↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
老鍼灸師は転生しても治さない  作者: かどやん。
第1章 異世界の森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/13

第12話 異世界艾の研究

 そこからは、異世界ヨモギをもぐさにしていく研究である。


 乾燥させる。葉と茎を分ける。乾いた葉を揉み、細かくする。


 不要なものを取り除いていく。


 地球での艾づくりを思い出しながら何度も繰り返すと、やがて淡い白緑色の繊維が残った。ふわふわとしている。


 指先でつまむ。


「悪くない」


 匂いは地球の艾より少し甘い。


 捻ってみると、まとまりもいい。米粒ほどの大きさにしてみた。


 小さな艾炷がいしゅの出来上がりである。


 艾炷とは、艾をひねって小さくまとめ、火をつけて据えるためのものだ。


「さて」


 まずは燃え方を確かめるために、火を近づけてみた。


 ……変化なし。


「ほう?」


 もう一度、今度は少し長めに火を当ててみる。


 やはり燃えない。


「これはまた、頑固じゃのう」


 少し火を強くしてみた。


 それでも、火が移る気配はない。焦げ目ひとつつかなかった。


「なんじゃ、こりゃ」


 乾燥が足りないのか。いや、十分に乾いている。


 別の艾炷でも試したが、同じだった。


「見た目だけかのう」


 見つけた時の喜びが大きかっただけに、残念ではある。


 だが、使えないと分かったことも一つの成果だ。


 儂は艾炷を掌に載せた。


「見た目は、立派な艾なんじゃがなあ」


 と、何とはなしに眺めていたその時。


 微かに何かを感じた。


 艾炷の中に、気がゆらめいている。


 生の葉でも感じていた。だが、乾燥させ、揉み、精製したことで、むしろ濃くなっている。


「これは……?」


 儂は意識を指先へ集めた。ほんの少しだけ気を込める。


 そして、人差し指を艾炷へ近づけて、艾の中の気をもっとよく感じようとした。触れてはいない。


 その瞬間。


 チチチッ。


「ん?」


 小さな金色の火花が散った。


 そして――。


 ふわり。


 艾炷に火が灯った。


 儂は目を見開いた。


「これは……燃えとるのか?」


 米粒ほどの艾炷を、柔らかな炎が包んでいる。


 赤ではない。橙でもない。わずかに白みを帯びた、不思議な炎だった。


 しかも、掌の上で燃えているというのに──。


「熱く……ない?」


 熱がない。


 いや、何も感じないわけではない。温かさに似たものが、掌の奥へ染み込んでくる。


 だが、それは皮膚を焼く熱ではない。


 もっと内側へ響くような感覚だ。これは――。


「気か」


 この炎から感じるものを、儂は知っていた。熱ではない。


 まるで火の姿をした、気そのもの。


 植物に宿っていた気が、儂の気に反応して燃えている。普通の火では燃えずに、気で燃える。


「カカッ」


 笑いが漏れた。


「そう来たか」


 炎は静かに艾炷を包んでいる。


 煙もほとんどない。焦げる匂いもしない。


 白い火が艾炷の根元までくると、小さく揺れた。


 ヒュポッ。


 軽い音を残して──艾炷ごと消えた。


「なに……!?」


 掌を見ると、何もない。灰すら残っていなかった。


「カッカッカッ!」


 たまらず声を上げて笑った。


 これは面白い。実に面白い。


 火では燃えずに、気で燃える。熱ではなく、気を伝える。燃え尽きれば、何も残らない。


 地球の艾とは形は似ている。だが、まったく違う。


 この世界には、この世界の艾があるということなのだろう。


「よし。これは色々と試さなくてはいかんな」


 もう一つ、米粒ほどに捻った。


 今度は──実際に身体へ据えてみよう。


 まず試すなら、自分だ。患者に使うのは、それからでいい。


 儂は自分の足に、小さな艾炷を載せた。指先へ気を集めて、ゆっくりと近づける。


 チチチッ。


 柔らかな白火が、もう一度灯った。



挿絵(By みてみん)

お読みいただき、ありがとうございました。


名古屋の鍼灸専門学校に入学したばかりの頃、伊吹山へヨモギを採りに行く、という課外授業があったことを思い出しました。


あの頃は、まさか自分が異世界ファンタジーで艾づくりを書くとは思っていませんでした。


一日一話の投稿を続けています。

更新時間は、20時30分頃を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。