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雨のち、エレール〜店主は元最強冒険者、看板娘は……  作者: Kuran


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第四十七話:裏切り①

「いきなり大将のお出ましとはな。……久しぶりだな、クラウス」


「二年ぶりになるか。……ふっ、お前たちは何も変わらんな」


「そういうお前は変わりすぎだ。……なんだ、その気味の悪い魔力は」


 アレンは鋭い視線でクラウスを睨みつけた。


 エリーから事の真相を聞くまでもなく、アレンには理解できていた。かつて仲間として共に旅をしたクラウスの魔力――それを禍々しく塗りつぶしている別の魔力の正体を。


 二年前、自分たちの前に立ちふさがった、決して忘れ得ぬ憎むべき魔力。――魔王の気配に酷似していた。


 クラウスは唇の端を歪め、うっすらと底冷えのする笑みを浮かべる。


「……冥土の土産、というヤツだ。お前には特別に教えてやろう。二年前……いや、それよりも少し前からだな。俺たちのパーティーの裏で、本当は何が起きていたのかを」


 クラウスは静かに、淡々と過去を語り始めた。


◇


クラウス・バランドール。


 第一等から五等まで存在するアノールド王国の貴族階級において、第二等に位置する名門・バランドール家の長男として生を受けた。


 家の至上命題はただ一つ――悲願である「第一等貴族」への昇格。


 その重圧を一身に背負わされたクラウスは、幼少期から学問、剣術、教養に至るまで、あらゆる英才教育を叩き込まれて育った。


 幸いにもクラウスには並外れた才能があった。


 十五歳を迎える頃には、同年代の中に彼の存在を脅かす者など皆無となっていた。やがて二十歳となり、グランシーヌ第二騎士団長としてその才覚を発揮していた折、彼の名を王国史に刻む絶好の機が訪れる。


――魔王の誕生である。


 それまで世界の果てに存在する魔人族の国『ダークコンテ』でひっそりと息を潜めていた魔人たちが、新たなる王を戴き、人間諸国への侵略を開始したのだ。


 獣人国ビステスタ、エルフ国ルーフィス、亜人の国デミニール、そして多種多様な種族が集う自由国家プレジャイラ――。規模の差こそあれど、大陸全土がその脅威に晒され、アノールド王国もまた例外ではなかった。


 魔族は他者の魂を喰らうことで真価を発揮し、力を増す。


 事態を重くみたアノールド王国は、他国と魔王討伐までの同盟を結び、王都へ牙が向く前に魔王を討つべく、極小精鋭による魔王討伐隊の結成を決断した。


 集められたのは五人。


【第二騎士団長】クラウス・バランドール。

【剣聖】エレナ・ライナス。

【妖賢者】クローナ・コーエン。

【狂闘無形】アイラ・オルクス。

そして――【無限】アレン・フリッツ。


 アノールド全土から集められた超一流の精鋭たち。


 だが、生まれてこのかた敗北を知らずに生きてきたクラウスは、疑いもしなかった。自分がこのパーティーを完璧に率い、魔王を討ち果たし、国王に次ぐ最高権威【勇者】の称号を手に入れるのだと。


 そして、初めて一目惚れをした女性――【剣聖】エレナ・ライナスを妻に娶り、バランドール家を王国随一の最高峰へと押し上げるのだと。


 ……しかし、現実はどこまでも残酷だった。


 剣技では、エレナ・ライナスに届かない。


 体術では、アイラ・オルクスに及ばない。


 知識と魔法では、クローナ・コーエンの足元にも及ばない。


 そして――底知れぬ魔力量と戦闘センスにおいては、アレン・フリッツの爪垢にも及ばなかった。


 あらゆる分野において、自分は一番になれなかったのだ。


 それでも、クラウスのプライドは折れなかった。


 旅の間も隙さえあれば己を鍛え上げ、愚直なまでに強さを追い求めた。最初は高圧的な態度に困惑や不満を抱いていたメンバーたちも、彼の陰ながらの血の滲むような努力を見るにつれ、次第にクラウスを仲間として認め、評価を改めていった。


 過酷な旅を続ける中で、五人の絆は確かに深まりつつあった。


 ――あの日、クラウスの運命を永遠に狂わせる事件が起きるまでは。


 魔人国ダークコンテの深部へ侵入し、魔王城ジェブラを目前に控えた五人は、魔人族四天王の一角ギランバール率いる精鋭部隊と激突した。


 敵の本拠地ということもあり、立ちふさがる魔人たちの強さはそれまでとは一線を画していた。まして四天王ギランバールに至っては、一瞬これが魔王かと錯覚するほどの途方もない圧力を放っていた。

だが――アノールドが誇る精鋭たちは、その絶望すらも易々と凌駕してみせた。


 クローナとディーネによる広域殲滅魔法が天地を揺らし、群がる魔人どもを一瞬で消し去っていく。アイラの放つ全力の拳脚は、大地を爆砕しながら敵陣を粉砕した。


 そんな超次元の戦場の中、クラウスただ一人が功に焦り、単身で四天王ギランバールへと突撃を敢行していた。


 四天王と魔王の首を挙げさえすれば……俺が絶対に勇者に選ばれる……!


 制止する仲間の声も耳に入らなかった。目の前の敵を切り捨て、ついに四天王の目前まで迫る。


 しかし――四天王の壁はあまりにも高かった。


 これまで戦ってきた魔人とは、筋力、魔力、耐久力、そのすべてにおいて次元が異なっていたのだ。じりじりと押し込まれ、ついには渾身の一撃を弾かれ、クラウスの長剣が手からすっぽ抜ける。


 空中で無防備に姿勢を崩したクラウスへ、ギランバールの大剣が容赦なく振り下ろされた。


 死を覚悟したその瞬間――。


 横合いから、クラウスにとって最も忌々しく、最も眩しい男の声が響いた。


「――クラウス!」


 アレンだった。


 一瞬にして割り込んだアレンは、振り下ろされた巨大な刃を己の剣で受け止める。それどころか、圧倒的な腕力でギランバールの巨体を力任せに押し返し、体制を大きく崩してみせたのだ。


 その一瞬の隙を見逃さず、遅れて跳躍してきたエレナの金色の刃が閃く。


 ギランバールの巨躯からドッと鮮血が噴き出し、致命傷の深手を負わせた。


 二人の連携の前に、あれほどクラウスを圧倒した四天王が、何の手出しもできずに崩れ去っていく。クラウスは自らの不覚も忘れ、あまりにも完璧な二人の動きに――ただただ、言葉を失って見惚れていた。

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