第12話 異世界艾の研究
そこからは、異世界ヨモギを艾にしていく研究である。
乾燥させる。葉と茎を分ける。乾いた葉を揉み、細かくする。
不要なものを取り除いていく。
地球での艾づくりを思い出しながら何度も繰り返すと、やがて淡い白緑色の繊維が残った。ふわふわとしている。
指先でつまむ。
「悪くない」
匂いは地球の艾より少し甘い。
捻ってみると、まとまりもいい。米粒ほどの大きさにしてみた。
小さな艾炷の出来上がりである。
艾炷とは、艾をひねって小さくまとめ、火をつけて据えるためのものだ。
「さて」
まずは燃え方を確かめるために、火を近づけてみた。
……変化なし。
「ほう?」
もう一度、今度は少し長めに火を当ててみる。
やはり燃えない。
「これはまた、頑固じゃのう」
少し火を強くしてみた。
それでも、火が移る気配はない。焦げ目ひとつつかなかった。
「なんじゃ、こりゃ」
乾燥が足りないのか。いや、十分に乾いている。
別の艾炷でも試したが、同じだった。
「見た目だけかのう」
見つけた時の喜びが大きかっただけに、残念ではある。
だが、使えないと分かったことも一つの成果だ。
儂は艾炷を掌に載せた。
「見た目は、立派な艾なんじゃがなあ」
と、何とはなしに眺めていたその時。
微かに何かを感じた。
艾炷の中に、気がゆらめいている。
生の葉でも感じていた。だが、乾燥させ、揉み、精製したことで、むしろ濃くなっている。
「これは……?」
儂は意識を指先へ集めた。ほんの少しだけ気を込める。
そして、人差し指を艾炷へ近づけて、艾の中の気をもっとよく感じようとした。触れてはいない。
その瞬間。
チチチッ。
「ん?」
小さな金色の火花が散った。
そして――。
ふわり。
艾炷に火が灯った。
儂は目を見開いた。
「これは……燃えとるのか?」
米粒ほどの艾炷を、柔らかな炎が包んでいる。
赤ではない。橙でもない。わずかに白みを帯びた、不思議な炎だった。
しかも、掌の上で燃えているというのに──。
「熱く……ない?」
熱がない。
いや、何も感じないわけではない。温かさに似たものが、掌の奥へ染み込んでくる。
だが、それは皮膚を焼く熱ではない。
もっと内側へ響くような感覚だ。これは――。
「気か」
この炎から感じるものを、儂は知っていた。熱ではない。
まるで火の姿をした、気そのもの。
植物に宿っていた気が、儂の気に反応して燃えている。普通の火では燃えずに、気で燃える。
「カカッ」
笑いが漏れた。
「そう来たか」
炎は静かに艾炷を包んでいる。
煙もほとんどない。焦げる匂いもしない。
白い火が艾炷の根元までくると、小さく揺れた。
ヒュポッ。
軽い音を残して──艾炷ごと消えた。
「なに……!?」
掌を見ると、何もない。灰すら残っていなかった。
「カッカッカッ!」
たまらず声を上げて笑った。
これは面白い。実に面白い。
火では燃えずに、気で燃える。熱ではなく、気を伝える。燃え尽きれば、何も残らない。
地球の艾とは形は似ている。だが、まったく違う。
この世界には、この世界の艾があるということなのだろう。
「よし。これは色々と試さなくてはいかんな」
もう一つ、米粒ほどに捻った。
今度は──実際に身体へ据えてみよう。
まず試すなら、自分だ。患者に使うのは、それからでいい。
儂は自分の足に、小さな艾炷を載せた。指先へ気を集めて、ゆっくりと近づける。
チチチッ。
柔らかな白火が、もう一度灯った。
お読みいただき、ありがとうございました。
名古屋の鍼灸専門学校に入学したばかりの頃、伊吹山へヨモギを採りに行く、という課外授業があったことを思い出しました。
あの頃は、まさか自分が異世界ファンタジーで艾づくりを書くとは思っていませんでした。
一日一話の投稿を続けています。
更新時間は、20時30分頃を予定しています。




