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雨のち、エレール〜店主は元最強冒険者、看板娘は……  作者: Kuran


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第五十一話:ディーネVS

 一方――アレンたちと分断された別の亜空間。


 そこでもまた、ディーネとセリエルが凄まじい殺気を放ちながら対峙していた。


 重苦しく張り詰めた空気が火花を散らす中、沈黙を破ったのはディーネの容赦ない一言だった。


「えっと……ゴキエルさん、でしたっけ?」


「……セ・リ・エ・ル、だ。やはり長く生きすぎたせいで頭までボケているようだな」


 不快感を剥き出しにして吐き捨てるセリエル。ディーネはわざとらしく首を小首をかしげると、可憐かつ極悪な笑みを浮かべて見せた。


「あら、失礼。あまりに生命力がしぶといものですから……てっきりゴキブリが進化した新種の魔人かと勘違いしておりましたわ。……それで? あなたを踏み潰せば、ここから出られるのかしら?」


「……できるものならな。前回の私が全力だとは思わないことだ。この空間は魔族の力を増幅させる。主人から餌すらもらえない飼い犬の貴様に、何ができるというのだ!」


 セリエルが背中から禍々しい魔力の翼を広げ、亜空間の空気を歪ませていく――。 


 その言葉が投げかけられた瞬間、ディーネの瞳から温度が消えた。普段の穏やかさからは想像もつかない、凍てつくような笑みを浮かべる。


「飼い犬ねぇ。では主人から離れて野生に戻ったらどうなるか、あなたには特別にみせてあげましょう」


「ほざけ! 最初から全力でいかせてもらう」


 セリエルが吼える。 全身から周囲を凍てつかせるほどの漆黒のオーラを噴き上げ、彼はディーネに向けて右手を鋭く突き出した。


『ダークプリズン』


 放たれたのは、闇を纏った高速の鎖。それは蛇のようにうねり、瞬く間にディーネの四肢を絡め取っていく。 ディーネは脱出しようと力を込めるが、鎖はびくともせず、さらに深くその身を締め上げた。


「なるほど。かなり魔力が濃縮された鎖ですね。簡単に切れそうにないです。それにこれは……」


「クック、気付いたか。その鎖は徐々に巻き付いた相手の魔力を奪っていく。その奪った魔力でさらにその鎖は強固なものとなっていく。光栄に思え、俺が百年もの間、その鎖に魔力を注いできた最高傑作だ」


 セリエルは勝ちを確信したのか、ディーネの周囲をゆっくりと歩いていたが、拘束されながらも眉一つ動かさない彼女の態度が、苛立ちを逆なでした。


「このまま干からびていくのを待つのもいいが、気が変わった。死に絶える最後まで恐怖を与えてやる」


 再び右手をディーネに向かって突き出す。セリエルの周囲に凶悪な魔力が渦巻く。


『デモンスピア』


 虚空から現れた十本もの漆黒の槍がディーネの体を無慈悲に貫いた。ディーネは立ったままその場にうなだれる。


「終わってしまえば他愛ない。悲鳴の一つでも聞きたかったが、さすがは四大精霊といったところか」


 セリエルが勝利を確信し、その死体を確認せんと一歩踏み出した――その瞬間。全身を刺すような悪寒が走り、セリエルは本能のまま後方へ跳んだ。


 そこには、無数の鎖に縛られ、十本の槍を突き刺されたまま、何事もなかったかのように前を見据えるディーネの姿があった。


「効いて、いないのか?」


 背筋を伝う冷や汗を自覚しながら、セリエルは戦慄に声を震わせる。


「あら、そんなことないですよ。あと100回も同じことをされれば、流石の私も絶命するかもしれません」


 にやりと笑うと、ディーネは水で作られた渦を自身の体に纏い、一瞬にして自分を縛っていた異物を消し去った。


「ば、バカな……」


「さて、次は私の番ですね。喜びなさい。私の本当の姿を見られることを」


 眩い青白い光がディーネを包み込み、その姿が段々と大きくなる。やがて光が収まると、そこには普段のディーネとはかけ離れた水の化身の姿があった。


 肌は青白く輝き、切れ長の瞳にはすべてを恐怖に陥れる冷徹な光が宿る。頭上には鋭利な氷刃で編まれた冠。背後には、はためくたびに死の雫を撒き散らす青白い翅。優雅でありながらも、死の香りを漂わせる、水の女王がそこにいた。


「……これが四大精霊」


 その威圧感にセリエルは思わず、後ずさりする。


「あまりこの姿は見せたくないのですよ、アレンの好みではないですし。だけど今は思いっきりやれますね。最後の言葉は聞いてあげれないと思いますが、悪しからず」


『蒼龍の咆哮(ヴォルテックス・ケラノス)』


 ディーネが両腕を突き上げると、大地を震わせて凄まじい4本の水柱がセリエルの周囲に立ち昇った。それは意志を持つかのように形を変え、蒼き龍へと変貌する。


「こんなことが……」


 セリエルの顔が絶望に染まる。


 龍は咆哮を上げ、獲物に向かって突撃した。触れるものすべてを巻き込む大渦へと姿を変え、敵を深海と同等の圧力で束縛する。逃れようともがくほどに水流は加速し、最後には爆散と共に、すべてを空へと押し流した。残るのは、ただただ美しい、青く澄み切った水たまりだけとなった。


「――ふう、と」


 ディーネはすでに元の姿に戻っていた。やがて周囲の暗幕が剥がれ落ちるように、景色が現実のものへと戻っていった。


 周囲を見渡すと、


「今度こそ仕留めましたかね。まだ、お二人は戻られていませんか……」


 祈るように天井を見上げた。

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