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雨のち、エレール〜店主は元最強冒険者、看板娘は……  作者: Kuran


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第三十八話:グランシーヌへ出発です

「クックちゃん、久しぶりね」


 ディーネの柔らかな呼びかけに対し、小鳥――クックはプイッと露骨に顔を背けた。クックは常にアレンの傍らにいるディーネを密かに羨んでおり、顔を合わせればこうして冷たい態度をとってしまうのが常だった。


「やっぱりクックちゃんの羽毛の手触りは最高ね。ふわふわしてて、まるで雲みたい」


 ディーネは気にする様子もなく、その小さな体をなで回す。


 クックは「やめるのであります」と言いたげに羽を震わせながらも、抗いがたい心地よさに目を細めていた。


 アレンは苦笑しつつも、刻一刻と過ぎる時間を惜しみ、クックに本題を告げる。


「クック、いきなりで悪いが、グランシーヌへ行きたいんだ。それも、一刻も早く」


「主様……。それは構いませんが、本当によいのでありますか?」


 クックの瞳に宿る色が真剣味を帯びた。アレンがあの街でどのような扱いを受けているか、彼女はすべてを知っている。アレンは迷いのない瞳で、神妙に頷くディーネを一瞥してから答えた。


「ああ。頼む」


 ただ事ではない。クックはそれを察し、アレンの肩を離れて大空へと舞い上がった。瞬間、彼女の体が目も眩むような光に包まれ、急激に膨れ上がる。光が収まった後に現れたのは、巨大な白い翼を広げた、神話に語られる巨鳥の姿だった。


「主様、話は飛びながら伺うのであります。早く背中に乗るですぞ。急げば夜には王都の門が見えるはずであります!」


「助かるよ。行こう、ディーネ」


 二人がその巨躯に飛び乗ると、クックは不満げに「許可していない人が一人混じっている気がするのであります」と呟いたが、ディーネの「今度美味しいご飯を作ってあげる」という懐柔案にコロリと落ちた。


「……ならば特別に許可するのであります。出発進行ですぞ!」


 力強い羽ばたきと共に、クックは地を蹴った。本来なら凄まじい風圧が二人を襲うはずだが、クックが展開した魔法の膜が、アレンたちを穏やかな静寂の中に保護している。


 眼下の景色が恐ろしい速度で後ろへと流れていく中、クックが風に乗せて声を上げた。


「主様、失礼を承知で聞くのでありますが、今更グランシーヌで何をするのでありますか?」


 世界中を飛び回るクックの耳には、不吉な噂も届いていた。勇者クラウスの圧政、民の嘆き。命懸けで国を救った英雄を、濡れ衣を着せて追い出した国へ戻る意味を問わずにはいられなかったのだ。答えに窮するアレンに代わり、ディーネがエリーのことを説明する。


「なるほどであります……。それは一刻を争うですな。正直、今のクラウスは手が付けられないのでありますから」


 その言葉に、ディーネの拳が震えた。もっと早くアレンに伝えていれば。自分の予感をもっと強く信じていれば。後悔が波のように押し寄せる。


 アレンはそっと、彼女の拳に手を重ねた。


「……ディーネ、ごめんな」


「え……?」


「ずっと一人で悩んでいただろう。俺が過去に縛られているのを知っているから、言い出せなかった。……辛い思いをさせたな」


「……はい……っ」


「きっと大丈夫だ。エリーは団長様なんだ、そう簡単にやられはしない。俺たちが着くまで、あいつは持ちこたえてくれるさ」


 アレンの無理に作ったような笑顔。ディーネはその不器用な心遣いに、涙を堪えて力強く頷いた。


「そうですよね。きっと大丈夫です」


 二人は地平線をじっと見つめながらエリーの無事を祈っていた。


 一方、二人がレクレールを発つ前日。エリーはすでに王都グランシーヌの門をくぐっていた。彼女が駆る馬車は、最新の魔道具によって強化された特別製。アレンが王都を去った二年前には存在しなかった技術が、彼女の移動速度を劇的に早めていたのだ。


 エリーは自宅へ戻ることすらせず、直行で第四騎士団の詰所へ向かった。かつては六十名が活気を見せていたその場所も、先日のサラマンダー任務での被害により、今や四十名ほどにまで激減している。広すぎる廊下には、どこか悲壮感が漂っていた。


 エリーは詰所に着くなり、腰を下ろすこともなく副団長のいる部屋へ向かい、扉をノックする。


「エリーよ。リアーナ、いる?」


 室内で椅子が倒れるような派手な音が響き、数秒後、勢いよく扉が開かれた。


「団長!? お早いお帰りで……休みは明日までではなかったのですか?」


 現れたのは、黒髪のショートカットが凛々しい女性、リアーナ・フェリエット。エリーとは同期であり親友、十代にして副団長を任されるほどの才女だ。


 エリーがサラマンダーの任務に向かった際は、団長代理としてグランシーヌに残っていた。

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