る。


「マコト殿」


「なんじゃ?」


「一つ、お願いがあります」


 その顔を見れば、言いたいことの予想はつく。


「手合わせか?」


「はい!」


 やはりな。身体の痛みがなくなった途端か。


 ガイルの目は、すっかり剣士のものになっていた。


「以前、マコト殿はおっしゃいましたね。ご自身は、剣を持つより無手の方が強いと」


「言うたのう」


「ずっと、その言葉の真意を知りたいと思っていました」


 すぐにでも試したい、という顔をしておるな。


 きっと以前から、うずうずしておったのだ。


 ゴブリン戦の時も、騎士団との稽古の時も、こやつは儂のことをよく観察していた。


 どうすれば勝てるか。


 どう戦えば、儂を殺せるか。


 おそらく、そんなことを考えていたのだろう。


 そういう目をしていた。


「ぜひ、一手お願いしたい」


 だが、今からというわけにはいくまいよ。


「今日はやめておきましょう」


「……え?」


 断られるとは思っていなかったようだ。


「治療したばかりですぞ」


「ですが、身体はこんなに――」


「だからこそじゃ。今は身体が治療後の状態に馴染もうとしておる。まずは休ませてやらねばならん。調子がよいからと動きすぎれば、また痛みが戻りますぞ」


 ガイルはまだ不満そうだ。


 おやつを我慢させられた子供か。


「今日はもう休みなされ。明日の朝なら、お相手しよう」


「…………分かりました」


 しぶしぶ頷く。


 見るからに残念そうだ。


 だが、目だけはもう明日の手合わせを楽しみにしている。


 まったく。


 こやつ、騎士団長らしい落ち着いた男だと思っていたが……ロイズあたりと変わらんではないか。


 ・・・・・・


 翌朝、騎士団の訓練場に儂が着いた時には、すでに多くの団員が集まっていた。


団員たちが遠巻きに眺める中で、ガイルが一人で剣を振っている。


「ほう」


 昨日までとは別人のようだ。


 いや。これが本来の動きなのだろう。


 地面を踏み込む力が腰へ伝わり、背中を通って肩へ抜け、そのまま腕から剣先へと流れていく。


 全身の動きが、一つにつながっていた。


 ヒュパッ!


 鋭い風切り音が走る。


 もう一閃。さらに一閃。


 速く、それ以上に滑らかだ。どこにも余計な力みがない。


 腕が剣を振っているのではなく、身体そのものが剣を動かしている。


 周囲にいた騎士たちも、いつの間にか手を止めていた。


「……団長の剣だ」


 誰かが呟いた。古参の騎士なのだろう。


「昔の団長に戻った……!」


 儂は隣にいたロイズへ尋ねた。


「ガイル殿は、そんなに強いのか?」


 ロイズが驚いたようにこちらを見る。


「先生、知らなかったんですか?」


「なにをじゃ」


「団長は、この辺境都市で一番の剣士ですよ」


「ほう、やはりか」


「いや、この辺境だけじゃない。王国でも、団長より強い剣士なんてそうはいません」


 なるほどのう。どうりで。


 ゴブリンとの戦いで見た時から、腕そのものは相当なものだと思っていた。


 だが、あれでも本来の姿ではなかったということか。


「これは楽しみになってきたのう」


 儂が笑うと、ガイルがこちらに気づいた。


 剣を下ろし、まっすぐこちらへ歩いてくる。


「マコト殿、昨日はありがとうございました」


「具合はどうですかな?」


「最高です」


 いい笑顔だ。


「昨日より、さらに身体に馴染んでいます」


「それは、よかったの」


 ミスリル鍼での最初の治療は上手くいったようだ。まずは一安心といったところか。


 それを聞くと、ガイルは数歩ほど後ろに下がった。


 そして静かに剣を構える。


「では――」


 その目が、すっと剣士のものに変わった。


「昨日のお約束を」



挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございます。


同じ鍼灸師として、治療した患者さんが喜ぶ姿はたまらなく嬉しい。


一日一話、毎日20時30分頃に更新する予定です。


続きを読んでみたいと思っていただけたら、星の評価やブックマークで応援していただけると大変励みになります。


よろしくお願いいたします。



挿絵(By みてみん)

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