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雨のち、エレール〜店主は元最強冒険者、看板娘は……  作者: Kuran


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第三十六話:契約解消です!

 ディーネは慌てて首を振った。


「いけません、ダンさん。ちゃんとお支払いします。そんなことをしたら、アレンに叱られてしまいます」


 ダレンは人差し指を立て、自分の口の前に持っていく。


「内緒ですよ。これくらいさせてください。アレン様の恩に報いるには、これっぽっちでは足りないのですから。……それともディーネ様は、私に恩を返させぬまま、日々悶々としていろと仰るのですか?」


「分かりました。……でも、これで最後ですよ。アレンは借りを作ったなんて、これっぽっちも思っていませんから」


「ええ、知っております。アレン様はそういう方だ。……ですが、あの方がいなければ、この店だけでなく、この町自体が今の平和を享受できていなかった。町中の皆が、アレン様に感謝しているのです」


 ダンの言葉に、ディーネは自分のことのように胸が熱くなった。


「ふふふ。だったら、このレストランのように、うちのお店ももっと繁盛してくれたらいいんですけどね」


「この町にはギルドどころか、冒険者もほとんど寄り付きませんから、商売は厳しいでしょうね」


 そこまで黙って話を聞いていたエリーが、不意に口を開いた。


「……アレンって、一体何をしたの? さっきも聞いたけれど、全然教えてくれなくて」


 ディーネとダレンが顔を見合わせ、ダレンが小さく頷いた。


「この町は以前、無法地帯と呼べるほど荒れ果てていたのです。統治者は暴君で、町は死に体でした。……それをアレン様がすべて解決した。ごらんの通りの平和な町になったのです。それ以来、トラブルがあれば迷わず助けてくれる。それがアレン様です。……本当に、素敵な方を選ばれましたね、エリー様」


「ち、違います! 私とアレンはそんな関係じゃありませんっ! 今日はごちそう様でした。私も先に店に戻ります」


 顔を真っ赤に染め上げたエリーは、逃げるように店を後にした。


 その背中を見送り、ダレンがぽつりと呟く。


「……似ていますね。あの方に」


「ええ。とても」


 ディーネもまた、寂しげに微笑んだ。ディーネは再度ダレンに礼をいうと、歩いて店へ戻った。


「あの二人少しは進展しましたかね。アレンは奥手ですし、エリーさんもおそらく恋愛初心者ですからねぇ。ランチ一回じゃたいしたことも期待できないかぁ」


 これからどうしようかと考えながら、店に着くと、エリーが帰り支度をしていた。


「あら、エリーさん。もう帰られるんですか?」


「えぇ、あまり長居もできないしね。アレンも寝ちゃっているみたいだから邪魔しないように帰るわ」


 エリーは少しの休暇を取って、レクレールに来ていた。騎士団長の仕事は多忙だ。団長になってからというもの、エリーはまともに 休暇を取ることはなかった。それが今回初めてまともな休みをとった。


 ほとんどを移動に費やした休みだったが、不思議と満足感を感 じていた。そもそもこの町に来たのは、アレンを騎士団長にするという目的だった。今までのエリーなら、それが敵わなかった事で無駄な日々だったと思い、不機嫌になってもおかしくなかったはずなのに。この町を離れがたいとも感じるようになっていた。


 が、エリーにはやるべき事があった。もちろん休んでいた分の仕事も山のようにあることは優に想像でき憂鬱にもなったが、ある固い決意をもってグランシーヌに戻ろうとしていた。


 その決意を持った目にディーネは不安が浮かぶ。


「エリーさん。駄目ですよ!」


 その言葉に微笑むだけでエリーはエレールを出て行った。


 閉まる扉を見ながらディーネは、


「大丈夫かしら……」


 悪い予感しか起こらなかった。


 それから一週間。相変わらず店には平穏な時間が流れていた。ある日、カウンターでぼんやりと空を見つめるディーネにアレンが声をかける。


「おい、ディーネ」


「……」


「ディーネ! ……おーい!」


 反応がない。この一週間、ディーネは度々魂が抜けたような状態に陥るようになっていた。アレンは心配して覗き込む。


「……目ヤニがついているぞ」


「えっ、うそ!?」


 ディーネは慌てて顔を背け、目元を拭う。


「最近ぼーっとしすぎじゃないか? 悩み事があるなら、俺に相談してみろよ。できることなら力になるから」


 その言葉にディーネの目が光る。


「……言いましたね!」


 ディーネは立ち上がり、カウンター越しにアレンへと身を乗り出す。その迫力に、アレンはたじろいだ。


「な、なんだよ……できることなら、とは言ったが……」


「簡単なことです。……王都グランシーヌへ行きましょう」


 アレンの顔から、一瞬で温度が消えた。


「却下!」


 だが、今のディーネは退かない。


「アレン、先ほどできることなら何でもやると言いましたね。これは精霊である私との契約です。契約がどれほど重いものか、貴方なら知っているはずですよね?」


「そんな大げさな……」


「大げさではありません! これを破るなら、私も考えなくてはなりません。もしアレンがグランシーヌへ行かないというのなら……契約違反として、私との主従関係を解消させていただきます」


 ディーネの瞳には、冗談ではない冷徹な決意が宿っていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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