第五十二話:エリーVS
エリーとロリックは互いに大剣を構えたまま対峙していた。緊張感とロリックの圧力でエリーの頬に汗がつたう。
二人の周囲は大小様々な岩石が立ち並ぶ、荒野へと変貌していた。
「どうした? 怯えて動けないのか? だが安心するといい。できるだけ苦しませず、あの世に送ってやるから」
ロリックはにやりと気味の悪い笑みを浮かべる。
「ロリック団長……やはり変わってしまわれたのですね」
「変わった? いいや、俺は何も変わっていないさ。ただ手段を変えただけだ。昔はお前のように青臭い理想を掲げることもあったがな。やはりクラウス様は素晴らしいお方だ」
エリーの剣を握る手に力が入る。
「あなたが裁いた中には、善悪の区別もつかないような子供もいたはずよ。ただおなかを空かせて盗みを働いただけの子供も!」
その言葉を聞いたロリックは、ため息を吐く。
「よかったではないか。そいつが大人になり大きな犯罪を起こす前で。悪は悪なのだよ。このまま言い合っても仕方がない。己が正しいと思うなら、俺を倒してみろ。来ないのなら俺から行くぞ」
ロリックは大きく大剣を上段に振りかぶり、地面に向けて降りぬく。
「ロックブレイク!」
ロリックが振り下ろした大剣から繰り出されたのは、地面を破砕しながら牙のように突き進む激しい衝撃波だった。荒野の岩石を粉砕しながら迫る土石の波に対し、エリーは即座に地を蹴り飛び退く。間一髪で回避したものの、爆風と飛び散る岩片が頬を掠めた。
「くっ……!」
「どうしたエリー! それが聖剣を手にした者の動きか!?」
すかさずロリックが間合を詰め、大剣を横一文字に薙ぎ払う。力任せに見えるその一撃は、長年の経験に裏打ちされた無駄のない絶妙な軌道を描いていた。エリーは聖剣ルミナス・レクティファイを掲げて受け止める。
甲高い金属音が荒郊に響き渡り、火花が散る。直撃の衝撃でエリーの腕が激しく痺れ、足元の大地が沈み込んだ。ロリックの腕力は衰えを知らず、むしろ年を増すごとに増しているようだった。
「重い……! これが、第三騎士団長の力……!」
「ふん、手応えがないな! 理想だけでは誰も救えん、守れんのだ!」
ロリックは追撃の手を緩めず、連続で怒涛の斬撃を叩き込んでくる。上段からの振り下ろし、返しの切り上げ、疾風のような突き。エリーは黄金の聖剣で必死に防ぐが、力負けして徐々に後退を余儀なくされる。
強い……。でも、あの歪んだ「平和」を認めるわけにはいかない……!
エリーの頭裏に浮かんだのは、アレンとディーネの姿だった。自分の後悔と向き合い、それでも前に進もうとするアレン。いつも温かく自分を迎え入れてくれたディーネ。そして、二人が命がけで繋いでくれたこの命と、手に託されたこの聖剣。
「私は逃げない……! あなたの作った偽りの平和なんて、誰も望んでいないわ!」
エリーが叫ぶと同時に、手にした聖剣ルミナス・レクティファイが眩い黄金の光を放ち始めた。光はエリーの全身を包み込む。
「なに……!? 剣の光が増して……」
ロリックが一瞬目を見開いたその隙を、エリーは見逃さなかった。聖剣の導くまま、流れるような動作でロリックの大剣の側面に自身の刃を滑らせ、その軌道を大きく逸らす。
「なにっ!?」
「これが……私の選んだ未来への道!」
聖剣の内に秘められた剣聖の力が開放される。体の芯から溢れ出る圧倒的な聖なる力。エリーの身のこなしは先程までの力負けが嘘のように軽やかになり、まるで光そのものとなったかのようにロリックの懐へと踏み込んだ。
「聖光一閃!!」
黄金の光が荒野の闇を切り裂く。
極限まで高められた聖なる一撃が、ロリックの構えた大剣を真っ二つに叩き割り、そのまま彼の胸元を斜めに切り裂いた。
「ぐはあっ……!?」
眩い光と共に吹き飛んだロリックは、背後の巨大な岩石に激突し、ガラガラと崩れ落ちる土砂の中に崩れ落ちた。持っていた剣の残骸が、虚しく地面に転がる。
「ハァ……ハァ……」
エリーは聖剣を構え直したまま、息を荒らしてロリックを見つめる。
胸を大きく切られたロリックは、もはや立ち上がる力もなく、岩に背を預けて天を仰いでいた。その顔からは先程までの禍々しい気迫が消え、どこか憑き物が落ちたような、寂しげな表情が浮かんでいた。
「まさか……かつて新兵だったお前に……ここまで圧倒されるとはな……」
「ロリック団長……」
「見事だ、エリー……。その剣の輝き……お前の信じる道に、迷いはないようだな……」
血を吐き出しながら、ロリックは自嘲気味に呟く。
「俺は……どこで道を間違えたのだろうな……。平和を願うあまり……いつしか恐怖で人を支配することしか……見えなくなっていた……」
「団長……」
「行け……エリー。クラウス様を止めてくれ……。お前たちなら……本当の……」
そこまで言うと、ロリックはゆっくりと目を閉じ、意識を失った。
次の瞬間、空間を覆っていた暗闇と岩石の荒野が砂のように崩れ落ちていく。暗幕が剥がれるように景色が反転し、エリーの足元は再び城の広い謁見の間へと戻っていた。
倒れたまま動かないロリックを見つめ、エリーはぎゅっと聖剣を握りしめた。悲しみや迷いを振り払うように深く息を吐き出すと、すぐ近くに同じく元の空間へと戻ってきていたディーネと視線が交差する。
「エリーさん、無事でしたか!」
「ええ、ディーネも無事でよかったわ。……あとは、アレンね」
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